V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.538
by V字経営研究所 代表 酒井英之
「もし繁忙期に部下が有休を申請してきたら」
最近、離職防止をテーマにした
管理職研修の依頼が増えています。
最近私は「Z世代はなぜやめる?
Z世代の生かし方、育て方」という
タイトル講演をさせていただく機会が多いのですが
各社共通の悩みのようです。
そこで管理職の皆さんに、
「どんな時に若手社員どの間で
コミュニケーション・ギャップ を感じますか?」
と尋ねます。
すると最もよく出る意見の一つに
「有休を取るときに周囲に配慮しない」があります。
特に繁忙期で、みんなが忙しくしている時に
「休みたい」と平気で休みたいと言ってくるのが
考えられない…といいます。
確かに管理職としては
「おいおい、その日いないのは困るよ。
少しは他のメンバーことも考えろよ」
と、言いたくなります。
が、そんな本音を表に出して、
「だったら会社を辞めます」 と言われても困ります。
渋々ハンコを押すわけですが、
「なんとかならないか…」と思うわけです。
ではどうしたらいいのでしょう。
そこで以下のような質問をします。
「ではその日、あなたがいなくても
周囲の人が困らないようにするには
どうしたらいいと思う?」
そうすれば
「**の業務だけはその日までにやっておきます」
「**の業務は、〇〇さんでもわかるようにしておきます」
などの回答が得られるでしょう。
休んでも大丈夫な方法を、本人に考えてもらうのです。
申請して休むことは、社員としての権利です。
が、権利だからといって
闇雲に行使して良いわけではありません。
権利を行使してもよい環境をつくるのは
休む者の務めであると気づいてもらうのです。
一度気づくと、次からはごく自然と
そういう配慮をするようになるでしょう。
ですから上記のような質問を
是非してみてくださいね。
さて、問題はその後です。
休んだ人が、休んだ翌日、
周囲の人にしっかり感謝を伝えているかどうか。
そして、休んだことでリフレッシュして
一層モチベーション高く仕事に取り組んでいるかどうか。
注目してみてみましょう。
「日本で一番大切にしたい会社大賞」の受賞企業である
大阪の天彦産業という鉄鋼商社では、
入学式、卒業式、参観日など子供の行事の日は
全て休むように義務付けています。
同社の樋口会長曰く
「そのような日に無理に会社で働いてもらっても
家族のことが気になって生産性が落ちるだけです。
逆に休むと、次の日に非常にモチベーション高く出社し、
普段の150%の仕事をしてくれます。
休暇は自分にも会社にも良い結果をもたらすのです」
休みを取ってリフレッシュし、
生き生きとしている人を見ると
周囲の人も「休んでもらって良かった」と感じます。
さらに休んだ人は周囲の人に
「今度、あなたが休むときは
私が協力するから遠慮なく言ってね」と約束します。
「お互い様」の精神の発揮です。
すると、職場の雰囲気が良くなります。
休みたいときに休めるだけでなく、
ごく自然に多能工化が進みます。
多能工化は、お互い様の精神の産物なのです。
逆にこの仕事は自分の仕事、この仕事はあの人の仕事、
というように縦割り的に発想したら、
多能工化は進みません。
こうした職場では何時まで経っても休みが取り辛く、
技能伝承もなかなか進展しません。
どこまで「お互い様」を考える風土になっているかが
多能工化や技能伝承の実現に大きく影響するのです。
また、学生が就職時にする質問に、
「貴社は休みたいときに休めますか?」があります。
これに対し、同じく
「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」を受賞した
宮田運輸の宮田社長は、次のように応えています。
「それはあなた次第です。
あなたが周囲の人と良い人間関係を築いておけば
周囲の人が気持ちよく
『その日の分はやっておくからいいよ』というでしょう。
でもその逆だと、周囲の人から
『それは困ります』と言われるでしょう。
ですから、わが社には、休みが取りやすいとか、
そういうルールはありません」。
宮田運輸はトラックに子供たちが描いた絵をプリントすることで、
運転手も、そのトラックを見かけたドライバーも
優しい気持ちになり、スピードの出し過ぎなど
事故の発生予防に務めている会社です。
そうした人を思いやる風土が
休みの取り方にも現れていますね。
天彦産業も宮田運輸も中小企業でありながら
入社希望者が殺到する人気企業ですが、
人は、制度ではなく風土に惹かれるのです。
また、私のクライアントの社長は、
先日、 Z 世代の若手社員とこんな雑談をしていました。
その若手社員は鉄道マニア(乗り鉄)で、
有休を利用して遠方のローカル線に乗りに行ってきました。
「ローカル線に乗って写真を撮ってくる」は
私にはなんとも理解しがたい趣味なのですが、
社長は彼に次のように声をかけました。
「おい、君の撮った写真を俺にを見せてくれよ」
社員の趣味に興味を持ち、
それを共有しようとする素晴らしい姿勢だと思いました。
有給休暇の取得をきっかけに、
部下はより一層元気に働いてくれる、
お互い様の精神が職場に根付く。
上司と部下は さらに親しくなれる。
こんないいことはないですね。
有休を申請された上司は、
イラっとする気持ちを横に置きましょう。
そして、休みを取ることは
お互い様の風土を社内に根付かせていく
最初の一歩だと考えて行動しましょう。
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.537
by V字経営研究所 代表 酒井英之
「職場が変わるリスペクト・ミーティング」
毎月一度、戦略会議に出席させて頂いている
クライアントがあります。
入り口はデジタルロック方式。
京アニ事件の後、社長が社員を守るために
カギを付けました。
そのため入るときはベルを押して
中の人を呼びます。
先日、いつものように「V字研の酒井です」と告げると、
「お待ちしていました」との返事をいただきました。
こういうの、なんだかとても嬉しいです。
「いらっしゃいませ」「ようこそ」はあっても、
「お待ちしていました」はなかなかないです。
リスペクトを感じて心にしみます。
そんなリスペクトが、最近どうやらブームのようです。
昨秋、渋谷のパルコで開かれた「いい人過ぎるよ美術館」。
この展示会は、その後全国各地で開かれています。
現在は、広島で開催中。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002772.000003639.html
何が展示されているかというと、
日常の中に存在する「いい人だね」と
思わず言いたくなるようなシーンが
言葉やイラスト、フィギュア等の形で展示されています。
例えばこんなシーン。
「トレイ返却時に『ごちそうさまでしたー』と言って帰る人」
「オンラインMTGで一人でも画面ONの人」
「『車通りますー』って車を止めてくれる人」(スタンドの出口などで)
「七夕で『ここにある短冊の願いが叶いますように』と
ベクトルがみんなを向いている人」
「自己紹介で『じゃあ、私から』って始めてくれる人」
「ビュッフェでお寿司があることを教えてくれる人」
「コピー機の用紙が切れる前に補充してくれる人」…等
こうした他人へのリスペクトから
生まれた小さな気配りは、
とりわけZ世代の共感を呼び、
多くの来場者を集めています。
また、展示物を掲載した書籍
『いい人過ぎるよ図鑑』も出版されています。
https://books.rakuten.co.jp/rb/17717519/
ブームの背景には、仕事のリモート化が進み、
人間関係が以前より
乾いた感じになっていることがあるのでしょう。
だからこそ、自分が大切にされていると実感できる
リスペクトが有難く心に染みるのだと思います。
こんな心配りが職場に溢れたら、
人間関係は良くなって、離職者も休職者も減り、
きっと業績も上がることでしょう。
そこで私は、幹部社員研修時に、
「ああ、自分は職場で大切にされているな、
尊重されているな」と感じた経験を書き出してもらい、
それを仲間と共有するワークをやってみました。
すると、次のような意見が出てきます。
・帰るときに「お疲れさまでした~」と声をかけてくれた
・自分の心配事に「それは心配だね~」と共感してくれた
・遅刻をした時に、私のことを思って叱ってくれた
・アウトプットを見て「〇〇の才能がありますね」と
フィードバックをくれた
・上手くいかないときに、対策を一緒に考えてくれた
・資格試験に挑む時に、「きっと、大丈夫」と応援してくれた
・一人で残業していると社長が「君はそのままでいいよ」と
声をかけてくれた
・体調不良で半休を取ろうとしたとき上司が
「無理しなくていいよ」と言ってくれた
・上司に相談した時、ノートを持ってきて聴いてくれた
・怒っているお客様に対し上司が一緒に謝りに行ってくれた
・忙しいときに周囲の人が率先して手伝ってくれた
・一時的な業務量過多で焦ったり困ったりした時に、
「分担しよう」と声を掛けてもらえた
・連休で帰省した後、実家の家族の様子を上司が気遣ってくれた…等
いかがでしょうか?
皆さん、身に覚えがあるのではないでしょうか。
とりわけ上司が「ノートを持って話を聴いてくれた」と
というように、細かいことが人に伝わるのです。
この研修では、この他にもこんな意見が出ました。
・常に難題を与えてくれる
・会議で自分の意見が採用された
・自分の間違いを指摘して、フォローしてくれる
・危険な行動を指導してくれる
・「この案件は君に任せたから、やり切ってみろ」と言われた
・計画を提出したときに「任せられるようになったな」と言われた
・関係部署への問い合わせの返事が凄く速かった…等
こうした体験談からわかるのは、
優しさも大事ですが、それだけでなく
成長のための厳しさも必要だということです。
人は群れでないと生きていけない動物です。
群れでいる以上、自分が誰かの役に立たないと
存在価値はありません。
それゆえに本能として「誰かの役に立ちたい」
「できなかったことができるようになりたい」という
成長欲求を持っています。
が、「若い社員に辞められたら困る」とか
「パワハラと思われたくない」などの観点から
厳しく指導できない上司が少なくありません。
するとその部下たちは成長欲求が満たされず、
「ここにいても成長できない」と不満を感じます。
こうした企業を「ゆるブラック」と言います。
「ゆるい+ブラック(闇)」で、
離職原因の一つになっています。
上司は、この優しさと厳しさのバランスを
取りながら、部下を育てていく必要があります。
そのバランスを取るためのキーワードが
リスペクト(尊重)です。
上司は部下をリスペクトし、
部下は上司をリスペクトする。
そして半径5m以内にいる人に、
上記のような心配りを心がける。
そうすれば、会社はきっと楽しくて幸せな場所になります。
私の研修の締めは、上記のように
受講生の体験を書き綴ったホワイトボードを示しながら
「ここに書いたのと同じことを、
部下にしてあげてくださいね」。
単純ですが、社員がお互いの
リスペクト体験を話し合うミーティング。
あなたの社内には見える化できていないだけで
優しくて「いい人過ぎる」人も
厳しくて「いい人過ぎる」人が大勢います。
ぜひ、貴方の職場でもリスペクト・ミーティングを
実施してみてくださいね。
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.536
by V字経営研究所 代表 酒井英之
「経営者が困ったときに『すがるべきもの』とは」
2019年から5年経ちました。
成田空港はコロナ前の7割まで
利用客が回復しているようです。
株高もあり、経済は当時の活況を取り戻しつつありますね。
コロナ前の2019年、弊社は大忙しでした。
というのもこの年は、
2025年を見据えた2025年ビジョンを作る仕事が
非常に多かったからです。
御縁を頂いたクライアントからの依頼に加え、
経営者が大勢学んでいる研修機関の依頼で
大勢の経営者の皆様のビジョンづくりを
指導させていただきました。
その数、トータルで40社以上です。
あれから5年経ちました。
間もなく2024年度のスタートです。
そろそろ2030年ビジョンの開発ラッシュに
なりそうな予感がしています。
そんな中、若手経営者が20人ほど集まる研修会で
ビジョン開発の講師を務める機会がありました。
既に社長になった人もいれば、
これから社長になる人もいる研修会です。
そこで私は以下の問いを出しました。
「あなたの会社には中期ビジョンは必要でしょうか?
必要だとお考えの場合、なぜ必要なのか?
社長にとってのメリットの観点から考えてみましょう」
すると、主に以下の意見が出ました。
社長にとってのメリット
1)公表するときに覚悟ができる
2)意思決定のスピードが上がる
3)設備や人材がいつまでにどれだけ必要かが分かる
4)自社の現在地が分かり、ズレを修正できる
5)資金調達時に協力、理解が得やすい
6)迷いが生じたときにそこに立ち返ることができる
このうち、2)3)に関しては本当にその通りだと思います。
19年にビジョンを作ったある会社は、
翌年国が公募した「事業再構築持続化補助金」に
「これは使える!」とすぐさま応募しました。
こうした制度の応募開始時は、
審査のハードルは往々にして低いものです。
即座に採択されると
ビジョンに描いた工場の再構築に乗り出します。
22年には新工場が稼働。
地域の人の見学コースを兼ね備えたその工場は、
多くの人が集う場にもなりました。
工場が再構築されたことで生産性が向上し、
経営の安全余裕率が上がりました。
そのため、昨今の賃上げ要請に対応。
人財の採用にも成功しています。
こうした素早い動きをした会社と、
今頃になってようやく申請し、
応募者多数の中でなかなか採択されない会社では
大きなタイムラグが生じています。
ビジョンがあると、経営者は世の中の動きに敏感になり
即応することができるのです。
また「6)迷いが生じたときにそこに立ち返ることができる」
効果も大きいです。
ビジョンを10人の幹部社員と一緒に
創り上げたある社長は、
コロナ禍の影響もあり、就任直後に赤字を経験しました。
自分の力不足を感じ、落ち込みます。
この時、精神的な支柱になったのが
幹部皆でつくったビジョンでした。
社長は自分たちで描いたビジョンシートを眺めながら
「私にはこのビジョンがあるじゃないか。
皆で創り上げたこのビジョン通りに進めていけば、
間違いはない。きっとうまくいく」
と確信し、そこから立ち直ったといいます。
コロナ禍のように一時的な変化に
思うように利益が出ないことは幾度もあることです。
そのような時に慌てず騒がず、
やるべきことに集中して、それをやり切る。
ビジョンはその胆力をもたらしてくれます。
さらに研修会では次の問いも出してみました。
「ビジョンがあることの
社員のメリットは何だと思いますか?」
すると以下の意見が出ました。
1)わが社の方向性が見えて安心する
2)自分に必要なスキルが見えてくる
3)評価基準がわかり給料アップが期待できる
4)今よりも仕事が楽になる未来が見える
5)トップの考えが理解でき意思決定ができる
6)権限移譲されて、自分たちでPDCAが回せる
この中では特に4)の効果は大きいでしょう。
社員はとかく
「できません」「無理です」「辛いです」と
こぼしがちです。
そうしたときに会社がDXへの取り組み方針や
魅力的な福利厚生制度の導入を方針として示すことで、
「自分たちが頑張れば報われる」という
主体性を引き出すことができるからです。
そうした効果があるビジョンですが、
さらに以下の問いも出してみました。
「世の中には『中期ビジョンなど必要ない』という
社長もいます。どんな会社には必要ない、とお考えですか?」
すると以下の意見が出ました。
1)ワンマンな零細企業
2)個人事業主
3)某大手の下請色の強い会社
4)固定客がついている老舗の和菓子屋
5)市場が拡大している成長期の会社
6)一過性のトレンドを追った業態(タピオカ屋など)
これを聴きながら、まさに我が意を得る思いでした。
特に、5)の右肩上がりの市場では、
マーケットサイズはどんどん大きくなるので
今年と同じことをしていたら、売上は拡大します。
そのようなときは「**を目指す」という
ビジョンは不要です。わが国の高度成長時代に、
理念とビジョンがなくても経営できたとのは
そのせいです。
が、昨今は、昨年と同じことをしていたら、
売上は減少し赤字に転落する
成熟期から衰退期を迎えています。
それを打破し、自社を再び成長軌道に乗せるには
何をどうすればいいのか、
それを描いたビジョンが必要です。
上記の1)~6)に該当しない会社は
ビジョンを作られるといいでしょう。
わたしのクライアントの社長の
ビジョンを描いた方針書は、
様々な書き込みがしてありボロボロです。
普段から持ち歩いていて、
気づいたことがあればそこにメモるからです。
その使い方に感心していると、彼は、
「私にはすがるものはこれしかないですから」と
とポツリと言いました。
誰からもあれしろ、これしろと
指示されない社長にとって、
ビジョンだけが、迷ったとき、壁にぶつかった時、
チャンスに遭遇したときに、すがるべきものなのです。
今年はビジョン開発イヤーです。
是非、あなたと幹部社員の先見力を磨いて
2030年ビジョンを描いてみてくださいね。