V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.527
by V字経営研究所 代表 酒井英之
「たまげた新人と『ゆるブラック企業』」
宝塚歌劇団で自殺者が出ましたね。
調査委員会の話だと長時間労働が原因のようです。
が、遺族側は上級生からのパワハラがあったのではないかと
反論しています。
まだまだ、わが国にこんなブラック企業があったのかと
報道を見て唖然としました。
原因をはっきりさせて、
再発防止策に務めて欲しいものです。
さて、ブラックはブラックでも近年は
「ゆるブラック企業」と呼ばれる会社があります。
緩いブラック、という意味ですが、
ブラックとどう違うのか、比較してみてみましょう。
「ブラック企業の特徴」
・従業員に対し、極端な長時間労働やノルマを課す
・賃金不払い残業やパワーハラスメントの横行など、
コンプライアンス意識が低い
・著しく給与が低く、離職率が高い etc.
「ゆるブラックな企業・職場の特徴」
・過度な残業などの長時間労働はないが、成長実感が得られない
・職場の雰囲気は悪くないが、将来性は感じられない
・離職率は低いが、その理由は楽だから
つまり、のんびりしているラクな会社を
「ゆるブラック」といいます。
https://saponet.mynavi.jp/column/detail/20230426185753.html
そして、ここが肝心な点ですが、
若者が「ゆるブラック企業」で働きたい、
と思っているかと言えば決してそうではないのです。
(株)AlbaLinkが行った調査によれば、
7割の若者が、「うちの会社は『ゆるブラック』だ」と
思っています。
そして、同じく7割の社員が
「ゆるブラック企業では働きたくない」と回答しています。
楽な職場なのに、なぜ働きたくないのか。
理由は大きく2つです。
・成長できない
・収入が増えない
https://www.hrpro.co.jp/trend_news.php?news_no=2200
つまり、ぬるま湯につかっている感じで、
そこにやりがいや面白さを感じていないのです。
人は、生まれながらにして成長欲求を持っています。
なぜなら、一人では生きていけないからです。
集団の一員になるには、仲間のために自分にできることが
何か一つでもないといけません。
そのため「できなかったことができるようになりたい」という
成長欲求が、本能の一つとしてあるのです。
マズローの欲求5段階説の「自己実現欲求」は
まさにこの成長欲求なのです。
ゆるブラック企業は、この成長欲求を満たせていないのです。
先日、成長欲求がとても強い若者に出会いました。
私が講師を務めた、某一部上場企業内で行われた
「伝える力向上研修」に彼は参加していました。
この研修、参加者は自ら受講を志願した社員。
そのため、新人から引退し再雇用の人まで
幅広い人が参加しています。
彼は、一番前の席で受講していました。
なんと、今年の新入生です。
新入生が、再雇用になった元リーダーと
同じグループで受講しています。
彼は見た目の割に胸板がぶ厚い、
いわゆる細マッチョだったので
「トレーニングしているんですか?」と声を掛けました。
すると「毎日筋トレです」との回答です。
「筋トレはいいよね。
見れば努力しているのがわかるから。
毎日、本を読んでいても、
傍からはその努力はわからないもんね」
と伝えたら、次の返事が返ってきました。
「毎日、自分を虐めているんですよ。
この会社、若い人には優しくて、
なかなか虐めてくれないので。
僕、成長したいんです。
本当は、もっと仕事で虐めて欲しいんですけど…」
なんと筋トレは、彼にとっては
日々自分の成長を実感できる手段だったのです。
この彼、感心することだらけでした。
例えば研修中、私は「会社の行動指針に従って
行動していることをグループの仲間に
伝えてください」いうお題を出しました。
同社には『自分から発信する』という行動指針があります。
それに対し、彼は「周りの人を明るくしたくて、
自分から大きな声で挨拶をすることを心がけています。
新人にできることはそれぐらいですから」
と、堂々と語ってくれました。
とても清々しい回答でしたので、
以後、この研修の始業と終業時に行う
「よろしくお願いします」「ありがとうございます」の号令は
彼にお願いしました。
また、研修中のワークの一つである
「相手のやる気を引き出す任せ方」の演習では、
自分で以下のシーンを想定し、作文していました。
「いつか私が管理者になり、
若い社員に、新規事業の立ち上げを任せる時」。
・わが社が今、置かれている環境(激しい変化)
・わが社の課題(新たな成長エンジンとなる新規事業が必要)
・私の想い(私はそれを是が非でも実現したい)
・私からの依頼(それをあなたに任せたい)
・あなたを選んだ理由(なぜ、あなたなのか)
・伝える資源(使える経営資源はこの通り)
・フォローの約束(心配しなくて良い、失敗しても大丈夫)
・どうかな、引き受けてくれないかな?
彼の作文には、私が講義で伝えた
人に仕事を任せる時に必要な上記の要素が
具体的にしっかり入っていて、秀逸でした。
あまりにリアルだったので
ひょっとしたら、彼は近い将来、
自分がこのようなプロジェクトメンバーに
指名されることを夢見ているのかもしれません。
彼はIT人材ですが、小学生の時に
学校の先生から「君は算数を人に教えるのが上手いね」と
言われたことがキッカケだと言います。
以後、算数が好きになって理系に進み、
今、ITで社会を変える企業の一員になっています。
そんな彼が、どんなビジネスマンに育つのか、
今から楽しみになりました。
彼は今、「明日は今日よりも面白くなる」と
信じて仕事をしています。
どんな仕事でも、自分が関わることへの手応えや
仕事へのやりがい、自己成長を実感できたら
人は自分の会社を好きになります。
あなたの会社は、働き易いだけの
「ゆるブラック企業」になっていませんか?
働き方改革の次は働き甲斐改革です。
仕事が、志事に変わる。
そんな環境を整えていきましょう。
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.526
by V字経営研究所 代表 酒井英之
「忙しいときほど、仕事の尊さを思い出そう」
ようやく秋らしくなってきましたね。
学習の秋、というように
毎日のようにあちこちで研修会が開催されています。
私もお陰様で、ほぼ毎日
研修講師で飛び回っています。
忙しさは完全にコロナ前に戻りました。
今日はメガバンクの5年目行員100人を
対象にした研修の講師を務めます。
日頃は社長や役員、管理職向けの研修が多い私ですが、
若い人相手の仕事は、新鮮な気持ちになります。
まして相手がバンカーとなると尚更です。
と、いいますのも、
父が小さな相互銀行の行員だったからです。
相互銀行は、従業員300人以下もしくは
資本金8億円以下の中小企業または
個人事業者にしか融資できない金融機関です。
いわゆる小体先ばかりが対象でした。
私は父の仕事が好きになれませんでした。
父の転勤の度に、転校を余儀なくされたからです。
が、ある時「銀行員って、なんて尊い仕事なんだ」と
気づいたことがありました。
それは、父の葬儀の時です。
喪主を務めていた私に、一人の社長が
当時副社長だった息子さんを伴って
挨拶してくれたのです。
「今から30年前、あなたのお父さんが
私の会社に融資をしてくれた。お陰で今の会社がある。
あなたのお父さんには感謝してもしきれない」
そう言ってくれたのです。
そして連れてきた息子さんに対し、
父の遺影を指さしながら
「この人のお陰で今のわが社がある。
お前も感謝しなさい」と言ってくれたのです。
これを聴いて私は驚きました。
父が担当者としてこの会社に関与した感謝が
30年以上も続いているのです。
息子さんが感謝してくれたらもっと続きます。
一担当者への感謝がこんなに長く続くなんて、
消費財メーカーにいた私には、
とても考えられないことでした。
消費財メーカーにいると、役に立つ商品を作ったら
「こんな便利なものをありがとう」という
お客様の声は聞こえます。
が、それは一瞬のこと。
たとえそれが30年売れ続ける
ロングセラー商品になったとしても
それだけ長く感謝が続くことなんてあり得ません。
この社長からの感謝の言葉は、
私がバンカーという仕事の尊さなのだと
気づくには十分でした。
以来、延べ100回以上、
若いバンカー向けの研修やセミナーをやっています。
そのたびに、必ずこの話をさせて頂きます。
なぜなら、若いバンカーに、
バンカーという仕事の尊さに気づいて欲しいからです。
わが国企業の99.7%は中小企業です。
中小企業が成長発展することが
わが国の発展に繋がると、私は信じています。
それには、中小企業経営者にとって
最も身近な存在であるバンカーからの支援が欠かせません。
私の研修が、その一助になるのなら
こんない嬉しいことはないのです。
先日、この話とよく似た話を、
クライアントのA社長からお伺いしました。
A社長は、70年以上続く機械商社の3代目です。
同社では今後シリーズで管理職研修を行うのですが、
その事前インタビューを社長に行ったときのことです。
「いつ、会社を継ぐことを意識し始めたのですか?」
と尋ねたら、以下のように答えました。
「祖父の葬儀の時です。
私はまだ高校生でした。
この葬儀に、当時の社員さんたちが
大勢参列して下さいました。
泣いている人が大勢いました。
それを見てとても驚いたのです。
不思議でした。なんで身内でもない人が、
こんなにも泣いているのだろう…と」
A社長の祖父は同社の創業者です。
きっと、大きな志を持った人だったでしょう。
それゆえに並々ならぬ苦労もあったと思います。
が、それを乗り越えて今日の礎を築かれたのでしょう。
参列した社員さんの多くは、
そんな創業者と出会い、家族同様の付き合いの中で
大切に守り、育てられ、苦楽を共にした
同胞・盟友ともいうべき人たちでした。
そうした創業者の人間味が
葬儀の時に感謝の涙として流れたのだと思います。
そしてその涙が、創業者の孫にあたる現社長の
「経営って、なんか、すごい」
と気づくキッカケになりました。
この話をお伺いして、ファミリービジネスならではの、
何とも美しい話だと思いました。
創業者も2代目も、
家では全く仕事の話をしなかったと言います。
そのため、3代目のA社長は、
高校まで家業のことを知らずに来ました。
そんな3代目に、
「会社を経営する」という仕事の尊さを
創業者が大切にしてきた社員さんたちが、
葬儀のときの感謝の涙で教えてくれたのです。
A社長は今後、同社に代々受け継がれてきた
社員が働きがいを感じられる経営を
続けていくに違いありません。
この話を聴いて、
私の同社の管理職への研修が
その一助になるのであれば、
こんな有難いことはないと思いました。
そして、グッと気合が入りました。
忙しくしていると、一つひとつの仕事をついつい
やっつけでやってしまいがちになります。
「忙」という文字通り、アウトプットを焦って
心を亡くしてしまいます。
が、一ひとつの仕事は実に尊いものだと、
たくさんの人が教えてくれています。
あなたが今日挑む仕事も、実に尊いものだと、
きっと誰かが教えてくれています。
目の前の仕事が、誰の役に立ち、
どれだけ喜ばれるものなのか考えてみましょう。
そして、その尊さに気づき納得したら、
想いを込めて挑みましょう。
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.525
by V字経営研究所 代表 酒井英之
「新社長、新リーダーにとって一番大切な仕事とは」
バレーボール男子は16年ぶり、
ハンドボール男子は36年ぶり、
バスケットボール男子は48年ぶりに
五輪への自力出場を決めましたね。
これらの競技はいずれも
「日本=弱い」の固定概念がありました。
それを、若いアスリートたちが次々と覆しています。
足元では日本シリーズが行われています。
阪神の村上投手25歳、佐藤選手23歳。
オリックスの宮城投手22歳、紅林選手21歳。
若い選手が、阪神=弱い、オリックス=弱いという
これまで固定概念を破壊しました。
経営でも同じです。
若返りが会社をワクワクさせてくれます。
先日、1年前に40歳で会社を継いだ
3代目の経営者に会ってきました。
真新しい制服を着て現れた彼は、
ほんの3か月前に会ったときに比べ、
随分逞しく成長しているように見えました。
約2か月前、彼は50余名の全社員を集めた
経営方針発表会を開催しました。
その冒頭で、社長として初年度の決算報告をしました。
同社は21年度まで過去3年、
コロナ禍による需要減で赤字続きでした。
22年度も、半期が終わった時点で計画未達でした。
原因は、仕入れ値の高騰に対し
売価が追い付いていないことでした。
そこで、トップダウンで値上げを断行しました。
それが奏功し、4年ぶりに目標を達成しました。
決算書は社長の通信簿と言われます。
プロセス評価がなく結果のみが問われる社長業で、
半期の時点で下した英断が、
彼の自信となったようです。
また、経営方針発表会で彼は、
新たな「パーパス」「経営理念」「ビジョン」
「スピリット(行動指針)」を発表しました。
これらはすべて社長が内省し、
会社をどうしたいかをじっくり時間をかけて
考えて考えて考え抜いて言語化したものです。
それまで同社には、先代が作った
経営理念と行動指針がありました。
いずれも創業の志を継ぐ、崇高なものでした。
が、一部表現が時代に合わず難解な部分もありました。
そこで新社長は、今の社員に分かり易く、
受け止めやすいように
経営理念を進化させる必要性を感じたのです。
新理念の策定にあたっては、
まず、先代の許可をとりました。
ついで全社員と面談し、一人ひとりの話を聴きました。
一人当たりの時間は30分。
半分は仕事の話、もう半分は家庭の話を聴きました。
次に、全社員にアンケートを取りました。
「わが社のどこが好きか」
「どのような会社になってほしいか、
どのような会社にしていきたいか」
等の意見を集めました。
また、役員に依頼して
「働き甲斐のある会社にするために
うちの会社、こうだったらいいのにな」と思う
改善案を、全社員から募りました。
さらに社長就任の挨拶を兼ねて
主要顧客、取引先を訪問し、
「当社を選んでいただいている理由」
「今後の当社に期待していること」も聴きました。
こうして集めた情報を
社長は自分が右腕と頼む4人の役員とシェアしました。
4人の役員は皆、社長より年上で50代です。
先代に育てられた彼らは今、
新社長を支える経営チームの一員となり、
若手社員と共に、新たな歴史を刻む決意に満ちています。
この経営チームで、集めた情報を元に
将来的にどんな会社にしたいか、
そのために、具体的にどのようなことに
取り組んでいきたいかの議論を何度も重ねました。
そうした議論の結果を言語化したのが
上記の「パーパス」「経営理念」「ビジョン」
「スピリット(行動指針)」です。
それらは、とてもよく推敲されて、力強く
全社員の肚に落ちるものでした。
さらに経営方針発表会では
今後1年間、何のために、誰が、いつまでに、
何をするかの単年度計画が発表されました。
社長の基本方針に続き、経営チームの役員たちが
自分の思いを込めて発表しました。
その中には、以前から慣例として続いていたが、
時代に合わないと判断し廃止するものや、
現場から出た改善案を受け容れて、
新たに実施することが多く含まれていました。
単年度計画書となると、毎年同じことの繰り返しから
マンネリ化した表現が並ぶことも珍しくありません。
が、同社の単年度計画は、「刷新」という表現が
ぴったりと当てはまる、新鮮味のある内容でした。
新しい制服の採用もその一環です。
今どきの「カッコいい制服」を、社員たちが選びました。
ビジュアルの変化は、職場の雰囲気を変え、
社員を一層ポジティブにします。
こうして彼は、社長になって
2期目のスタートを切りました。
「人は自分の話を聴いてくれた人の話を聴く」と言います。
逆に言えば、話を聴いてくれない人、
自分に関心を持っていない人、
自分を理解しようとしない人の話は聴かないということです。
社員の話をちゃんと聴いたことのない社長が
社長だからと指示命令を飛ばしても
社員から「あなたは私たちの何を知っているのか」と
反発されたら終わりです。
「聴くこと」は膨大な時間と忍耐を費やす、
とても辛い仕事です。
「社員の話を聴きすぎて吐きそうだ」と
いう社長もいるくらいです。
が、一人ひとりをよく知れば、
現場で今、何が起きているかとてもよくわかります。
発生している問題の根源と、
何から手をつければいいかが見えてきます。
さらに、いざという時に誰を頼ればよいか、
誰と誰を組み合わせれば大きなパワーになるか、
見えてきます。
また、「この人は私の話を聴いてくれた」
「私たちのことをわかってくれる人だ」との
社員からの信用は、何物にも代えがたい力になります。
社長や支店長など、新たに組織の長になった人は
「社員の話を聴くこと以上に重要な仕事はない」、
と肝に銘じましょう。
そして、固定概念にとらわれない
若手社員の突破力とベテラン社員のサポート力を
引き出す経営へ、舵を切りましょう。