V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.509
by V字経営研究所 代表 酒井英之
『監督職クラスに求められる一丁目一番地の仕事は?』
藤井聡太さんが将棋の世界で大変注目されていますね。
史上最年少名人と7冠達成まであと一勝です。
かつての羽生善治さんを凌ぐほどの成績なんて、
本当にすごいですね。
経営者の仕事はよく棋士に例えられます。
理想とする成果をアウトプットするために、
組織という自分の駒を、
どのように動かすべきかを考える人だからです。
では一つひとつの駒は、どのような組織単位でしょうか?
部でしょうか?課でしょうか?係でしょうか?
あるいは工場や営業所でしょうか?
企業の規模によって、それぞれだと思います。
大企業の経営者にとっては
事業部や支店という単位かもしれません。
一方、中小企業経営者が指す盤上の駒は、
「係」ではないかと思います。
1チーム5人程度の係や室と呼ばれる組織こそが、
経営者が指す将棋の「歩」だったり、
「香車」や「桂馬」などの駒ではないかと思います。
経営者がこの駒を、自ら考え行動する
イキイキとした組織にしていくことは、
ビジョンの実現に極めて重要です。
コロナからの回復局面の今、
弊社に階層別教育の依頼が増えています。
その中で顕著なのが、係長(監督職)クラスへの教育です。
もっとも、いきなり係長の教育だけを
依頼されるわけではありません。
過去3年間は、役員・部長・課長を対象とした
管理職研修の依頼が相次ぎました。
コロナ禍で世の中の環境がガラガラと変わる中、
経営者は、会社の仕組みを変える必要に迫られました。
そこで、管理職に自分と同じ危機意識と
経営者目線を持つことを求めたのです。
そのため、管理職研修には社長も参加しました。
そして、「管理職のあるべき姿」を学びながら、
P DCAが回るようにするにはどうしたらよいか、
生産性を高めるにはどうしたらよいか、
人財が定着し育つにはどうしたらよいか等を議論しました。
そしてそれらを実践します。
社長と管理職が一緒に受講しているので、
「やる」となったら早いです。
その結果、社内に新しい仕組みがいくつも生まれました。
ゆえに 研修も「1日やって終わり」ではなく、
毎月1回 半年間~2年以上など、
長期にわたることが少なくありません。
そうした学習の続編として、係長研修の依頼が増えているのです。
というのも 経営者の目線と係長の目線では
ずいぶん大きな開きがあるからです。
経営者の目線は次のようなものです。
経営者の意識
・組織全体の成長・拡大
・業界の流れを読む
・未来を志向する
・更なる売上、利益の獲得
対しては現場の目線は次のようなものです
・自分の評価、自部門の利益
・現場の人間関係、好き嫌い
・今のことで頭がいっぱい
・降ってきた仕事をこなす
経営者は現場の考えや要求を近視眼的、局所的と感じ、
現場は経営者の考えを理想論、遠い未来の話と感じています。
よって 双方をつなぐ役目にある管理職には
経営者と現場を繋ぐ力が求められます。
・経営者の意向を目標に落とし込み、現場の意欲を高める。
・現場の不満を拾い上げ、経営者に提示し、対応を促す。
この2つができないと頼れる係を作ることができません。
ところが、ここに大きなネックがあります。
係長がプレイングマネージャだということです。
プレイングマネージャは、
プレイヤとマネジメントを兼ねています。
プレイヤは行動にコミットする人です。
マネージャは結果にコミットする人です。
そのため、評価がプレイヤ重視だったり、
本人がプレイヤとしてのアウトプットに
やりがいを感じていると、管理がおざなりになり、
ただの「できる職人」になってしまうのです。
そのような係長には、
「監督者としての仕事の方が重要」という会社の要求に
気づいてもらうしかありません。
では、どうしたらそれができるのでしょう?
それには係長の仕事の「1丁目1番地の仕事」は何かを
しっかり理解し、腹に落としてもらう必要があります。
その「一丁目一番地」は以下の3つです。
1.危機管理
(1)作業環境の安全・衛生管理
(2)アウトプットの品質管理(不良品の流出防止)
2.変化点の3H管理(初めて・変更・久しぶり)
(1)初めての取り組みが、定着するか
(2)変更した箇所が、上手く機能するか
(3)久しぶりに行うことが、以前通りにできるか
3.情報管理
(1)日々の重要指標の計測
(2)異常値の発見と原因追及
(3)管理職と連絡を密にした突発事項への対応
何はなくとも、これらを確実に実施すること。
そのことに、日々の時間を優先して使わなければなりません。
ところが、多くの係長は、
「やることが多すぎて、何から手を付けていいのかわからない」
「ムダトリで時間を作ったとしても、その時間に何をすれば
よいのかわからない」と悩んでいます。
よって、弊社の係長研修では、自分の時間の使い方を確認します。
自分の仕事を洗い出し、優先順位を付け
「何にもっとも注力すればよいか」を整理していくこと、
及び現場の社員をどのように動機づけていくべきか、
コミュニケーション・スキルを学ぶことが
盤上の一つひとつ駒を強くする秘訣なのです。
「歩のない将棋は負け将棋」と言います。
歩は最も弱い駒ですが、
棋士が強くなるのに比例して、
「歩」という駒の存在価値が大きくなるという意味です。
あなたが指す盤上の駒は今、跳ねそうなほど
イキイキしていますか?
もし、係長が辛そうにしていたら、
何が重要な業務かに気づき、自分の時間の使い方を
見直す機会を与えてあげてくださいね。
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.508
by V字経営研究所 代表 酒井英之
「なぜ『一流の製品は、一流の人格から』なのか?」
「モノをつくる前に人をつくれ」。
あなたもどこかで聞いたことがあると思います。
これは、松下幸之助翁の言葉です。
正確には「松下電器は何をつくるところかと尋ねられたら、
松下電器は人をつくるところです。
併せて電気器具もつくっております。こうお答えしなさい」
と、社員に語ったという逸話があります。
https://hrd.php.co.jp/hr-strategy/hrm/post-73.php
同じことを豊田喜一郎さんは、以下のように伝えています。
「モノづくりは人づくり」。
https://global.toyota/jp/newsroom/t-road/25327177.html
さらに、機械メーカーの西島株式会社では
以下をモットーとしています。
「一流の製品は、一流の人格から」
http://www.nishijima.co.jp/
この言葉に最初に触れた時、私は「?」と思いました。
ボタンを押せば、機械が動いてモノはできます。
誰がボタンを押しても同じモノができます。
ですから、モノをつくる前に人を育てる必要など
ないのではないか?という疑問です。
そこで、製造業で社員研修の講師をするたびに、
「なぜ、モノをつくる前に、
人をつくらなければいけないのでしょうか?」と、
受講生に言いかけています。
すると、どの会社でも、以下のような意見が出てきます。
・チカラを合わせる方針やルールを作る
(のは人である。機械にはできない)
・より魅力的な商品を創る(〃)
・お客様の要望に応じて改良する(〃)
・トラブルに対処し再発防止策を図る(〃)
・より働きやすい環境を創る(〃)
・創意工夫で生産性を上げる(〃) …etc
なるほど、いずれもごもっともです。
ただ、それでも私は「何か足りないな」と感じていました。
特に疑問が残るのは、西島(株)が語る
「一流の製品」と「一流の人格」の関係性です。
その何かを、先日見つけることができました。
それはマグロ丼専門店の人気の秘密について、
焼津市の(株)マルイリフードサプライの寺岡社長と
話した時のことです。
社長の本業は、冷凍マグロの加工卸です。
巨大な冷凍庫に、焼津港で水揚げされたマグロを保管しています。
そして、注文に応じてマグロをノコギリでカットし、
市場や回転寿司等に出荷しているのです。
https://www.maruiri.co.jp/
その同社が、「清水港みなみ」「焼津港みなみ」
「まぐろのみなみ人宿町」
というまぐろ丼の専門店を3店舗、
静岡駅周辺で営業しています。
「みなみ」のネーミングは、南マグロに由来します。
この店が、すこぶる評判が良いのです。
駅前にある「清水港みなみ」の場合、
「食べログ」の点数は3.74点。
口コミは856件(23年5月9日現在)です。
https://tabelog.com/shizuoka/A2201/A220101/22016103/
人気の秘訣を社長に聞いたところ、
まずはコスパが良いことがあります。
これは、同社が冷凍魚卸を営んでいることから、
一般店よりも好条件で素材を仕入れているからです。
が、それだけではありません。
私も同店のまぐろ丼を食べたことがありますが、
刺身がもちもち、トロトロで美味しいのです。
社長は、このもちもちトロトロの食感を
「熟成度が高い」と表現しています。
社長によると、この熟成度は
「冷凍マグロの解凍の仕方で決まる」と言います。
何時に料理に出すから、
その時に一番美味しくするには何時に解凍したらよいか、
それを考えて解凍を始めると言います。
しかも、季節によって解凍の速度は違います。
冬、気温が低い時は何時から解凍する。
夏、気温が高い時は何時から解凍する。
また漬け丼のように、味を染み込ませる商品は、
気温によって塩や醤油の染み込み具合が変わります。
このように職人はその日の環境に合わせて、
細かいことに気を配りながら
仕込んで行く必要があるのです。
「この気配りこそが大切だ」と社長は言います。
例えば、解凍に10時間必要だと言って、
マニュアルに「10時間で解凍する」と書いてしまうと、
季節によって味が全然変わってしまいます。
それよりも「この食感、この味を出すためにものを作る」。
そのために、日々変わる環境に合わせて
お客様に「本当にこのまぐろ、美味しいね!」と喜んでもらうには
どうするのがベストなのかを考えて行動を選択する。
この繊細な思いやりと行動力が必要なのです。
この環境の中には、接客力も入ります。
行列ができるお店です。
寒い日は寒い中、暑い日は暑い中、
1時間以上並んでるお客さんが少なくありません。
そうしたお客さんがやっと店に入れた時に、
「お待たせして申し訳ありませんでした」や
「今日もご来店ありがとうございます」の一言が
言えるかどうかはとても大事です。
さらに、お客様や営業担当者の声を真摯に聴く。
そしてその要求に丁寧に答える。
これも、表面的な言葉だけでなく、
真意を汲み取りながら聴く姿勢が必要です。
こうした話を社長から聴いているうちに、
「一流の製品は、一流の人格から」という
教えの意味がようやくわかっていました。
モノをつくる人は、どんな動作をすればいいかという
動作を覚えるだけでは全然足りません。
求められている仕上がりに責任を持ち、
その仕上がりを出すために努力や創意工夫を惜しまない。
これこそが「一流の製品は、一流の人格から」の真意ということです。
そう考えると、ものづくりの醍醐味は
何がどれだけ売れたという結果よりも
それを作り込んでいるプロセスの中あるのだと気づきます。
食べログの点数や書き込みの数などお客様の評価は
自分でコントロールできるものではありません。
そこに一喜一憂しても仕方のないことです。
それよりも、まぐろという素材に対する感謝や興味、
お客様への感謝とリスペクト感こそ、
誇りに思うべきなのでしょう。
結局のところ、ものづくりは人間力次第です。
人間力とは、教育学者・森信三先生の語る
「時を守り、場を清め、礼を尽くす」。
この基本を徹底していきたいですね。
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.507
by V字経営研究所 代表 酒井英之
「生産性向上への一番の阻害要因は何か?」
突然ですがPQCDSMEという言葉をご存知ですか?
おそらく 真ん中のQCDSは 誰もがご存じだと思います。
企業がお客様に選ばれる基準ですね。
それが昨今ではあらたにPMEの3要素が加わり
現在はPQCDSMEとなったのです。
新たに加わった 3要素は以下の通りです
P=Productivity(生産性)
M=Motivation/Moral(モチベーション、マインド)
E=Environment(環境配慮性)
https://kaizen-base.com/column/30821/
いかがでしょう?
みなさん、納得ではないでしょうか?
このうち今回はPについて考えてみたいと思います。
時間当の生産性を高めるのは待ったなしです。
光熱費、燃料費、人件費など固定費はどんどん上がります。
その固定費を吸収するには、付加価値を高めるしかありません
つまり、1時間当たりで稼ぐ量を増やすということです。
ものづくりや処理をする会社であれば
1個当りを作る(処理する)スピードを早くし
より数多くをアウトプットするということです。
あるいは人件費を掛けずに自動化するということです。
ところが、コロナ前の2014年から19年の間、
わが国は好景気に沸いていました。
要因はオリンピック前の特需もありましたが、
人口のボリュームゾーンである
団塊ジュニア層が40代半ばに差し掛かり、
人生で一番お金を使う世代になったということがあります。
人は何歳の時に最もお金を使うかといえば、40代半ばです。
住宅、車、子供の教育費、食費等、
これらには大変多くのお金を要します。
その最もお金を使う世代の人口が増えていたのですから
GDPの半分を占める個人消費が活気づくのは当然でした。
同じ頃、働き方改革が進みました。
長時間労働は法律違反となり
旺盛な需要に対して、長時間労働で問題解決するという
手段が使えなくなりました。
そのため、営業担当の仕事は
受注して売上を上げることではなくなりました。
付加価値の高い仕事のみを受注し、手作業や、
段取り替えや、検査などが多くて手間がかかる
仕事は受けないなど、断る事が仕事になりました。
これは工場の作業現場がそのような判断をするからで、
当時としては賢明な対応でした。
ところがコロナ禍から3年が過ぎ、
世の中の状況は変わりました。
業種にもよりますが、成熟産業と呼ばれている業種は、
団塊ジュニアが50代に突入したこともあり、
前年割れの程度が大きくなり、いよいよ衰退傾向を示しています。
そのため 独自性のない会社、シェアの低い会社の仕事は、
どんどん減ってきています。
何としても数量を確保し、工場を稼働させないと、
固定費を吸収するだけの収益を維持することができません。
ここでボトルネックになるのがコロナ前の
営業も工場も受注をお断りするという意識です。
面倒な仕事や儲からない仕事は断る発想です。
確かに儲からない仕事は断った方が良いのですが、
儲からないには程度があります。
それは固定費を吸収できない仕事の場合の話です。
時間当たりの生産性を上げて、量をこなすことで
固定費を確保できるなら、赤字にはなりません。
限界利益を確保できるのであれば、
量をこなせば固定費は吸収でき、利益が生まれます。
経営者であれば、このことは常識です。
ところが、現場の営業担当者や工場の受注窓口の担当者は
コロナ前の感覚で断ってしまいます。
その結果、工場が赤字に陥るのです。
しかも、未だに受注減の影響をコロナのせいにできます。
「コロナの影響で受注が減っているのは仕方ない。
だから赤字は自分たちのせいではない」と思い込んでます。
しかもその赤字を補助金が埋めてくれました。
これによって、受注量を確保しよう、
創意工夫をして生産(処理)のスピードを上げよう、
難物にも挑戦しようという前向きな気持ちを
持てずにいるのです。
この傾向は、管理会計が脆弱な中小企業でよく見られます。
管理会計が行き届き、部門別の採算が見える化されている
大企業ではまず見られません。
大企業の管理職の仕事は、「結果にコミットすること」です。
求められている予算を達成するために、
常にあの手この手を考えます。
社員も結果を出すために、何が足りないかが見えています。
だから、過去のやり方に捉われず必死に創意工夫をします。
一方 中小企業はプレイングマネージャーも多くいます。
プレイヤーは「行動にコミットする」存在です。
が、マネージャーの仕事である、
「結果にコミットする」意識が脆弱です。
現状を数字で見ることもできないし、
仮に赤字であっても
その責任を誰が負うかも不明瞭です。
これは大変惜しいことです。
業績を見える化する仕組みや、会計に関する基礎知識、
誰が結果にコミットメントするかの仕組みがないため、
過去の経験だけが判断基準となり、
社員が本来持っている能力が発揮できないのです。
では、どうしたらいいのでしょうか?
赤字の工場を黒字化したいのであれば、
人を減らすのも一つの方法です。
が、一度人を減らすと、
同じスキルを持った人材を今一度集めることの難しさは
コロナに苦しんだ旅館業や外食産業、
バスやタクシーなどの観光業が証明済みです。
また、地域の人から会社に対する不信感を招きかねません。
ゆえに、ここはしっかり何をどれだけやれば利益が出るのか
現状を見える化し、赤字の原因を特定しましょう。
そして、どこをどのように変えたら黒字になるのか、
自分たちでシミュレーションして
自分たちで黒字化のための押しボタンに気づき、
それを押すよう知恵を出して取り組むより他ありません。
仕事が減少傾向ならば、
営業は、仮に安価とか難物と思われる仕事でも、
工場と相談です。
そして、工場はその仕事の生産(処理)スピードを
どこまで上げることができるか検討するのです。
営業は、限界利益割れしない限りの仕事や
骨が折れそうな難物でも受注してくる。
工場はそれの生産(処理)スピードを
どこまで上げることができるか挑戦するのです。
管理会計の仕組みを整備して、教育し、
新たな成功を経験させることで、
かつて成果を出した社員を、
輝ける「結果にコミットメントする管理者」へと
成長・進化させるのは、経営者の仕事です。
少子高齢化には益々拍車がかかります。
今、生産性向上を果たさないと未来はありません。
是非、仕組みを整備し、生産性向上に
挑戦する風土と人財を育てていきましょう。