山田夏子氏

山田夏子氏×酒井英之
グラフィックを使った、
新しいファシリテーションの形
今回お話を伺ったのは、絵や色を使って同時進行で描き出す新しい会議の形『グラフィックファシリテーション』の開発者である山田夏子さん。株式会社しごと総合研究所の代表も務め、2025年春にスタートしたニュース情報番組「サン!シャイン」(フジテレビ)では、この手法が評判となりレギュラー出演されています。
ファシリテーションといえば、付箋に意見を書き、参加者の共通認識にする風景が思い浮かびます。が、山田さんの方法は『絵を使って、言語化できないことも見える化する』ことが大きな特徴です。そんな山田さんに、絵を使ってファシリテーションをすることになったきっかけや、導入した企業や自治体、家庭などで起きる『関係性の変化』について語っていただきました。
グラフィックを使った、
新しいファシリテーションの形
酒井:
こんにちは。今日はありがとうございます。
グラフィックでファシリテーションをするという、まったく新しい会議スタイル『グラファシ』を生み出した山田夏子先生に会えるのを楽しみにしていました。
山田:
酒井先生、先生じゃなくて『なっちゃん』って呼んでください!
というのも、ファシリテーションって『先生』って呼ばれた瞬間に階層みたいなのができちゃって、本音を語ってくれなくなるんです。ですから毎回皆さんにも『先生じゃなくて、なっちゃんで』とお伝えしてるんですよ。

酒井:
じゃあ、なっちゃんで!
山田:
自己紹介の時も『代表取締役ではなく、代表とりみだし役です』って最初にスベっておく(笑)。『取り乱してるので取り締まられながら、なんとかやってます』なんて。そうすると参加者の方が「ちゃんとしなくていいんだな」って思ってくださるんですよ。
酒井:
(笑)やっぱり話しやすい雰囲気作りを大事にしているってことですか?
山田:
そこが一番大事ですからね。
酒井:
さすがです。では、なっちゃんの仕事は一般の人にはわかりづらいかもしれないので、説明していただけますか?
山田:
はい。グラフィックを使ってファシリテーションをしています。さまざまな話し合いの場でファシリテーションは機能すると思いますが、私は主に「組織開発」の現場で活用しています。
なぜかというと、その企業や組織で働く人が、生き生きとして能力を存分に発揮できるよう、組織の器を広げることが必要だと思うからです。
酒井:
組織開発の手法として、グラファシを使っているのですね。
山田:
ええ。例えばワークショップで、「ビジョン」「パーパス」「アイデンティティ」について話し合うことがあります。ですが、人によって、それぞれの言葉で表したいことが異なるので、議論がすれ違ってしまったり、深く掘り下げる話し合いになかなかなりません。
そこで『会社のビジョンを形や色で表わすとしたら?』『アイデンティティってどんなイメージ?絵に描きたいので教えてください』などと問いかけながら、同時進行で絵や色で描いていきます。
すると、ご本人にとっても曖昧だったイメージが明確になっていったり、みんなで共有できるようになっていきます。それぞれの言葉に抱いているイメージが違うということに、参加者が自分たちで気づいていく場になるんですね。
酒井:
確かにそうですね。僕も今の気持ちを言葉にするのは難しいけれど、ここに色が並んでいて『今の気持ちの色をここから選んで』と言われたらできそう。
山田:
人間って全てを言語化できるわけではないので、潜在的な想い、感じること、願い、ニーズなど『まだ言葉になっていない、言葉では言い表せないようなレベルにあるもの』を絵や色を使ってあぶり出す、という感じでしょうか。
それによって、無自覚が自覚になっていく。
場の雰囲気がどよーんとしていたり、シーンとしていたら、ホワイトボードに「どよ~ん」とか「シーン」という雰囲気や表情を描きます。そういうのって本人たちは意外と無自覚なんですよね。
酒井:
絵を見て初めて自覚する。
山田:
人間って、話している最中より振り返った時に『あの時は悔しかったんだ』とか『ぐちっていた奥底に願いがあったんだ』って気づきますよね。それをリアルタイムで引き出すために、グラフィックを使ってファシリテートする。
描くことで、自分たちに起きていることに自覚的になるための後押しをしています。
酒井:
思いを視覚化されると『このままじゃまずい…』と皆で気づいて、そのまま『前に進もう』という意欲が湧いてきて、それをみんなで共有できそうですね。

山田:
通常、ファシリテーターって『人として介入する(関わる)』スタイルだと思います。それも効果的なのですが、参加者は、質問してくれるファシリテーターに向けて、話してしまいがちです。
私としては、参加者同士が活発に話しあって欲しい。
なので、あえて背中を向けて絵を描いています。
すると絵がファシリテーターになってくれるんです。
酒井:
みんなから見えるのは、あくまでも絵なんですね。
山田:
参加者が目の前の問題に対し、ファシリテーターに依存せずに、いかに主体的になり、自分ゴトにしていくかと考えた時に、グラフィックを使おうと思ったんです。
経験の中で感じた、
グラフィックがもたらす効果
酒井:
素晴らしい気づきですね。なっちゃんがそう思われた、具体的なきっかけや出来事は何だったのですか?
山田:
ある時、『今日は皆さん同士でお話しいただきたいので、私から質問はしません。私は皆さんが話すことを書き出していきますね』と言って、参加者に背中を向けたんです。
すると、参加者は困ったなという感じでシーンとしたので、私はその様子や表情と共に『シーン』と大きく描き、背を向けたままにしていました。しばらく、私の描いた絵を見ながら皆さん気まずそうにしていたのですが、その状態に耐えきれなくなった参加者のお一人が『こんなふうに沈黙しているのは…』と、絵を見ながら話し出してくれたんです。それがきっかけですね。
酒井:
なっちゃんは学校の先生をやっていたから、そこでも何か得たものがありそうですね。
山田:
面談や相談の際も絵を用いていました。
25年くらい前のことですが、当時はデザインやアート系の専門学校って、一般的な大学よりも卒業後のキャリアが見えづらく、迷ったり悩んだりする子も多かった。
でも彼らにとっては最終学歴になるから、ちゃんと社会に繋げたいなあと。
そこで『どんなことを知っていきたい?』『生きがいややりがいは?』を自覚してもらうために、絵を使いながらコミュニケーションを深めていました。
酒井:
将来の夢ややりがいは、言葉にするには抽象度が高いですよね。
山田:
ええ。積み上げるように絵で描いて、共通認識を重ねて。
『先生この絵もらっていいですか?』という学生もいました。いい想い出です。
酒井:
先生だけが得られる喜びですね。
山田:
企業などの会議に、外部からプロのファシリテーターが行くと『あなたが質問してくれるんだよね』と、参加者の皆さんは、返ってお休みしがちになるんですよね(苦笑)。
もちろんプロとして誘導や介入はできるけれど、それでは受け身のまま話し合いが進んでしまいます。『主体的』にならないし、『みんなで決めた』にはならない。
会議に参加している一人ひとりの行動が変わらないと、会議って意味がないなあと…。
参加者の主体性を育むにはどうしようと考えた時に『絵がある!』って思ったのもきっかけでしたね。
酒井:
会議しても行動が変わらない…ドキっとする言葉です。
会議の意義は、決定することではなく、
行動変容を起こすこと
酒井:
会議って、決めたことは覚えているのに行動が変わらないことが多い気がします。
山田:
『こないだの会議で決めたアレは、いま誰がやっているの?』の答えが返ってこないのは、会議あるあるかもしれません。
ですから、前回『業界の富士山を目指そう』って決めたなら、再度大きな富士山を描き『今何合目ですか?』って訊ねてみる。絵を描いて認識を合わせると、相手と自分の認識の違いが把握できます。
酒井:
会議で決めたことが実行できないのは、腹落ち感が足りないのもあるけれど、イメージを共有できていないからかもしれませんね。

山田:
あと、言語で論破しているうちは主体性の火は点きません。私が描こうとしているのは、言語化されていない表情や感情、感覚なんです。
描かれたものを見ながら語っていくと、感情や感覚が刺激されて心から望んでいることが浮かび上がってくる。お互いの背景や想いが共有されて、みんなから熱が感じられてくる。それが主体性とか自分ゴトになるポイントになるんじゃないでしょうか。
酒井:
自分ゴト化のポイントは、共感になるのかな。
山田:
共感もあるし、違和感も含めて感情を自覚することだと思います。
酒井:
違和感があるとか、もやもやする、引っかかる…それをそのまま放置すると、やる気は萎んでしまう。でも、そこが絵に描かれてそれをみんなで見ると『そう、それ』となる。
山田:
やり取りしていくとだんだん共有できるようになるんです。考えている顔にグルグルを描いて『このグルグル、なんですかね?』って訊くと、だんだんみんなが語り出す。
改めて話していると、変なことしてますね(笑)。
酒井:
いや、すごいことだと思いますよ!違和感や納得感の見える化であり、共有ですから。
山田:
社員みんなでのビジョンづくりもやりますし、出来上がったあとの共有、つまり社員の自分ゴト化をお手伝いする時もあります。
『自分たちにとって譲れないもの』や『働く意味・存在意義』などを相当深掘りしながら描いたり、ものすごく抽象度を上げて『未来の絵姿』を描いたり。
企業の方にとっては、普段の仕事とは全然違うアプローチなので、最初のうち戸惑う方もいらっしゃいますが、話の内容を絵で引き出していくうちに、自分の中に閉じ込めていた『違和感』を声に出してくれるようになったり、違いから新しい発想が生まれたり、段々と創発されて、『それいい!』が重なり合って、共創が始まります。
十分に発散されるからこそ、最終的には不思議とまとまっていきます。
酒井:
自分ゴト化するには、どんな手法を使うのですか?
山田:
例えばビジョンに言葉があるとする。『豊かな世界』とかね。でも言葉だけだと『ふーん』と流れてしまうから『じゃあ豊かさって何? 色だったら? 音楽だったら?』とどんどん深掘りしていく。頭で考えるのではなく、感覚に落とし込んでいくんです。
絵を描きながら参加者の感覚を刺激する感じですね。
酒井:
言語のイメージは十人十色ですよね。豊かな社会を音楽で表わすなら、例えばビバルディの『四季』とか。
山田:
そうそう。1人ひとりの言葉の意味が違うのが面白いし、それが、人が集まる意味だと思うんです。その先にあるものもみんな違うので、話してもらいながら絵にします。
酒井:
ところで似たものにグラフィックレコードがありますが、それとの違いは?
山田:
よく質問されるのですがグラフィックレコード(グラフィックレコーデイング)は、通常、言葉と絵を対にして描いていく方法で「記録(レコード)」を目的として描きます。
言語化されたことを要約して絵でまとめる、といったニュアンスなので、図解やフレームなどを使って話を整理し、見やすく配置したり、わかりやすくまとめることが重要になるケースが多いです。
私がやっているのは記録が目的ではなく、その場の参加者の主体性がどれだけ育まれたか、その話し合いが創発的で活性化したか(ファシリテートされたか)のところに目的をおいてます。
酒井:
グラファシとグラレコ。根本が違うんですね。
日本人特有のMUST中心から
WILL中心へ組織の体質を転換
山田:
最近、DXの普及が進まないという話がよく出ますが、理由は『これをやりたい、これをやりたくない』というのが自分でもわかっていないからだと思うんです。
『これが生きがいだから、これ以外はDXで』という基準があれば、DXは勝手に進む。でも本当にやりたいことは本人も無自覚だから、あぶり出すのが大変!
酒井:
『何がやりたいか』よりも先に『DXで何ができるか』を考えるから上手くいかない。
山田:
ときめきやワクワクより改善と問題解決! 日本人って、MUST・WILL・CANの中でもMUSTばかりですから。
小学校の時から、問題用紙が配られたら反射的に解いてきたように、習慣化されているので、やりたいことや希望とどんどん乖離してしまう。
酒井:
目の前の仕事に着手するのも大事だけれど、本当にやりたいことも自覚しないとね。
山田:
意欲と観念って、実は2つとも潜在意識の中に眠っているんです。意欲はWILL、観念はMUSTですが、意欲を自覚するには、まず2つを分けないとわからない。
酒井:
なるほど。
山田:
これダイエットのリバウンドと同じで、痩せなきゃと『MUST』で我慢して、痩せると『ま、いっか』と食べてしまう。でも心から健康になりたいという『WILL』の意欲があれば食べないんです。揺り戻しは、『純粋な意欲』か『観念』かによって、結果は違ってきます。
酒井:
難しいね、意欲と観念。
山田:
先程の管理職の『優秀でなければ、相談の答えを出さなきゃ』というのは観念ですね。こうした『ねばならない・すべき』は、自分の経験値や知識というメガネ越しに見た思い込みだから、まずは自分がどんなメガネを持っているかを知ることからはじめたい。
酒井:
ねばねば星人は日本人には多そう(苦笑)。

山田:
管理職の方って『これは本音だよ』って口ではおっしゃるのですが、どこかに『上司たるものは…』がある気がする。でもそれに気づいていない方が多いと感じます。
酒井:
じゃあ逆に『なんか部長っぽくないな』と思う人は素直?
山田:
そう思います!
酒井:
DXでもまず『何をやりたいか』を固めて、それは仕事としてやるけれど、後は任せますとなると進む。
山田:
やりたくないことをITやDXでできるなら最高! やりたいことが存分にできますもん。
酒井:
最近は僕もAIの研修に携わっているけれど『何をやりたくて何をやりたくないか』という切り口から入ると良さそうです。
山田:
私、DX推進の会議でも模造紙に絵を描いていますから。アナログ!
酒井:
でも、そうした急がば回れみたいなものが人間には大事だよね。
山田:
同感です。今は何でもAIで作れるけれど、短時間でできたものって大事にしない…。時間やお金や労力をかけたものは大事にするんですよ。絵が加わると『あんなこと話したね』って記憶がよみがえるので、大事にしようと思えるのかもしれませんね。
酒井:
なっちゃんが全身で、アナログで描くから受け取ってもらえる。
山田:
これがデジタルデバイスだと、絵は浮かぶけれど臨場感まではなかなかよみがえらないし、どういう想いでこの話を受け止めて描いているのかがわからないのがどうかなぁ…と私は思っていて(笑)。だからアナログでやってるんです。
パワポとか提案書も、鉛筆で書いて色を塗ったものを貼り付けますから。


酒井:
これはインパクトある企画書ですね! 参加する人が見てから来ると、ワクワクしそう。
山田:
以前、母が、孫である息子におこづかいをくれたんですよ。
それで、息子は絵が好きなんで『おばあちゃんの好きな犬を描く』って、ばぁばとワンコを想像しながら、3日間かけて絵を描いてプレゼントしたんです。これこそコミュニケーションの土台だと私は思うんです。
確かにAIの方が上手いけれど、手も机も真っ黒にして描いた風景全てが、母と息子両方の想い出になると思うんですよね。見えないことが大事というか。
酒井:
アナログにしかない温かな共感かもしれないね。
夫婦ゲンカに子育て…
プライベートでも組織開発
山田:
私、イベントが大好きで。ピクニックやハロウィンなどを企画して、自宅のあるマンションの掲示板に貼っておくと50人くらい集まるんですよ。
酒井:
そんなに!
山田:
繋がりたいと思っている人は潜在的に多いと感じます。特にお子さんのいらっしゃる家は防犯の意味でもそうですし、子どもにとっては、ここが故郷(ふるさと)になりますから。プライベートでも組織開発しています。趣味は夫婦ゲンカの仲裁ですから!
酒井:
何という趣味(笑)。
山田:
今まで5組くらいやっています。だいたいお子さんがこっそり教えてくれるので、ご飯食べたら家族でうちにおいでよ…みたいな感じで。
酒井:
そんな場を作れることがなっちゃんのすごいところ。
山田:
夫婦二人だとエスカレートしちゃうし、絵を描くときもあります。
グラフィックファシリテーションは子育ての時にも使ってきました。子どもはどうしても大人より言語が少ない。小さい子が言い抑えてしまうのはとても辛いですよね。だから子どもの速度に合わせて絵で描くんです。例えば急に大声を出した時も『わーってなっちゃったね、どんな色だった?』ってきいてみる。
酒井:
子育てでも、絵を見ながら立ち止まらせるわけですね。
山田:
すると、癇癪じゃなくて、寂しかったとか納得いかなかったとかがわかって『そんなことがあったんだね』って言えるんです。
酒井:
背景さえわかれば、夫婦の場合でもいい感じになる?
山田:
仲直りを求めているならなりますが、夫婦って主張が違うので、子どもとは違いますね。夫妻それぞれの背景が暗黙知になっているから、それを理解した上で『じゃあこの案は?それともこれ?』と移行するとスムーズ。『私とあなたは違う!』で論破しあうと収集つかないんです。
組織も同じで、価値観って無自覚だから、見える化させるといいんです。
どんな場面でも、絵として視覚化することで気がついてもらう。どうでしょう、私の仕事、楽しいと思いませんか(笑)?
酒井:
聴いているだけで楽しそう。仲裁のとっかかりは難しそうだけど…。
山田:
皆さん『夏子さん、聞いてくださいよ~』って言ってきます。でも『うんうん。でも仲裁はするけど解決はできないよ』って答えています。
酒井:
その言い回し、最高ですね!
同族経営・事業継承にも、
グラフックファシリテーション!
酒井:
思い返せば、なっちゃんとはファミリービジネスの勉強会(日本ファミリービジネスアドバイザー協会)でご一緒したのが最初でしたが、そもそもなぜファミリービジネスを学ぼうと思われたのですか?
山田:
趣味が仲裁だけに(笑)、仕事で、組織の関係性を良くしたり、組織開発に携わったりしたくて。すると同族経営とか事業継承の壁に必ず当たるんです。先代と現社長、兄弟のコミュニケーションですね。
それで専門的に勉強しなきゃと思って参加したのです。

酒井:
でも夫婦げんかの仲裁は1対1だけど、組織だと違ってくるよね。
山田:
創業者がそのビジネスを立ち上げた理由って、大抵『息をするように、自分のやりたいことをやっただけ』。純粋な意欲から始まっているんですよね。
逆にいうと本人にとっては『なぜこの仕事をしているのか』が当たり前すぎて、人に説明できない、いわば『本人も無自覚な状態』や『暗黙知』になっているケースがとても多いです。
なので、二代目が引き継ぐ時は、先代の暗黙知である『なぜこの仕事をしているのか』を言語化するところから始めなくちゃいけない。これは本当に大変なことです。
でも、この一番大事なところが掴めてないと、先代が立ち上げたビジネスを『形式ごと、そのまま承継しなければならない(変えてはならない)』と思い込んでしまったり、『形式さえ継承すれば、大筋問題ない』と大切なところが噛み合わなかったりします。
そうなると、創業者にとって会社は自分の分身なので、心配で辞められない、いつまでも事業継承できない…。
酒井:
先代にしてみると会社=自分なので、次の代に、誰の何のために仕事をやっているのか、このやり方を選択しているのはなぜかという意味や意義をわかってもらえないのは恐い、だからもめちゃう。それを形にするため、絵を使って『そうそう』という共通認識を高めていくのですね。
山田:
創業者も『な、わかるだろ!な!』といった感じで、暗黙知のままわかってもらおうとしがちなんですよね。でもグラフィックファシリテーションでは、絵で描きながら聞いていくので『な!』じゃ進まない(笑)。
背景も含めて聞き、同時進行で描きながら、ゆっくり、丁寧に紐解きながら進めていくうちに、先代も『わかってもらえた』となるし、二代目も『そういうことだったのか』とお互いに受け取り合って、理解し合えるんですよね。
酒井:
僕も仕事でよく感じるけれど、めちゃくちゃニーズがありそうですね。でも、スッキリとわかりあえるものですか?
山田:
そのために、先代の創業の理由や背景、ここまでのご苦労や喜びも含めた紆余曲折のプロセスを丁寧に描き出します。ビジネスの歴史は、いわば生きた証そのものなので、その時の感情や感覚を大切に描くことで、受け取り合う、わかり合うことにつながっていきます。
あとは、ダイエットの件でお伝えしたように、『こうしたい』という純粋な意欲は素直に行動に移せるのですが、『こうせねばならない』の観念で人をコントロールしようとしたり、組織内の人の観念が強いと、揺り戻しがおきてうまくいかない。
その点では、先代からその企業を支えてきた古参社員の方は、先代が大切にしてきたことを守る意味でも『こうせねば』とギュッと思いすぎてしまっていることがよくあります。そんな時は、その人の中に眠っている『純粋な意欲』を思い出していただくよう働きかけます。
酒井:
協力や共感ベースだと動きやすいけれど、強制されると嫌ですよね。
山田:
最初は、共感から動いていたはず。でもだんだん『こうするもんだ』『目標数字はこれ』と、当初抱いていた純粋な想いはどこかへ行ってしまって『やり方』だけが引き継がれがち。だからこそ絵を描きながら『これはなぜですか、あれにはどんな背景や意図がありますか』と1つ1つ聞いていきます。
酒井:
夫婦ゲンカと同じで、継承にもそれぞれの人が持っている背景がありますよね。それをみんななっちゃんの背中に向けて話す。…うまく行きそうな気がする(笑)。
山田:
人が、現実を捉えるときのレイヤーをざっくり3つに分けると、
・目に見える現実(合意的現実レベル)
・目に見えないけれど言葉になっているもの(ドリーミングレベル)
・言葉にもなっていないニーズや想い、感覚(エッセンスレベル)
の3つがあります。
人がお互いに深く理解し合うには、この3つのレベル、それぞれを共有することが大切なのですが、エッセンスレベルは本人にも無自覚な領域なので、共有するのが難しいんです。
でもそこに純粋意欲や願い、本音や価値観が隠れている。エッセンスやドリーミングこそ、絵や色を使ってあぶり出し、周りの人と共有できるようにしていきたいですよね。
酒井:
なるほど。だからファミリービジネスに必要なんですね。共通認識が生まれないと『提案しているのに否定される』『先代の希望に応えられない』と、すれ違いが起きてしまう。たったひと言『信じているから』と抱きしめれば解決する気がするんですが…。
山田:
親子ですから、愛情を持ってね…。本当にその通りです。
酒井:
ずっとなっちゃんがそういう表情でうなずいてくれるから、話したくなるんだろうね。仲裁をお願いにいく人の気持ち、わかる気がします(笑)。
山田:
ファミリービジネスでの学びで、FBAA創業者の西川さんや武井理事長がお話を聴いてくださるのが本当にお上手で…。主張をせず、ゆっくり話される姿は本当に素敵だといつも思うんです。
酒井:
なっちゃんの聴く力もすごいです。それはファミリービジネスのコンサルには、とても大事だと思います。
企業の組織開発をはじめ、
行政や大規模案件にも携わる
酒井:
ところで、仲裁から組織まで幅広く活躍しているようだけれど、大きなブロジェクトも手がけているの?
山田:
市町村などもやりますよ。大きな予算が必要な時や自治体の代表が替わると、反対意見も含めていろんな声が出ますから。
去年サポートしたある町では、町役場の皆さんも、住民の方の感情までを受け取るのはなかなか難しく、疑問や憤りが取り扱われる場がなくて、町と住民の話し合いが紛糾しかかってて…。
酒井:
そこになっちゃんが乗り込んだ。
山田:
最初は『お前は誰だ!』という勢いでしたが、対話を重ね、みんなの憤りを絵にしていったんです。『このくらい怒ってましたか?』とか聞きながら。
すると最終的には多数の老若男女が集まって…中学生が『それより私たちはこんな施設が欲しい』と発言しはじめたり。
酒井:
絵を通じて感情が表現できたことで、流れが変わったんですね。
山田:
驚いたのは、町役場の方がその話し合いで描いたグラフィックを全て公開したこと。町民が誰でも行き来できる公民館に貼り出して、『さらなるご意見や感想など、どんな声でもぜひお寄せください』と、継続的な対話ができる仕組みを立ち上げてくださった。その後も流れが変わっていくきっかけになったように思います。
このご依頼は、立場の違う人が多い中で感情が渦巻いていたので、久しぶりにファシリテーターとしての筋力をストレッチした気分でした。

酒井:
ストレス、じゃなくてストレッチなんですね。
山田:
ええ、ストレッチ。この仕事をして20年が経ち、だいたいのことができるようになったけれど、たまにがっつり動かさないと筋肉が固まってしまうから。
酒井:
行政は関係性も難しそうですね…。
山田:
いえいえ、エキサイティングでしたよ。仲裁が趣味なぐらいだから、カオスな現場が好きなんだと思います(笑)。
酒井:
行政の人がなっちゃんに頼みたくなる気持ちがよくわかります。
グラフィックファシリテーションを携え、
いずれは国会の組織開発を
酒井:
さて今後はどんな未来を描いているんですか?
山田:
冒頭でお話ししたように、4月から毎朝、フジテレビの『サン!シャイン』で視聴者の方の声を描いています。


山田:
なので、絵を使って、より多くの人に向けて、広く深く響かせていく。一方通行になりがちな「場」を、双方向に、お互いに声を出せる「場」にしていくために描く機会が増えていくと思っています。
目標というか野望なんですが…国会でこれをやりたいです。
日本の一番大事な話し合いの場のはずが、今は、対話できていないと感じています。一筋縄には行かないし、相当時間もかかるでしょうが、チャレンジしたいですね。
酒井:
以前はNHKの『週刊ニュース深読み』でもグラファシをやっていましたね。
山田:
あの時も感じたのですが、視聴者が目の前のニュースを自分ゴトにできることが大事なんです。国会を見ている人が、その討議をいかに自分ゴトにできるか。
画面の中の出来事は他人ゴトに感じるけれど、同じ時間・同じ人間なら自分にも起こる因子があると捉え、みんなが自分ゴトにしていけば変わっていくと思います。
酒井:
確かにそうだね。
山田:
今回、テレビの視聴者の方の声を描きながら、1つひとつのニュースを自分ゴトにしていくことは、国会で活用したいという思いとも繋がると信じています。
酒井:
いかに自分ゴトにできるか、主体性を上げられるか。
山田:
当事者意識ですよね。
知り合いに筋ジストロフィー症の男の子がいるんですが、彼は『当事者』という言葉が嫌いで。ある時、彼の話をグラフィックファシリテーションしたのですが『自分とそれ以外と分けられている気がする。当事者って事に当たるって書くんだから、僕の主治医の先生も、看護師さんも、薬をつくってくれている製薬会社の方も当事者だし、僕の話を描いてくれているなっちゃんも当事者じゃん』って言うんですよね。すごく納得した覚えがあります。そういうことを伝えていきたいです。
酒井:
境界線を広げるという感覚になるのかな。
山田:
ニュースの物事に対して、自分ゴトに置き換えてその感情を想像できるかどうか。みんなが知っているニュースでも、該当者に対して『その人にも事情があったのでは』とか『社会が追い込んだのでは』と多面的に見て自分ゴトにしていけば、世の中全体の見方が変わるかもしれないと…。
酒井:
『いつか国会で…』と思っている人の、毎朝のテレビ出演。引き寄せ委の法則でしょうか。すべてそこにつながっているように思えます。
山田:
視聴者の声を毎日しっかり描いていこうと思っています。朝6時入りで、10時には終わるので、毎日お台場をマラソンしようかなと(笑)。
酒井:
心も身体もストレッチして筋トレする。なっちゃんはたくましいな。放送毎日楽しみにしています。そしていつか国会へ。
山田:
はい、がんばります。ありがとうございます。
酒井:
こちらこそ、楽しくて気づきの多い時間をありがとうございました。

プロフィール
山田 夏子(やまだ なつこ)
株式会社しごと総合研究所 代表取締役
一般社団法人グラフィックファシリテーション協会 代表理事
クリエイティブファシリテーター/組織開発ファシリテーター/システムコーチ
武蔵野美術⼤学造形学部卒業。株式会社バンタンにて、スクールディレクター、各校館⻑を歴任。その後、⼈事部教育責任者として社員・講師教育・⼈事制度改⾰に従事。独⽴後、2008 年に株式会社しごと総合研究所を設⽴し、組織開発やビジョン策定、リーダーシップ事業を展開。これまでに携わった組織は1000に上る。また、グラフィックファシリテーション講座を開催し、のべ3000⼈以上が受講。愛あふれるファシリテーションに参加者が涙することも多い。
【出演】
フジテレビ『サン!シャイン』毎週(⽉)〜(⾦)レギュラー出演(2025年3⽉31⽇〜)
NHK総合『週刊ニュース深読み』レギュラー出演(2017年4⽉より1年間)
NHK総合『考えると世界が変わる「みんなパスカる!」』(2021年5⽉)
⽇本テレビ『午前0時の森』(2022年5⽉) など出演多数
【書籍】
『グラフィックファシリテーションの教科書』⼭⽥夏⼦著(かんき出版、2021)
『場から未来を描き出す―対話を育む「スクライビング」5つの実践』ケルビー・バード著、⼭⽥夏⼦監訳(英治出版、2020)
『街⾓のイノベーション なぜ、⼈は挑むのか』岩崎達也著(下町書房、2021)にて、イノベーターの1⼈として掲載


