西川盛朗氏【後編】

日本におけるファミリービジネスの課題と特色

西川:
日本が直面しているのは2つです。
まず1つ目が人口の減少。2023年1月1日時点で、日本の人口は昨年より約80万人減少しています。これは山梨県の人口とほぼ同じ。1年で1県がなくなるほど減っているのが現状です。

大都市にいるとわかりませんが、地方に行くと疲弊しているのを痛感します。加えて、高齢者の方は消費に前向きではないので、ダブルで消費への打撃があります。

そして2つ目が、1つ目ともリンクしますが高齢化です。2025年以降、40万人もの経営者が70歳を超えると言われています。もちろんその中には80、90代の方もいらっしゃいます。すると、単純計算で息子さんは50代前後ですから、後を継ぐ活力に欠けるんです。

酒井:
確かに…40代ならまだしも、50歳を過ぎてしまうと少しキツいですね。

西川:
経営者も高齢化、後継者も高齢化、ビジネスモデルも高齢化。そして消費はダブルで縮小。
突き詰めるとこの2つが大きな課題です。
これに加え、ファミリービジネスの良好な経営手法が知られていないことは、日本にとって痛手です。

酒井:
痛手…と、おっしゃいますと?

西川:
はい。大きく分けると4つあります。
1つ目の痛手が、オーナー含め、家族も幹部も社員も、ファミリービジネスの強さに気づいていないこと。
ファミリービジネスであることは大きな強みであり、堂々と活かしていけるのに「表立ってファミリービジネスだと言うのは止めよう、恥ずかしいから」とほとんどの方がおっしゃいます。

2つ目の痛手が、ガバナンスが不在ということ。
これは大きなニュースにもなりましたが、大塚家具、ビッグモーター、旧ジャニーズなど、経営はやるけれど違う面で同じような過ちでつまずいています。

3つ目の痛手が、オーナーの相談相手の不在です。
多くの経営者さんと話す中で、皆さん賢いですし、方向を察知する能力があるのに、叩き上げできた分、信頼できる相談相手に恵まれないケースが多いんです。ひと言で言えば孤独。
選択眼を持っているだけに慎重になりすぎて、コンサルタントやアドバイザーを採用できないんですね。

そして4つ目の痛手がマネジメント不足です。
ファミリービジネスは適切な助言があれば、必ず元気になり、将来への道が拓けるんです。ところがビジネスの勉強はするものの、ファミリーをマネジメントすることの必要性に気づいていない方が多いのです。

この現実は「ビジネスはするけれど、ファミリービジネスではない」とでも言いましょうか。例えば子どもが小さい時「家は継がなくていいから、いい大学に入っていい会社に入って、生活しなさい」と言う。でもそれではいけない。

「継いで欲しい」「期待している」「お前の力を待っている」と伝えていたら、違ってくると思うんです。息子さんも50歳を過ぎて急に「継いで欲しい」と言われても困ります。「あなたは、『好きなことやっていい』って言ったじゃないか」と。

ですからもっと早く、ひと言を。「継がなくてもいいよ」なんて言われたら、ご子息は「期待されてないんだな」と思ってしまいますから。

酒井:
なるほど。わが国特有の4つの痛手があるんですね。
特に第3の痛手、コンサルタントを採用しない経営者が多いのはまさに、という感じです。本当に、警戒されて信用されていないと感じるケースが多いので。

西川:
これはやはり、コンサルタントとしての実績を積み重ねていくしかないんですよね。
それから年功も大事。経営者はみんな闘争心が旺盛ですから「俺より若い人間にわかるわけない!」って思っちゃうというか…ちょっとバカにしてしまうところはありますね。だから経営者はアドバイスする人に対して「こいつに負けるもんか」というスタイルで話してしまう。

ですから、そういう時はスルーして、信用されるにはこちらが力を蓄えないと。
そしてダメなら仲間を呼ぶ。「プロを呼びましたので、ぜひ聞いてください」と。そうすることでこっちの評価も上がってくると思いますよ。

酒井:
力を蓄える…そうですね。こちらもパワーアップしなくてはならないですね。

小さい時から「継承教育」を推奨

酒井:
4つの痛手があるとはいえ、ファミリービジネスは継承されないと国の経済力が落ちてしまいます。どうしたらよいのでしょうか?

西川:
いわゆる家族経営を、長期的に繁栄させるために押さえなければならないことがあります。
それが3つの「承継」。

1つ目は「家族・家庭の習慣の承継」です。例えば「こういう時にお墓参りをする」とか「夕食は必ず家族で」とか「夏は必ず旅行をする」といったその家々の文化です。
継げないのは仕組みができていないから。まずは家族や家庭の習慣を大切にしたいですね。

2つ目は「資産の承継」。資産には土地や建物、預金や株、機械といった見える資産と、理念や価値観、人間関係といった見えない資産があります。
ここが大事なところで、見えない資産が見える資産を作っていくんですよ。

3つ目は「経営の承継」です。引き継いだ資産を活用して、新しい価値を生んでいくという仕組み作りですね。
承継を考える時は、以上の3つが必須だと思います。

理想としては、家族みんなが参加してファミリービジョンを作れるといいですね。ファミリービジョンを作れば、将来から今を振り返ることができます。そして何が必要かを考え明日を計画していくのです。

酒井:
FBAAではファミリー(一族の動向)、ビジネス(事業の展開)、オーナーシップ(株式議決権)の将来を一枚にまとめる「三位一体経営計画」を習いましたが、ファミリービジョンの作成は重要ですね。

西川:
はい、できればA4の紙に収まる量で纏めると手軽に皆さんで共有できますね。
そして、時間軸も設け、みんなで相談して作成すること。
例えば20年後には君は40歳だね、準備はどうだろうかと訊ねてみる。すると家族の気持ちが将来を向くんですよ。そして家族の意識が変わっていく。

最終的な課題として、交替の時期はどうするか、株式は? M&Aも視野に入れるのか? 海外進出は? と着目点が増えていく。そして逆算するならいつからやろうか、計画をたてることもできますね。

酒井:
先生がお客様の家族会議に参加されることはあるんですか?

西川:
あります。私がいると、家族会議に好都合なんですよ。
パパやママが作った、お兄ちゃんがこんな意見を言った、なんて話していると、小さい子も「なあに?」と勝手に参加してくる。子どもの頃からやると引きずり込まれるんです(笑)。

堅苦しい家族会議というより、テーマパークへの旅行計画とか、おばあちゃん家に遊びに行く話のついでにすると効果的です。
私という第三者が入ることで特別感も出るんでしょうね。何件かのお客様には、大変喜んでいただいています。

酒井:
それでもやはり家族ですから、時にはケンカもしそうですよね…そんな時、コンサルタントはどうすればいいのでしょうか。

西川:
親子はケンカするものなので、だからこそ間に入るアドバイザーが必要なんです。
それこそ、酒井さんやお弟子さんなどが中に入り、双方から話を聴いて客観的な意見を提案することが必要だと思いますね。

酒井:
ついつい感情が入ってしまいますからね、そこがファミリービジネスの難しいところです。

西川:
だからこそ、できるだけ長期で、そして子どもが小さいうちからやるのがいいんです。小さい時はチャンスですよ。

先日も長年のクライアントさんの食事会に呼んでいただいたんですが、主催者さんはおばあさまで。私はお孫さんが幼稚園の時から存じていたのですが、もう大学生になられていましてね。女の子ですが「お父さんの仕事を継ぐ」と小学生の時に宣言していたんです。
まだ小さかったのでね、ワイワイしながら彼女の名前を称した「○○ちゃん会議」で書記をやってもらったり。

ですから「西川先生のお陰で孫達が立派になりました」って喜んでいただいたのですが、それも第三者、客観的な人間が間に入ったから、ちょっと個性的な家族会議として受け入れられたのだと思います。

酒井:
いい話ですね。おばあちゃんのお仕事を、お父さんを経て女子のお孫さんが継ぐということも。

西川:
元々、センスのある方で、イタリアやスペインなどヨーロッパの文化が大好きだったんですね。施設が老朽化していた時に、おばあさまのセンスがとても光って。例えば壁をピンクにしたり、各部屋を花の名前にしたりと、女性ならではのセンスがあったんです。

その感性をビジネスに活かしたことを賞賛したのですが、実際に喜んでいただいたのは、やはりお孫さんが継承を宣言してくれたことでした。親子三代から申し訳ないくらい丁寧にお礼を言っていただきました。

啓蒙活動と深い学びが、今後ますます求められる

酒井:
今後、ファミリービジネスのコンサルタントやアドバイザーに強く求められることはどんなことでしょうか?

西川:
こちらは3つあります。
強く求められることの第1は啓蒙活動です。
多くの人にとっては「今更?」と新鮮かもしれませんが、正しい意味でのファミリービジネスを知っていただくことです。

私たちは2017年に、一橋講堂でFBAAの大講演会を行ったんです。580名ほど参加しました。経営者やマスコミの方々も集まって頂き、大変盛り上がったので「いよいよファミリービジネスという名前も市民権を得たな!」と喜んでいたんです。

しかし、最近それは間違いだったと気づいたんです。
つまり、名前は浸透しているけれど、実はどういうものかを理解されていない。「こんなに知られているんだからわかるだろう」と思っていたのが、全然違った。大きな反省でした。

ですから今日お話ししたような、ファミリービジネスの意義や強み、課題などを広く伝えながら、コンサルタントに求められていることも同じように伝えていかなければならないのです。

酒井:
双方が意識の差を埋めなくてはならないですね。

西川:
はい。そして、強く求められることの第2は、第1とも連動するのですが、ファミリービジネスのコンサルタントがお客様から求められていることを把握し、もっと勉強して自らを強くして欲しいということ。

今までの経験や知識だけでなく、時代の変化を取り入れてクライアントに適切に問題提起をし、解決策を提案する。そして三世代にわたってアドバイザーとして寄り添えるかどうかを考えること。

世間で言われる「Z世代は何を考えているかわからない」なんて、ファミリービジネスのアドバイザーが言っていてはいけないんです。Z世代も巻き込まなくては。
確かに、Z世代の多くは二代も上の世代に興味はないかもしれませんが、彼らの関心がある題材でどう巻き込むのかが腕の見せ所。
「話題が噛み合わない」と嘆くのではなく、話題を説き起こす訓練をすればいい。自分をもっともっと強くして、継続して学ばなければいけないと思います。

強く求められることの第3は、チームを強くすること。
ファミリービジネスへのアドバイスは課題が幅広く、自分だけではできません。ですから、仲間の協力を得て弱点をカバーし、サポートし合う。
クライアントさんも巻き込んで、FBAAの仲間にも来てもらって「少しお高くなりますが、専門家に入ってもらって強くしましょう」って(笑)。

私にも弱い分野がありますが、仲間と一緒にタッグを組むことで、結局コンサルタントが信用され、自分の価値が上がることに繋がると思うのです。
FBAAの263人の中には、特定分野に長けた人が必ずいます。弁護士や税理士など、異業種同志で仲良くなって手伝ってもらい、自分も手伝ってギブアンドテイクで行く。それがいいかなと思います。

酒井:
第1、第2、第3といずれも耳の痛いことばかりです。わが身に置き換えてもっともっと邊供して情報発信して、仲間のチカラを借りないといけないと思いました。

年齢を重ねれば重ねるほど、新しい力を生むことができる時代

酒井:
先生は、今後どんなふうに活動されていく予定ですか?

西川:
これまで仲間と作ってきたFBAAで、1人でも多くのアドバイザーを出していきたい。そうすることでファミリービジネスが元気になり、社会への恩返しができると思っています。これは趣味というより使命ですね、ライフワークです。

そして、生涯、一人のファミリービジネスコンサルタントとして活躍できるように、健康と体力維持のために努力していきます。学びを深めながら、自ら向上させるように。

周りは「会社員なら定年、引退かな」なんて言っていますが、僕は間違っていると思うんです。これからの日本はそうではない。年齢を重ねれば重ねるほど、新しい価値を生むことができると思っています。

酒井:
この仕事は経験を積めば積むほど、いいアドバイスができますからね。

西川:
はい、だから頑張ろう、なんです。
私自身も年齢的には定年退職するような年ですし、家内も「約束が違う」なんて言いますが、いやいや考えてみて、家で何もせずゴルフや散歩に明け暮れる亭主なんて、魅力ないでしょと。

でも酒井さんがおっしゃるように、この仕事は年齢を重ねるごとに、経験、人脈、新しい価値を生んでいける仕事だと思います。人生をある意味楽しみながら、常に社会の変化を敏感に感じつつ、知力体力を蓄え、人の役に立ち、自分も鍛えられます。

そのためには、人前ではできるだけ年齢を言わない。世間の基準だと「老人ホーム」を連想させたとしても、そのものさしを当てはめてはいけない時代だと思うんですよね。

だから健康な限りやればいい。生涯、一人のコンサルタントとして。クライアントさんが「あなた、もう辞めたら」といったら終わりなので、頑張らなきゃ。
この仕事ならできるから、そのロールモデルになれないかなと。
この気持ち、酒井さんならわかりますよね(笑)。

酒井:
はい。先生を見ていると僕もあと20年は頑張ろうと思えてきます。
それにしても、伺ったお話が全部整理されていて、本当に素晴らしいと思いました。

先生の講座では「脆さの理由9つ」「長寿企業になる条件9つ」「長く反映する条件10」などしっかり整理されているので、企業を見る時のチェックリストにもなるんですよね。

特に、企業の顧問として役員会やミーティング時に必要になるのが、先生が作成されたチェックリストだと思っています。これに当てはめると「何番が足りないから、こうなる」とお客様の問題点が見つかるのです。

こうしたリストを作るスキルは自分にはないので、先生の整理能力は素晴らしいといつも感心しています。今日も、課題など整理してお話いただけたので、これから何に取り組むべきか、とても明確になりました。

西川:
ファミリービジネスは「家庭の承継」に近いですから、ファミリーを強くする、伴侶と仲良くするというのも重要ですね。ここが崩れたら終わりです。
私たちは外に出て働いていますから、家庭内を固めてくれることがとてもありがたい。コロナになってつくづくそれを感じましたね。

酒井:
先生は奥様と仲がよろしいですもんね。いつもお二人で行動されるんですか?

西川:
実は一人で行う趣味ってあまりないんです。コロナになった時にオンラインが増えて、家内と過ごす時間が増えたんですが、自然に「ランチはあなたの担当ね」なんて。時には「じゃあ今週末は一緒に食べにいこうか」と話すうちに、家内との時間が密になったんです。

これが楽しくてね。新しい発見だなと思いました。まあ、家内は嫌がっているかもしれませんが(苦笑)。

酒井:
私の住む岐阜にもご夫婦で観光に来てくださいましたね。

西川:
はい、長良川の鵜飼いを楽しませてもらいました。
彼女とはあと何年いられるかわからないけれど、何よりも大切な時間です。

ゴルフも一緒に周りますし、ピアノも習いに行ってるんです。コロナになってからですから、もう2年経ちますね。このピアノの先生のお子さんがZ世代でね、何が楽しいって子ども世代の情報がどんどん入るんですよ。リアルに知られる機会ってないですからね、そういうのも楽しいし、旅行やグルメを楽しむのもいい。できるだけ家内と過ごしたいなと思っています。

酒井:
なんと素晴らしい!ファミリービジネスのコンサルタントは、自分のファミリーを大事にできる人でないといけませんね。

私も経験と学びをますます増やし、家族を大切にし、ますますパワーアップしていきたいと思います。本日は数々の学びと気づきをありがとうございました。

プロフィール

西川 盛朗(にしかわ もりお)

ヨコハマコンサルティング株式会社 代表取締役 会長
日本ファミリービジネスアドバイザー協会 理事長
1944年、愛知県生まれ。ハーバード大学経営大学院(AMP)修了。同族経営のグローバル企業、ジョンソン株式会社に入社し、マーケティング責任者として活躍。米国本社の役員・日本法人代表を任され、同社理念の「This We Believe」の策定にも携わる。
2007年、ヨコハマコンサルティング株式会社設立。上場企業や外資系企業はもちろん、最も得意とするファミリービジネスでは、長年の経験と知識を駆使してサポートを行う。
2012年、一般社団法人日本ファミリービジネスアドバイザー協会(FBAA)設立。日本初のファミリービジネスの持続的発展を支援する協会として、現在は理事長を務める。