濵野剣氏

濵野剣氏×酒井英之
福祉業界の現実を知り、
新たな共存の形を開拓・提案
今回のゲストは、一般社団法人 日本福祉協議機構(JWCO)代表理事を務める、濵野 剣さん。10年前に福祉業界に飛び込むも、その姿勢やシステムに疑問を抱き、自ら起業。今では愛知県内を中心に、就労支援施設や自立支援サポート施設、高齢者支援施設など、乳児から高齢者まで活用できる事業所を運営、その数は41事業にのぼります。
そんな濵野さんに、業界に入ったきっかけや課題、一般企業での仕事が難しい方の適切な働き方、組織をまとめる難しさやコツを伺いました。さらには個性豊かな事業所のご紹介、今年度に新しく誕生する『アニマル幼稚園』や足助に完成するキャンプ施設についてもお聞きしました。
41もの福祉の事業所を運営し
「好きを仕事にする」場を提供
酒井:
お久しぶりです。昨年、弊社が主催した豊田市のUNIBO(ユニボ)の見学の際は大変お世話になり、ありがとうございました。障がいを持ったみなさんが、まるで障がいなんてないかのようにとっても楽しそうに働いておられて、私もそうですが参加した社長たち全員がとってもびっくりしていました。
濵野:
こちらこそお越しいただき、ありがとうございました。
酒井:
現在濵野さんはJWCO(日本福祉協議機構)をはじめ、さまざまな組織を運営されていますよね。具体的な事業の規模や、スタッフさんの数などを教えてもらえますか?
濵野:
現状は事業が41、スタッフが約450名、ご利用者さんは2000名くらいですね。
酒井:
41箇所とはすごい数字ですね。障がい者の支援団体は多いですが、41も運営されその代表をされているとは。事業所の利用についての区分けはどうなっているのですか?
濵野:
年齢で分けます。乳児、そして幼稚園や保育園に通う未就学児と進み、小学校に上がったらデイサービスを利用し、18歳で終了します。
その後は生活介護を受けながら、仕事が得意ではない方の居場所になったり、働きたい方は就労B型の事業所で経験を積みながら一般就職を目指してもらいます。
酒井:
高齢者向けの事業所もありますよね?
濵野:
はい。デイサービスが1つ、特別養護老人ホームが1つ。3月21日には、日本初と言われる『ペット共生型の特別養護老人ホーム』が誕生しました。最初は18名から入り、そこから増やす予定です。
酒井:
『ペット共生型の特別養護老人ホーム』はすごく需要がありそうですね。
濵野:
高級な有料老人ホームにはペットも入れるのですが、独居の方がペットと入れる特別養護老人ホームはなく、入居時にペットと離別しないといけないんです。
でもそれは、飼い主にもペットにも地獄でしかありません。
飼い主にとっては家族であり、生きる糧そのものです。またペットにとっては、「捨てられた」という思いが植え付けられて双方にいいことがないんです。
酒井:
私も犬を飼っているのでよくわかります。大好きなペットとずっと一緒に住める場所があるのは親切で理想的ですよね。
とはいえ運営としては動物に詳しいスタッフさんも必要ですし、利益の面でも負担が大きいのでは?

濵野:
就労B型を活用して動物好きな子が来てくれるんです。スタッフや障がいのある方が入居者に代わって、その時間に散歩をしてくれたり餌をやってくれたり。
酒井:
動物が好きな人にとっては嬉しいですね。濵野さんの会社のコンセプト「好きを仕事に」がそのまま現実になっているのですね。
濵野:
世の中ではペットの専門学校は増えているのに、生徒たちが卒業しても行き場がないのが現状です。ペットショップには悪質なところもあり…動物が好きな人ほど店舗の勤務を避けたり、就職しても我慢して働く人も少なくないのです。
酒井:
そうなると…就職先は動物病院や水族館くらいですが。でも狭き門ですね。
濵野:
そういう意味では「ペット共生型の特養」や「アニマル幼稚園」を作ることで、ペットが好きな人の働く環境面の課題も解決できるのかなと。コンセプトとしては「動物とふれあう仕事だけれど、その先に高齢者の方や子どもがいる」という感じですね。
酒井:
あくまでも「動物とのふれあいがあること」が基準になるのですね。動物に関して学んで就職し、高齢の方や園児のサポートをする。「好きを仕事に」というコンセプトを聞いたとき、「そんなことができるのかな…できたらいいな…」と思いましたが、まさにそれが現実になっている。夢を夢で終わらせない。その創造力に驚きました。
動物や昆虫、植物など
好きなものの世話をしながら働く仕組み
酒井:
ところで今お話しいただいた「アニマル幼稚園」とおっしゃいますと…?
濵野:
一般の幼稚園の一角に動物がいるというより、幼稚園に犬やネコ、ヒツジなどの動物が四六時中いて、常に園児と動物が触れ合うことのできる幼稚園です。スタッフは動物のお世話がメインの仕事になります。26年の4月に名古屋の覚王山にある山の斜面にオープンし、アニマル幼稚園になるのは10月の予定です。
酒井:
そちらも実に個性的で面白いですね。IWCOには他にも個性的な施設がありそうですね…。
濵野:
はい。天白区には昆虫ショップ「アペロ・ヒューレ」、植物を販売する「ビオス」があり、東郷町の和合にはジビエレストラン「ZOI(ゾイ)」もあります。いずれも就労継続支援B型事業所です。
あとは酒井先生も来てくださった「UNIBO」。ここはITに特化しており、就労移行支援や自立訓練事業所になっています。全国でもあまりないかもしれませんね。
酒井:
どれも面白そうですが、まず昆虫のショップに興味があります!
聞くところによれば120種5,000匹もいるそうですね。
濵野:
1階で展示・販売し、2階で育てたり増やしたりしています。カブトムシ、クワガタムシ、ヘラクレスオオカブトなどはやはり人気ですね。
変な言い方ですが仕入れをせず自分たちで育てるので、他よりも15%くらい手軽に購入していただけます。福祉と合わせることでリーズナブルな提供が可能になるんです。
酒井:
なるほど。通常発生する維持費を公的資金で補っているんですね。
スタッフさんは何人くらいいらっしゃるのですか?
濵野:
はい。スタッフはパートナーさんも含めて7名、利用者さんは登録されている方だけで80名います。
酒井:
利用者さんというのは?
濵野:
そこを利用しながら働いている、いわば職業訓練になっている位置づけですね。
ここで働いて経験や成功体験を積み、一般雇用を目指している人たちです。勤務時間は短時間、長時間どちらの方もいます。
酒井:
後日自信を持って就職してもらうために、濱野さんの施設で訓練しているのですね。
濵野:
ええ。毎日のえさやりはスタッフだけではとても無理で、利用者さんに作業してもらわないと回らないんです。5月からは大量に成虫になるので、3日に1回は全ての餌やりがあり、作業量が半端ない!
歩いて5分の「アペロヒューレ」にも植物が1,500点あるので、人手がとにかく必要で、スタッフには農業高校の出身者もいますよ。
春先になると、植物イベントの出店が増えてきます。季節の植物を販売しながら珍しいものも持っていったりして、公園などのお祭りで楽しんでもらいます。
あとはお宅での植栽、企業様からのご依頼で剪定や庭造りもやりますよ。
酒井:
昆虫へのエサやりに植物の水やり。世話が一番ウエイトを占めるけれど、手をかければかけるほど楽しいのでしょうね。
濵野:
障がい者施設って、一般的に「この時間にこれをやって」と言われて、みんなただ黙々とそれに従って、なんとなく管理というイメージがあるんですよね。
酒井:
確かに…ずっと何かを作ったり軽作業に向き合うような。自由度や主体性を削がれているような雰囲気が浮かびます。
濵野:
だから、そういうのを壊したいという気持ちがあるんです。業務と性格が合わないとか、管理されることに適していない人にとってそんな環境は、辛いだけですから。
昆虫や植物が好きな人はもちろんですが、最初は大好きじゃなくても昆虫や植物に日々「今日は元気?」とか「ご飯、もう少し待っててね」などと語りかけたりしている間に、徐々に愛情が芽生えていくのを感じます。そして、いつしか動物、昆虫、植物が彼らの生きがいになっているのです。
だから「利用者さんを就業施設に来させる」のではなく、「利用者さんが来たくなる」場所づくりを大切にしています。

酒井:
誰でも、自分から来たいという気持ちにならない限り続けられないし、やらされ感が残りますよね。とっても素敵な考え方だと思います。
先程いただいたこの冊子にもスタッフさんの笑顔があちこちにあって。みなさんが自然に仕事をされている様子が伝わってきます。
そして濵野さんが、この冊子を毎月出していらっしゃると聞いて、ますます驚きました!
濵野:
スタッフが撮影しているからいい表情になるのかな? 実は業界での評判もいいんですよ(笑)。

健常者・障がい者に垣根はない。
得意な人が苦手な人に教えるだけ。
酒井:
次に、私も訪問させていただいた「UNIBO」。本当に面白かったです。改めてどんな施設か教えてくださいますか?
濵野:
デジタルコンテンツを肝に、eスポーツをしたりメタバースを学ぶことができ、プログラミング教室などもあります。もちろん一般の方も遊べます。
それをレクチャーするスタッフの中には、障がいのある方もいます。
世の中って「障がいのある人は、もらう立場にある」という社会認識になりがちです。が、うちは動画編集やプログラミング、メタバースなどを障がいのある人が健常者の方にレクチャーしています。もちろん障がいの度合いにもよりますが、「障害のある人が、与える立場にある」。そこが大きな特色でしょうか。

デジタルクリエイティブツール完備の専用ルーム

最新型バーチャルアクティビティー

ハイスペックゲーミングPCが32台並ぶ圧巻のe-sportsブース
酒井:
その中には、一度も小・中学校という場所に行かずにUNIBOに来ている人もいるんですか?
濵野:
はい。豊田市のフリースクールの中では一番生徒が集まっています。公立小学校・中学校に行かなくてもうちにきていれば通学扱いになるんです。
ゲームをやる子もいるし、広い空間を使って身体を動かしたり、好きに過ごしていい。
お腹がすいたらカフェでお弁当を広げたり…それでいいと思うんですよ。
酒井:
それぞれの「好き」を見つける。
濵野:
はい。改めて考えると普通の小中学校で「これが好き」って言える子っていないと思うんです。あっても「体育」とか「算数」とか科目の名前になってしまう。
だからそれを一緒に見つけたい。得意というより継続できることを。
プログラムひとつとっても作業は異なり、メタバースも8つくらい工程があって、それぞれ特徴がある。だから「これは嫌だけどこの部分は嫌じゃない」というのを見つけてもらう。
酒井:
嫌じゃないのは好き、という考え方なのですね。
濵野:
僕は、日本人の解像度に問題があるといつも感じています。
例えば「好きなものは?」と訊かれたら熱狂的なものでなければならず「ストレスとは?」と訊かれたら「倒れる寸前まで」みたいな。
でももっと解像度を高くしていて、「嫌いじゃなくて継続できるレベルなら好きである」と理解することから始めればいいんじゃないかと思うんです。
酒井:
確かに。「熱狂的好きでなくても続けられる」なら、それは「好き」なのですね。逆に「続かないのなら、それはストレスを感じている」ということなんですね。
濵野:
障がいの有無には関係ないんですよ。サボりたい人はその仕事が好きじゃないだけ。
自分の思考とか特性とか「好き」を理解していないことは、日本社会の悪習だと思うんです。僕も20歳の頃は「背中で覚えろ」「3年我慢。男は仕事だ」「我慢すればそのうち好きになる。そのうちできるようになる」なんて言われましたからね。
酒井:
私もそう言われて、それが嫌で仕方なかったです。そこには自分の嗜好はまったく関係ないですから。濱野さんは若い頃、好きなことはしていなかったんですか?
濵野:
好き嫌いで選ぶなと言われてきた世代の中では、選んできたように思いますが、嫌いな仕事に一旦迎合してしまうと、うつを発症する確率は高くなるのではないでしょうか。
実は僕もつい最近まで「ストレス耐性って高めるもの」と捉えていて、「いやいや違うな」と改めたところなんです。
酒井:
業務の中で? それとも勉強されたのでしょうか。
濵野:
改善していきながら気づきました。というのも、自分のストレス耐性を高めると、人にもつい求めてしまう。日本人ってすごく我慢強いから。
逆に外国人、特に白人の方ってすごく耐性が低くて、すぐ仕事辞めちゃうんですよ(笑)。「諦めのよさが肝心だ」ですぐ転職しちゃう。とはいえ「これが嫌」と伝えれば「じゃあ改善します」と改善する余地があり、どんどん進化することもあります。
一方日本は耐えたら改善してもらえず、同じやり方が継続してしまう。
酒井:
日本に「改善」という選択肢がないのは、ストレス耐性があるからだと。
濵野:
一昨年気づいたんですよ。ストレス耐性のスキルを上げようとして、上がっていった先がうつに繋がる。
でもそうじゃなくて、我慢しすぎずに得意や好きを見つけた方がいい。それには自己理解の解像度を上げること。自分の適正がわかれば、選択のミスマッチも起こらないと思います。
ですから社内うつの問題は「ヒエラルキー」「自己理解と相互理解の不足」「仕事の解像度の低さ」の3つが原因になっていると考えています。
諸外国の働く意識から学ぶ
仕事の「好き・適正・目的」
酒井:
諸外国の特色を分析すると、いろいろなものが見えてきますね。
濵野:
ええ。ヨーロッパでは、自分が取得したスキル以外の仕事には就かないんですよ。マーケッティングを学んだ人が総務や人事に配属されることはありえない。
加えて管理職も日本のように「5年いたからそろそろ」ではなく、管理職の学びをした人や、挑戦したい人しかできない仕組みになっているんです。
酒井:
確かに、日本では向いていなくても仕事としてやらないといけないし、雇用側も働く側も適正を重視していないから、必要なスキルや向き不向きを理解せずに配属しちゃう。
それが先程からの「解像度が低いから、適正が不適切になってしまう」ということですね。

濵野:
はい、5年働いたから自動的に管理職のスキルが身に付くわけではないし、あくまでも経験則に過ぎないですもんね。
ですから大手企業さんも、仕組化はできるけれど、人間に対してそれを適用させてはいけないと思うんです。
酒井:
誰かの役に立ち、喜んでもらえると嬉しいのが人間なのに、特に製造業では現場で作る人にとって「喜んでくれる人」が見えない。そして朝から晩まで同じ事を繰り返し、遅れたりミスすると怒られる…。まさに、人間のロボット化・仕組化ですね。
濵野:
以前私はドイツの工場を訪問したんですが、そこでは「効率化」の目的を、時短や利益ではなく「CO2を排出しない」だと言っているんです。
そこに注力、徹底しているから、皆さん胸を張って「私の仕事は製造ではなく地球に優しい取り組みをしているんだ」っておっしゃるんです。
酒井:
それはすごい。日本の効率化って、時間を短縮しいくら儲かりましたということが一番だから、社会のために何かという視点はないですね。
濵野:
はい。でもドイツでは「地球に優しい」が最優先。効率化は地球に優しいからやる。それだけ。見ている視点が全然違うんです。
酒井:
誰の何のために改善するのかという話ですね。
濵野:
地球に優しければ売上に繋がる。それが彼らの考え方です。
酒井:
そして社内うつの原因には「ヒエラルキー」もあると。
濵野:
はい。ヨーロッパでは医療や学校の現場でも上下関係や「意見を言えない」という環境がないんです。単なる役割分担。
私はよく日本の教育現場にも伺いますが、上の先生が「根性が足りない!」とおっしゃったことがあって(笑)。昭和の話ではなくて数年前の話ですよ。時代が変わっても組織が変わらないのを実感しています。
仮に「それって違うんじゃないですか?」と発言してもなぜか記事録に残らず、ないことにされてしまう時も(苦笑)。
酒井:
先生はどんどん減っているというのに。
濵野:
かつては教員採用試験の倍率が10倍を超えていた年もあったのに、今はなんと1.25。さらに離職率も高くなっています。私の友人もそうでしたが熱意を持っている人ほどポキンと折れて、2年くらいで辞めてしまう。とてももったいないと思います。
日本の企業も同じです。会社にもよりますが、このヒエラルキーを壊さない限り、社内うつはなくならないと思います。
酒井:
以前はうつになるのは中年でしたが、最近は20代の若い人もうつになりますからね…
濵野:
そういう面でも時代変革を感じています。
Z世代が社会に出始めて、例えばLGBTQの問題などは学校で学んでいるから、改めて教育する必要がないはずなのに、職場では様々な偏見が存在します。やはり上層部の無理解や、古い価値観の押し付けだと思います。
酒井:
私も管理職研修をやっていると、そう感じることはありますね。
濵野:
上場企業さんの障がい者雇用についても多くご相談を受けるのですが、すごく不思議なことがあるんです。というのも上層部は「共生社会を作ろう!」って言うんですけれど、最初の赤字を嫌うんですよ。何億円も売上がある企業なのに…そういうところは多いです。
酒井:
予算の達成に優れている人は多くても、ゼロから1を作る経験や覚悟がないということですね。
濵野:
はい。その通りです。
酒井:
あるいは、「社会の役に立つのなら少しくらいの赤字はいい」という意思決定ができない。予算の決定や達成はできても、根底に「社会をよくする」という発想がない。だから最初は赤でも後から儲かるとか、支援者を募るというリスクが全然とれない。
濵野:
それは若い人はもう気づいてしまっていて、大学生が就職先で選ぶ基準として、2番目に「社会貢献度」が入っているんです。
こんなに社会のことを考える若くて優れた人材が確保できるのに、なぜ気づかないのだろう…今こそ企業は変わらないといけないと思います。

酒井:
予算達成のためにはこう行動しましょう、1日何件訪問しましょう、KPIの達成は…なんて聞いただけでモチベーションが下がりますね(苦笑)。
障害のある人の「こうしたい」を叶える
2025年秋オープンの「足助の森」
酒井:
そういえば、また新しく「足助の森」というのができるそうですね。詳しく聞かせてくださいますか?
濵野:
2025年8月に足助地区にキャンプ場を作ります。マスの養殖場や釣り堀、ジビエカフェも入ります。
もともとは障がい者支援をする中で、中度の人からの「都会で生きていると疲れる」「スピードについて行けない」という声が多くて。
のんびり屋さんが多いので、街中での生き方がその人に合っていないのです。
居場所が違うのですが、それは幸せなことではありません。
酒井:
僕もそうかもしれません…岐阜在住ですし。東京の混雑は苦手です。
濵野:
自分もかつては都会100%の人間でしたが(笑)。
中度以上の方の特徴として、急に走りたくなったり、声を上げたくなるんですよ。それを都会だと薬を使って抑えるしかないんですが、山の中なら叫んでも全然問題ないんです。
酒井:
走らせてあげたい、叫ばせてあげたい。とても優しい心だと感じます。
濵野:
彼らの「これをやりたい」を叶えたいんですよね。
酒井:
僕は母親の実家が岐阜県の白川村にあって、子どもの頃は夏休みになると避暑を兼ねてそこに長期滞在していました。だから田舎って気持ちがいいな~という実体験があって。その豊かさを知っていると東京にはとても住めないなあ…と思っちゃう。
でも他の場所を知らないと、我慢してしまうかもしれません。今いる場所が全てで、息苦しくても他に行くという想像がない。それは障がいの有無に関係ないでしょうね。
濵野:
はい、それに気づいて欲しいですし、そういう場所を作りたいと思っています。
酒井:
ところで今回の足助という場所には縁があったんですか?また何かきっかけが?
濵野:
たまたま足助病院の院長先生とご縁がありまして。今足助は過疎化が進んでいて、廃村の危機を迎えている。だから手伝って欲しいというお話があったんです。

酒井:
素敵なご縁ですね。
スタッフさんは健常者の方もあれば、就労支援の方もいらっしゃる。
濵野:
はい。全体を見るスタッフは10名、そして就労B型でのスタッフは施設の中でのお仕事希望者を20名、外でもいいですよという方を20名募集し、派遣スタッフのような感じで働いてもらうかと思っています。
なにしろ地域にはあまり人がいないので…。募集はこれからです。
酒井:
足助だと名古屋からも車で2時間くらいですし、電車もないので通うのが大変では?
濵野:
そこを考えて住居スペースも作る予定ですが、まずはバスで通っていただきます。
足助は名古屋と違って雪も積もり危険なので、施設自体冬場は運営できなくて。ですから4月から10月は働いて、秋と冬はのんびり暮らしてもらうかなと。
酒井:
野山でのんびり暮らすことで、精神も安定しそうですね。
濵野:
はい。健常者の生き方を求め、同じようにしようとするのがそもそも間違っているかなと。
特に聴覚障害のある方は電車に乗るのも辛いと思うんです。ですから、世の中の経済を回しながらも、安定で健やかな暮らしを送って欲しいんです。
酒井:
半年はお休みということは、経営面ではどうなるのでしょうか?
濵野:
はい。しいたけやキクラゲ、マイタケなどのキノコ栽培や、お米を作ったり、マスの養殖をしたりと販売面も考えています。
酒井:
さながら「DASH村」のようですね!
濵野:
全員合わせれば50名以上の大所帯になりますから、その分「こんなことやりたい」「あんなことに挑戦したい」なんていろいろなことができると思うんです。どんなアイデアが出てくるか楽しみですね。
個人的には、餌を変えることでジビエや魚もオーガニックで養殖し、自然派志向の会社も作りたいですね。ニジマスやイワナ、イクラなども販売できそうなので、みんなで考えながら試作して形にしていきたいです。
できる限り長い期間継続できるよう、農家さんとお客さんと契約する形で、今から取り組もうと思っています。
酒井:
利用者はどんな方ですか?
濵野:
いわゆる一般の方ですね。最近は「整う」が当たり前なんで、サウナも作りますよ。釣り堀をせずにひたすらサウナで汗をかき、水風呂は近くの池へ!(笑)
酒井:
「好き」と「主体性」があふれ出ていますね!
ジビエカフェはどんな構想ですか?
濵野:
現在も県内にジビエレストランがありますが、こちらは里山というロケーションを活かした「囲炉裏カフェ」にしようと思っています。囲炉裏を備えたテーブルを10個くらい入れて、丁寧に入れた珈琲をお出ししたり、ジビエや魚なども焼いたり。
まずはスタッフが「好きかどうか」で判断しながら、お客様には「遠いけれど来てよかった」と思っていただけるような工夫をしていこうと思います。

就労継続支援B型事業所 ジビエレストラン ZOI(ゾイ)

ZOIのスタッフの皆さん

ジビエだけでなく、自社農園で自然栽培する野菜やハーブも使用しています

UNIBOと併設しているカフェ

人が集えるスペースになっています
裕福になった一方で虚無感があり、
福祉の世界に飛び込むも落胆、そして起業
酒井:
先程から個性豊かな事業のお話をお伺いしていますが、そもそもこういう活動をされたのにはどんなきっかけがあったんですか?
濵野:
福祉業界には全然興味がなくて(苦笑)。昔はデザイン会社に勤めていました。
幸か不幸かいつも上手くいっていて、ある程度のお金も手にしていました。でも自己理解が足りていなかったんでしょうね…お金があれば散在し、消費することに興奮やスリルを感じていただけというか。若かったのもあるんでしょうけどね。
ある時ふと「あれ? 何も残っていないな」と。自分は頑張って働いているのに手にしているものの実感がなく、努力に対してこれは何だと価値がわからなくなってしまったんです。
酒井:
働く意味がわからなくなってしまったんでしょうかね。そこからいきなり福祉業界に?
濵野:
もともと発展途上国への貢献には興味はあったのですが、「世の中や社会のために、これから自分に何ができるのか」と考えはじめ、ゼロから学ぼうとこの業界に入りました。
ところが、夢と希望を持って入ったものの大半が悪徳というか、お金お金で。もちろんしっかりしたところもあったのでしょうが、そんなところばかり。
福祉って入ってくるお金は一定で、その中で利益を出す仕組みなので、私利私欲が見られることも多く「ああ、こんな業界なのか…」と落胆しました。
それで、福祉業界での起業は大変だと百も承知だけれど、理想に向かってきちんとしたいのなら、自分がやるしかないと思ったんです。

酒井:
素晴らしい。
確かにこの業界では、支援金から利益を生み出すという仕組みが多いですね。
濵野:
ええ。でもそれを続けていても、どこか納得いかなくて。シンプルに「働く→納品→請求→入金→賃金を払う→給料が上がる」という、稼げる仕組みを作りたかったんですよ。
私が行ったところはどこも不透明で、帳簿を見ておかしいと思うことも多かった。夢と希望を持って入っても、騙そうとする人もいる。だから正当・正直にしたかったんですよね。
そこで覚悟を決めたという感じです。今までの「自己実現・豊か」という概念をがらっと変えました。
酒井:
確か立ち上げの最初は、非行少年の更生に携わっていらっしゃいましたよね。どんな取り組みをされたんですか?
濵野:
今もやっているのですが、まず再犯しないように関わること。具体的には、保護して空き家を借りて共同生活をしていきます。最初は5、6人預かっていましたね。
酒井:
再犯を防ぐのは難しいものでしょうか。
濵野:
はい。とても難しく、実は再犯率って下がらないんです。というのも少年院に入っている子の多くは、軽度の知的障がいがあるなどで、行動と結果が想像できないケースが多いんです。
だから悪いことを「やってこい」と言われても悪いことだという自覚がなく、知らないうちに利用されてしまう。
それなら再犯率を下げるのではなく、犯罪に手を染めないシステムを作ろうとシフトチェンジしていったんです。
それには、家庭環境が大事なので、受け入れる場所を作りたいなと
酒井:
とても難易度が高い取り組みだと思うのですが、作ろうと思えば作れるものなんですか?
濵野:
許可は必要ですが、資格は当初は不要でした。
最初はショートステイ、いわゆる緊急保護預かり所として、家庭が不安定だから3日だけ預かるとか、そういうことをしていました。
ところがショートステイが一番大変で労力が必要なのを、後から知ったんです(苦笑)。
業界の方は「最初からショートをやる人なんていないよ」と驚いていましたが、僕は必要性を感じていましたね。
酒井:
そこからだんだん広がっていった。
濵野:
就労系の事業が増えたのは、児童は18歳になると卒業しなくてはいけなくて。仕事に就いても時給が200円とかなんですよ。
でもコンビニに行くと「時給900円」なんて張り紙がしてある。「コンビニが900円なのに、自分は何で?」という質問に答えられなくて。
酒井:
疑問はしごく当たり前だけれど辛い…。
濵野:
だから就労施設を是が非でも作りたかったという思いがあります。不安定な家庭に育った子が多かったですしね。みんな弟みたいな感じで、「じゃあ作るか」という選択肢しかなく、そこから始まりましたね。
酒井:
そこから昆虫、植物など「好きを仕事に」という事業に繋がっていった。
濵野:
はい。B型では最初でしたね。女の子はお花、男の子は昆虫。
植物を育てるのは難しいので、じゃあ世界の変わった植物を集めてみようと。そうしたら物珍しさにマニアのお客様がいらして。高いものだと40万円くらいで売れる植物もあります。
昆虫に関しては、僕も昔昆虫のブリーダーをやっていたので少し詳しくて、それもありましたね。今はネット販売が8割ですが、前述のように市場より少しお安いですし、今でもヘラクレスカブトは人気です。
自分の「好き」に気づくまで内省し、
自分に合うコミュニティを見つけよう
酒井:
さて、これからのビジョンですが、どんなことを描いていらっしゃいますか?
濵野:
社会変革に取り組んでいきたいです。具体的には企業の中に共生社会を作ること。LGBTQの問題も含め誰でも一緒に働け、生きられる世界を企業の中で作りたい。
ここまでの話と全て繋がっているんですが、それぞれが自分に合うコミュニティ…仕事でも趣味でもどんなところででも、それを探してほしい。それにはまず自己理解を高める必要がありますね。
酒井:
それにはどんな行動を取るといいでしょうか。
濵野:
まずは内省。人間、特に日本人って自己否定に入ってしまい、「できた」より「できていない」に目をむけがち。だからまずは好きを見つけることからはじめるといいですね。
以前、オランダの教育現場を見学したことがあるのですが、面白いのが「スキル取得表」があって、大人ができないようなことを4歳の子どもがやってのけているんですよ!
酒井:
面白いですね。それはどんな内容なのですか?
濵野:
それがごくシンプルで「新しいことに挑戦する」「困った時に助けを求める」「困った時に違う方法を考える」「自分のことを人に伝える」などを難なくやっているんです。
これは自己理解にはとても大切で、取得表には60の内容があるんですが、義務教育中に好きな順番で取得し、マスターしていくごとに幸せになる確立が高いと言われています。
酒井:
とても簡単なのに、大人ができていない気がするものばかり…。
濵野:
日本だとオルタナティヴというか「二者択一」みたいな考えがあり「みんな仲良くしましょう」から始まるんですが、オランダは「みんなとは仲良くできない」がまずあるんです。
できないから、その中でどう対話をするのか、どういう人と友達になると楽しいのか、それを自分で考えさせるんです。
「合わない」という選択肢を取るのは人生において大事なこと。無理なものは無理だし、嫌いなものは好きになれないですから。
酒井:
確かに、大人でも嫌いなものはなかなか好きにはなれないですね。

濵野:
ええ、オランダ人って正直で嘘をつかないんですよ。20回遅刻しても言い訳をせず「寝坊しました」って。するとはっきり言ってくれることで、対策が取りやすくなるんです。「目覚ましを変えたら」とか「寝起きが悪いなら病院に行こう」とか。
日本人はいい人だから嘘をつくのも辛くて、じゃあつかなければいいのに(笑)、本音と建前がありますからね…。
酒井:
小さい頃から自己理解していけば、自分に合うコミュニティを作れそうですね。
そういう教育を幼稚園でやってくれれば、親御さんも楽でしょうから。
日本人って0か100の考え方が多いけれど、オランダは言い方、伝え方を考えるところが異なり、そこがいいですね。
では大人、特に経営者の方に伝えたいことはありますか?
濵野:
若い方には、経済的合理性を教えて欲しいなと思います。お金の教育がないというか、ざっくりしすぎているので。
経済における自社の自立、そして自身の計画的経済性がわかっていない気がします。
漠然と「年収いくらがいい」ではなく、その前に会社の業績を理解して、税金がどのくらいあるのかなど現状を知る。会社の100万円は組織を継続するためにあるし、個人の100万円はお小遣いなんだから意味が違う。そんなことを教えておくと、仕事ができるようになると思いますね。
それがわからないと、本当のチームにはなれない。健全な組織は、全体はもちろん局所もバランスを見て理解しないと。組織の信用、ひいては会社が成り立たないですから。
酒井:
会社のお金がどう配分され、どう使われているか。
濵野:
なぜ「給料の何倍は稼げ」というのか、その理由を説明しないと。「会社はリスクを伴うから保険が必要なんだよ」ということを知らずもやもやしているのは良くないです。
酒井:
そこまで徹底されているのがすごいです。
濵野:
僕はグレーがすごく苦手で(苦笑)、納得しないと動かないタイプなんです。納得できないのに動くのは不誠実。言われてからやるのではなく腹落ちしてやることは、トップだろうが社員だろうが同じだと思いますね。
酒井:
組織の課題、福祉の課題、そして人の生き方に関する課題…、今日はいろいろなことを考えさせられた時間でした。
働くことは社会からも必要とされるけれど、自己表現としても大事なものだと思います。
濵野さんが言われるような「好き」を追求し、心の平和が保たれる社会になればいいですね。
今日はありがとうございました。
濵野:
こちらこそありがとうございました。

プロフィール
濵野 剣(はまの つるぎ)
1972年生まれ。
これまでに就いた仕事は、画廊、通信・IT関係、出版・デザイン会社と幅広いが、安定すると興味を失う日々を送る。そんな中、バックパッカー時代に感じた『未来のために、根幹的に何が必要か』という課題に向き合うため、福祉業界に就職。
ところが想像と違う現状に失望し、自身での起業を決意。引きこもりや非行少年の更生からスタートさせる。
団体の理念は『利他行動』。さまざまなスタッフのチャレンジ精神を受けながら、徐々に事業を広げ、2025時点で41拠点を運営、14期目を迎える。
福祉は単なる資格や仕事ではなく、「情熱」「考え方」が根幹にあるとし、利用者様の活動だけではなく、福祉業界自体の変化をさせることで、業界の未来と、利用者様の真の支援を最大の課題にしている。
事業所全体でのこれまで利用者は2,000名以上。福祉そのものの活動の場を広げることを目標に、2025年には名古屋市・覚王山に「どうぶつ幼稚園(仮称)」、愛知県・足助町にキャンプ施設「足助の森(仮称)」が誕生予定。


