vol.525「新社長、新リーダーにとって一番大切な仕事とは」

V字研メルマガ

 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.525

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

「新社長、新リーダーにとって一番大切な仕事とは」

 

バレーボール男子は16年ぶり、
ハンドボール男子は36年ぶり、
バスケットボール男子は48年ぶりに
五輪への自力出場を決めましたね。

 

これらの競技はいずれも
「日本=弱い」の固定概念がありました。
それを、若いアスリートたちが次々と覆しています。

 

足元では日本シリーズが行われています。
阪神の村上投手25歳、佐藤選手23歳。
オリックスの宮城投手22歳、紅林選手21歳。
若い選手が、阪神=弱い、オリックス=弱いという
これまで固定概念を破壊しました。

 

経営でも同じです。
若返りが会社をワクワクさせてくれます。

 

先日、1年前に40歳で会社を継いだ
3代目の経営者に会ってきました。

 

真新しい制服を着て現れた彼は、
ほんの3か月前に会ったときに比べ、
随分逞しく成長しているように見えました。

 

約2か月前、彼は50余名の全社員を集めた
経営方針発表会を開催しました。
その冒頭で、社長として初年度の決算報告をしました。

 

同社は21年度まで過去3年、
コロナ禍による需要減で赤字続きでした。
22年度も、半期が終わった時点で計画未達でした。

 

原因は、仕入れ値の高騰に対し
売価が追い付いていないことでした。
そこで、トップダウンで値上げを断行しました。
それが奏功し、4年ぶりに目標を達成しました。

 

決算書は社長の通信簿と言われます。
プロセス評価がなく結果のみが問われる社長業で、
半期の時点で下した英断が、
彼の自信となったようです。

 

また、経営方針発表会で彼は、
新たな「パーパス」「経営理念」「ビジョン」
「スピリット(行動指針)」を発表しました。

 

これらはすべて社長が内省し、
会社をどうしたいかをじっくり時間をかけて
考えて考えて考え抜いて言語化したものです。

 

それまで同社には、先代が作った
経営理念と行動指針がありました。
いずれも創業の志を継ぐ、崇高なものでした。
が、一部表現が時代に合わず難解な部分もありました。

 

そこで新社長は、今の社員に分かり易く、
受け止めやすいように
経営理念を進化させる必要性を感じたのです。

 

新理念の策定にあたっては、
まず、先代の許可をとりました。

 

ついで全社員と面談し、一人ひとりの話を聴きました。
一人当たりの時間は30分。
半分は仕事の話、もう半分は家庭の話を聴きました。

 

次に、全社員にアンケートを取りました。
「わが社のどこが好きか」
「どのような会社になってほしいか、
どのような会社にしていきたいか」
等の意見を集めました。

 

また、役員に依頼して
「働き甲斐のある会社にするために
うちの会社、こうだったらいいのにな」と思う
改善案を、全社員から募りました。

 

さらに社長就任の挨拶を兼ねて
主要顧客、取引先を訪問し、
「当社を選んでいただいている理由」
「今後の当社に期待していること」も聴きました。

 

こうして集めた情報を
社長は自分が右腕と頼む4人の役員とシェアしました。

 

4人の役員は皆、社長より年上で50代です。
先代に育てられた彼らは今、
新社長を支える経営チームの一員となり、
若手社員と共に、新たな歴史を刻む決意に満ちています。

 

この経営チームで、集めた情報を元に
将来的にどんな会社にしたいか、
そのために、具体的にどのようなことに
取り組んでいきたいかの議論を何度も重ねました。

 

そうした議論の結果を言語化したのが
上記の「パーパス」「経営理念」「ビジョン」
「スピリット(行動指針)」です。

 

それらは、とてもよく推敲されて、力強く
全社員の肚に落ちるものでした。

 

さらに経営方針発表会では
今後1年間、何のために、誰が、いつまでに、
何をするかの単年度計画が発表されました。

 

社長の基本方針に続き、経営チームの役員たちが
自分の思いを込めて発表しました。

 

その中には、以前から慣例として続いていたが、
時代に合わないと判断し廃止するものや、
現場から出た改善案を受け容れて、
新たに実施することが多く含まれていました。

 

単年度計画書となると、毎年同じことの繰り返しから
マンネリ化した表現が並ぶことも珍しくありません。
が、同社の単年度計画は、「刷新」という表現が
ぴったりと当てはまる、新鮮味のある内容でした。

 

新しい制服の採用もその一環です。
今どきの「カッコいい制服」を、社員たちが選びました。
ビジュアルの変化は、職場の雰囲気を変え、
社員を一層ポジティブにします。

 

こうして彼は、社長になって
2期目のスタートを切りました。

 

「人は自分の話を聴いてくれた人の話を聴く」と言います。
逆に言えば、話を聴いてくれない人、
自分に関心を持っていない人、
自分を理解しようとしない人の話は聴かないということです。

 

社員の話をちゃんと聴いたことのない社長が
社長だからと指示命令を飛ばしても
社員から「あなたは私たちの何を知っているのか」と
反発されたら終わりです。

 

「聴くこと」は膨大な時間と忍耐を費やす、
とても辛い仕事です。
「社員の話を聴きすぎて吐きそうだ」と
いう社長もいるくらいです。

 

が、一人ひとりをよく知れば、
現場で今、何が起きているかとてもよくわかります。
発生している問題の根源と、
何から手をつければいいかが見えてきます。

 

さらに、いざという時に誰を頼ればよいか、
誰と誰を組み合わせれば大きなパワーになるか、
見えてきます。

 

また、「この人は私の話を聴いてくれた」
「私たちのことをわかってくれる人だ」との
社員からの信用は、何物にも代えがたい力になります。

 

社長や支店長など、新たに組織の長になった人は
「社員の話を聴くこと以上に重要な仕事はない」、
と肝に銘じましょう。

 

そして、固定概念にとらわれない
若手社員の突破力とベテラン社員のサポート力を
引き出す経営へ、舵を切りましょう。