vol.526「忙しいときほど、仕事の尊さを思い出そう」

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.526

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

「忙しいときほど、仕事の尊さを思い出そう」

 

ようやく秋らしくなってきましたね。
学習の秋、というように
毎日のようにあちこちで研修会が開催されています。

 

私もお陰様で、ほぼ毎日
研修講師で飛び回っています。
忙しさは完全にコロナ前に戻りました。

 

今日はメガバンクの5年目行員100人を
対象にした研修の講師を務めます。

 

日頃は社長や役員、管理職向けの研修が多い私ですが、
若い人相手の仕事は、新鮮な気持ちになります。
まして相手がバンカーとなると尚更です。

 

と、いいますのも、
父が小さな相互銀行の行員だったからです。

 

相互銀行は、従業員300人以下もしくは
資本金8億円以下の中小企業または
個人事業者にしか融資できない金融機関です。
いわゆる小体先ばかりが対象でした。

 

私は父の仕事が好きになれませんでした。
父の転勤の度に、転校を余儀なくされたからです。

 

が、ある時「銀行員って、なんて尊い仕事なんだ」と
気づいたことがありました。

 

それは、父の葬儀の時です。
喪主を務めていた私に、一人の社長が
当時副社長だった息子さんを伴って
挨拶してくれたのです。

 

「今から30年前、あなたのお父さんが
私の会社に融資をしてくれた。お陰で今の会社がある。
あなたのお父さんには感謝してもしきれない」
そう言ってくれたのです。

 

そして連れてきた息子さんに対し、
父の遺影を指さしながら
「この人のお陰で今のわが社がある。
お前も感謝しなさい」と言ってくれたのです。

 

これを聴いて私は驚きました。
父が担当者としてこの会社に関与した感謝が
30年以上も続いているのです。
息子さんが感謝してくれたらもっと続きます。

 

一担当者への感謝がこんなに長く続くなんて、
消費財メーカーにいた私には、
とても考えられないことでした。

 

消費財メーカーにいると、役に立つ商品を作ったら
「こんな便利なものをありがとう」という
お客様の声は聞こえます。

 

が、それは一瞬のこと。

 

たとえそれが30年売れ続ける
ロングセラー商品になったとしても
それだけ長く感謝が続くことなんてあり得ません。

 

この社長からの感謝の言葉は、
私がバンカーという仕事の尊さなのだと
気づくには十分でした。

 

以来、延べ100回以上、
若いバンカー向けの研修やセミナーをやっています。
そのたびに、必ずこの話をさせて頂きます。

 

なぜなら、若いバンカーに、
バンカーという仕事の尊さに気づいて欲しいからです。

 

わが国企業の99.7%は中小企業です。
中小企業が成長発展することが
わが国の発展に繋がると、私は信じています。

 

それには、中小企業経営者にとって
最も身近な存在であるバンカーからの支援が欠かせません。
私の研修が、その一助になるのなら
こんない嬉しいことはないのです。

 

先日、この話とよく似た話を、
クライアントのA社長からお伺いしました。

 

A社長は、70年以上続く機械商社の3代目です。
同社では今後シリーズで管理職研修を行うのですが、
その事前インタビューを社長に行ったときのことです。

 

「いつ、会社を継ぐことを意識し始めたのですか?」
と尋ねたら、以下のように答えました。

 

「祖父の葬儀の時です。
私はまだ高校生でした。
この葬儀に、当時の社員さんたちが
大勢参列して下さいました。

 

泣いている人が大勢いました。
それを見てとても驚いたのです。
不思議でした。なんで身内でもない人が、
こんなにも泣いているのだろう…と」

 

A社長の祖父は同社の創業者です。
きっと、大きな志を持った人だったでしょう。
それゆえに並々ならぬ苦労もあったと思います。
が、それを乗り越えて今日の礎を築かれたのでしょう。

 

参列した社員さんの多くは、
そんな創業者と出会い、家族同様の付き合いの中で
大切に守り、育てられ、苦楽を共にした
同胞・盟友ともいうべき人たちでした。

 

そうした創業者の人間味が
葬儀の時に感謝の涙として流れたのだと思います。

 

そしてその涙が、創業者の孫にあたる現社長の
「経営って、なんか、すごい」
と気づくキッカケになりました。

 

この話をお伺いして、ファミリービジネスならではの、
何とも美しい話だと思いました。

 

創業者も2代目も、
家では全く仕事の話をしなかったと言います。
そのため、3代目のA社長は、
高校まで家業のことを知らずに来ました。

 

そんな3代目に、
「会社を経営する」という仕事の尊さを
創業者が大切にしてきた社員さんたちが、
葬儀のときの感謝の涙で教えてくれたのです。

 

A社長は今後、同社に代々受け継がれてきた
社員が働きがいを感じられる経営を
続けていくに違いありません。

 

この話を聴いて、
私の同社の管理職への研修が
その一助になるのであれば、
こんな有難いことはないと思いました。
そして、グッと気合が入りました。

 

忙しくしていると、一つひとつの仕事をついつい
やっつけでやってしまいがちになります。
「忙」という文字通り、アウトプットを焦って
心を亡くしてしまいます。

 

が、一ひとつの仕事は実に尊いものだと、
たくさんの人が教えてくれています。

 

あなたが今日挑む仕事も、実に尊いものだと、
きっと誰かが教えてくれています。

 

目の前の仕事が、誰の役に立ち、
どれだけ喜ばれるものなのか考えてみましょう。

 

そして、その尊さに気づき納得したら、
想いを込めて挑みましょう。