vol.515「社員の離職防止ために見直したい2つの場所とは」

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.515

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

「社員の離職防止ために見直したい2つの場所とは」

 

先週、トランスジェンダーの経産省職員の
トイレ使用制限が違法だとする判決が出ましたね。
ダイバーシティの時代に企業のトイレのあり方を示したことで、
翌日の新聞は全て一面トップがトイレ話でした。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230711/k10014125111000.html

 

トイレは 誰にとってもとても重要な場所です。
経営にとっても、とても重要なファクターです。

 

先日、弊社が主催している「無敵経営研究会」で
中部地区で第一号のDX認定を受けた治具加工メーカー
(株)テルミック(常滑市)を訪問、見学しました。

 

同社は社員数が約140人。うち7割が女性です。
社長が「ハイヒールで歩ける工場」というだけあって
油の匂いも騒音もない、とても綺麗な工場でした。

 

そんなテルミックの田中秀範社長が働きやすい環境整備として
注視しているものの一つに、トイレがあります。
社長が説明してくれたときの表現をそのまま再現します。

 

「男女が同じトイレを使うなんてありえないですよね。
女性にとっては男性と同じトイレを使うなんて、地獄と一緒です」

 

こうした感覚が、多くの女性の共感を得るのでしょう。
男性には、分かりにくいかもしれません。
が、ここに配慮できるかどうかは、
社員の定着に大きな影響を及ぼします。

 

この問題を放置している会社は
何年も前から気づいていながら放置しています。
建物の構造上やむを得ない面はありますが、
定着率アップにはトイレの改善が1丁目1番地です。

 

それを実践されたのが、サンリオピューロランドの
小巻亜矢社長です。

 

小巻社長は社長に就任してから
同社の業績をV字回復したことで大変有名の方です。
その小巻社長が、社長に就任してすぐに手をつけたのが
トイレ改修でした。

 

同社の社員用女子トイレは、鏡にひびが入っていたり
タイルが割れていたりした荒んだ場所でした。

 

小巻社長は、以下の理由からトイレは
とても重要な場所だと言います。

 

第1に一日何度も訪れる場所
第2にホッとする場所
第3にお友達と喋って本音が言える場所

 

そんな貴重なトイレなのに、
気持ちが落ち込むようではいけない。
そう考えて、創業オーナーに直談判して費用を調達。
90年の開業後初めてトイレを改修したのです。

 

この時の社内のキャッチフレーズが
「聖子ちゃんが入っても恥ずかしくトイレにしよう!」

 

こんなフレーズで社員の期待値も
高めてしまうなんてさすがですね。

 

以後、サンリオの社員さんたちには表情が明るくなったと
取引先や来園者から言われるようになりました。

 

なぜならトイレが変わったことで
「うちの会社は変わるかもしれない」という期待が生まれたことと、
「社長は私たちの話を聴いてくれる」
「社長が『社員を大切にする』と言うのは口先だけじゃない」という
経営者への信頼ができからでした。

 

経営者が注目すべきは、トイレだけではありません。
食堂もまた経営者が配慮するべき非常に重要なファクターです。

 

先日、NHKの『サラメシ』を観ていましたら
企業の食堂で「これ、社食で出されているランチなの?!」
と驚くほど、美味しそうなメニューの企業がありました。

 

その会社は新潟県燕市にある諏訪田製作所。
特殊な形状をした爪切りのメーカーで
価格は1本8,000円~2万円。
それが「SUWADAブランド」として評価され、
通販サイトは品切ればかりです。
https://www.suwada.co.jp/

 

この会社が、なぜこんなにも美味しそうな
ランチを出しているのか、
ネットで番組終了後に調べてみました。
https://www.gr8lodges.com/259555.html

 

すると、BIZHINTというサイトで
社長の小林知行さんがインタビューに答えていました。
記事のタイトルは
「なぜ社長は、社員に『腹いっぱい』食べさせるのか? 
数ヵ月待ちの高級爪切りは不良の巣窟から生まれた」。

 

詳しくは直接読んでいただきたいのですが、
ここでは以下ポイントのみ表記します。
https://bizhint.jp/report/601577

 

小林社長は先代の父から自分が会社を引き継いだ時、
同社の職人さんたちはいい仕事はするが
規律が全く守れない人たちでした。
整理整頓や時間厳守を呼びかけても、一切気にしないのです。

 

そのような状態が何年も続いたある日、
社長はハタと気がつきます。

 

「経営者である自分がどんなに手を尽くしても、
結局のところ人は変わらない」
「経営者にできることは、
ひたすら、働く環境を整えることしかない。
だからそれをそれに徹しよう」と。

 

そこで取り組んだのがオープンファクトリーです。
見学コースを作り、職人の作業を
見学者が直接見られるようにしました。

 

見られることで、社員は自分が舞台の上に
立っている役者のような気持ちになります。
そして、緊張感を持って持ち前の職人技を駆使丁寧に作業し
オンリーワンの商品をアウトプットしていきます。

 

さらに食堂です。腹いっぱい美味しいものを
食べてもらいたいとの思いから食堂を作りました。
そのために管理栄養士を正社員として雇いました。
しかも、ランチ代は無料です。

 

そして、今では地元の人たちにも、
同じ食堂でランチを食べていただこうと
社員と同じランチを提供しています(地元の人は有料)。

 

以下は、同社の月刊ニュースリリースの抜粋です。

 

「社員ショクドウ「Restaurant CUIQUIRIT」では工場営業日の
火曜から土曜に、職人の日替わりランチメニューを一般向けにも
提供し、多くのお客様からお楽しみいただいています。
和食やイタリアンはもちろん、中華料理や、時にはエスニック
料理が登場することもあり、職人にとって 1 日の大きな楽しみに
なっています!
そんな大人気の日替わりメニューですが、ご来店を考えている
お客様にも楽しんでいただけるよう、レストラン公式 Instagram
にて毎週月曜日に今週の献立を発表しています。
公式アカウントのフォローをしていただけますと簡単に
ご覧いただけますので、ぜひお役立てくださいませ!」
https://www.instagram.com/suwadacafe_1017/

 

社食を地元地域の人に を開放しているケースは
大変珍しいのではないかと思います。
そして、栄養士でもある社員が腕にかけて作ったランチを
地域の人も同じ空間で一緒に食べるとなると、
交流の場となります。

 

人は、「同じ釜の飯を食う」の喩えの通り、
一緒に食事をすると大変親近感が沸きます。
そんなアットホームな感じが、
社員のモチベーションを高めます。
私も『サラメシ』を観ながら、「こんなランチが
毎日食べられるなんて実に羨ましい!」と思いました。

 

この他、同社は制服を工夫したり、
検査担当者には超高級なイスを用意したりしています。

 

トイレもランチも制服も長時間座るイスも、
マズローの欲求5段階説では、第1段階の生理的欲求です。
ここに問題があると、第2段階以上が満たされても、
どうしても「この会社は好き!」と言い切れない
モヤモヤが生じます。
それが、いつか離職の引き金となります。

 

働き方改革の一環で、福利厚生を
見直そうという会社が大変増えています。
あなたの会社には第一段階の欲求を
満たせていない箇所はありませんか?
是非、自社の環境を確かめてくださいね。