vol.512『若い人とのコミュニケーション・ギャップを解消するには』

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.512

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

『若い人とのコミュニケーション・ギャップを解消するには』

 

先日、十六銀行のシンクでタンクの十六総合研究所が
今年の愛知県、岐阜県の新入社員391人に行った
アンケート結果を発表しました。
http://www.16souken.co.jp/assets/202306/9a8688f49876600fc6b57b0a6a6a65ef806e8820.pdf

 

それによると「望ましい昇給パターン」で
「成果主義」が「年功主義」上回りました。
これは過去17年で初めてのことだといいます。

 

私はこれを見て、仕事ができないベテラン社員より、
仕事ができる若手社員により高い給料を払うべきだという
若い人たちの声の大きさを感じました。

 

そのくらい、今の若い人たちにとって
ベテラン社員は憧れの対象ではないのでしょう。

 

ベテラン社員の中には
プレゼンテーションができない人が多数います。
パワーポイントで資料を作ることや。
会議に参加しても発言しない人が大勢います。

 

学生時代、当たり前のようにプレゼンをし、
コーチングやファシリテーションを学んできた
若手社員からすれば、その姿に憧れないのは当然でしょう。

 

一方でベテラン社員も、若手社員と
うまくコミュニケーションが取れないと悩んでいます。

 

先日、ある中小企業メーカーの監督職(平均年齢約50歳)の研修で、
「自分たちと若手社員との間でどんな
コミュニケーション・ギャップに悩んでるのか?」を尋ねました。

 

すると、以下のような意見が出ました。
・挨拶のする人としない人の差が大きい
・ビジネスマナーが分かっていないない
(会社を休む時に会社に連絡せず、上司の携帯やメールに連絡が来る)
・共通の話題が持てない
・略語 についていけない
・根拠のない自信を持っている… などです。

 

おそらくこうした悩みは日本中どこの企業でも
共通していると思います。
そこで今回はこのギャップの解消法について考えてみます。

 

まず、「挨拶する人としない人の差」ですが、
あなたにとって挨拶とは、「自分から目上の人にするもの」でしょうか?
それとも「目上の人が自分に対してするもの」でしょうか?

 

ベテラン社員の時代は「目下の者から目上の人に挨拶をする」
が当たり前でした。もし挨拶を忘れたら、
「先生(先輩)に挨拶に行ったか?」「行ってこい」
「何でお前は俺に挨拶がないのだ?」などとよく叱られました。

 

家庭でも「お父さん、お母さん、おはようございます」と
自分から挨拶しないと叱られました。

 

ところが 今の子供たちは違います。
朝起きた時、親の方から先に「おはよう」と挨拶します。
子供はそれに答えて「おはよう」と返します。

 

学校に行く途中、みどりのおじさんおばさんの方から
「おはよう」と挨拶してくれます。
校門の前には先生が立っていて、先生の方から「おはよう」と
挨拶をしてくれます。
このように「目上の人」が先に挨拶をしてくれるのです。

 

このことは部活でも同じです。
青学大の駅伝部や、帝京大ラグビー部は、
先輩が後輩にとても親切にすることで有名です。

 

人に親切にされると、人はそれに対しお返ししたくなります。
心理学で「返報性」と言われるもので、
先輩に親切にされた後輩たちは、何とか先輩に報いようと
一生懸命練習します。そしてパフォーマンスを
遺憾なく発揮して、強いチームになるのです。

 

それまでは4年生=神様が常識でした。
が、その環境では、下級生は萎縮します。
すると、一人ひとりが持てるパフォーマンスを十分に発揮できません。

 

その結果、組織の総合力が発揮されず、チームは弱くなります。
そのことを疑問視した帝京大の岩手監督や青学大の原監督が
体育会の常識を改めたのです。
今ではこの改革に多くの部活が追従しています。

 

実際に家庭での朝の挨拶がどうか、
監督職研修の受講生12人に聞いてみました。
すると、「親から挨拶する」と答えた人が9人。
「子供から挨拶する」と答えた人が3人いました。

 

家庭でのしつけはこのように異なりますが、
親の方から挨拶する家の方が多いわけです。

 

よって、「どのようにしつける家庭で育ったか」や、
「どんな考え方の部活に所属していたか」で、
挨拶をする、しないの個人差が大きくなります。

 

つまり、挨拶をしない=消極的、反発的な態度ではないのです。
彼らの一人ひとりが体験してきた常識を元に、
当たり前の反応をしているだけだ、ということです。

 

ですから「上司が挨拶をちゃんとする」を徹底すれば
若手社員もしっかり挨拶するようになるでしょう。

 

もう一つ、マナーについても同じではないかと思います。
「休む時に上司の携帯とかメールで連絡してくるのはどうか」
という話でした。

 

ベテラン世代にとっての常識は、休むときは
会社の労務担当に電話して、「本日休みます」と伝え、
その労務担当から職場の上司に伝わるというのが常識でした。

 

ところが携帯に直接掛ってきたり、メールで来たりするので
上司たちはそこに違和感を覚えるようです。
しかし、これは「休む時に誰にどのようにして伝えるのかルールがない」、
または「ルールがあっても若手社員はそれを知らない」が原因かと思います。

 

ベテラン社員の若い頃には、休みたいときは
会社の労務に電話するしか連絡手段がありませんでした。

 

ところが、今は上司の携帯電話もメアドも知っています。
連絡方法は多数ありますが、
どれを使えばよいかは聞いていません。
そのため、とりあえず携帯にかけているだけです。

 

休むときに限らず、ホウレンソウのルールを決めて教えれば、
きちっと守られるはずです。
その仕組みがないだけですが、
それを「マナーがなっていない」と言われたら、
若い世代が気の毒ですね。

 

もうひとつ、「根拠のない自信を持っている」は、
その通りかもしれません。
これはベテラン世代と若い人の人口差が大きく影響してると思います。

 

ベテラン世代は団塊ジュニア世代です。
数が非常に多い。そのため先生がなかなか一人ひとりを
ちゃんと見ることができませんでした。

 

「酒井君、最近どう?」ではなく、
「お前らちゃんとやってるか?」と、
先生は常に「お前ら」という集団で生徒を見ていました。

 

ところが、今の若者は数が少ないので、一人ひとりに目が行くのです。
「お前ら」ではなく、「英之さん」と下の名前で呼ばれます。
大事にされている感がありますよね。

 

さらに、人数が多いとどうしても序列を作る必要があります。
管理上、そうせざるをえないのです。
序列の基準は様々です。「あいうえお順」「年齢順」の他にも
成績順や、理不尽なクラスの人気投票などもありました。

 

そのランキングの下位で低迷し、
目立つことなく傷ついたベテランが多いと思います。

 

これに対し、若い人は一人ひとりを丁寧に見てもらいます。
何かができて何かができなくても、それは「個性」と言われます。
そして、「個性を伸ばしていきましょう」という教育を受けてきました。

 

逆にベテラン社員の時代には「個性」いう言葉はありませんでした。
「何かができて何かができない個性的な人」は、
集団を管理する上で面倒くさい変人と思われ、
ハラスメントの対象となったのです。

 

よってベテラン社員は、一部のエリートを除き
人からが認められ、ほめられたりして
自分に自信を持てる経験はあまりありませんでした。

 

しかし、若手社員は親、先生、先輩からたくさん承認されています。
しかも、就活の時はカウンセラーから専門指導を受けて
自己肯定感を高めてから面接に挑むようになっています。
自分を内省し、自分のいいところを見つけ、
自分のPRポイントを言語化し、そこが評価されて入社したのです。

 

だからこそ、根拠ない自信があるように見えるのでしょう。

 

このように「若い人が変だ」と思っても、
彼らが変なわけではありません。
彼らはごく普通に育ってきた人たちです。

 

ベテラン社員は是非そこを理解して、
自分たちの世代が変わらなきゃいけないと腹を括りましょう。

 

そして彼らの個性を光る個性に、
根拠のない自信を確かな自信に進化する手伝いをしながら、
次の時代を託せる人財へと育てていきましょう。