vol.511「凡人なのに名監督になれる人の条件は、何か?」

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.511

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

「凡人なのに名監督になれる人の条件は、何か?」

 

侍ジャパンが映画化されましたね。
『憧れを超えた侍たち』のタイトルで
6/29までの期間限定上映です。
https://www.japan-baseball.jp/jp/movie/2023/

 

私は11日に観てきました。
ベンチ裏やミーティングルームの映像が一杯でした。
野球好きでない人も十分に楽しめます。
お勧めです。時間のある方は、是非観てくださいね!

 

さて先日、某商社の管理職研修で次のような質問を頂きました。

 

「名選手ではないのに名監督になった人の
何が良かったから成功したとか、
現役時代に成績的には振るわなかった人が、
どんな能力があったから管理者に抜擢されたとかの
何か具体的なお話があれば聞きたいです」

 

この質問を頂いた背景には、
私が講義で以下の話をしているからです。

 

「名選手の誰もが監督になれるわけではありません。
リーダーには仕事で成果を出す『仕事力』と
仲間から信用される『人間力』の2つの力が必要です。

 

名選手は、個人としての『仕事力』は高いかもしれません。
が、それゆえにできない人を小馬鹿にしたり、
人前でいじって笑いものにしてしまうことよくあります。
つまり、『人間力』が備わっていない人が多いのです。

 

そのような人にチームを任せたら、チームは壊れます。
だから、監督に選ばれない名選手が多いのです」

 

質問者はこの話を聴きながら、逆を考えたわけです。
「凡人なのに名監督になった人の条件は、一体何か?」です。

 

そこで、そんな人は誰か…?と
思い馳せて頭に浮かんだのが、
侍ジャパンを率いてWBCを制した栗山英樹監督でした。

 

栗山監督のプロ野球選手としての成績は、
決して突出したとは言えません。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%97%E5%B1%B1%E8%8B%B1%E6%A8%B9

彼は東京学芸大学を出て84年、
スワローズにテスト生として入団しました。
現役生活は7年で、通算安打数336。打率は0.279。

 

1番・センターでレギュラーに定着した時期もありましたが、
メニエール病に悩まされ、選手としては短命に終わりました。
もし、ファイターズやWBCで監督をやっていなければ
記憶にすら残らなかった選手かもしれません。

 

その後、約20年間、
スポーツキャスターや野球解説者として活躍し、
11年末にファイターズの監督になりました。

 

なぜファイターズの監督に選ばれたのか?
私は2008年、仕事でファイターズの球団社長だった
藤井純一さんにインタビューしたことがあります。

 

藤井さんは、ファイターズが北海道に移転してから
始めて黒字化に成功した経営者です。
ファイターズに来る前はJリーグのセレッソ大阪の社長で
プロ野球とJリーグ双方の球団社長を務めた唯一の人です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%97%A4%E4%BA%95%E7%B4%94%E4%B8%80

 

この時、藤井さんにファイターズの
監督選出のポリシーを教えていただきました。

 

それは「ファンサービス・ファースト」です。
プロ球団の経営には、何よりもファンサービスが大事である。
だから、「選手よりもファンを大切にする人しか
監督にしない」とおっしゃっていました。

 

セ・リーグの球団と違い、ファンの少ないパ・リーグの球団で
北海道という地盤のないエリアに移転し、
それでサスティナブルな経営を成り立たせるには
地道にファンを増やしていくしかありません。

 

それには、試合に勝つだけじゃなく、
選手とファンとの接点をできるだけ多く作り
お客様としっかりコミュニケーションをとって
「野球って面白い」「ファイターズってかっこいい」
と思ってくれる人を一人でも増やす。

 

その活動を喜んでやれる人が
ファイターズの監督に選ばれるのです。
これは、自分よりも他人を優先し、他人に奉仕する
人間力なくしてはできないことです。

 

ファイターズの監督は、
代々それができる人が選ばれています。
現在の新庄さんも、それゆえに監督を任されたのでしょう。

 

さて、そんな栗山監督の人間力がどこで磨かれたかと言えば、
読書と日記ではないかと思います。
栗山監督は、大変な読書家で中国の古典を愛読していました。
また、毎日日記をつけていました。

 

その日記が書籍になって出版されています。
『栗山ノート』という名前で、
10万部突破のベストセラーとなっています。
https://special.kobunsha.com/kuriyama_note/

 

この中にこんな記載があります。
「2015年シーズンのある試合後に、
私の部屋を訪ねてきた選手がいました。
監督の部屋へ来るということは、
精神的にかなり追い詰められていると想像できます。

 

翌日から私は、試合のあった夜はお酒を控えることにしました。
監督が赤ら顔で部屋のドアを開けたら、選手は
「すみません また今度来ます」と引き下がるでしょう。

 

勇気を振り絞ってきたに違いない
選手の思いを踏みにじるようなことがあってはならない。
デイゲームでもナイターでも、試合日はお酒を飲まず、
外出もせず、部屋にいることにしようと決めました」

 

これを読んで、私はすっかり感心しました。
監督室に尋ねてくる選手の気持ちを慮って、
仕事の後に、酒を飲まないようにするなんて、
簡単にできることではありません。

 

彼の、自分を犠牲にして他人を活かそうする利他の精神が
とても色濃く感じられたエピソードでした。

 

また、こうした気づきを日記に書いていることが
彼の人間力を高めたと思います。

 

日記は書いてみるとわかりますが、
その日の出来事を振り返って書くと、いろいろ気づきます。
その多くは「反省」です。
反省することは自分の弱さを認めることです。

 

松下幸之助は部下に「きみ、寝床に入ったら、
1時間は眠らずに、その日あったことを振り返り、
反省せんといかんな」と語ったと言います。

 

反省する習慣のある人は、成長します。
栗山監督は、日々気づいたことを、
中国古典に照らして理解することで教訓化し、
自分の血肉としていったのでしょう。

 

冒頭に紹介した映画『憧れを超えた侍たち』の中にも、
栗山監督の人間力が随所に出てきます。
特に、WBCに選んだ選手への連絡方法にこだわる姿に、
「なるほど~」と、私はいたく感心しました。

 

栗山監督に限らず、選手やコーチやサポートスタッフの
「人間力」がとてもよく描かれている映画です。
泣けるシーンはもちろん、笑えるシーンも結構あります。

 

一体感溢れるチームを作りたい人や、
誰かを育てたい人は、
是非この映画から、ヒントを探してみて下さいね。