vol.467「なぜ同じ問題が繰り返し発生するのか?」

V字研メルマガ

 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.467

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

「なぜ同じ問題が繰り返し発生するのか?」

 

ウクライナ紛争の悲惨な状況が
毎日報道されていますね。
この報道を見て驚くのは、
ロシアの発表とウクライナの発表の違いです。

 

同じ事件を伝えているはずなのに、
報道の内容がまるで違うのです。
こうした報道を見ながら、人は同じ景色でも
自分がどういう色眼鏡で見るかによって
全く違って見えるものだと改めて感じます。

 

経営でもそういうことはよくあります。
特に、トップが見ている景色と
社員が見ている景色は、
同じつもりでも全然違うことがあります。

 

例えば、私のクライアントの製造業の社長は
この一年、ある悩みを抱えていました。
それは、外国人労働者がよく辞めることです。

 

全ての人が辞めてしまうわけではなく、
長くいる人と辞める人に分かれるのです。
母国から兄弟を招く人もいます。
愛される人には愛される会社ですが、だからこそ、
多くの人に残ってほしいと社長は思っています。

 

「なぜ、やめてしまうのか?」
同社は、給料も休みも十分に支給しています。
彼らが日本に来ているその目的が「稼ぐこと」であれば、
その目的には十分叶えられています。

 

辞める理由がわからない社長は、
現場の管理者たちと色々と話し合いました。
日本人が外国人を差別的に扱う
レイシャルハラスメントを学び、
その有無も確かめました。
が、そのような事実はありませんでした。

 

そうした中で思い立ったのは、
「ひょっとしてお金と休暇だけでは
足りないのではないか?」ということです。

 

彼らは、何年かしたら母国に帰ります。
ベトナムの場合、現在の国民の平均年齢は31歳です。
すると、彼らは帰国した時点でもう年配者です。

 

すると、どこかに働き口を求めても、
年齢も賃金も高く、雇用する側としては
なかなか採用しにくいかもしれません。
若い労働力は豊富です。

 

であれば、彼らが母国に帰った時に、
「雇用先を探す」以外の道を歩めるように
してあげるのが親切かもしれません。

 

その道とは、起業です。
彼らが母国で若い人材を雇い、
その人たちに日本仕込の技術・技能を教え、
技術者集団を起ち上げて、経営者や親方になる。

 

そうしたストーリーの一端を担うことが、
必要ではないかと考えたのです。

 

そこで社長は、自分が世界の現場を見てきた経験から、
機械メンテナンスの仕事であれば、
どこの国でも重宝され、安定した仕事になると考えました。

 

このビジネスは、開業の元手は小さく、
定期的に収入が入る上に、
在庫リスクがなく、売上はほぼ粗利です。
更に好況不況の影響を受けにくく、
災害時には、多くの人に喜ばれます。

 

そこで自社で働いている間に、
希望者にはメンテナンスのスキルを身につけてもらう
教育プログラムを考えました。

 

このプログラムはまだ走り始めたばかりであり、
定着率向上に効果があるかはこれからです。
が、社長は定着率が上がるのではと期待をしています。

 

社長はこれまで、
「高い給与を払えば外国人が満足するだろう」との
固定概念にとらわれていました。

 

しかし、「貧しい者には魚を与えるのではなく、
魚の獲り方を教えよ」と中国の諺に言うように、
今の処遇より、将来自立できるようにすることが
最も重要なことだと気づいたです。

 

人は、固定概念で物事を捉えがちです。
そう考えた方が楽だからです。
「外国人の要求=給与増・休暇増」と決めつけてしまえば
その条件変更だけで解決策を考えればいいからです。

 

が、それでは問題は解決しません。
何度も同じ問題が発生するのであれば、
問題解決策を考えるときの前提条件がおかしいのです。

 

前提条件=固定概念=キメツケです。
キメツケは可能性の蓋を閉じてしまいます。
それをなくするには、
自分がなんとなく感じている違和感と、
積極的に向き合うことです。

 

「なぜこうなのか?」、
これまでと全く違う角度から物事を見て
試行錯誤し続けない限り、答えは見つかりません。

 

かつて、私がブラザー工業に勤めていた時、
「技術開発で大事なことは矛盾と向き合うことだ。
『ひょっとして前提が間違っているのでは?』と疑い、
試行錯誤していると、いつかその打開策にたどり着く。
それが特許になる。矛盾の源は前提にあるんだ」
と、開発部長が教えてくれたことがありました。

 

それと同じで、小さな違和感や
矛盾と戦い続けていると、
独自の解にたどり着き、
その分野に秀出ることができます。

 

外国人が辞めると悩んでいた社長は
上記の解にたどり着いた時、
とてもすっきりした顔をしていましたいました。

 

この解が正解か不正かは別として、
利他の心で考え抜いた社長が、私には、
とても大きな器の人に見えました。

 

違和感は、自分の審美眼を磨く源です。
何度も同じ問題が発生していたら、
まずは自分の考えの前提=固定概念=キメツケが
ないか考えてみましょう。

 

子供の反抗期は、大人の「こうであるべき」「これが常識」の
固定概念の押し付け=キメツケこそが発生源といわれます。
現在は昭和97年でなく、令和4年です。
まずは自分が古過ぎる固定概念に縛られていないか
それを疑うことから始めてみましょう。