vol.465『リーダーの「それを言っちゃあ、おしまいよ」の言葉とは?』

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.465

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

『リーダーの「それを言っちゃあ、おしまいよ」の言葉とは?』

 

新年度が始まりましたね
入社式に新年度経営方針発表会。
リーダーはみんなの前で挨拶をするシーズンです。

 

聖書には「始めに言葉ありき」と書かれています。
リーダーがどんな言葉を語るかは、
社員の士気を高める上でとても重要です。

 

そうであるからこそ、逆に
「それを言っちゃあ、おしまいよ」という
言葉もあります。

 

今号ではその「おしまい言葉」を2つお伝えします。
リーダーの皆さんは是非注意してくださいね。

 

<リーダーの言ってはいけない1>
「今シーズンをもって退任しようと思っている」

 

これはある人気球団の監督が、
キャンプインの初日に選手に語った言葉です。

 

シーズン終盤ならいざしらず…
シーズンの初っ端にこう語るのは異例中の異例です。

 

去年、最後まで優勝を争ったチームです。
今年こそ、「強いチームになって優勝しよう!」
という思いで取り組んでいるはずです。

 

そんな時に、「自分は今年一杯で御終い」と言われて、
選手は、熱い気持ちを維持できるでしょうか?

 

例えば、今あなたが大学2年生だとして、
どのゼミに入ろうか、これから選ぶと仮定します。

 

このとき、1年後に大学を辞めるとわかっている
教授のゼミを選ぶでしょうか?
それとも、この先もずっとこの大学にいるだろうと思う
教授のゼミを選ぶでしょうか?

 

おそらく後者だと思います。
人は誰しも「成長欲求」を持っています。
指導者に、未熟な自分が一人前に成長するまで、
長い時間をかけて育ててくれる人を選ぶのは当然です。

 

このことは企業でも同じです。
例えば本社から出向で子会社に赴任した社長が、
「俺は2年経ったら本社に帰る。
それまでの間、君たちとしっかりやりたい!」
と赴任の挨拶をしたら、あなたはやる気になりますか?

 

「2年経ったら帰る」という時点で、
もう心が本社を向いていることが分かります。
出向先で好業績を出して、
本社に帰る手土産とする算段が見え見えです。

 

そんな私欲まみれの社長の為に働くなんて…
私なら気持ちが白けてとても集中できません。

 

実は、私はメーカーのブラザー工業に入社した2ヶ月後、
商社のブラザー販売に出向になりました。
当時のブラザー工業の内部には、
ブラザー販売を格下と見下す風土がありました。

 

そんな格下の販売会社にいきなり出向になり、
私は随分ふてくされました。
今ならとっとと辞めて
第二新卒になっていたかもしれません。

 

が、たまたま配属された先に、
同じように、ブラザー工業から
出向で来ていた大学の先輩がいました。
その先輩に「ブラザー販売をどう思いますか?」と尋ねたところ
先輩は、ブラザー販売のいいところを随分教えてくれました。

 

そして「もう、ブラザー工業なんかには戻りたくないよ。
身も心もブラザー販売だよ」と語ってくれました。

 

私は、この言葉に随分救われました。
「ここに骨を埋める」と語る先輩がいるんだ、と思ったら、
ブラザー販売も悪くないな、と思えたからです。
そしてその後、実に良い仕事に恵まれました。
今ではブラザー販売に感謝しかありません。

 

「ここに骨を埋める」と覚悟を決めている人が
人に勇気を与えます。
逆に、自分で期限を区切って「とっと消えます」と
宣言する人には、ついてはいけないのです。

 

例外があるとすれば、現経営者が後継者に対して、
「俺はあと1年で辞める。
だからしっかり準備をしてほしい」と伝える時です。

 

この場合、準備期間を与えるために伝えますが、
極秘に本人にだけ伝えることが肝要です。
公に伝えれば皆、後継者ばかりを見て仕事をするでしょう。

 

今期、この球団は連敗スタートでした。
勝つと日本中が元気になるのはこの球団だけです。
逆境からの巻き返しを祈るばかりです。

 

<リーダーの言ってはいけない2>
「優勝は目指しません」

 

こちらは、ある新監督の言葉です。
就任時、彼は「優勝は目指しません。
野球を楽しみます」と宣言しました。

 

この言葉に、私は不安を覚えました。
「野球を楽しむ」とは具体的にどういうことでしょう?
「余りに抽象的過ぎて、選手が抱くイメージが
バラバラになってしまうのでないか?」という不安です。

 

チームは同じコトを目指して、
みんなで力を合わせるからチームなのです。

 

そのベクトルの先が、新庄監督の言うように
必ずしも「優勝」でなくても良いでしょう。
大切なことは、皆が抱くゴールイメージは同じであることです。

 

例えば、私のクライアントには売上目標のない会社があります。
同社は、オンリーワンの技術を磨いているメーカーです。

 

社長曰く「この技術を磨き続ける限り、オーダーは入ってくる。
だから、売上目標を追うことに経営資源を使うより、
技術の向上にすべてを投資し、圧倒的オンリーワンを目指す。
故に、売上目標はない」。

 

この会社の場合、売上目標こそありませんが、
皆が「技術力で圧倒的オンリーワン」という
共通の目標をちゃんと持っています。
だからベクトルが揃って、強い組織になり、業績は好調です。
それを実感している若い人たちは、仕事を楽しんでいます。

 

新監督の言う「野球を楽しむ」も、
皆が「同じ楽しむイメージ」を持ち、
それを追いかけているなら、強いチームになるでしょう。

 

私はこのチームのファンであり、
型破りな新監督が大好きですから
楽しんでいる選手の弾けるの笑顔が見たいものです。

 

イワシの群れのように小さな者の武器は、一体感。
シマウマの群れにように弱い者の武器も、一体感です。
中小企業に大切なのは力を合わせる前に、心合わせ。
リーダーは心を合わせる言葉を、熱く語ってくださいね。