vol.460『ワクワクする新規事業企画は共感が9割』

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.460

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

『ワクワクする新規事業企画は共感が9割』

 

「失敗と書いて成長と読む」。
これは故・野村監督の名言です。

 

北京オリンピックで、フィギュアスケートの
羽生結弦選手の4Aは失敗に終わりました。
しかし、あのジャンプを見て「これは失敗だ」と
思った人はどれだけいるでしょう?

 

多くの人が、「これは失敗ではなく、挑戦だ」と
感じたのではないでしょうか?
スノーボードの平野歩夢選手もそうですが、
自分にしかできないことに挑戦する人は本当にかっこいいですね。

 

ところで、12年前のバンクーバー五輪の、
男子フィギュアで金メダルを取った人を覚えていますか?

 

正解は、アメリカのライサチェク選手。
しかし、彼の名前を覚えている人は少ないと思います。
最終フリーの演技で4回転にトライしなかったからです。

 

一方、この時銀メダルを獲ったのは
ロシアのプルシェンコ選手でした。

 

彼のことは覚えてる人は大勢いるでしょう。
彼は世界で初めて4回転を決めた人であり、
オリンピックでも成功させました。

 

同じく高橋大輔選手もこの時4回転に挑戦。
転倒しましたが、覚えている人も多いでしょう。
人は挑戦し、歴史を作る人をリスペクトするのです。

 

ハイレベルな争いを勝ち抜くには、
自分にしかできない大技が必要です。
その危機意識が、歴史を創るのです。

 

このことは企業でも同じです。
イノベーションは「このままではヤバい!」という
危機意識から生まれます。
危機意識こそがイノベーションと新たな歴史の母なのです。

 

先日、社員数100名超の某社で、
約半年間にわたり指導してきた
「新規事業創出プロジェクト」が終了しました。

 

同社はB2Bの特定市場で、シェアNo.1。
その影響でここ数年、好業績が続いていました。
が、コロナ禍でその特定市場が縮小に転じました。

 

危機意識を覚えた経営陣は、
自社の強みを活かした新規事業の必要性を感じます。
そして私に「何をしたらよいか?」と相談がありました。

 

そこで私は、中堅社員を集めた新事業立案のための
プロジェクトチームの発足を提案しました。

 

なぜなら新規事業は、それに携わる社長や社員が、
「絶対にこれがやりたい!」と思わない限り、
起ち上がらないからです。

 

この提案に同意した同社の社長は、
即座に営業、技術等複数の分野から、
30~50代の主任~課長職の8人を
プロジェクトメンバーに選抜しました。

 

この8人に、私は毎月1回、
3時間×7回の研修を行いました。
8人が複数の場所に分かれて勤務していることもあり、
すべてオンラインで実施しました。

 

第1講は、同社の強みが何かを、皆で話し合い特定しました。
そして、強みを活かせる新事業案を1人3案考えてもらいました。

 

第2講は、皆でアイデアの出し方を学び、
更に1人3案考えてもらう宿題を出しました。
これにより、8人×6案=48案が集まりました。

 

第3講では、このアイデアを皆で評価し、
上位12案まで絞り込みました。

 

第4講では、この12案をビジネスモデルキャンバスに展開し、
皆で投票して上位7案にまで絞り込みました。

 

第5講では、この7案をさらに詳細に評価し、
役員にプレゼンするプランを選びました。
討議の結果、4つのプランが残りました。

 

モーグル競技で予選→準々決勝→準決勝→決勝と
選手を絞っていくように、皆の意思で
「どうしてもやりたいプラン」を絞り込んだのです。

 

そして4つのプランごとに3人の担当者を決め、
プレゼン用の企画書創りに取り組みました。

 

第6講は、プラン別の個別ミーティングを行い、
独自性アップのための細かい点を修正ました。

 

そして最終の第7講が、役員プレゼンでした。
同社初の、ボトムアップによる新規事業企画プレゼンは
創業者である会長以下取締役4人、
執行役員4人の前で行われました。

 

どのメンバーも想いを込めたプレゼンをしてくれたこともあり、
会長以下役員には「わが社の未来への希望が見えた」、
「メンバー一人ひとりが大変成長してくれた」と
大いに喜んで頂きました。

 

そのような成果に繋がった理由のひとつが、
多くのアイデアから最終4プランに至る
絞り込みの基準にあります。
どの段階においても最重視したのは「共感性」です。

 

共感性とは、その案を聴いたメンバーが
「あ、それいいね!」と共感するかどうかです。
共感できるということは少なくとも
以下の4つを兼ね備えている可能性があります。

 

・経営理念に適い、わが社に相応しい 
・新規性があり、ワクワクする
・これから成長していく予感がする
・自分が担当してみたい

 

基本的にここをクリアした案が、
独自性の高い案に昇華していくことは難しくありません。
新規事業企画で最も大切なのは、この共感性です。

 

今後同社では、役員会にてこの4案に優先順位を付け、
優先順位高のプランの立ち上げを目指します。

 

企業の危機意識は、分析からは生まれません。
見て、触れた時の「ヤバい!」という感覚から生まれます。
それを持っているのは、市場に一番近い、現場の社員です。

 

ヒタヒタと迫りくる危機意識の中で、
羽生選手が4Aを、平野選手が1440を磨いたように、
自分達の力で気づいたプランを、
こうすればうまく行くと思えるレベルまで磨いたのです。

 

貴社は今、羽生選手の4Aのような挑戦をしていますか?
そうでないのなら、現場の社員が持つ危機意識を活かしましょう。
彼らに考える機会を提供し、
貴社の新たな成長エンジンを是非とも手に入れてください。