vol.458『聴くができれば経営はできる』は本当か?

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.458

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

『聴くができれば経営はできる』は本当か?

 

今年も早一か月が経とうとしています。
あなたにとってどんな新年でしたか?
良いスタートを切ることができましたか?

私事で恐縮ですが当社では、
新しいプロジェクトが4件スタートしました。
そのためにインタビューすること多く、
総計67人の話を聞きました。

 

コンサルタントが最初にインタビューを行うのは、
プロジェクトに携わるメンバーをよく理解するためです。
と、同時にその人のモチベーションを引き出すためです。

 

あなたも誰かに話を聴いてもらって
「なんだかモヤモヤしたものが晴れてスッキリした」と
感じたことがあると思います。
その上で「一緒に頑張りましょう!」と誘われたら、
「これば頑張った方が良いな」という気になるでしょう。

 

岸田総理は、総裁選の時に
「自分は何の取り柄もないが聴く力だけはある」と言っていました。
言葉通り受け止めれば、聴く力だけで総理大臣になったということです。
それは、人のことをよく理解するだけでなく、
人のやる気を引き出すのが大変上手い人だということになります。

 

岸田総理と同じように、聴く力で総理大臣になった人が他にもいます。
100年以上も前の話ですが大隈重信です。
大隈は早稲田大学の創始者としても有名ですが、
第8代と17代の2度、総理大臣を務めています。
その彼の強みが聴く力なのです。

 

実は大隈は、財務に対する知見が豊富で弁の立つ人であり、
おまけに大変な癇癪持ちでした。
彼と議論をするとどんな人でも論破されてしまい、
「完膚なきまでに叩かれる」と言われるほどでした。


昨年の大河ドラマ『晴天を衝け』の中でも、
弁が立つことで有名な渋沢栄一と激しく論戦を交わすシーンがありました。
そのシーンでは大隈が自分の主張をした最後の語尾を
「あるんであーる」で結んでいました。
これは彼の口癖で、主張を徹底的に相手に押し付けるわけです。

 

こんな言い方をされたら誰もが嫌になってしまいます。
同僚はもちろん、部下からの評判もすこぶる悪い人でした。

 

こんな大隈に一通の手紙が届きました。
差出人は五代友厚です。
五代は「西の渋沢栄一」と言われた事業家で、
明治初期にいくつもの殖産興業に貢献し、
大阪の恩人と言われている人です。
大河ドラマではディーン・フジオカが演じていました。

 

その手紙にはこのように書かれていました。
以下は私の意訳です。
「閣下の恩恵を受けている人は、恐らく閣下の良い点ばかりをほめ、
欠点を責める人はいないでしょう。
今、私はこれまでの恩に報いるため、閣下の短所・欠点を述べて
真心を表します。

 

・第一条「他人の愚説愚論をよく聞いて下さい。
一を聞いて十が分かってしまうあなたは、
最後まで人の話を聞こうとしない欠点があります」


・第二条「あなたの意見と地位の低い人の言うことが同じ場合は、
必ず人の意見を必ず採用するようにしましょう。
採用しないと徳は広がりません」


・第三条「怒気怒声は、あなたの徳や人望を失くす元です。
怒気怒声を発して良いことはひとつもありません」


・第四条「ものごとを決断・決済するときは、決して急がず、
論議を尽くしてから決めるように」


・第五条「あなたが誰かを嫌えば、その人もあなたを嫌いになります。
嫌いな人とも積極的に交際してください」

 

これらの諫言は、大隈には耳の痛いことばかり。
癇癪持ちゆえ、怒り狂ってもおかしくない内容です。

 

が、大隈がただの人物でなかったのは、
五代の諫言を素直に受け止め、自分の態度を180度転換したことです。

 

まず、今まで「自分がお前のような人間の意見は聴くに値しない!」と
切り捨てていた人たちに対し、
「あなたの意見を聴かせて欲しい」と家を一軒一軒、
頭を下げて訪ねるようにしました。

 

また、怒ることをやめ、逆に褒めるように努めました。

 

そして「居候したい者はいつでも来なさい。
出て行きたい者はいつ出て言って構わないと」と
自分の屋敷を解放しました。
すると、大隈の屋敷には一時100人を超える
居候が集まるようになりました。

 

さらに、それまで激しく論戦を交わした福澤諭吉と対談したときは、
相手を罵倒すると思いきや、福澤に対し
「あなたは偉いなあ。これからの日本を担うのは若者だ。
塾をつくって若者を教育しているあなたは偉い」とホメたのです。

 

これに驚いた福澤は「あなたも学校をつくればいい。
つくり方は私が教えよう」と応えました。

これが早稲田大学創設のきっかけとなります。

 

こうして人の話を聞き褒めるようになった
大隈には人望が集まりました。
その結果選挙に強くなり、総理大臣になったのです。

 

現代は、大変複雑な時代です。
トップの指示命令で世の中を動かしていけるほど、
簡単な時代ではありません。
リーダーにとってとても重要なスキルが、
人の力を引き出してそれを借りるということです。

 

そのために必要なのが、一人ひとりの想いを聴く力です。
聴く力は混沌とした、出口が見えない時代に
光明を見出そうとするリーダーに必須な力なのです。

 

私のクライアントの製造部長に、
「管理者として自分がやっていけそうだと自信を持ったのは
いつですか?」と質問したときです。

 

彼は以下のように答えました。
「80人もの部下と面談を実施し、
普段見られない笑顔が見えて、面談の力を実感したとき」。
「聴く」には、リーダーを強く勇気づける力があるのです。

 

聴くは、長時間拘束される面倒で辛い仕事です。
が、これほど重要な仕事はありません。
是非あなたの聴く力で、あなたの組織力を上げ、
この難局を乗り越えましょう。