vol.445『人生を充実させる死生観のススメ』

V字研メルマガ

 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.445

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

『人生を充実させる死生観のススメ』

 

去る9月場所で照ノ富士関が新横綱で優勝を飾りましたね。
大関を務めた力士が両膝の大怪我で序二段まで陥落し、
そこから復活して横綱にまで昇りつめ、新横綱での優勝。
その不屈の精神力には、ただただ驚くばかりです。

 

その照ノ富士関に、相撲ファンのデーモン小暮が
NHKのスポーツニュースの中で次の質問をしました。

 

「また怪我をする怖さはありませんか?」

 

すると照ノ富士関は以下のように答えました。

 

「それはあります。毎日、今日が最後かもしれない、
と思って相撲を取っています」

 

この言葉を聞いて、私は大変びっくりしました。

 

確かに、秋場所の照ノ富士関は、
いつもより慎重に相撲を取っている印象がありました。
じっくり時間をかけて、有利な体制を築いてから
万全の寄りで勝つ相撲が多かったです。

 

その所作一つひとつが、「今日を最後にしないよう、
今日をしっかり終えて、明日に繋げるため」だったのです。

 

「残された時間は少ない。
だから今やるべきことを選択し全力で生きる」。
この考え方を、死生観といいます。

 

人はまだ時間があると思うと、
残された時間で何をやるべきかを本気で考えません。
時間は無限にあるだから、今やんなくてもいつかやればいい。
そうやって重い腰を上げようとしない人は大勢います。

 

しかし、以前このメルマガでお伝えしたように「時間=命」です。
死を宣告され、残された時間が少なくなると、
その時間を何に充てるべきか、人は本気で考えます。
すると、「絶対にこれをする」という集中力が出てきます。

 

このような死生観を健康なうちから使い、
「今日、自分は絶対にこれをやり切る」と
明確な意思を持って臨めば、その人の人生はもっと
充実した時間になり、幸せな人生を送ることができます。

 

照ノ富士関の「今日が最後かもしれない」との思い抱いて
土俵に上がるのは、一種の死生観だと、私は思いました。
その姿勢に、痺れるような感動を覚えました。

 

その感動が続いていた先日、
コロナ禍中で大変な思いをされている
有名観光ホテルの社長と話す機会がありました。

 

その社長の話を聴いて、私は照ノ富士関の話と
同じくらいビックリしました。

 

それは、所定内労働時間を4時間にしたことと、
その効果についてです。

 

このホテルは、社員に対し給料は従来通り、
8時間働いたのと同じ額を支払っています。
しかし緊急事態宣言下では、観光客も宴会客も大幅減。
そのため暇な時間が多くなり、4時間勤務にしたのです。

 

ところが、この短時間化で想定外の効果が生まれました。
どんな効果か、下記は同社が4時間勤務実施後に、
社員にとられたアンケート結果です。

 

・今までしてこなかった業務を覚えて、チームワークが良くなった。
(同じ時間に勤務している人数が少ないため、
他部署に応援に行くことが増え、感謝し合う関係になった)

 

・「定時まで働けばいい」の意識から、
「時間までに仕事を切り上げる」意識に変化した。
 (仕事の順序、やり方などを、逆算し、
間に合うように改善しながら取り組む)

 

・時間を無駄にしないで、
常に何かしようとする姿勢に変わった。
(自分からできることを主体的に探す)

 

・人数合わせではなく、スキルを中心に、
 考え方や力量の均一化を図ったチームをつくっている
 (ジョブ型雇用の発想)

 

・業務の効率をより考えるようになった
 (成果を測る指標が変わった)

 

勤務時間が半分になるだけで、
こんなにも前向きな人が育つとは、私には衝撃でした。

 

働きたくても1日4時間しか仕事がない。
これは働き者の日本人にとって辛いことです。
なぜなら日本人は「仕事を通して成長する」と
信じているからです。

 

だからこそ、「自分の仕事がない現実」は辛いものです。
「誰からも必要とされていない」という
耐え難い孤独や存在の軽さを感じる人もいるでしょう。

 

以前、ある食品会社の2世経営者が、
「家業を継ぐ前に3年間修業した問屋で受けた
最後の3ヶ月間の修行ほど辛いことはなった」と
教えてくれました。

 

その修業とは、「何も仕事を与えられない」修行でした。

 

なぜ、仕事を与えられなかったのか。

 

彼は、その理由を自分の指導役である問屋の部長に尋ねました。
すると、その部長曰く、
「仕事がないことがどれだけ辛いか。
いずれ社長になるのなら、それを身をもって体験しろ」

 

3か月間、ボケっと過ごすことの辛さを体験した彼は
以来、常に仕事があることに感謝し、
また社員に同じ思いをさせないために様々な手を打ちながら
今は自分が継いだ会社を大きく成長させています。

 

この食品会社の社長と同じく、
今、上記のホテルの社員たちは、
従来の半分の4時間でも仕事がある喜びを
強く感じて仕事をしているのでしょう。

 

その姿は、今日も土俵に上がれることに感謝し、
一日一番に集中して相撲を取る照ノ富士関にダブります。

 

死生観は人生を充実させますが、
「死生観を持て!」と言われても、
なかなか持てるものではありません。
これを「問い」に変えてくれたのがジョブズです。

 

「もし今日が自分の人生最後の日だとしたら、
今日やる予定のことを私は本当にやりたいだろうか?」。

 

YES!と言える日々を送りたいですね!