vol.442『中小企業はSDGsにどう取り組めばいいのか?』
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.442
by V字経営研究所 代表 酒井英之
『中小企業はSDGsにどう取り組めばいいのか?』
SDGs。知らない人はいませんよね。
今や多くの会社で重要な経営方針のひとつであり、
「御社はどんなことに取り組んでいますか?」は
就活学生から企業への定番質問です。
そこで今号は、ケーススタディ形式で
SDGsにどう取り組んだらいいのか?
そのヒントを一緒に考えてみましょう。
<ケーススタディ>
あなたは街のケーキ屋さんです。
大変人気なお店で、一番人気はロールケーキです。
このロールケーキはこのお店以外では手に入らないため、
わざわざ遠方からこのロールケーキを
買いに来る人がいるほどです。
もちろん、通販もやっています。
そんなロールケーキですが、
製造過程で一定量の廃棄物が出ます。
パンの耳に当たる部分で、
ロールケーキの形を揃えるために、
端っこを切り捨てるのです。
あなたは当初「ロールケーキの耳(以下ロール耳)」を
捨てていました。
が、ロールケーキと同じ味で美味しいため、
近所の人が毎日貰いに来るようになりました。
あなたは捨てるよりは…ということで
差し上げていましたが、
ある日この人は次のようなことを言いました。
「あなたの店は毎日大量の生ごみを出している。
自分はその生ごみを減らしてやっているのだ」。
しかも、店員に確認すると
この人は正規品であるロールケーキを
一本も買ったことがないということでした。
そのため、店主であるあなたは
だんだんこの人を苦々しく思うようになりました。
わざわざ遠くから買いに来てくださるお客様がいます。
通販で買い求める人もいます。
その一方で、ロール耳とはいえ、
近所の人に同じ成分で同じ味のする部分を只で差し上げている。
この事実に心理的な抵抗を感じたのです。
かといって、製品でもないロール耳に
特別な値段を付けて売ったり、ロール耳を集めて
新商品を創るのは「何か違う…」と感じています。
こんなとき、あなたならどうしますか?
<ケースここまで>
こうした問題を解決するには、
問題の根本=大本の発生源を見出し
それをなくすことが有効な方法です。
その発生源は、このケースの場合、
このケーキ屋さんが「大量の生ごみ」を出していることです。
それがあるから、近所の人が貰いに来るし
「ゴミを減らしてやっている」と言えるのです。
よって、これが「ゴミではない」と言えればいいのです。
それには、ロール耳が何かの材料になればいいのです。
そこで思いつくのが、これを原料としてリメイクすることです。
が、店主は「なんかそれは違う」と感じています。
では、リメイク以外に活かす道はないのか。
店主は考えました。
このとき店主が考えた対象は
ロール耳だけではありません。
近所の人には「大量の生ごみを出している」と言われました。
同店が出している生ごみは他に、
卵の殻、果物のヘタ、コーヒーのカスなど様々です。
それらの含めて使える材料になればいいのです。
そこで行き着いたのが「土に返す」ことでした。
ロール耳はバターなどの油分を多く含んでいます。
それを中和する物質と、その他の生ごみを混ぜ、
これに牛糞や馬糞を加えて発酵させて肥料にします。
その肥料を、同社の取引先である、
牧場や農家など生産者に提供します。
牧場では、その肥料で牧草を育てます。
その牧草を牛が食べます。
その牛がお乳を出します。
その乳をこのケーキ屋さんが仕入れます。
その乳が、同店の看板メニューのひとつであるプリンに使われ、
多くのお客様が笑顔で買っていきます。
このロール耳に代表される大量の生ごみが
プリンに変わる過程を同店では
「美味しい循環」と呼んでいます。
この「美味しい循環」は、サスティナブルな取り組みで
とてもSDGsに適っていますね。
しかし同店では、この取り組みを随分前からやっていて、
「SDGsのために」で取り組んだわけではありません。
今思えば、SDGs的な取り組みだった、とうことです。
あなたは、この話をどう思われましたか?
私はとてもいい話だなあ、と感心しました。
特に、店主の動機が素晴らしいです。
「なんか違う。なんか違和感。なんか苦々しい」。
こうした不快な感情は、人間なかなか我慢できません。
放っておくと大きなストレスになってきます。
だから、何とかしようとして考えて考えて
いろんな人を巻き込みながら行動した。
その結果、美味しい循環が生まれました。
近年、SDGsを重要な会社方針に加える会社は
大企業~中小企業まで大変増えています。
ただ動機は、「取引先の指示でやらざるをえない」
という義務感や「トレンドなので無視できない」
あるいは「地球の未来のために」という
美しい使命感など様々です。
その中で、どれが一番強いかといえば、
この店主のように「苦々しさ」ではないかと思います。
SDGsへの取り組みは、利益に直結するとは限らず、
敢えて声を大にして伝えれば「何を自慢しているのか?」と
言われ兼ねない地味なものです。
それを地道に長く続けるには、根底に強い気持ちが必要です。
私のクライアントにも真摯にSDGsに取り組んでいる会社が
いくつもありますが、皆、この店主のような「苦々しさ」を
ベースにしています。
例えば印刷業では「印刷物の多くはゴミになる。
自分たちはゴミを作っている」とは思いたくない、
という気持ちからSDGsに貢献する環境に優しい
ノベルティを開発し、お客様に提案しています。
また、鋳物の部品製造業では「先進国向けの大量生産品を
一生懸命作ってもなかなか感謝されない。途上国を豊かにする
多品種少量・短納期品を創るととても感謝される」という
気持ちから、建機や農工機部品に力を入れ、
自分たちをSDGs部品製造業と呼んでいます。
そこに共感するから、社員の協力はもちろん
多くのステークホルダーを巻き込んで成功しています。
あなたの会社はいかがでしょうか?
社内にある違和感、悔しさを見つめ直してみましょう。
そしてそれを根源から無くす方法を考えてみましょう。
ひょっとしたら、それがSDGsの入り口になるかもしれません。
*文中のケーキ屋さんは
(株)パティシエ・エス・コヤマ(兵庫県三田市)です。
小山社長の講演内容を元に作成しました(文責当社)。
https://www.es-koyama.com/