vol.436『成長する会社・潰れる会社のトップは何が違うのか』

V字研メルマガ

 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.436

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

『成長する会社・潰れる会社のトップは何が違うのか』

東京五輪の無観客化が決まりましたね
スポンサー企業の担当者やチケットホルダーからの
「やむを得ない」という声と同時に
「もっと早く決めてほしかった」の声が伝えられています。

有観客にこだわったのは、
菅首相や小池都知事だという報道があります。
専門家たちがどれだけ有観客開催の危険性を訴えても
昨日まで有観客でやる前提で準備がなされていたのは
トップが固執していたからです。

当たり前のことですが、
組織はトップ次第だということがよくわかります。
このことは会社も同じです。
潰れる会社・成長する会社の違いは、まさにトップ次第です。

先日、10年前に私のセミナーを受けた社長にお会いしました。
この会社は今年で創業70年。元々は材木問屋でしたが、
三代目の現社長になって自社ブランドのハウスメーカーを始めました。

同社は2007~2009年まで3年連続赤字で、
債務超過に陥りました。
この状態を打破するには、儲からない材木問屋から撤退し、
ハウスメーカーに転換するしかなかったのです。

私と出会ったのはそれから2年後で、
その頃は年間15棟を販売していました。
当時社長は30代後半でしたが、
とても勉強熱心で、人材育成に力を入れていました。
私のセミナーに部下の方々が参加されたこともあります。

同社はその後、住宅展示場に出展する
大胆なマーケティング戦略に打って出ます。
これが大当たりし、会社は急成長。
コロナ前の2020年2月期には年間97棟、
そして2021年2月期には150棟を達成します。

コロナ禍であるにも関わらず、50棟以上も受注数を伸ばし、
現在、注文住宅では岐阜県下ナンバーワンです。
そして驚いたことに社長は、3年先には500棟、
5年先には東海地区ナンバーワンの700棟を目指すと言います。

こうしたビジョンを語ると、金融機関や会計事務所は
「危険じゃないですか?」と腰が引けるそうです。
東新住建や穴吹工務店などの例もありますから
周囲が慎重になるのも無理もないでしょう。

しかし、社長がそれを望めばできるのが経営です。
相撲界では、「横綱になろうと思わなければ横綱になれない。
三役でいいやと思ったら、三役にもなれない。
関取でいいやと思ったら関取にもなれない」という格言があります。

経営もそれと同じで、150棟でいいやと思っている人が、
偶然でも700棟にたどり着くことはないでしょう。
700棟やるぞと思って500棟で止まることがあるかもしれませんが、
700棟やるぞと思わない限り、700棟の実現はあり得ません。

そこで、なぜ700棟やりたいのか社長に尋ねると、
次のような答えが返ってきました。
「当社は、現在創業70年です。
私は三代目で、100年続く会社の基盤を作る使命があります。
そのために、今後30年続く事業、人材、財務を作りたいのです」。

この言葉に、単に棟数だけを追いかける
ベンチャーの社長とは明らかに違うと感じました。

社長は上記のように3年連続赤字の債務超過、
先代のビジネスを見切るという
長寿企業特有の「死の谷」を一度超えた経験があります。

それが、今後ピンチになったときでも、
彼が見栄やプライドに固執せず、
迅速で適切な意思決定ができる原動力になるでしょう。

こうした勢いのある会社を見ても、
やはり会社はトップ次第だと思います。

逆に、潰れる会社の原因の1位もトップです。
下記は昨年、弊社で行った日本ファミリービジネス
アドバイザー協会の西川盛雄理事長の
『三代続く同族会社の10大鉄則』の中で、先生がおっしゃっていた、
ファミリービジネスが潰れていく共通の原因です。

・会社の私物化
・公私混同
・ガバナンスの欠如(気が付いていても放置)
・経営に無関心
・現場を見ない、社員の声を聴かない、客先に行かない
・継承問題の取り組みの失敗
・規律なき身内の関与
・家族の紛争が経営に波及する
・株式の分散
・人を育てていない
・書き物としての理念はあっても理念なき経営
・時代の変化への適応ができない
・個人から組織、仕組み化への切り替えの失敗

いずれもトップの問題です。
そして 先生はファミリービジネスが三代続けて
繁栄する条件の一つに次を挙げています。

「次世代を強くする。
残すべきは金でなく知恵と仕組みである。
後継者問題に早めに着手し、幹部社員を育て、
ファミリー社員が貢献しやすい環境を整えていく」

上記の700棟を目指している社長も、現在40代後半ながら
後継者のことを考えて、会社をホールディング化しました。
既に所有と経営の分離を視野に入れているのです。

話を五輪に戻します。
タラレバですが、もっと早く無観客化を決めていたら、
無観客を前提にし、バーチャル・リモートを駆使した
全く新しい五輪の姿を、わが国は世界に発信できたかもしれません。

が、ここまで粘ったがために、結局は
「従来型のモデルに観客がいないだけ」という
新しさのない、単に寂しい五輪になってしまいました。

会社でも国でも組織はトップ次第。
西川先生の「次世代を強くする」の大切さを改めて認識しました。