vol.437 『「自分には向いていない…」と諦めがちな社員の苦手意識克服法』

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.437

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

『「自分には向いていない…」と
  諦めがちな社員の苦手意識克服法』

 

東京都で緊急事態宣言がまた出ましたね。
もう何回目かわからないくらいですが、
「効果はないだろう」と予想する人がほとんどです。

 

「経験的無力感」という言葉をご存知でしょうか?
これは何度やってもうまくいかない場合、人はやる気を失い、
「どうせ出来っこない。うまくいかない」
さらには「私なんかダメだ」と
自分で自分にダメ出しをしてしまう無気力状態のことです。

 

まさに日本国民は今、この経験的無力感に
苛まれているように思います。
「緊急事態宣言」だからとステイホームしても、
事態は改善しない。だから守っても仕方ないという無気力です。

 

例えば、小学校の「駆けっこ」で足の遅い男の子がいたとします。
一生懸命走るのですが、どうしても50M走で
9秒以上かかってしまいます。
何度やってもクラスでドベの足の遅さです。

 

その子はクラスメイトからは足の遅さを馬鹿にされるし、
国体選手だった親からも「親に似ずどうしてこんなに
脚の遅い子が生まれたのかしらん?」と言われる始末。

 

こうなると、「自分は走るのは大嫌いだ」
「走ることは苦手だ」「自分には向いていないんだ」と、
自分で自分に信じ込ませ、駆けっこや陸上競技を
「絶対無理」と拒絶しようとします。これが経験的無力感です。

 

この駆けっこが遅い子は、他ならぬ私です。
50 M で8秒台を出したことは、私の人生で一度もないです。

 

その原因が何かわかったのは大学生の時です。
私が走るシーンを見ていた陸上部出身の友人が
「酒井、お前、なんで肩上げて走るの?」
と言ってくれたことがきっかけでした。

 

私は走る時に肩を上げたままの姿勢で走っていました。
それによって手の振りが遅くなり、
結果的に足の遅い人になっていたのです。

 

「なんだ、そうだったのか」と驚きましたが、
それまで誰一人、そんな簡単なことを教えてくれませんでした。

 

学校の授業では「正しい走り方」など習いませんでした。
そのため、早く走れるかどうかなんて
持って生まれた天性のもの以外何者でもないと思っていました。
故に、努力のしようもなかったのです。

 

実はこの経験的無力感は、職場でも随所に見られます。
何度やっても効果がないために社員の中に苦手意識が生まれ、
いつしか「自分は向いていない」と諦める社員の
なんと多いことか。

 

例えば「改善提案」について考えてみましょう。
多くの会社に「改善提案制度」があり、「いつでも提案して」
「半期に〇件出せ」「月に1件出せ」などのルールがあります。

 

この課題に対し、最初からできてしまう人がいるのです。
一方できない人は、ちっともできません。
なぜなら「改善提案の出し方」「改善点の見つけ方」を
習ったことがないからです。

 

ではどうしたらその人たちが
改善提案を出せるようになるのでしょう?
以下はその基本的なやり方です。

 

まず、改善提案を2つのSTEPに分けます。
第1STEPは「改善すべき点を見つける」。
第2STEPは「どう改善すべきか改善策を出す」です。

 

このうち、最初は第1STEPに集中します。
現場の社員は改善すべき問題点の指摘をし、上司に提出します。
上司はそれを集め、第2STEPである
「どう改善するか」を話し合い、実施します。
つまり、社員と上司で
「見つける人」「解決する人」の分業するのです。

 

このとき上司は社員に「いい気づきをありがとう。
あなたの指摘でとても良くなったよ!」と感謝します。
気を良くした社員は、実施された改善策を見て、
「こうすればよかったのか!」と学びます。

 

すると社員の中に「今度は自分で改善策を考えてみよう」という
意欲がわいてきます。そして徐々に第2STEPまで
一人でできるようになるのです。

 

問題は、社員が第1STEPで複数の指摘ができるかどうかです。
そこで、全社で毎週1題、以下のような課題を与えます。

 

第1週…「これで疲れるのですが?」を書いて提出してください
(かがむ・しゃがむ・重い・暑い寒い・暗い
などの疲れることはありませんか?)

 

第2週…「ここ危険なのですが?」を書いて提出してください
(滑る・つまずく・ぶつかる・誤動作するなどの
危険を感じることはありませんか?)

 

第3週…「仕事を中断して、これを探しています!」
を書いて提出してください
(工具や共用品、上司・部下などの仲間、ファイルなど
仕事中に手を止めて探したことはありませんか?)

 

ほかにも
第4週…「レイアウトを変更してほしい!」
第5週…「しょっちゅう、これを借りています!」
第6週…「この資料を作成する意味はあるの?」
など、毎週着観点を与えて、
その点だけのアウトプットを求めます。

 

社員は、こうした第1STEPのアウトプットを
続けることによって、「改善提案は自分にもできる」と
自信をつけていきます。

 

いかがでしょうか?これなら自分たちにもできる、
と思えたのではないでしょうか?

 

このようにちょっと習えばできることが、
習ったことがないために経験的無力感になっていることは
ほかにも沢山あります。

 

例えば「話の聴き方」「伝え方」「フィードバックの仕方」
「会議の進め方」「雑談の仕方」など
以心伝心のある国ゆえにコミュニケーション系の課題は、
誰も教えてくれず、習ったことがない人がほとんどです。

 

そのため世代間ギャップ、上司部下ギャップ、
男女・国籍のギャップ、雇用形態のギャップが埋まらず、
ハラスメント問題を抱える会社が多数あります。

 

さらに、安定成長期が長く続いたために
「ビジョンを描く」「理念を共有する」ことの
必要性を認めつつ、それができない経営者が多数います。

 

そのことが次世代の自由な発想・発言を妨げ、
世代交代が進まない一因にもなっています。

 

あなたの会社の社員たちが経験的無力感に陥る前に、
社員が学べる機会を提供しましょう。
そして社員一人ひとりを経験的無力感から救い、
働きがいを創っていきましょう。