vol.415『鬼滅の刃はなぜ共感を生んだのか?』

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.415

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

 

『鬼滅の刃はなぜ共感を生んだのか?』

 

今年のヒット商品番付が発表されましたね。
東の横綱はアニメ『鬼滅の刃』だそうです。

 

10月に公開された映画の興行成績は
歴代1位に迫る勢いですが、
『鬼滅の刃』のキャラクターをあしらった商品は、
軒並み前年越えだそうです。
とりわけ、丸美屋のカレーは前年同週比57倍!
その影響力に恐れ入ります。

 

なぜそんなに『鬼滅の刃』が面白いのか?
経営者の皆様と話していると、
「俺は『千と千尋の神隠し』の方が何倍も面白い。
『鬼滅の刃』の何がいいのか、さっぱりわからない」と
おっしゃいます。

 

そこで今回は、私の解説を20年前のヒット漫画
『ONE PIECE』と比べた魅力を2つお伝えしたいと思います。

 

第1の違いは、練習量です。
『鬼滅の刃』の主人公たちはものすごく訓練します。
厳しい師匠の教えに、泣きながら鍛錬を積みます。
仲間もかなり不親切で、なかなか分かり合えません。

 

これに対して『ONE PIECE』のメンバーは、全然練習しません。
「悪魔の実」を食べるだけで、
すごい超能力者になれてしまうという設定です。

 

これは 『ONE PIECE』が誕生した時代は
インターネットの黎明期であったことと
無縁ではないと思います。
インターネットという新しい道具を手にした時に、
ひらめいた人はすぐそれをビジネスにしました。

 

ITバブルという現象が起きました。
そこで成功した人たちは、六本木ヒルズに住みました。
この姿が若い人たち憧れとなりましたが、
『ONE PIECE』に出てくる海賊たちの姿や思考は、
そうしたインターネット長者と重なるところがあります。

 

ところが、『鬼滅の刃』の主人公たちも悪人も
自分のスキルを徹底的に磨きます。
今、新しい道具はありません。
個人とGAFAと言われる巨大資本との差は開くばかりです。

 

自分の中にある弱さや潜在的に持っている強さと向き合い、
それを磨き続けることでしか強くなれない時代なのでしょう。
読者はどこに共感するのだと思います。

 

第2の違いは、『鬼滅の刃』の主人公たちは
他人のために命懸けで戦って死にます。
一方『ONE PIECE』のメンバー達は
よほどのことがない限り死にません。
ここも大きな違いかと思います。

 

今、誰かのために命を懸けて見たいという気持ちが
以前よりも強くなっているのではないかと思います。
人は金銭的な豊かさを求める以上に、
精神的な充実を求めています。

 

ウェブサイト上にはそうした充実感いっぱいの人々が
多くの情報を発信しています。
テレビを見ていても『セブンルール』や
『激レアさんを連れてきた』
『YOUは何しにニッポンへ』
『マツコの知らない世界』など
充実感で満たされた人々が次々と登場します。

 

そうした熱中できるものを
まだ見つけられていない人は、
そんな生き方に憧れているのかもしれません。

 

『鬼滅の刃』の主人公たちは、
自らの意思というよりも、そうせざるを得ない環境の中で
自分のミッションに気づき、葛藤しながらも受け入れ、
誰かを助けるために必死に自分を磨き、敵と戦います。

 

「置かれた場所で咲きなさい」という名言がありますが、
まさにそんな生き方への憧れが、
このアニメをヒットさせているのだと思います。

 

他にも様々な要因があると思いますが、
「上司が鬼とならねば、部下は動かん」がベストセラーとなり、
電通の行動指針『鬼十訓』が多くの会社に掲げられ、
「鬼になれ、鬼になれ」と言われた時代に育った者としては、
「鬼を滅ぼす」ことを目的に進むこのアニメは、
それだけで衝撃でした。

 

「鬼のいない時代を作る」。
確かにSDGsの実現を目指す生き方に、
粗野で誰かの血を吸う鬼はいらないでしょう。
それが「誰かのために、利他の心で勉学や仕事に打ち込む時代」の
姿かもしれません。

 

コロナに沈んだ1年でしたが、
そんな理念的な人が増えたのは、
SDGsを目指す世界市民の一員として良かったと思います。

 

コロナは早く終息してほしいですが、
利他的な生き方の人が増える一年になるといいですね。

 

今年もお読みいただいてありがとうございました。
来年もどうぞよろしくお願いします。