vol.380 『トップにしかできない3つの役割~五輪延期決定に学ぶ~』

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.380

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

『トップにしかできない3つの役割~五輪延期決定に学ぶ~』

 

オリンピックの来年に延期することが決定しましたね。
私は家族での観戦を楽しみにしていただけにとても残念です。
きっと、同じ思いの人も大勢いることでしょう。

 

今回のこの決定で、私は組織における
「トップにしかできない役割」を3つ再認識しました。
今号では、その点について解説したいと思います。

 

第1は、「中止や延期という決断は、
トップにしかできない」ということです。
下の者でできることは、トップの判断材料として
「現場には『止めた方がいい』と言う意見がある」ことを
伝えることだけです。

 

もし、下の者が「止めた方がいい」といえば、
「お前はやる気がないのか。
他にも頑張ってる人がいるじゃないか。
やる気がないならあなたが辞めろ」と言われるだけです。

 

実際に JOC の山口香理事が 、
「私の中では延期しないで開催するという根拠が見つからない」
との発言をした時に、山下泰裕会長は
「安全、安心な形で東京大会の開催に向けて
力を尽くしていこうというとき。
一個人の発言であっても極めて残念」と語っていました。
https://www.sanspo.com/sports/news/20200321/oly20032105040002-n1.html

 

会社でも同じです。
業績の悪い部門を率いる事業部長や赤字続きの支店の支店長は、
内心では「もうこんな事業や支店は畳んだ方がいい」と
思っているかもしれません。

 

が、それを口にした途端、
その責任者は更迭されるでしょう。
トップが「何が何でも黒字にせよ!」と指示されたら、
サラリーマンは「はい、やります!」としか
答えようがありません。

 

さらに「まだ黒字にならないのか。何をやっているんだ!」と
咎められたら、
「もう一度チャンスをください!次は必ず黒字にします!」と
応えるしかありません。
サラリーマンは、絶対に自分から諦めることが許されないのです。

 

延期あるいは中止という結論は、
どんな組織であれ、トップにしか出せないのです。

 

後はそのタイミングです。
人は不安を抱えている時に最も弱くなります。

 

自分の体のことを考えてみてもわかりますが、
自分が病気かもしれないと思い悩んでる時が最も弱いです。
が、診断結果が出て、「自分が病気だ」と判明したら、
そこから先は「この病気と闘うぞ!」と開き直るしかありません。

 

事実が判明したら、人はそうした強さを発揮します。
逆に言えば、非生産的な不安な時間を最小限に抑えることが
とても重要なのです。

 

このタイミングでの発表は、
「ひょっとしたら中止になるかもしれない」という、
絶望感を吹き飛ばす上で大変効果的でした。

 

第2に、次のゴールを示してくれたのは、
選手にとっても市民にとっても大変ありがたかったです。

 

時期は未定ながらも「21年の開催だ!」と
次のゴールを決めていただいたので、
関係者はこれからこの新たなゴールに向けて
調整に入ることができます。

 

もちろん様々な迷惑を被る人もいるでしょう。
この夏の収入を当てにしていたホテルや旅館業、
旅行業他、多くの方が大変な思いをすると思います。
さらに21年にさまざま予定を組んでいた方々も
それを見直さざるを得ない状況にあるでしょう。

 

ただ、そのような人たちにいちいち了解を取っていては、
事は全く前を進みません。
このような時はそれぞれの業界のトップの話を聴き、
ひと言「悪いようにしないから。自分に一任してくれないか」と
言うしかありません。

 

そういって信じてもらえるだけの関係を
日頃から作っておくこともトップの重要な仕事です。

 

もうすでに「2021年だ!」ということで動き始めた人がいます。
サッカー日本代表の森保監督は
「不安も動揺もない。積み上げはできている。
決まったレギュレーションで最善を尽くす」と
昨日のインタビューで語っています。
https://mainichi.jp/articles/20200317/k00/00m/050/180000c

 

言いたい事は山のようにあるのでしょうが、
ゴールが見えれば人はそこに集中できます。

 

トップによる新たなゴール提示は、
どんな組織であれ、関係者全員にとって
集中力の引き金なのです。

 

第3は、2021年に行われる大会の意義について
新たな意味づけを行ったことです。

 

2020年の東京オリンピックは「復興五輪」という
大義名分のもとで勧められました。

 

21年の五輪はそれに加えて、
「人類が新型コロナウイルス感染症に打ち勝った証」という
大義名分で行われます。

 

戊辰戦争の時、薩長軍が掲げた錦の御旗が官軍の象徴になり、
多くの諸藩が薩長軍に協力しました。
「公のため」という大義名分には、様々な反対意見を封じ込め、
一つの方向に人を巻き込んでいく力があります。

 

今回の「人類が新型コロナウイルス感染症に打ち勝った証し」との
大義名分は、人々の心を21年開催で一つにする上で、
十分説得力があるように思います。

 

この錦の御旗は、経営で言えば理念に相当するものです。
企業内でもこれを発信できるのはトップだけです。
トップが発信するからこそ、みんなが信じてついていけるのです。

 

以上、今回の五輪延期の決定から学ぶ
「トップにしかできない仕事」をまとめますと、
1.中止または延期の決断とスピード
2.新たなゴールの提示
3.より力強い大義名分の提示
の3つとなります。

 

是非、トップと呼ばれる立場の方は、
自分のマネジメントの参考にして下さい。

 

中止や延期の決断には、必ずマイナスの側面がついて回ります。
ただ、どんなピンチの時でも「これは何のチャンスかな?」と考えて、
ピンチをチャンスに変える V 字アップ力を誰もが持っています。

 

あなたの会社にも、取引先の会社にも、
あなたの会社の社員の家族にも、必ずそのチカラがあります。
だから人類は、いくつもの困難を克服し、
何千年もの間、成長し続けてきました。

 

そのチカラを信じて今の苦難を克服し、
21年開催に向けて、集中力を発揮していきましょう。