vol.369『職人技をデータ化するには…?』

2019/12/26

V字研メルマガ

 1回3分「ヘコタレをチカラに」vol.369

 by V字経営研究所 代表 酒井英之

『職人技をデータ化するには…?』

 

あっという間に年末ですね。
令和元年は皆さんにとってどんな年でしたか?

 

私は、AIやIoTに驚かされ続けた1年でした。
現に今年の1月10日のメルマガ第330号に
以下のようなことを書いていました。

 

「その年のトレンドを読むのに、
私はマッキンゼーの企業進化論を参考にしています。

 

マッキンゼーは、企業は以下の7段階で
進化すると主張しています。

 

1.戦略が変わる
2.組織が変わる
3.システムが変わる
4.スキルが変わる
5.人材が変わる
6.風土が変わる
7.価値観が変わる
8.1に戻る(戦略が変わる)

 

そして、私は顕著に戦略が変わった年を
リーマンショック発生の2009年と位置付けています。

 

以後、1年に1つずつ進化していくと仮定すると、
今年は2016年から始まる2巡目の4年目。
「4.スキルが変わる」年です。

 

では、どんなスキルが必要なのでしょうか。
私はずばり、仕事を分解するスキルだと考えます。

 

一人の人がやる仕事には、複雑な仕事と、
単純な仕事があります。
その人でないとできない仕事と、
その人でなくてもできる仕事があります。

 

そこを切り分けて、単純な仕事や、
その人でなくてもいい事を、別の誰かにやってもらう。
あるいはAIで処理してもらう。
そのための分解スキルがとても重要になります」

 

そして、今年は実際にスキルを分解し,
生産性向上に役立てている事例を
数多く見学させていただきました。

 

今回はそのひとつである、京都府の
HILLTOP株式会社の例を紹介します。
同社は、アルミの切削加工業を営んでいます。
http://hilltop21.co.jp/

 

同社には加工専門の職人がいません。
以前はいたのですが、
職人の技を全てプログラム化したのです。

 

社員は、パソコンにデータを打ち込み
3 D CAD で図面を仕上げます。
後は夜中に機械が動いて、
朝出勤すると製品が出来上がっている
仕組みを作り上げています。

 

しかもこのプログラムは、大卒の文系卒の社員でも
半年間勉強すれば、誰もができるようになる平易なもの。
そのため、新人をたちまちのうちに
戦力化することができるのです。

 

さらに同社は、品質管理もパートなど
非正規社員が行っています。

 

品質管理は商品の出荷を判定する重要な部署。
どの会社でもベテランの正社員が担うのが通常です。

 

にも関わらず非正規社員が担当できるのは、
データ化の効果です。
出来上がった製品を三次元測定機などで計測し、
そのデータと図面上のデータとを照合します。

 

ズレがあればエラー表示が出て、出荷が停止されます。
ここに、プロの職人技はいらないのです。

 

こうしたデータ化は多くの会社が進めたいところですが、
最大のボトルネックが、技を持つ職人たちの抵抗です。

 

彼らは「自分の経験をデータ化できるわけがない」
と思い込んでいます。
よって、データ化に協力しようとしません。
また経営者も最初から「出来るわけがない」と
思い込んでいます。
この2つの思い込みが、思考を停止させるのです。

 

ところが、ヒルトップの山本副社長は
絶対にそれができると信じていました。

 

そして、職人の横に立って、
職人のやることを細かく観察し、
所作のひとつひとつを、
エクセルの1行1行に打ち込んでいったのです。

 

自分の技がマニュアル化されることにより
失職を恐れる保守的な職人に対しては、
山本副社長は次のように語りかけたと言います。

 

「あなたは、今やっている仕事が
これから5年10年先も続くと思いますか?」

 

すると職人は「それはないだろう」と答えます。
そこで山本社長は、以下のように続けます。

 

「であれば、新しい技術を習得するしかないよね」
「人間のキャパには限りがあるんだよ」
「新しい何かを入れようとしたら。、古いものを出すしかないよ」
「私はあなたにもっと成長してほしいと思ってるんだ」
「成長するためには今の技術を吐き出して、
新しいものを入れるスペースを作る必要がある。
だから、今の技術を吐き出してみない?」

 

こうして職人の協力を引き出しながら、
職人技のデータ化を地道に進めていったのです。

 

このような仕組みは、最初に作るまでがとても大変です。
が、一度作ってしまうと、
スピードやコスト優位性はもちろん、
人財募集・育成の点でも他社との差別化要因になります。

 

2020年は、冒頭に紹介した
マッキンゼーの企業進化論では『人財』の年。
「モノをつくる前に人をつくれ」と言いますが
人を採用できない時代に
どうやってモノをつくればいいのでしょう?

 

モノづくりに携わる経営者は
自社の未来が描くために、そこを考え
アクションを起こす年になりそうです。