vol.351『売上目標は本当に必要ですか?』

2019/07/18
V字研メルマガ 

 1回3分「ヘコタレをチカラに」vol.351

 by V字経営研究所 代表 酒井英之

コラム『売上目標は本当に必要ですか?』

今年も後半戦に入りましたね。
皆様の前半戦はいかがでしたか?

先日、ある後継社長からこんな質問を受けました。

「酒井さん、売上目標がない会社ってあるのでしょうか?
弊社は今、中期経営計画を立案しています。
が、これまで売上目標を掲げたことがないのです。
そこで掲げなくていいものかどうか迷いまして
いろんな書籍で調べてみたのですが、
どこにも『売上目標がなくてもいい』とは書いてないのです。
実際のところはどうなのでしょう?」

この会社は製造業で、オンリーワンの技術を持っています。
また無借金経営で、資金繰りに困ってはいません。
そのため、これまで売上目標がなくても
経営に支障がなかったのです。

では実際に売上目標がない会社があるかといえば、あります。
以下にその代表的な3社をご紹介しましょう。

第1は、長野県にある中央タクシー(株)です。
このタクシー会社は、稼働率がなんと98%という高さです。
これは通常のタクシー会社の3倍の水準で、
簡単に言うとほぼ一日中、空車がない状態です。

稼働率が高い要因は、ホスピタリティの充実です。
運転手の皆さんが大変丁寧で親切な応対をしてくれるので
「中央タクシーしか乗らない」というお客様が大変多いのです。
そのため、タクシーが予約で埋まってしまうのです。

稼働率98%の会社が、
売上目標を掲げたら目標達成のために社員は、
長時間労働を余儀なくされてしまいます。
このようにフル稼働状態が続いている会社では
売上目標を立てないケースがあります。

第2は、福井県にある清川メッキ工業(株)です。
同社は主に自動車部品のメッキ加工をしています。
売上目標を持たない理由は、売上を求めて営業活動をすると
どうしても「値段を下げて受注しようとする」からです。

値段を下げて受注をすると、同業者の仕事を奪います。
さらに値段を下げて取引をしたお客様は、
もっと安い値段の会社があればそちらへ去っていきます。
「営業活動するとろくなことがない」と清田社長は言います。

同社の受注活動の主体は、展示会への出展とホームページです。
この二つで引き合いは年に500件ほどになります。
そうした引き合いに一件一件に、試作費をいただいた上で
試作を作って対応することで新規受注先を開拓しています。

自社製品を持たない同社の売り物は技術力です。
こうして価格勝負より技術力勝負に持ち込んでいるのです。

第3は、岐阜県の未来工業(株)です。
同社は主に電気工事業者が使うツール類を開発し、
問屋を通して全国販売しているメーカーです。

同社の特徴は製品の独自性の高さにあります。
その開発に最も必要な情報は、
現場の電気工事業者が「今、何に困っているか」です。
それを知るためには、営業担当者が工事現場に行き、
直接困りごとを聞いたり、工事を観察する必要があります。

ところがもし営業マンに売上目標を持たせてしまいますと
営業マンは工事現場に行かず問屋ばかりに行ってしまいます。
そして数字を作るために無理に在庫を取らせる
押し込み販売をしてしまいます。

これは同社が目指す問題のお客様へのお役立ちを目指した
営業活動とはかけ離れた姿です。
そのため営業目標を設定しないのです。

これら3社に共通することは、
一番やりたいことがお客様の満足の追求であること。
そのために会社として集中すべき対象が
ホスピタリティや技術力の向上、現場観察など明確で、
その実行のためは「売上数字を追う」活動が
阻害要因になってしまうことです。

この経営姿勢は、世の中で常識と言われてることでも、
自社の目指すところに合わなければ
それに従う必要はないということを示しています。

自社が一番やりたいことは何なのかを見極めましょう。
そして、 冒頭の質問をくれた社長のように
「なんかおかしい」と感じたら、
常識を疑う癖を身に付けたいものです。