vol.530『ダイハツが再建に向けて見直すべきこと』

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.530

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

『ダイハツが再建に向けて見直すべきこと』

 

また大企業で不正が発覚しましたね。
トヨタ系列のダイハツです。

 

激しいスズキとの首位争い。
それに勝つべく短期間で開発、生産するよう
社内には指示命令が飛んでいたようです。

 

こうした会社では、
「何が何でも納期に間に合わせろ!」
「できない、なんて言葉はわが社にはないだ!」
「出来なかったらどうなるか。わかっているだろう」
「足りないのはスキルじゃない、お前の覚悟だ」
「黙って俺の言うことをきいていればいいんだよ」
など、現場に圧力をかける言葉が横行していたと推察します。

 

きっと、ダイハツの社員たちは
不正なんか死んでもしたくなかったと思います。
が、間違ったことを「これ、間違っていませんか?」
と、言えない空気だったのでしょう。

 

「やってはいけない」とわかっていることに
手を染めざるを得なかった社員の胸の内は
いかばかりだったでしょうか。
想像するだけで苦しくなります。

 

発表されていませんが、
こんなプレッシャーのかかる職場では、
メンタルヘルス不調を起こす人が何人もいたでしょう。

 

短期的な利益を追求するために効率を重視し、
パワーマネジメントで人を動かす経営は、
非常に残念な結果に繋がります。

 

今回、ダイハツの社長やトヨタ出身の副社長も
「経営幹部に責任がある。不正を働いた社員は犠牲者だ」と
発言しています。まさにその通りです。
経営幹部が現場に足を運ばず数字ばかりを見ているから、
現場の社員の苦悩に気が付かないのです。

 

では、ダイハツはどうしたら立ち直れるのでしょうか?

 

メンタリング・コンサルタントとして著名な福島正伸先生は
「困ったなと思うほど解決できなくなる。
楽しいなあと思うほど、解決できるようになる」
と語っています。

 

この言葉を借りれば、
ダイハツが再建に向け最初に踏み出す一歩は
社員が「仕事が楽しい」と感じられるようにすることです。

 

「楽しい」と感じられる基本は、人間関係が良好なことです。
社員がお互いを「あいつは実は凄いんだぞ!」と認め合い、
生産性を上げるためにどうしたらいいか、
いろんな知恵を出し合って取り組める関係です。

 

例えば、生産性向上に新たな設備が必要であれば、
自分たちでその設備を探し、選び、稟議書を書きます。
そうして調達した設備を、皆が我が子のように大事に扱います。

 

そして目論見通りに生産性が上がったら、
それを誰か一人の手柄にせず、
「私たちは最高のチームだよね!」と皆で讃え合う。

 

スピードが上がって生産性が高くなると、
1時間で1個できたのが、2個できるようになります。
が、ここであえて2個は作りません。
1.5個程度に留めます。すると、時間に余裕ができます。

 

その時間を、仲間とミーティングに充てます。
ミーティングでは、将来のビジョンを描いたり
経営理念について話し合ったり、勉強会を開催したり
5Sを徹底したり、改善点を話し合ったりします。
そうした活動の中で、「あいつすごいな!」と
お互いを認め合える関係を作っていきます。

 

社長は、そんな社員を大切にします。
例えば給料袋に社長のメッセージを入れたり、
ネット上に社長ブログを公開したりして、
社長が今考えていることを、社員に直接伝えます。

 

これによって社長と現場社員との情報格差をなくします。
トップ層と同じ目線で現状を認識した社員は、
今、自分たちが何を求められているのが
自分で考え行動するようになります。

 

社員の誕生日にはバースデーケーキを贈り、
職場の皆でお祝いをする社長もいます。
どうしても温かくて美味しい昼食を食べて貰いたいと、
食堂を整える社長もいます。
メンタルヘルスのために産業医を代える社長もいます。
そうした社長の想いに、社員は必死で応えようとします。

 

すると、本当に生産性が上がります。
お互いの関係が良くなると、
現場から改善のアイデアがどんどん出るようになります。
困っている人が「ヘルプ!」と発信しやすくなり、
お互いで助け合うようになります。
こうした環境の中で、主体性を発揮する社員が増えてきます。

 

こうした会社は初任給を上げることができます。
初任給を上げれば、新人が入ってきます。
その新人を職場のみんなが一生懸命応援します。
新人が仕事をひとつ覚えて嬉しそうにすると、
周囲の先輩たちが、一緒になって喜びます。

 

この環境下で育った新人は、その翌年、
新たに入社した新人を教える側になって一生懸命育てます。
こうして若手社員が育つ仕組みができ上がります。

 

結局のところ、成熟産業に身を置く企業が
働き方改革を実現しながら高収益体質に転換する
手段はひとつしかありません。
それは、「あり方」を変えることです。

 

短期的な利益を求めて効率を重視し、
上位下達で人を動かす右肩上がり時代の
ビジネスの「あり方」を180度変えるのです。

 

仕事を楽しくするにはどうしたらいいか。
お客様に強く必要とされるにはどうしたらいいか。
そのような視点で経営の「あり方」を
正すことこそ肝要なのです。

 

「あり方」が変われば、関係性が変わります。
関係性が変われば部下が主体性を発揮します。
部下が主体性を発揮すれば、
改善案が多数出て、生産性が上がります。

 

生産性が上がれば、賃金が上がります。
賃金が上がれば、新人を採用できます。
新人が育てば職場は活気づきます。
それを見たお客様が、「この会社なら大丈夫だ」と
強く信頼してくれます。そうすれば利益が増え、
賞与が上がり、社員の満足度も高めることができます。

 

こうした 好循環を創ることが経営者の仕事です。
そのスタートは、自分の「あり方」を見直すことです。

 

そこで、あなたの会社の「あり方」について
質問したいと思います。
この質問を教えてくれたのは
「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」で
中小企業庁長官賞を受賞したことのある
(株)沢根スプリングの沢根会長です。

 

問1.仕事は楽しいですか?
問2.経営の目的は何だと考えますか?
問3.トップは、「こんな会社にしたい」という明確な
   イメージを描いて発信していますか?
問4.社員の皆さんは、「自社の存在意義」を端的に言えますか?
問5.問4は幸せや楽しさにつながるものですか?

 

あなたが社長なら、これらの質問に即座に答えられるでしょうか。
あなたが幹部なら、社長と同じ答えでしょうか?
そうであれば大丈夫。
きっと三方よしのいい会社を創ることができるでしょう。