vol.529「堂々と値上げ要求ができる会社・できない会社」

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.529

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

「堂々と値上げ要求ができる会社・できない会社」

 

先日、中小企業庁から弊社にアンケートが届きました。
アンケートの内容は、
「原材料やエネルギーコスト、人件費などの
原価上昇分を売価に反映できましたか?」。

 

価格政策は中小企業の大きな課題ですね。
あなたの会社ではいかがでしょうか?

 

近年、大手メーカーと中小の部品メーカー関係性が
大きく変わってきています。

 

一般に大手メーカーは、部品メーカーの担当者に
生産量と納期を指定し、さらに
「この値段で作りなさい」と価格も決めて発注します。

 

この要求に、「とてもその条件ではできません…」と渋ると
「もう貴社には頼まない。他に出す」と袖にします。
転注されたら、部品メーカーは生きていけません。
仕方なくその要求を呑みます。

 

が、昨今はこれが通じなくなっています。
大手メーカーの購買担当者が
部品メーカーに発注しようとしても、
「貴社とは取引できません」と断られ、困っているのです。

 

とりわけ、小ロット多品種生産や
カスタマイズした多品種微量・単品生産ができ、
即納力、納期遵守力に優れた部品メーカーは強いです。

 

そのような会社には、他にはない加工技術や
鍛え抜かれた匠の技、高速段取替え技術があります。
実績に裏打ちされた深い知見と
期待を超える設計・提案力があります。

 

そこに魅力を感じた大手企業は、
次々とオファーを出します。
その結果、取引先は国内外に広がり、
全体売上に占める特定顧客依存度は小さくなります。

 

そのため、大手メーカーの依頼に対し
「当方がお受けする条件は〇〇です。
もし、それを認めていただけないのであれば、
お引き取り下さい…」と、断れるのです。

 

つまり、量産品時代は大手メーカーが
部品メーカーを選んでいましたが、
小ロット・多品種・即納生産の時代になり、
部品メーカーが大手メーカーを選ぶ立場になったのです。

 

が、ここでひとつ問題があります。
中小の部品メーカーの営業担当は
強気で条件提示をしているわけでは
ないということです。

 

皆、苦渋の思いで条件を出しています。
出せるものなら材料費等のコスト上昇分は
現場の知恵と工夫で吸収して
なんとか従前どおりの価格で出したいのです。

 

なぜなら、日本人には「高く売ること=悪いこと」、
「儲けること=卑しいこと」という先入観があるからです。

 

欧米にはこの意識がありません。
彼らは仕入れ値が上がれば、
それをそのまま売価に反映します。
それが、今の世界的なインフレに繋がっています。

 

わが国がそうなっていないのは、
企業が自分たちの努力でコストの上昇を吸収しようとする
意識と努力の賜物です。

 

ではこの意識はどこから来るのでしょう。

 

それは、徳川幕府の政策です。

 

徳川幕府は、自分を脅かす大名が
出てこない仕組みを作りました。
その一つが、武家諸法度等の法律に従わなければ
所領没収の罪としました。お家取り潰しです。

 

これを恐れた庶民の中に
「上の人(お上)には決して逆らってはいけない」という
意識ができました。

 

もう一つ、大名が財力を持つことを恐れました。
そのため「士農工商」という身分制度を作り、
商いをする商人を最下層にします。

 

そして、「武士は商売をしてならない」と、
武士の商売を禁止します。それを徹底するために
「金儲け=卑しい」「値上げ=悪」の概念を
庶民に刷り込んでいきます。

 

江戸時代は300年近く続きました。
江戸末期に生まれた『水戸黄門漫遊記』はそれを描き、
以来、圧倒的に支持されました。
それが、わが国のビジネスマンの
潜在意識に根強く残っているのです。

 

それゆえに、なんとか価格転嫁を回避できないか考えます。
が、今日の材料費他のコストの高騰を
吸収するのには限界があります。
値上げに踏み切るのは、当然のことなのです。

 

こうした固定概念を打ち破るには、
社長の後押しが欠かせません。

 

特に、「客である俺のいうことがきけないのか!」と
高圧的な態度をとる顧客には、
営業担当者が堂々と渡り合えるよう、
社内で意識改革をする必要があります。

 

そこで、私の部品メーカーのクライアントでは、
社長と部長3名、若手社員4名の計8名で
「お客様とは何か」という言葉の定義を
以下のように作成しました。

 

「お客様とは…
1.私たちへの『社会の期待』を明確に示してくださる方
2.期待に応えた私たちに、しっかり『ありがとう』を
  感じていただける方
3.その上で私たちを評価し、社員を笑顔にしていただける方」

 

解説すると、「『社会の期待』を明確に示してくださる方」とは、
「共に社会に役立ちましょう。そのために一緒に〇〇しましょう」
と語り掛けてくれる人が顧客、という意味です。
〇〇には、例えばSDGsのゴール達成などが入ります。

 

「『ありがとう』を感じていただける方」や
「社員を笑顔にしていただける方」とは、
自分たちを下請け扱いしないということです。

 

「貴社のお陰で、当社がある」と認めてくれる方が顧客であって
「金を払っているのだから言うことをきけ」等の姿勢を示す方は
そもそも私たちの顧客ではないという意味です。

 

まして10,000個に1個の不良があったときに
「貴社はどんな管理しているのか!」と
怒鳴り込んでくるような顧客は顧客ではないのです。

 

これくらい強く言わないと、中小部品メーカーに染みついた
「大手メーカーは神様。逆らってはいけない」とか
「金儲けは卑しいこと」という、徳川以来の潜在意識は
払拭できないのです。

 

あなたの会社の営業担当はどうですか?
使命感を持って値上げを要求できていますか?

 

もし、躊躇しているようなら、
顧客とはどういう人を指すのか、定義してみましょう。
そして、それを全社員で共有し、
今の時代に相応しい価値観を社内に定着させましょう。

 

*弊社は個々の企業に則した、自社ならではの
言葉の定義づくりのサポートを行っています。
「顧客とは」以外にも「プロフェッショナルとは」
「リーダーシップとは」など、社員が社長と一緒に考え定義すると、
価値観が揃い、組織の意識改革を促す効果があります。
関心のある方は、下記までお気軽にお問合せください。


https://vjiken.com/mf/index.html