北見昌朗氏

北見昌朗先生×酒井英之

30年以上にわたり蓄積したビッグデータをもとに、企業の給与や人事のサポートを行う「北見式賃金研究所」の北見昌朗先生。その賃金サンプル数は全国でもオンリーワンであり、雇用保険事務手続きや離職票作成、就業規則作成の件数では、愛知県No.1を誇ります。質問を投げかけると瞬時に数字が出るキレの良さと、朗らかな笑顔が先生の魅力です。今回は、現場を知るからこそ語れる今後の日本経済や理想の働き方、そしてトップに立つ人間がどのように経営すべきかについて伺いました。

酒井:
先生、今日はありがとうございます。先生は当地区No.1の社労士事務所「北見式賃金研究所」を経営されています。社労士業界では珍しく、先生は情報発信力に力を入れておられ、今日のインタビュー会場も、中小企業経営者が集まる研究所内のセミナールームです。私もここで何度も登壇させて頂き、たくさんの経営者の皆様との出会いがありました。今日は社長の気持ちが分かり、社長を援ける社労士の先生としてお話を伺いに参りました。

北見:
ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いいたします。

酒井:
最近はまた新しい目標に向かってチャレンジされておられるとお聴きしましたが、それが建設業の賃金調査なのですか?

北見:
建設業に特化した賃金調査「ズバリ! 実在賃金(建設業版)」は、最近完成したばかりです。ここに見本 を載せました。

注:ネットに載せているグラフには金額を示す目盛を載せていません。

建設業は資格の有無が重要ですので、どの資格の持ち主がいくらの賃金をもらっているか実態調査しました。次のような資格で、それぞれに記号を付けました。

  • 技術士
  • 一級建築士 、二級建築士
  • 1級建築施工管理技士、2級建築施工管理技士
  • 1級土木施工管理技士、2級土木施工管理技士
  • 1級電気工事施工管理技士、2級電気工事施工管理技士
  • 1級管工事施工管理技士、2級管工事施工管理技士
  • 1級造園施工管理技士、2級造園施工管理技士
  • 1級建設機械施工管理技士、2級建設機械施工管理技士
  • 1級電気通信工事施工管理技士、2級電気通信工事施工管理技士
  • 第三種電気主任技術者
  • 第一種電気工事士 、第二種電気工事士

酒井:
凄いグラフですね。

北見:
サンプル数は全国から集めた5413人で、みな社員数300人以下の中小企業です。

酒井:
記号の大きさが違いますが、どんな意味ですか?

北見:
記号には大中小があります。大は役員、中は管理職、小は一般社員です。

酒井:
具体的には?

北見:
1級建築施工管理技士の記号を探すと、その持ち主が一杯いるのがわかります。それをじっと見ると、例えば
「50歳 1級建築施工管理技士 管理職」の年収・月収
「30歳 2級管工事施工管理技士 一般社員」の年収・月収
 がわかるようになっています。

酒井:
初めてみたグラフですが、こんな前例があるのですか?

北見:
ないと思います。

酒井:
建設業というのは人手不足ですから、賃金に関する関心も高いのでは?

北見:
凄い反響です。建設業専門の賃金セミナーを開いていますが、おかげさまで好評です。

酒井:
時代の先取りですね。

北見:
そうありたいですね。集めた賃金データを元に、2025年には「これだけは知っておきたい中小建設業の賃金管理(仮題)」を著す予定です。

酒井:
調査されているのは建設業だけではないですよね?

北見:
もちろんです。全産業を対象に調査しています。
賃金データは毎年全国各地から3万人以上集まってきます。これと比較すれば、自社の賃金水準を把握できます。管理職の方も含まれていますし、自社の給与が高いか低いか、他社がいくら上げているかも一目瞭然です。こうした事実やデータに基づく企業コンサルティングを行っています。

毎年4月になると、課題は給与改定や初任給ですよね。そこで『ズバリ!実在賃金』として2月に発表します。各銀行主催の経営者向けの賃金セミナーも毎回200社以上の参加があります。

後継者のいない顧客に対して、会社を買いたい顧客を引き合わすM&A仲介業を始める

酒井:
話は変わりますが、最近ある会社の社長になれたそうですね? 北見先生はこのようなご本を出されておられるので、M&Aを自らも実践されたのですか?

https://manda-successful.com/

北見:
はい、双光エシックス(株) という会社の社長に2024年1月に就任しました。もともとは(株)北見式賃金研究所の顧客でしたが、後継者がいなくて困っておられました。そこでご縁がございまして、お譲りいただきました。

酒井:
業務内容は何でしたか?

北見: 
文書の電子化です。スキャニングをしてPDFにしています。

酒井:
社労士という本業とは無縁のようですが、社長になられていかがですか?

北見:
スキャニングは最先端設備を駆使しますが、本質は人海戦術です。社労士事務所も人海戦術ですから、その点は同じです。あまり違和感はありません。

酒井:
戸惑いはありませんか?

北見:
最初はありました。でも半年以上経って、ようやく馴れました。ビジネスというのは、誰に、何を、いくらで売るのか?です。そのビジネスの戦略は、業種が変わっても基本的に変わらないと思います。

この双光エシックス(株)という会社がこれからも、これからも存続発展できるようにします。

酒井:
M&Aは失敗事例もあると聞きましたが、成功の秘訣とか条件はなんですか?

北見:
人が付いて来るかどうかだと思います。一番大事なのは賃金、つまりオカネです。私の場合は、社員一人一人にお会いして要望を聞きました。いろいろな不満の声もありましたので、改善をしました。

私はいつも思うのですが、人はオカネをもらうために会社に来ているのです。そこを良くしてあげる努力をすれば、人は付いてくると思います。

酒井:
賃金のコンサルタントとしてのノウハウが活きたのですね?

北見:
はい、そのまま活きました。

酒井:
最近は、M&Aのセミナーを開き、自ら仲介業もされておられますね。

北見:
はい、(株)北見式賃金研究所は顧客が愛知県中心に400社以上あり、優良な中堅中小企業の集まりです。後継者がないところは数十社あります。最近は子供がいても継いでくれないケースが多い。その一方で会社を買いたがっているところも多数です。そこで(株)北見式賃金研究所はM&A仲介業を始めました。顧客に顧客を紹介するというわけです。

酒井:
後継者対策ということですね?

北見:
そうです。後継者対策です。

酒井:
すでに結び付いたケースもありますか?

北見:
はい、食品会社A社と食品会社B社を結び付けました。A社は、(株)北見式賃金研究所の古い顧客で、社長は当時85歳でした。間に入ったのが北見昌朗でしたので、すぐにお互いに信頼関係を築くことができ、すんなりと株式譲渡契約に至りました。その契約書にハンコを押した途端、A社の社長にガンが見つかりました。その社長から「ありがとうございました」といわれた際は、ジーンと込み上げるものがありました。

酒井:
世話好きなのですね。

北見:
はい、根っからの世話好きです。最近は実は結婚紹介業も始めました。「業」といってもオカネを取らないのでボランティアです。顧客の子弟の結婚のお世話をさせていただいております。

酒井:
なぜそこまで?

北見:
親にとり子供の結婚は最大の関心事です。とくに会社経営の場合は、後継者問題に直結します。

酒井:
結婚に至ったのは?

北見:
まだ全然です。女性からお断りされるケースが多いですね。

我が師は遠山昌夫先生 ~独自の商品を創って世に貢献するのが経営~

酒井:
(株)北見式賃金研究所さんは随分ご発展の様子ですが、どんな状況ですか?

北見:
1995年に創業して31年になりました。売上高4億円、職員数40人(うち社労士の有資格者18人)です。名古屋市内では最大級だと思います。

酒井:
売上は安定的ですよね?

北見:
はい、(株)北見式賃金研究所はスポット仕事が受けていませんので、売上高の95%は月極の基本料金です。

酒井:
コンサルタントとしては理想的なビジネスモデルですが、どこかに先生がおられるのですか?

北見:
はい、菊水化学工業(株)の創業者であられる遠山昌夫先生が、我が師匠です。私が中部経済新聞にいた頃から可愛がっていただきました。

遠山昌夫先生は1930(昭和5)年生まれで、終戦直後、裸一貫で塗装業を始められました。その後、自ら塗料の改良を志し、59年に建築塗料メーカーの菊水化学工業を設立されました。一代で上場企業に育て上げられました。

遠山先生からいわれたことです。
「お客様のところに行って、今何に困っておられるのか聞きなさい」
「世の中のお役に立つものを創るのです。目先の損得勘定など不要」
「寝ても覚めても考え続けて、新製品を創るのです」
「その商品を愛しなさい。心中できるほどにだ」

この言葉はメモして手帳に貼っています。忘れないようにいつも見ています。

酒井:
具体的には、経営にどう生きたのですか?

北見:
遠山先生は、現地現物とか、現場主義という言葉を使われます。その精神を学んで、私流に取り組んだのが賃金調査「ズバリ! 実在賃金」です。それまで賃金調査というのは役所がやるものでした。それを民間人が行うのは、発想としてもありませんでした。

酒井:
あの賃金グラフの産みの親は、その先生だったのですか?

北見:
はい、「ズバリ! 実在賃金」が誕生したのは開業後10年後の2005年のことですが、それを遠山先生にお見せしたところ、激賞されました。「遠山賞」 という栄えある賞まで頂戴しました。あの嬉しさ、感動は生涯忘れられない。遠山先生のご指導がなければ、ここまでやってきませんでした。まったく、遠山先生のおかげです。

遠山賞

趣味は矢沢永吉の歌をうたうこと 

持ち歌は「Aday」。

酒井:
話は変わりますが、北見先生は今後どうされるのですか?

北見:
息子が事務所を継いでいきます。息子は弁護士で、弁護士と社労士の合同事務書です。

酒井:
会長になれるのですか?

北見:
はい、(株)北見式賃金研究所においては会長ですが、双光エシックス(株)では社長です。私は社長業を下りる気はありません。

酒井:
仕事好きですね。

北見:
僕から仕事を取ったら何もなくなってしまう。仕事をしなければ、1週間で死んでしまう。

酒井:
ところで、これまで伺ったことがないのですが、先生のご趣味は?

北見:
趣味と言えるかどうかわかりませんが、矢沢永吉氏のファンで、追っかけをしています。

酒井:
ライブで歌われたそうですね。

北見:
はい、恥ずかしながら、こんな感じ です。

https://tingin.jp/summary/profile0.html

酒井:
これは素晴らしいですね! 熱意が伝わってきます。

お仕事に対しても執筆に対しても、こういうご趣味に対しても熱い気持ちをもたれている先生だからこそ、多くの方に頼られるのでしょうね…。
私もそうなるようにこれからも頑張ります。
今日はお忙しいところありがとうございました。

プロフィール

北見 昌朗(きたみ まさお)

北見式賃金研究所 所長
1959年、名古屋市生まれ。1982年に愛知大学卒業後、中部経済新聞入社。経済記者として中小企業数千社を取材し、文章力や情報収集力を身につける。1995年に独立し、株式会社北見式賃金研究所を設立。上場企業をはじめ中小同族企業対象専門の人事・賃金コンサルタント業を始める。地元はもちろん、首都圏や関西圏等で数万人の給与を毎年調査分析。現在の顧客は400社(従業員数4万人)、売上高は4億円。『小さな会社が中途採用を行なう前に読む本』『図解 小さな会社の退職金の払い方』(共に東洋経済新報社)など、30冊を超える著書がある。