vol.463『もし、原晋監督が関東学生連合を率いたら?』

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.463

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

『もし、原晋監督が関東学生連合を率いたら?』

 

「関東学生連合」をご存知でしょうか?
箱根駅伝ファンなら
誰もが知っているチームの名前です。

 

このチームは、箱根に出場できなかった
大学の選手のうち、予選会の個人成績が
上位16名(各校1名限)で構成される、
いわゆる寄せ集めのチームです。

 

箱根駅伝の予選会は、毎年10月の半ばに行われます。
その結果で、関東学生連合のメンバーが決まります。
よって、実質チームで練習できる期間は
2か月ほどしかありません。

 

しかも、全員違う大学の学生ですから、
一緒に練習することもままなりません。

 

よって、2018年以降の順位は
20位、21位、21位、19位、20位。
毎回、ほぼ最下位です。

 

出場する選手も、
「チームのために」ではなく「自分のために」走る。
ゆえに、この成績も頷けます。

 

そんな、この関東学生連合が、
一度だけ、異常に輝いた年があります。

 

それは2008年。
なんと総合4位になったのです。
(往路4位、復路4位)
https://number.bunshun.jp/articles/-/846456

 

なぜ2008年だけ、そんな好成績が出せたのでしょうか?
その秘密は、監督にありました。

 

その時の関東学連選抜(現・関東学生連合)の監督は、
現・青山学院大学監督の原晋さんでした。
原監督が、いわゆる「原マジック」を使って
寄せ集め集団を、歴代最強チームに変えたのです。

 

そこで今号は、先週の『金スマ』で特集していた
ONEチームを創る「3つの原マジック」をお伝えします。

 

「原マジックその1」は「目標を自分たちで決める」です。
原監督は、関東学連選抜の選手を招集し、
ミーティングを開きました。そして選手に尋ねました。
「君たちは箱根でどんな成績を出したいのか?」

 

これには選手たちは驚きました。
これまで、監督が「〇〇を目指せ!」と言って、
「はい!」と答えてきた人ばかりです。
自主目標を立てたことなどないのです。

 

それを原監督は皆に考えさせました。
言われてやるよりも自分たちで目標を設定した方が
当事者意識が強くなり、主体性を発揮すると考えたのです。

 

その時、原監督はチームを少人数のグループに分け、
ディスカッションさせました。
大勢でミーティングすると、
どうしても発言しない人が出て、当事者意識が薄れます。

 

原監督はそれを避けるために
「少人数でミーティングを開催」しました。
これが「原マジックその2」です。

 

ミーティングの結果、選手たちは
「3位以内」という自主目標を設定しました。
この大会まで関東学連選抜は16、18、19、20位です。
その実績を考えれば、3位など荒唐無稽です。

 

が、原監督はこの目標を笑いませんでした。
選手たちのポテンシャルを信じていたのです。
そして「自分の役目はこの目標の実現を支援することだ」と
選手たちに約束したのです。

 

「原マジックその3」は、
チーム名を選手に考えさせたことでした。
この時も選手は、少人数のチームに分かれて議論しました。

 

そして、自分たちで「JKH-SMART」という
チーム名を考案しました。
ジャパンのJ、関東学連のK、箱根のH。
それと参加した大学の頭文字から作成しました。

 

「名は体を表す」というように、
自分たちのチームに名前が付くと、そこに魂が宿ります。
これによって、メンバーの一人ひとりの、
「チームのために走る」という責任感が強くなったのです。

 

その成果が、歴代最高の4位だったのです。

 

この「3つの原マジック」を観ながら、
弊社が行っているV字回復メソッドと同じだと思いました。
一体感を高め、成果を出す方法は、
経営でもスポーツでも同じなのです。

 

その一例を紹介します。


弊社は、この1~3月で、社員数300人近い組織の
中期ビジョンの策定を支援しました。

 

この組織は、幹部社員だけで14名います。
毎回の計5回行ったミーティングは、
14人の幹部全員が参加して行いました。

 

弊社のビジョン開発は、必ず調査から始まります。
この調査は、「自分たちで」担当してもらいます。
数人単位に分かれて現場インタビュー等の調査をし、
調査結果を読み解き、組織の課題を抽出します。

 

その課題を統合して、
「自分たちで」ビジョンを創っていきます。
時には現場のリーダークラスも巻き込んで、
ディスカッションを重ねました。

 

ディスカッションは1G当たり3~5人に
分かれて行います。少人数化することにより、
各自の発言量は増え、地位の上下関係は薄まります。
ここが「原マジック2」と符合します。

 

こうして3月初旬に、
ビジョンを「自分たちで」策定しました。
それは誰からの押し付けでない、
自分たちで実現したい納得度の高い自主目標です。

 

自分たちで目標設定させると、
無難な目標になるのではないかと危惧する人がいますが
そんなことはありません。

 

実績のない関東学連選抜が3位以内を夢見たように、
人は自分が所属している組織の一体感が高まると、
その力を信じ、内面から意欲が沸いてくるのです。
これが「原マジック1」と同じです。

 

ビジョンができたら、
自分たちの変化を表すスローガンを創ります。
これが「原マジック3」に当たります。
志を同じくする人が集まる「旗印」を創ったのです。

 

今回のクライアントが来期、
2008年の関東学連選抜並みの好成績を
残すかどうかはこれからです。
が、私はそうなるものだと信じています。

 

なぜなら、そこにいる人たちの顔つきが
明らかに変わったからです。
不安のない、決意を秘めた時にできる
前だけを向いた、いい顔です。

 

組織の一体感を創る「3つの原マジック」。
どれもすぐにできることばかりです。
あなたも実践してみてはいかがでしょうか?