vol.455『PDCAの呪縛から解放されるには』

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.455

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

『PDCAの呪縛から解放されるには』

 

いつもご愛読いただき、ありがとうございます。

 

年末ですね。
あなたは、この一年を振り返っていかがでしたか?
計画通りの1年を過ごすことはできましたか?

 

経営者から「PDCAが上手く回らないのです」という
相談をよくいただきます。
計画通りに事が進まない、という悩みです。

 

が、私はむしろそれは当然のことだと思います。
「PDCAをちゃんと回すのが上司の仕事」は、
右肩上がり時代の幻想で、
低成長の現代に「計画通り」は馴染まないのです。

 

成長市場では、先を読むのは比較的容易です。
例えば、山を切り開き新たに街を創る場合、
その街にはどんなインフラが必要で(道路、水道、ガス、電気等)
どんな施設が必要で(役所、警察、病院、学校、駅、住宅団地等)
どんな商業が必要か(総合スーパー、専門店、娯楽施設等)
容易に想像がつきます。

 

人口増加は読み間違うことのないトレンドです。
だから計画が立てやすく、一度立てたPはまず狂いません。

 

一方、低成長時代は、客数が伸びません。
そのため企業はお客様の奪い合いをします。

 

奪い合いに必要なのが、お客様のニーズに応えることです。
ところがお客様のニーズは、コロコロ変わります。
5年前、メルカリのようなC2Cサービスはありませんでした。
Uber Eatsもありませんでした。

 

今は、宇宙旅行が楽しめる時代です。
そのくらい変化が激しいですから、
先を読むことが大変難しいのです。

 

PDCAは一度作ったPは正しい、
Pは狂わないことが前提の理論です。
が、Pを立てた時と、それを実行するときに
客のニーズが変わっていたり、環境や技術の進化で
競争相手の状態が変わっていたりするのが低成長時代です。

 

直近の例ではアベノマスクがいい例でしょう。
あのマスクを創るぞ、と決めた時のPが
配布時点では、全く意味のないPになっていました。

 

また、リニア新幹線もそうでしょう。
Pを創り発表された時、市民から歓迎されました。

 

しかし、水資源に関する環境問題への意識や、
リモートワーク普及による移動ニーズの減少、
さらにコロナ禍が直撃したJR東海の赤字など
実行段階では予期せぬ環境変化が頻発し、
2027年の開通は先送りせざるを得ない状況になっています。

 

このことをPDCAサイクルの提唱者で、
品質管理の父と言われるデミング博士は当初から気づいていて
成熟時代はPDCAサイクルではなく、
PDSAサイクルを回すことが大切だと言っています。

 

PDSAのP(計画)とD(実行)は同じです。
SはStudy(振り返りと学習)で、
AはAnalyze(分析)です。

 

この真意は、Dをした後、その結果を振り返ります(S)。
想定した成果がでないとしたら、
Pを創る段階で何か読み違えたのではないかと疑い、
現状を再度分析します(A)。
そして今の環境に合うように対策を練り、
PをP‘に改善します。
その後、D’を実施するという流れです。

 

私はこのPDSA理論を10年前に知り、大変感激しました。
なぜなら、当時金融系シンクタンクで部長を務めていて、
一度作ったPDCAの呪縛に苦しんでいたからです。

 

その年、東日本大震災が発生しました。
環境は激変し、思うような活動ができませんでした。
が、「一度作ったPは絶対!」が当時の会社方針でした。

 

上層部からは思うような成果が出ないのは
「D=現場の努力が足りないからだ」と言われ、
随分責められました。そのため、上手くいかないときは
「Pから疑うべき」というPDSA理論に出会い、
精神的に随分救われたのです。

 

アベノマスクも同じです。
Pを創ったときはマスク不足でしたが、
配布された時は、市場に多くの民間のマスクが
流通していました。

 

この流通量の読み誤りが過剰在庫の根源ですが、
製造不良が多く供給が遅れたとか、
マスクメーカーの選定に問題があったなど、
Dの担当者ばかりが責められています。

 

もちろん「Pがおかしかった」という意見もありますが、
総理は国会で「正しかった」と答弁しています。
そのくらい、一度承認され、予算がついて執行された
Pを否定することはサンクコストの視点からも難しいのです。

 

リニア新幹線も同じですね。
先日、国土交通省がJR東海を指導しましたが、
本来、Pの内容を疑い、見直すべきタイミングなのに
Dを担う者を呼びつけて発破をかけても、
身動きが取れないだけです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/5ff2b076659764e51ee64034c000bed2185bd521

 

どんなプロジェクトでも
目標達達成のためのPは必要です。
が、一度立てたPを絶対視し、
それに縛られてはいけません。

 

計画通りにうまく行かないときは、
「自分たちが立てたPに読み間違いがあったのではないか?」
「時間が経つうちに環境に合わなくなったのではないか?」
と考え、柔軟にPを改めましょう。

 

Pは目標を達成するための手段でしかありません。
目標達成のためには手段はいくら変えても良いのです。
また目標は、目的を実現するための
一里塚でしかありません。

 

大切なのは、「安全で安心できる日々を、さらに快適に過ごす」
「関わる人を観な幸せにする」という目的です。
18歳以下への10万円給付の方法が
クーポンから現金の即時給付に変わりましたが、
そんな柔軟性を持ちたいものです。

 

このことは、あなたの人生でも同じです。
年末に2022年のPを立てる方も多いと思います。
何度読み返してもワクワクするPを創りましょう!
そしてPDSAを回しながら、
充実の22年にしていきましょう!