vol.417『反り立った壁を登るビジョナリー経営』

V字研メルマガ

 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.417

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

『反り立った壁を登るビジョナリー経営』

 

ボルダリングというスポーツをご存知ですか?
壁に出た突起物を掴んで駆け上がっていく競技です。
東京オリンピックの正式種目になり、
日本がメダルを期待されている競技ですね。

 

あのボルダリングを見るたびに、
私には、ビジョンを掲げて進む企業の姿が重なります。

 

ボルダリングではGoalと「登る壁」が決まっています。
その壁は大変に険しいもので、
反り返っていることもあり、
普通に考えればとても登れるような壁ではありません。

 

しかしながら、その壁を登る意志のある人には
小さな突起物が目にとまります。
そしてその突起物に手をかけて、
かかった手に力を込めて全身を引き上げます。

 

すると別の突起物が見えます。
そこに今度は足をかけ、全力でその突起物を蹴り上げます。
そしたら身体がグッと浮き上がり、
さらに別の突起物に手が届きます。
そこに手を伸ばして、徐々に徐々に壁を登っていきます。

 

この小さな突起物に手をかけて、
そこに全力を込めて自分自身を引き上げ、
不可能と思える壁を登っていく。
この姿がビジョナリーな企業とダブルのです。

 

先日、あるメーカーの5年先ビジョンを聴く機会がありました。
社員数300人に満たない中小企業です。

 

そのビジョンの一つに、
「日本を代表する超大手企業が
富士市の工場跡地で行なう
夢の次世代プロジェクトに参画する」がありました。

 

実は昨年、この次世代プロジェクトへの参画を希望する
企業の一般公募が行われました。
同社はそのとき手をあげたのです。

 

と言っても、同社は現在、その大手企業の仕事を
主力事業としているわけではありません。

 

が、自分たちの持っている技術が、
今後展開されていく次世代プロジェクトの中で
何らかの形で生きるのではないか?と考え、
その可能性にかけて手を上げたのです。

 

ライト兄弟が初めて有人動力飛行に成功したのが1903年。
アポロ11号が月目着陸を果たしたのが1969年。
この間わずか66年。人類は短期間でこんなにも進歩します。

 

新たなプロジェクトに参画することは、
こうした流れに乗ることを意味します。

 

同社が何をやるかはまだ決まっていませんし、
参画できる確約もありません。
プロジェクトに応募した企業の総数は
世界中から3000社を超えたといわれます。

 

が、同社の役員達は、
「なんとしてもこのプロジェクトの参画し、
当社の可能性を切り開きたい」と夢を語っています。

 

このビジョンを聴いた同社の社員達は、
この夢に大いに共感しました。

 

「夢の次世代プロジェクトに参画する」と語りかける
同社のトップ層の熱情と、それに応える社員の声を聴きながら、
私は、突起物に手をかけつつ困難な壁を登ろうとしている
ボルダリングの選手の姿を想像しました。

 

同社が最初に掴もうとしている突起物が、
「夢の次世代プロジェクトへの参画」なのです。

 

今、多くの経営者が5年後のビジョンを
定めようと取り組んでいます。
が、多くの社長がそれに苦しみます。

 

5年後の世界を予測するのは難しく、
なかなか確信が持てないからです。

 

が、ビジョナリー経営はそれで良いのではないかと思います。
登り方は不透明でもいいのです。
大切なことは目指すべきGoalが明確なことと、
「この壁を登る」という壁が決まっていることです。

 

そして、「まずはあれを掴む」「その次はあれを掴む」のように
キーになる突起物が見えていることです。

 

山登りもそうですが、一合登ると違った景色が見えます。
1合目、2合目と登っていると、
だんだん違う景色が見えます。

 

麓からは山頂は見えません。
目指す頂きが見えるのは、中腹を過ぎた時です。

 

ビジョナリー経営は冒険する経営でもあります。
最初から行く道が全て見えていたら、
それはもう冒険とはいえませんよね。

 

したがって「この壁を登る」と決めたら、
まず全力を挙げて目の前の突起物を掴む。
掴んだら、自社の力を次のレベルにまで引き上げる。
それを重ねていくことが、目指す壁を登りきるために
必要なことでしょう。

 

あなたの会社はこれからの5年間、どの壁を登りますか?
そして今年、全力を挙げて掴みに行く
「最初の突起物」は何でしょうか?
自社のビジョンをボルダリングの選手に置き換えて
考えてみましょう。