vol.353『 ぶれない経営「〇〇ファースト」 』

2019/08/1
V字研メルマガ 

 1回3分「ヘコタレをチカラに」vol.353

 by V字経営研究所 代表 酒井英之

コラム『 ぶれない経営「〇〇ファースト」 』

毎日暑いですね。
熱中症には十分注意してくださいね。

さて、「〇〇ファースト」という言葉をよく耳にします。

吉本の宮迫事件での「芸人ファーストじゃなかった」。
大船渡高校のエース佐々木投手が決勝戦で登板せず、
甲子園を逃した事件での
「アスリートファーストを貫いた」など…

「〇〇ファースト」は、組織として何を最優先するかの
価値観を表した言葉です。
この言葉があれば、社員は今何をするべきかの意思決定を
自分自身で考え行動することができます。
そのため、組織にとっては非常に重要な言葉です。

中でもヤマト運輸の小倉昌男社長が社員に徹底した
「サービスが先、利益が後」が有名です。

配達サービスではトラックの購入はもちろん、
人員採用など固定費が先に発生します。
だから宅急便事業は立て上げから4年も赤字続きでした。
それでも小倉社長はそれを先行投資と考え、
サービスを先に充実させました。

NHKの『プロジェクト X』 に、
ヤマト運輸が取り上げられた時に紹介されたのは
北海道の奥地に配達に行くドライバーの姿です。
雪道を片道何時間もかけてたった一つの荷物運ぶのは
とても採算が合う仕事ではありません。

こんなとき、「こんな儲からないことやっていいのか?」と
普通の社員なら迷います。
が、小倉社長は「サービスが先です。迷わず行きなさい」と
言うわけです。

なぜなら、それを貫くことによって、
「こんなに遠いところでもヤマトは届けてくれた」の
信用を得ることができます。
その積み重ねが同社の利用者を急増させたのです。

また10年ほど前ですが、
私はプロ野球の日本ハムファイターズの
藤井純一社長(当時)と対談したことがあります。

Jリーグのセレッソ大阪の社長としても
黒字化に成功した経験のある藤井社長のポリシーは、
「ファンサービスファースト」。
試合に勝つことよりも、ファンサービスこそ第一だという意味です。

ファイターズは、2004年から本拠地を北海道に移しました。
以来、北海道の皆さんに受け入れてもらうために、
オヤジナイト、屋台、物産展、乙女の祭典、選手の抱き枕販売、
オリジナルのアイス販売、「北の国から」の鼻歌合唱など
ワクワクするイベントを札幌ドームに仕掛けます。

また、当時人気だった新庄、稲葉、森本など主力選手が
ファンを試合前に入り口で出迎えてサインや握手をしたり
北海道各地のイベントに参加してゲームしたり
野球を教えるなど、大変オープンな活動をしました。

また監督の人選も「ファンサービスができる人」が第一条件です。
当時のヒルマン監督、その後を継いだ梨田監督、
そして現在の栗山監督も、皆、監督としての実績よりも
ファンを大事にする姿勢で選ばれています。

私の地元のドラゴンズはほとんどそういうことをしません。
ドラゴンズは伝統的に「選手を守る」発想で
ファンと選手の距離を置くマネジメントをしています。

そのためチームが強い時は観客動員数が伸びますが、
一旦負けが続くとお客が離れてしまいます。
逆にファイターズは上記のファンづくり効果で、
勝敗にかかわらず観客動員数が安定しています。

日曜ドラマ『ノーサイド・ゲーム』でも
ラグビーチームが地元でのボランティアが先か
練習→勝利が先かで迷うシーンが描かれていました。

こんな時、藤井社長のよう「ファンサービスファースト」と
明確に方針を打ち出して頂きますと、
選手は迷いなく試合に勝つことよりもファンと接することが
自分たちの仕事だと、今やるべきこと判断することができます。

このように「〇〇ファースト」の考え方は、
社内のベクトルをひとつにし、
組織の個性を決定づける考え方であり、
経営にとっては欠かせないものなのです。

また、その優先順位は普遍的なものもあれば
時代とともに変わることもあります。
「株主利益最優先」の考え方や、
社員への「仕事と家庭どっちが大事?」の問いは
いつしか過去のものとなりました。

芸人と顧客、社員とブランド、ファンと選手、チームと個人…
「どっちも大事だ」と言いたくなるのは人情ですが
そこを間違ったら自分が責任を取るというくらいに
腹くくって決めて、社員に伝えるのがトップの役割です。

あなたの会社の基本姿勢は何ファーストでしょうか?
是非それを考えて経営方針に盛り込んでくださいね。