vol.507「生産性向上への一番の阻害要因は何か?」

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.507

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

「生産性向上への一番の阻害要因は何か?」

 

突然ですがPQCDSMEという言葉をご存知ですか?
おそらく 真ん中のQCDSは 誰もがご存じだと思います。
企業がお客様に選ばれる基準ですね。

 

それが昨今ではあらたにPMEの3要素が加わり
現在はPQCDSMEとなったのです。

 

新たに加わった 3要素は以下の通りです
P=Productivity(生産性)
M=Motivation/Moral(モチベーション、マインド)
E=Environment(環境配慮性)
https://kaizen-base.com/column/30821/

 

いかがでしょう?
みなさん、納得ではないでしょうか?
このうち今回はPについて考えてみたいと思います。

 

時間当の生産性を高めるのは待ったなしです。
光熱費、燃料費、人件費など固定費はどんどん上がります。
その固定費を吸収するには、付加価値を高めるしかありません
つまり、1時間当たりで稼ぐ量を増やすということです。

 

ものづくりや処理をする会社であれば
1個当りを作る(処理する)スピードを早くし
より数多くをアウトプットするということです。
あるいは人件費を掛けずに自動化するということです。

 

ところが、コロナ前の2014年から19年の間、
わが国は好景気に沸いていました。

 

要因はオリンピック前の特需もありましたが、
人口のボリュームゾーンである
団塊ジュニア層が40代半ばに差し掛かり、
人生で一番お金を使う世代になったということがあります。

 

人は何歳の時に最もお金を使うかといえば、40代半ばです。
住宅、車、子供の教育費、食費等、
これらには大変多くのお金を要します。
その最もお金を使う世代の人口が増えていたのですから
GDPの半分を占める個人消費が活気づくのは当然でした。

 

同じ頃、働き方改革が進みました。
長時間労働は法律違反となり
旺盛な需要に対して、長時間労働で問題解決するという
手段が使えなくなりました。

 

そのため、営業担当の仕事は
受注して売上を上げることではなくなりました。
付加価値の高い仕事のみを受注し、手作業や、
段取り替えや、検査などが多くて手間がかかる
仕事は受けないなど、断る事が仕事になりました。

 

これは工場の作業現場がそのような判断をするからで、
当時としては賢明な対応でした。

 

ところがコロナ禍から3年が過ぎ、
世の中の状況は変わりました。

 

業種にもよりますが、成熟産業と呼ばれている業種は、
団塊ジュニアが50代に突入したこともあり、
前年割れの程度が大きくなり、いよいよ衰退傾向を示しています。

 

そのため 独自性のない会社、シェアの低い会社の仕事は、
どんどん減ってきています。
何としても数量を確保し、工場を稼働させないと、
固定費を吸収するだけの収益を維持することができません。

 

ここでボトルネックになるのがコロナ前の
営業も工場も受注をお断りするという意識です。
面倒な仕事や儲からない仕事は断る発想です。

 

確かに儲からない仕事は断った方が良いのですが、
儲からないには程度があります。
それは固定費を吸収できない仕事の場合の話です。
時間当たりの生産性を上げて、量をこなすことで
固定費を確保できるなら、赤字にはなりません。

 

限界利益を確保できるのであれば、
量をこなせば固定費は吸収でき、利益が生まれます。

 

経営者であれば、このことは常識です。
ところが、現場の営業担当者や工場の受注窓口の担当者は
コロナ前の感覚で断ってしまいます。
その結果、工場が赤字に陥るのです。

 

しかも、未だに受注減の影響をコロナのせいにできます。
「コロナの影響で受注が減っているのは仕方ない。
だから赤字は自分たちのせいではない」と思い込んでます。
しかもその赤字を補助金が埋めてくれました。

 

これによって、受注量を確保しよう、
創意工夫をして生産(処理)のスピードを上げよう、
難物にも挑戦しようという前向きな気持ちを
持てずにいるのです。

 

この傾向は、管理会計が脆弱な中小企業でよく見られます。
管理会計が行き届き、部門別の採算が見える化されている
大企業ではまず見られません。

 

大企業の管理職の仕事は、「結果にコミットすること」です。
求められている予算を達成するために、
常にあの手この手を考えます。
社員も結果を出すために、何が足りないかが見えています。
だから、過去のやり方に捉われず必死に創意工夫をします。

 

一方 中小企業はプレイングマネージャーも多くいます。
プレイヤーは「行動にコミットする」存在です。
が、マネージャーの仕事である、
「結果にコミットする」意識が脆弱です。

 

現状を数字で見ることもできないし、
仮に赤字であっても
その責任を誰が負うかも不明瞭です。

 

これは大変惜しいことです。
業績を見える化する仕組みや、会計に関する基礎知識、
誰が結果にコミットメントするかの仕組みがないため、
過去の経験だけが判断基準となり、
社員が本来持っている能力が発揮できないのです。

 

では、どうしたらいいのでしょうか?
赤字の工場を黒字化したいのであれば、
人を減らすのも一つの方法です。

 

が、一度人を減らすと、
同じスキルを持った人材を今一度集めることの難しさは
コロナに苦しんだ旅館業や外食産業、
バスやタクシーなどの観光業が証明済みです。
また、地域の人から会社に対する不信感を招きかねません。

 

ゆえに、ここはしっかり何をどれだけやれば利益が出るのか
現状を見える化し、赤字の原因を特定しましょう。

 

そして、どこをどのように変えたら黒字になるのか、
自分たちでシミュレーションして
自分たちで黒字化のための押しボタンに気づき、
それを押すよう知恵を出して取り組むより他ありません。

 

仕事が減少傾向ならば、
営業は、仮に安価とか難物と思われる仕事でも、
工場と相談です。
そして、工場はその仕事の生産(処理)スピードを
どこまで上げることができるか検討するのです。

 

営業は、限界利益割れしない限りの仕事や
骨が折れそうな難物でも受注してくる。
工場はそれの生産(処理)スピードを
どこまで上げることができるか挑戦するのです。

 

管理会計の仕組みを整備して、教育し、
新たな成功を経験させることで、
かつて成果を出した社員を、
輝ける「結果にコミットメントする管理者」へと
成長・進化させるのは、経営者の仕事です。

 

少子高齢化には益々拍車がかかります。
今、生産性向上を果たさないと未来はありません。
是非、仕組みを整備し、生産性向上に
挑戦する風土と人財を育てていきましょう。