vol.500「仕事をもっと自由闊達で愉快なものにするには」

 V字研メルマガ

 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.500

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

「仕事をもっと自由闊達で愉快なものにするには」

 

いつも、ありがとうございます。
おかげさまで本メルマガは500号に到達しました。
読者の皆さんに励まされて続けることができました。
とても嬉しいです。心から感謝申し上げます。

 

このメルマガでは、経営者の皆さんとの会話から
私が気づいたことを元に、
今時のビジネスのあり方や、
経営者が抱えている課題解決のヒントをお伝えしてきました。

 

その中で最も多く伝えてきたことは、
経営における理念やビジョンの大切さです。

 

そこで今回は、近年起きているビジョンの変化について
お伝えしたいと思います。

 

これまでビジョンといえば、
経営者がやりたいと思うことがビジョンでした。
それは今も昔も変わりません。
ただ経営者のやりたいことの質が、
近年ずいぶん変わってきています。

 

ほんの少し前までは、
経営者が自社の強みは〇〇である。
その強みを活かして〇〇の事業に取り組む、強化する
というビジョンが多く描かれました。

 

つまり、発想の源は「自社の強み」であり、
その強みを活かして差別化できる事業を強化・拡大し、
利益を得るのが企業のビジョンでした。

 

ところが近年は、最初に「社会課題の解決」を考えます。
世の中の社会問題や環境問題を見つけた経営者は、
それを自分ごとと捉えます。
そしてその解決のために自社の強み(リソース)を
どう活かすことができるかを考えます。

 

すると、自社で取り組むべき課題が見つかります。
その課題解決がビジョンとなるのです。

 

従来、社会課題はテーマが大きすぎて、
経営者にとってはよくわからないものでした。
が、SDGsがそれをとても身近なものにしてくれました。

 

SDGsは2050年に滅亡すると予測されている
地球を守るために国連が2030年までに
実現しようと定めたゴールです。

 

この17のゴールのうち、
これだったら自分に解決できそうだというテーマを選びます。
次にその解決のために、自社のリソースを使って
何ができるのかを考えます。
そしてその実現に挑むのです。

 

あるいは、自らそれを考えなくても、
お客様がSDGsのゴール達成を目標に掲げているケースがあります。
その姿勢に共感した経営者が、自社の強みを活かすことで
お客様のゴール達成に協力できないかを考えるのです。

 

SDGsの登場は、自分のビジョンを描くのが苦手だった経営者にも
「そうすればいいのか」と大きな自信を与えるものになりました。

 

とりわけ二世経営者の中には、現状は維持できるが、
10年20年先のビジョンを描くのが難しいと
考えている人は少なくありません。

 

そんな彼らが、SDGsの何番のゴール達成に、
父祖から引き継いだ自社という公器を使って
貢献したい、と気づくと、別人のように力強く歩み始めます。
その姿は「SDGs何番のゴール達成」という
如意棒を手に入れた孫悟空のようであります。

 

例えば、私のクライアントの鋳物製造業では
SDGsの1番の「貧困をなくそう」と
4番の「質の高い教育をみんなに」の実現を
ビジョンの一つに掲げています。

 

同社は、元々は自動車部品を中心に製造していました。
が、近年は建機が農機の部品を主に生産しています。
建機や農機は自動車に比べて生産量が少なく、
かつ種類が多いため、多品種少量生産を余儀なくされます。

 

単品大量生産で行ける自動車部品製造に比べると、
大変手間がかかるため多くの鋳物業者はやりたがりません。

 

が、同社はここ数年掛けて多品種少量生産できる体制を整えました。
そこから生まれた部品は主にアジアの途上国で使われています。
同社の部品を用いた建機や農機がアジアの各地で活躍することで、
農地が整備され、道路が広がり、水道が敷かれ産業が栄えます。

 

これによって 貧困が無くなることや
教育を施すことができると考えているのです。

 

また、同社は中古車の部品製造も行なっています。
日本の車の中古車がアジアで多く走っていますが
故障した時の交換部品が足りません。

 

そうした部品の中には生産終了してるものも少なくありません。
それを提供できるのは、多品種少量生産の仕組みを
整えている同社だけです。

 

こうした取り組みによって、同社の社長は
「我が社はSDGs部品製造業である。そして世界平和に貢献する」
というビジョンを掲げました。

 

世界平和とは随分大きなビジョンですが、
社会貢献と自社をつなげて考えるスケール感が
今、どの企業にも求められているのです。
https://smbiz.asahi.com/article/14099870

 

また、地域の洋菓子店等に菓子の原材料おろしている
地域密着の問屋業は、
SDGsについて熱心に勉強しているうちに
SDGs12番の「つくる責任つかう責任」という
ゴールに貢献できないか考えました。

 

そこで目に留まったのが、規格外サイズのレモンです。
地元の名産のレモンですが、大きすぎたり小さすぎたりすると、
市場価値がないと判断され処分されていました。
それをなんとか菓子原料にできないか考えたのです。

 

そして、農場や農協と交渉し、果汁を絞る加工業者や
レモンの皮を加工してくれる加工業者を組み合わせて
レモンミンスという焼き菓子の原材料を開発しました。

 

このときの発想は「自社が儲けたい」ではなく、
「より良い社会を作るため、SDGsを実現したい」です。
その理念が共感を呼び、協力者が得られるのです。
そして出来上がったレモンミンスを地元の菓子店に案内すると、
まさに地産地消の取り組みとして大いに歓迎されました。

 

同社の理念は「つながり創造企業」です。
SDGsのゴール達成に向けて、様々な業者をつないで、
価値観が同じみんなでゴール実現を目指す。
そのことに真摯に取り組んでいます。
https://smbiz.asahi.com/article/14565266

 

こうした社会貢献的な活動は、多くの共感を呼びます。
共感を呼ぶのでマスコミに取り上げられます。
マスコミに取り上げられると、
同じ社会課題に取り組んでいる人から
「一緒にやりましょう」とオファーを頂きます。

 

同じ価値観の人と仕事をするのですから、
仕事は格段に愉快になります。
かつてソニーの井深さんは創業に当たって
「自由闊達にして愉快なる理想の実現」を
掲げましたが、理想に燃えて同じ志の仲間が集まるのです。

 

ただ稼ぐために働いていた時に比べれば
その働きがいは雲泥の差です。

 

この愉快さが、社会課題をビジョンに掲げることの最大のメリットです。
今、そのことに気づいている会社がどんどん増えています。
私がビジョンづくりをするときの指導でも、
常にSDGsの何番に貢献したいかを考えていただいています。

 

それは次代を担う経営者として欠かせない
「ブレない軸」を手に入れるために必要なことだからです。

 

あなたはSDGsの何番に貢献できますか。
回答に困る人は、ぜひ考えてみましょう。
そして、仕事を愉快に、愉しいものに変えていきましょう。