vol.490『キムタク信長祭に学ぶ集客の教訓』

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.490

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

『キムタク信長祭に学ぶ集客の教訓』

 

先週の日曜日、19時のNHKニュースのトップで
私の地元、岐阜市が取り上げられました。
信長に扮したキムタクの武者行列です。

 

これが岐阜市の人口40万人以上を集めました。
前週に韓国で大変な悲劇が起きたために、
同じことが起きないか、警備体制はどこまで万全か、
それも全国から注目を集めた理由でした。

 

私も私の親戚一同も、当日は現場に全く近づいていません。
抽選に外れたこともありますが、
幸い地元の岐阜放送が、祭りの様子を
テレビ中継してくれたので、それを見て楽しんでおりました。

 

さて、祭は大きな事故もなく、滞りなく行われました。
翌日の新聞には、「岐阜市が一番輝いた日」と書かれていました。
私も今週出会ったお客様から、幾度も
「岐阜市、良かったですね」と声をかけられました。

 

しかし、この祭が本当に岐阜市とって
良かったかどうかは、別問題です。
正直言って、私はこの街の将来に大変不安を覚えました。

 

キムタクが来てくれたら、大勢が来て経済効果も大きかった。
一度こうした味を占めると、自分で人を集めようという
努力をしなくなってしまうのではないかという不安です。

 

とりわけ岐阜市は、これまでに何度も
大河ドラマで信長公や明智光秀公が取り上げられ、
その都度「ゆかりの地」として多くの観光客を集客してきました。

 

実は今も「承久の乱の舞台」と書いた幟旗が、
駅に掲げられています。
大河ドラマ『鎌倉殿の13人』のゆかりの地だと言いたいのです。

 

岐阜市の商売人は、大河ドラマや映画で
信長さえ取り上げてくれたら客は自然とやってくると考えています。
その影響で、自分から情報発信したり、
どうすればお客様が来ていただけるのか考える力はとても脆弱です。

 

実際に、岐阜市の名物・鵜飼の乗船者数は
今年度は52,889人でした。
今年はシーズン通して甲子園球場1試合分しか
集められなかったのが実情です。

 

どれだけ、魅力的な要素を持っていても、
かくも残念な結果にしかならないのです。
今後、この街で商売に携わる人たちは、皆、市長に
「大物俳優を連れて来い。そして信長をやらせろ。
そしたら客が来るじゃないか」と要求するでしょう。

 

こんな他力本願な考え方が増長され、
自ら集客する方法を考える力すら失っていくのではないか。
そこが心配なのです。

 

自分で集客し、自力で売る力があるかどうか。
これが企業の明暗を分けます。
いくら良い品を作ってもお客様が知らなければ、
買うことはできません。
知らせる活動と選んでもらう活動ができないと、
どれだけ良い商品を持っていても在庫の山になってしまいます。

 

このことはサントリーとニッカを見れば分かるでしょう。
サントリーは宣伝の必要性をどこよりも早く認識し、
広告宣伝に莫大な費用を投下し、高い認知率得ました。

 

対してニッカは、美味しい国産ウイスキーを
作ることにこだわり、高い評価を得ました。
創業者のそのものづくりにかける純粋な姿勢は、
朝ドラ『マッサン』として描かれたくらいです。

 

しかしながら、ニッカは現在アサヒビールの
グループ会社のひとつです。
商品が良くても、営業力がぜい弱だったための選択でした。

 

販売力がないと苦労するこのことは、私にも身に覚えがあります。
私は2013年度まで、三菱UFJ銀行系のシンクタンクの社員でした。
2001年に自分の書いた小冊子が4万部売れてから、
13年に同会社を辞めるまでの間、
凡そ1,500件以上の講演会・研修会の講師として登壇をしました。

 

そのため人前で喋ることには慣れっこで
集まったお客様には大変喜ばれました。

 

ところが、この1,500件すべて、
どこかの企業あるいは団体が主催をしてくれたものでして、
私は講師として呼ばれていくだけでした。
通算1500回も登壇しても、ただの一回も
自分で集客したことがなかったのです。

 

ところが、14年に独立してからは、
自分で集めるしかなくなりました。
もちろん、独立後も私を呼んでくれる企業・団体はありましたが、
それだけで新しい顧客を獲得できるほど甘い世界ではありません。

 

ホームページやこのメルマガを使って自分で宣伝し、
集客をし、その上で講演するよりほかに、
新しいお客様と出会うしか方法はありませんでした。

このことは簡単そうに思えて、難しいことでした。
目的は講演会を成功させるだけではなく、
次のクライアントになる人と出会うことです。

 

その視点で観た場合、
・丁度良い人数はどのくらいか?(多すぎるとダメ)
・何曜日の何時頃が一番集客力できるのか?
・開催日のどれくらい前からアナウンスするのは効果的なのか?
・どのテーマが最も喜ばれ、次に繋がるのか?
・どんなアンケートならニーズを把握できるのか?
・質問や相談時間などインタラクティブな
時間をどのくらい確保するべきか?
などなどわからないことだらけでした。

 

これらは解のない問題です。
トライ&エラーを繰り返して、身につけていくしかないのです。

 

しかもリアルが当たり前だった時代がコロナ禍になり、
一度掴んだノウハウをリライトする必要もありました。
今でも集客力があるとは自分でも思っていません。
が、それでも自分でやるからこそわかることがあります。

 

ドラッカーは企業の目的は「顧客の創造」だと言いました。
集客を他人に頼らず、どんな不況下でも
自力で集客できるという自信があれば、
その不況を乗り切ることができます。

 

いっとき大勢集まったからといって、
それに浮かれてはいけません。
ブランド力のない小さな会社は、
自分なりの地道な集客ノウハウを、
エラーを繰り返しながら築きましょう。
そして、自分を強く必要としてくれるお客様に出合いましょう。