vol.488「うばい合えば足らぬ。わけあえば余る経営」

V字研メルマガ

 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.488

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

「うばい合えば足らぬ。わけあえば余る経営」

 

昨日はプロ野球のドラフト会議でしたね。
結果を見て驚いたのですが、ドラフト名物とも言うべき
一人の選手を複数の球団が指名して
くじを引き合うということがほとんどなかったようです。

 

1位指名で2件ありましたけど、
それ以下の指名ではなかったみたいでびっくりしました。
なぜそうなのか、私には分かりません。
が、選手の将来をくじ引きで左右するような
乱暴な行為が消えたのはとても良いことですね。

 

スカウトの皆さんと選手とその関係者が
どうしたらWin-Winになれるのか、
よくコミュニケーションを取った証でしょう。
また、各球団が自球団のみの強化より、
野球界全体の発展を優先させたからではないかと思います。

 

この現象に、私は相田みつをさんの名言
「うば合えば足らぬ、わけ合えば余る」を思い出しました。
かつてドラフトで意中の球団に行けず悔し涙を流したり、
憮然とした表情の選手がいたりしたことを思うと
日本人は随分成長したなと思います。

 

ところで、あなたはマズローの欲求5段階説をご存じでしょうか?
このメルマガの読者であればご存じとは思いますが、
ちょっとおさらいをしておきましょう。

 

人には5つの欲求があるというものです。
第1段階が生理的欲求。
これはお腹が空いたから食事したい。
疲れたから休みたいなどの欲求です。

 

それが満たされると、
次は第2段階の安全欲求が出てきます。
安全で、安心できる環境で暮らしたい、
働きたいという欲求です。

 

それが満たされると、第3段階の帰属の欲求が出てきます。
好きな仲間と一緒に暮らしたい、働きたいという欲求です。
さらにそれが満たされると、
その仲間から「あなたのおかげです。ありがとう」と
言われたい、認められたいという第4段階の欲求が出てきます。
これが承認欲求です。

 

そしてそれが満たされると、
自分の知恵や工夫でお客様や仲間を喜ばせたいという
第5段階の欲求が出てきます。これが自己実現欲求です。

 

今日、企業は主体的な人材が欲しいと言います。
主体的な人材とは、第5段階の欲求を持った人材です。

 

そのような人財は、マズローの欲求段階説に従えば、
第4段階の承認欲求を満たすことから出てきます。
社員一人ひとりを認めること、褒めること。
これを増やせば自ずと、主体的な人材が増えてきます。
この10年余り、褒めて育てることが重要視されるのはそのためです。

 

そして、この第5段階の欲求の上には、
第6段階の欲求があると言われています。
マズローが晩年、この第6段階の欲求を
「自己超越の欲求」と名付けています。

 

自己超越、という言葉。
ちょっと難しいですよね。
私は次のように解釈しています。

 

第5段階の自己実現欲求までの欲求は
「自分(自社)をよくしたい」という欲求です。

 

ところが人は、自己実現欲求を満たす過程で、
様々なスキルを磨き、ノウハウを構築し、
それによって、多くの人に喜ばれる体験を重ねます。
こうして培ったスキルやノウハウを、
自分だけでなく、自分のいる地域とか、社会、地球など
自分を取り巻く環境をよくしたい。
そのためにいろんな人と繋がりたい、
シェアしたいと考えるようになります。

 

これが自己超越の欲求です。

 

私は「自分は満たされたから、この先は自分を取り巻く
環境をもっと良くしたい」というこの自己超越の欲求と、
相田みつをさんの「わけ合えばあまる」は
同じではないかと思います。

 

どちらも自己犠牲ではない、
利他の心から出るものだからです。

 

例えば、先日、クライアントの社長と話をしていましたら
その社長が次のように言いました。

 

「先生、最近自分が業界の会合に行くと、
『何であんたのところは業績が良いんだよ。教えてくれよ』と
同業者から質問されるのです。
が、自分で考えていてもよく分からない。
皆と同じような事をやっているけど、
値上げも認めてもらえるし、注文も貰えるのです」

 

「もし違いあるとしたら、燃料にリサイクル材を用いるなど
SDGsに一生懸命取り組んでいること。
カーボンニュートラルを意識して、
常にそれを実現しようと思っていること。
働き方改革実施して社員の給料を上げようとしていること。
また、残業の未払いを一切になくすようにしていること。
幹部社員と若手社員が対話する機会を定期的につくっていること。
さらに、お客さんの要望に応えようと、
納期を100%守ってることぐらいです。
結局そういうことをしていることが、
業績に繋がっているんじゃないかと思います」

 

私はこの社長の話を聞きながら、
ここに真理があるなと思いました。
社長は、自分では気が付いていないかもしれませんが、
この社長は、自己実現欲求を通り越して
自己超越の欲求を満たそうとしています。

 

SDGsとか、カーボンニュートラルなどの
社会的な課題に対してとか答えていきたい。
社員に幸せを感じながら働いて欲しい。
そのために、自分の会社でできることが何かを
誰かに教えられるのではなく、自身で考えて精一杯実践している。

 

その姿勢が人を惹きつけて、
他者がうらやむような注文数や値上げを認めてもらえる
状態を作っているのではないかと思います。

 

逆に言えば、そうしたことへの取り組みがなく、
市場の奪い合い、資源の奪い合いに終始していると
これから先の時代、お客様から選ばれない。
そのくらい厳しい時代になることを示唆しています。

 

優秀な選手の奪い合いの象徴だったプロ野球界も
過去の黒歴史を繰り返さないよう、
どんどん変わりつつあります。
私も含め自分たちにできる「わけ合えば余る」は何か。
実践してみたいですね。