vol.482「わが国を変えた稲盛和夫さんの2つの教え」

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.482

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

「わが国を変えた稲盛和夫さんの2つの教え」

 

稲盛和夫さんが亡くなられましたね。
喪失感を強く覚えた経営者も多いのではないかと思います。
コンサルタントの私も精神的な支柱失った気持ちです。

 

が、松下幸之助の教えは今も多くの経営者に
勇気と気付きを与えています。
きっと稲盛和夫さんの教えもまた、
次代を担う中小企業経営者の勇気と希望であり続けるでしょう。

 

そこで今回は、稲盛さんが残した教えの中で
わが国の経営者の考えを根本から変えたと言える
2つを振り返ってみたいと思います。

 

第1は、「社員を大切にすること」です。
働き方改革が叫ばれるまで、わが国の中小企業のほとんどは
「お客様第一主義」で経営をしていました。

 

このこと事態は間違ってはいません。
が、お客様の満足のために、従業員に徹夜で頑張れ、
サービス残業をしろ、ハラスメントに耐えろなど、
慢性的に辛い思いを強いてきました。

 

その結果、わが国の過労死は世界一の水準で高止まり。
しかも、多くの経営者がこの事態に疑問を持ちませんでした。
むしろ、そうした過酷な状況を乗り切ることで
お客様との信頼関係が一層強くなる。
また従業員も人間的に強くなると考えていたのです。

 

しかしながら、この考え方は間違っていると
稲盛さんは教えてくれました。
稲盛さんはお客様第一の前に、
経営者は従業員の幸せを追及しなければいけないと説いたのです。

 

それは稲盛さん自身の苦い体験から来るものでした。
以下は「稲盛和夫OFIICIAL SITE」からの抜粋です。
https://www.kyocera.co.jp/inamori/management/

 

(引用ここから)
「会社を創業した当初の目的は「自分たちの技術を世に問う」ことであり、
その夢を実現するために、創業メンバーは
とにかく必死で働くことが当たり前の状態になっていました。

 

その一方で、入社間もない高卒社員は、
必然的に遅くまで残業していたことへの不満と将来に対する不安が募り、
団体交渉という形で会社に将来の保証を求めたのです。

 

稲盛はそれに対し、
「できたばかりの会社なので将来の確約はできないが、
必ず君たちのためになるようにする」と説明しましたが、
高卒社員に納得してもらうことはできませんでした。

 

交渉は会社だけでなく、稲盛の自宅においても続けられました。
三日三晩かけて徹底的に話をした結果、
最後は「信じられないなら、だまされる勇気も持ってみないか。
だまされたと思ったら、俺を刺し殺してもいい」という言葉に
込められた稲盛の熱意が通じ、この交渉はようやく決着しました。

 

この一件を機に、稲盛は、
「会社とはどういうものでなければならないか」ということを
真剣に考え続けました。その結果、会社経営とは、
将来にわたって社員やその家族の生活を守り、
みんなの幸福を目指していくことで
なければならないということに気づいたのです。

 

その上で、会社が長期的に発展していくためには、
社会の発展に貢献するという、社会の一員としての
責任も果たす必要があると考えました。

 

これ以降、京セラは経営理念を
「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、
人類、社会の進歩発展に貢献すること」と定めたのです。
こうして京セラは技術を世に問うことを目指した会社から、
全従業員の幸福を目指す会社へと生まれ変わり、
会社経営の確固たる基盤を据えることができたのです。」
(引用ここまで)

 

この稲盛さんの考え方に多くの経営者が共感しました。
稲盛さんもフィロソフィの中で
「お客様第一主義」と言っています。
が、経営理念の中で「全従業員の物心両面の幸福を目指す」と言っています。
それが先で、その上でお客様第一主義を目指すと言う順番を示したのです。

 

この考え方を、著名な税理士である古田土経営の古田土先生は、
経営を自転車に例え、「社員満足が前輪で顧客満足が後輪」と言っています。
自転車は後輪駆動ですよね。
後輪が回ってこそ、前輪が回ります。
後輪が先に回ることが大切なのです。

 

さらに古田土先生は、
「顧客満足=社員の仕事、社員満足=社長の仕事」と言っています。
社員の給与水準や休暇など労働条件はもちろん、
働きやすい作業環境を作るのは経営者の仕事です。

 

こうした発想の順番と、役割分担の考え方により
「働き方改革」が一気に進んだのです。
その気づきの大本は、稲盛さんの経営姿勢にあったのです。

 

第2は理念型経営の大切さを教えてくれたことです。
かつて「理念で飯が食えるか」と多くの経営者が語っていました。
が、今は「できれば理念で飯が食える会社になりたい」
経営者が増えています。これも稲盛さんの影響です。

 

稲盛さんの京セラフィロソフィは、京セラの行動指針です。
詳しくは以下のサイトをご覧ください。
https://www.kyocera.co.jp/inamori/philosophy/
(このサイトの「心を高める」をクリックすると
「より良い仕事をする」「正しい判断をする」などの
項目が出てきます。さらにそれをクリックすると、
「より良い仕事をするために必要なこと」が17項目出てきます。
これが京セラフィロソフィです)

 

そこにあるのは「仲間のために尽くす」「地味な努力を重ねる」
「バランスの取れた人間性を備える」など当たり前のことばかり。
ところが、これらを一つずつ毎日唱和していると
PDCAを回すために大変役に立つというのです。

 

世の中の多くの会社は、PDCAの重要性を認識しながら、
それが回らなくて悩んでいます。
そのための重要なキーがCの「進捗会議」です。
これををいかに上手くやるかです。

 

が、進捗会議は一歩間違うと、
「なぜできないのか!?」「何だ、この成績は!?」
「やる気あるのか?!」などと、
経営陣が担当者を責める場になってしまいます。

 

が、京セラフィロソフィを毎日唱和している会社は違うのです。
全員で京セラフィロソフィを共有していると、
そのように誰かが誰かの結果を
責めて吊るしあげるようなことがなくなります。

 

仮に未達で終わっても、その取り組みの中でも
良いところを見つけ、それをメンバー全員が承認します。
そして、至らないところはどうしたらよいか、
それを皆で話し合います。
仲間のために建設的な知恵を出していくのです。

 

PDCAは会社が成長するための重要なツールですが、
どのような気持ちでこれを回すか
次第で成長のエンジンにもなれば、
人を責め、精神的に追い詰める凶器にもなります。

 

原子力が使う人の心次第で
人類の進歩にも人類破滅の凶器にもなるのと同じで、
どのような心でPDCAを使うかが成長の鍵なのです。
稲盛さんは、KDDIの成功やJALの再生で、
そのことの大切さを証明してくれたのです。

 

稲盛さんの遺した教訓はまだまだ沢山あります。
私たちはそれらを受け継いで、
彼が夢見たより良い世界を創って行きましょう。