vol.478『自分の中の違和感を大切にしよう』

V字研メルマガ

 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.478

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

『自分の中の違和感を大切にしよう』

 

中小企業にとっては代替わりが喫緊の課題ですね。
先日、9月に新社長に就任する後継者から、
これから1年間、社長として一人前になるまで
伴走してほしいというオファーをいただきました。

 

次世代リーダーの育成をミッションとする者として、
そのような機会に恵まれるのは身に余る光栄です。

 

では、事業承継とは一体何を承継するのでしょうか?
これはもう明らかです。経営理念です。
事業は時代とともに変わりゆくものです。
が、創業の精神や理念は普遍です。

 

トヨタ自動車の豊田家でも、創業時は自動織機の会社でした。
二代目の喜一郎さんが自動車事業を興し、
三代目の章一郎さんが住宅事業を興し、
四代目の章男さんが今、ウーブンシティを作っています。

 

幼虫がさなぎになり、成虫になるように、
代替わりとともにイノベーションが起き、
会社が成長発展するのは中小企業ならではの魅力です。

 

そうしたら羽化を繰り返しながらも、
変わらないのは創業の精神であり経営理念です。
後継者たちはその理念を受け継ぎながら、
お客様の役に立つビジネスを創造するのです。

 

先日、浜松のある中小企業の経営者の講演を聞いて、
私は腰が抜けるほどびっくりしました。

 

講師は学校法人爽青会の中野勘次郎理事長。
同社はルネサンスデザイン・美容専門学校と
専門学校ルネサンス・ペット・アカデミーを経営されています。
これらの専門学校では、多くのデザイナーや美容師、
動物看護師や動物園の飼育員等を育成、輩出しています。
https://www.rad.ac.jp/
https://www.rap.ac.jp/

 

その中野理事長は、ファミリービジネス(同族経営)の三代目です。
が、二代目とやっている事業がまるで違うのです。
自分が三代目になる時、二代目がやっていた事業を
スッパリやめて、上記の専門学校ゼロから興したのでした。

 

中野理事長は幼少の頃、創業者であるお爺さんに
随分可愛がられて育ったと言います。
そのお爺さんの口癖が、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」
「現業で世のため人のために」でした。
これを毎日のように耳元で聴かされたと言います。

 

お爺さんは1916年、22歳で自転車の販売店を起業しました。
その後、四輪の自動車販売・整備業に進出し、
浜松では有名な自動車ディーラーとなりました。

 

この頃、おじいさんは自動車車検講習の校長も務めていました。
当時まだ車検のできる整備工場は少なかったので、
おじいさんが、多くの整備工に車検を教えていたのです。

 

中野さんは、日曜日になるとピカピカの靴を履いて
颯爽と講習に出かけていくおじいさんを
見送ったことを子供心に記憶しています。

 

この自動車販売業をお父さんが引き継ぎました。
同社は9営業所、6000台の販売・修理を行うまで成長。
二代目は創業者の教えに自分が学んだ
「お客様第一主義」を加えて、自らの理念としました。

 

が、同社は1988年、赤字に転落します。
赤字の原因は、苛烈な販売競争でした。
当時の自動車業界は、安く売って台数を稼ぎ、
メーカーからのバックマージンで
採算を合わせるビジネスモデルでした。

 

このビジネスモデルは、
創業者の「現業で世のため人のために」や
二代目の「お客様第一主義」と相容れないものでした。
バックマージンはメーカーのための制度であり、
決してお客様のための制度ではないのです。

 

中野さんは三代目を承継するにあたり、
このビジネスモデルに違和感を覚えました。
そして、調査会社に「このビジネスは黒字化するのはいつか?」を
調べてもらいました。そうしたところ、
「15年後には黒字になる」という結果が示されました。

 

とても15年も待てないと考えた中野さんは、
お父さんに「この事業は継げない。退社する」と伝えます。

 

するとお父さんは
「今までお前に継がせるために生きてきたのだ。
継がないというのなら本末転倒だ。
嫌なら次の家業はお前が見つけろ」と伝えました。

 

そこで中野さんは、自動車販売からの撤退を決意し、
9営業所の営業権を売却しました。
そして会計士から言われて強く共感した言葉
「人の喜びが自分の喜び」を胸に、新しい事業を探します。

 

事業の探索に3年を費やしましたが、
ついに胸がワクワクする事業と出会います。
それが上記の2つの専門学校の経営でした。

 

この間一貫して貫いてきたのは、
おじいさんの「実ほど頭を垂れる稲穂かな」
「現業で世のため人のために」とお父さんの「お客様第一主義」、
そして自分が共感した「人の喜びが自分の喜び」の考え方です。

 

表現はちょっとずつ違いますが、
言っていることは全て同じです。
この考え方を貫いてそれにワクワクするような事業を
時間をかけて探したからこそ、今の成功があるのです。

 

中野理事長が教育事業に胸がワクワクしたのは、
おじいさんが車検講習の校長だったことと無縁ではありません。
子供心に人を育成するおじいさんの生き方に憧れたからこそ
自分も教育の仕事に憧れたのではないかと思います。

 

このように、事業内容は変われども、
理念や創業の精神を受け継ぐことができれば、
ファミリービジネスは永続・発展していけるのです。

 

後継者は、中野理事長のように
自分の中にある「違和感」を大事にしましょう。
違和感は、「納得できない何か」から生まれます。
心に矛盾を抱えたまま走れば、後で必ず苦しくなります。

 

そうならないように、何に納得できないのか、
時間をかけてでも突き止めましょう。
コンサルタントやコーチングのコーチに相談すれば
彼らが自分の鏡になって、違和感の源が見つかるでしょう。

 

そして、それを取り除くことを考えてみましょう。
中野理事長はそのために自動車販売業から撤退しました。
だからこそ、自分が納得できる事業で成功できたのです。

 

あなたの会社の理念は何ですか?
そこに心から納得できていますか?
まずはそこを確認してみましょう。