vol.476『自分の弱さの活かし方』

V字研メルマガ

 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.476

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

『自分の弱さの活かし方』

 

安倍元総理が、白昼凶弾に倒れました。
なんとも残念な、暗澹たる気持ちになる事件でした。
何よりも亡くなられた安部さんは志半ば。
さぞかし無念だったことでしょう。

 

「志」の定義に以下のようなものがあります。

 

「志=自分の生きている間には
成し遂げられない願望のこと」

 

やりたいことがあっても、
それは自分の生きている間には実現しない。
が、誰かがそれを引き継いで実現してくれる。
志とはそういうものだという意味です。

 

安部さんが目指した「美しい国日本」や
「一億総活躍社会」やという志は今、
政治家に限らず多くの人に引き継がれています。

 

私も人財育成を生業とするコンサルタントとして、
その志を受け継いで「一億総活躍社会」の
一端を担えている現実をとても幸せに思います。

 

さて安倍さんは、大変強いリーダーだったと思います。
その証拠に、世界各国の首脳が「稀有な政治家だった」と
最上級の賛辞を伝えています。

 

実際に世界にその名を知られている日本人は、
せいぜいオノ・ヨーコ、イチロー・スズキ、
そしてシンゾー・アベぐらいではないでしょうか。

 

彼を見た人は「リーダーはかくあるべし」と
思われるかもしれません。

 

彼のやり方はトップが方針を示し、それに皆が従っていく
トップダウン型のマネジメントのお手本でした。
民主党政権で疲弊した「日本を取り戻す」には、
強いパワーマネジメントが必要でした。

 

しかし、誰もが同じようにできるわけではありません。
中小企業の後継者には、
「先代は、安倍元総理のようにトップダウン型で
バリバリやってきた。が、自分は同じようにできない…」
という悩みを抱えている人が少なくありません。

 

私はそんな悩める後継者たちに、
以下のように伝えています。

 

「同じようにできなくてもいいのです。違って当然。
全然問題ありません。先代は先代。自分は自分。
人は誰でも自分らしく生きることしかできません。
自分らしさを出していきましょう」

 

昨今、世の中の問題は複雑化する一方です。
国際情勢を見ても、環境汚染、地球温暖化、
経済格差や貧困、民族間紛争、パンデミックなど…
とても一人の知恵で解決できるものではありません。

 

同じことが企業を取り巻く環境にも言えます。
物価高に材料不足、円安、労働力不足など…
一人の知恵で解決策が見つかるほど、
単純な状態ではないのです。

 

このような時のリーダーに必要なのは、衆知です。
多くの人の話を聞き、意見をお伺いして衆知を集める。
それを元に、信頼できる仲間と討議を重ねる。

 

そして、「これで行こう!」と決断する。
この決断は、リーダー一人で行います。
なぜなら、もし失敗した時に責任をとれるのは
自分一人だけだからです。

 

問題は「どれだけ衆知を集めることができるか」です。
私は、より多くの衆知を集められるリーダーは、
強い人ではなく、むしろ弱い人ではないかと思います。

 

例えば、あなたが上司から
以下のように言われたらどうでしょうか?

 

「このことは君の方がよく知っているだろう。
ちょっと教えてくれないか?」
「君ならこのようなケースはどうする?
君の意見を聞かせてくれないか?」
「打ち手が見えなくて困っているんだよ。
一緒に考えてくれないか?」

 

きっとモチベーションが上がるのと思います。
人は上の人から頼られると、
必死になって、その信頼に応えようとするのです。

 

つまり、上司が自分の弱さを認めて、
「助けて欲しい」「君の力が必要だ」と
素直に自己開示すると、たくさんの知見が集まります。
そしてそれらを自分の中で納得のいくまで咀嚼し、
一人で意思決定をします。

 

このとき、意思決定にあまり時間をかけてはいけません。
決めるのが遅いと、「あの件はどうなったのだろう?」と、
アドバイスをした人たちの当事者意識が
だんだん薄れてしまうからです。

 

時には勢いというものがあります。
仮に実行を先送りするのであれば、
「やるよ。でも着手は来年だ」というように、
「やる」ことを今決めて、実行の時期を明確にしましょう。

 

意思決定を早くするには、自分の中に、
「こういうときはGOだ!」という基準を持つことです。
例えば、稲盛和夫さんは「動機善なりや、私心なかりしか」を
意思決定基準にしています。

 

自伝の中で「動機が善であり、私心がなければ結果は
問う必要はありません。必ず成功するのです」と
言い切っています。
こうしたものさしが自分の中にあれば
早期の意思決定が可能です。

 

そして、意思決定をした後は、
「君の意見がとても役に立ったよ。ありがとう」と
アドバイスをくれた仲間に伝えます。

 

さらに実行を任せたい場合は、
「ついては、あなたに担当してほしい」と加えます。
そうすると本人のモチベーションは一層高くなり、
成功する確率が高くなります。

 

安部さんのようなトップダウン型の
強いリーダーシップが苦手だという人は、
それを嘆くのではなく、自分の弱さを活かしましょう。
三国志の劉備玄徳のように、
弱いからこそ多くの人の力を結集できるのです。

 

大切なことは、先代のリーダーシップのスタイルを
継ぐことではなく、志を継ぐことです。
志を継いだら、そこから先は
「自分らしいやり方」を貫いていきましょう。