vol.454「論語と算盤はどっちが先か?」

V字研メルマガ

 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.454

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

「論語と算盤はどっちが先か?」

 

いつもメルマガをご購読いただいてありがとうございます。
今年も終わろうとしています。早いですね。

 

今年の大河ドラマの主人公は渋沢栄一翁でした。
渋沢栄一翁と言えば、やっぱり『論語と算盤』ですね。

 

これを経営に置き換えると、
「論語=経営理念」「算盤=戦略」となります。
どっちも大事で、そのバランスが肝心だと言っています。

 

が、私たち経営者は、
「どっちも大事」と言われるのが一番困ります。
そこで今号では、「どっちが先か」を考えてみます。

 

マサチューセッツ工科大学のキム教授は、
「論語と算盤」と同じことを、
『成功の循環』という理論で教えてくれています。
『成功の循環』は次のようなサイクルです。

 

「関係の質」
 ↓
「思考の質」
 ↓
「行動の質」
 ↓
「結果の質」
 ↓(一巡)
「関係の質」

 

関わる人たちが良い関係を築くと、思考が良くなる。
思考が良くなれば、行動が良くなる。
行動が良くなれば、結果が良くなる。
結果が良くなれば、関わる人たちの関係が良くなる、という理論です。

 

大切なのはこの循環を、どこを起点に考えるかです。

 

まず「算盤」の視点で考えてみましょう。
ビジネスに携わる人は誰しも
「いくら稼ぎたい。そのためには、
いくらの売らないといけない」と計画を立てます。

 

その計画が「思考」です。算盤の視点からの起点は、
「思考」になります。PDCAの P です。

 

思考(P)の質が良くなれば、行動(D)の質が良くなります。
高度の質が良くなれば、結果の質が良くなります。
つまり、儲かります。儲かったお金は、社員に分配します。
社員には高いボーナスを支給され、幸せになります。

 

が、この流れで経営できるのは、市場拡大時のみです。
拡大再生産が見込めるから、
5カ年計画を4年間で達成なんてことができてしまいます。
今のIT系ベンチャーは、この流れで回っています。

 

ところが、同じ企業でも、成熟市場に身を置くと、
目標達成は途端に難しくなります。
日本の GDPを見れば分かる通り、
前年を上回ること自体が難しいですし、利益率も低水準です。

 

よって、そこで行われるマネジメントは、
「計画通りにやったか?」「何で出来ないんだ?」
「言い訳ばかりするな!」「とっととやれ!」という、
強制的なものになりがちです。

 

このように強制されれば、人は「やらされ感」を強く感じます。
それによって社員は、上司を心理的に拒否するようになり、
コミュニケーションは断絶。
組織の一体感は急速に失われて行きます。

 

その結果、思うような利益が出ず、ボーナスも減額。
中堅社員の離職が後を絶たず、
中途採用した社員が更に雰囲気を悪くする
悪循環に陥ります。

 

市場が成長している時は、
『算盤』の視点でうまく回っていた流れが、
成熟期には機能しなくなってしまったのです。

 

そこで、『論語』の視点で成功の循環を考えてみましょう。
ここでは『論語』を、成功の循環の
「関係の質」を良くすることと置き換え、
「関係の質」を起点に考えてみます。

 

「関係の質」とは、仕事中で社員間の仲が良いことです。
お互いがお互いのことをよく理解し、
「言いたいことを、言いたい人に直接言える」とき、
関係の質が良いと考えます。

 

「言いたいことを、言いたい人に直接言える環境」を、
人一倍重視しているのは、星野リゾートの星野佳路社長です。

 

ご存知のように星野社長は、ホテルの再生を生業にしています。
立ち行かなくなったホテルを再生するのは、
そこに勤めていたホテルの従業員の皆さんです。

 

彼らが自分たちで話し合い、新たなホテルのコンセプトを打ち出し、
「そこに向かって今一度頑張ろう!」と考えるから、
ホテルが魅力的なものに変わっていくのです。

 

この過程で出てくるのは、
「言いたい事を、言いたい人に直接言って良い」という習慣です。
立ち行かなくなったホテルの社内では、
責任の押し付け合い、足の引っ張り合いが後を絶ちません。
言いたいことが言えず、陰口ばかりが横行する環境です。

 

そんな人たちに、星野社長は
「言いたいことは、言いたい人に直接言ってください。
そのことで発生した問題には、私が責任を取ります」と
再生を目指す従業員の皆さんに約束します。
この約束により、社員たちは徐々に本音を語り始めるのです。

 

これが再生への起点となります。
そのくらい、人は自分の意見を安心して言える環境を求め、
自分の意見が採用されるとモチベーションがぐんと上がるのです。
そこにあるのは、「やらされ感」ではなく、
「やってみたい!ワクワク」という感情です。

 

出来上がったプランに自分の意見が入っていたら、
社員の当事者意識はとても高くなります。
誰かが作った計画の押し付けでなく、
「これは自分たちの計画だ」という意識があれば、
何が何でも実現したいという意欲も強くなります。

 

こうして皆の思いが込められて作られたプランは、
「とにかく一遍やってみよう!」という
納得感の高い、ワクワクするものになります。

 

すると、それが困難で面倒くさい課題であっても、
「言い出したのは自分だから、最後まできっちりやろう」
「大変だけど、それ以上に結果が楽しみ」という、
最後までやり切る意欲を生みます。

 

その結果、「行動の質」が上がります。
当然のように「結果の質」も上がり、見事目標達成します。
それを皆で分かち合うから「関係の質」が良くります。

 

多品種・微量・短納期が求められ、
段取り替えが頻発する時代。
従来のオペレーションを抜本的に見直して、
無人化、自動化、遠隔化を考える時代。

 

さらにお客様に密着し、担当者の気づきと
おもてなし力でお客様に選ばれる時代。
このような時代にはチームで知恵を出し合い助け合う
「関係の質」を起点としたマネジメントが有効なのです。

 

ちなみに、星野社長の座右の銘は、
「侃々諤々(かんかんがくがく)です。
社員の能力を信じ、対話することで100%の能力発揮を
引き出すことの大切さを信じているのです。

 

あなたのマネジメントは「論語起点」ですか?
それとも「算盤起点」でしょうか?
来年に向けて、自社の起点について考えてみましょう。