vol.439「五輪選手に学ぶ自分で自分をほめる生き方」

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.439

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

「五輪選手に学ぶ自分で自分をほめる生き方」

 

「自分で自分を褒めてあげたい」
アトランタ五輪でマラソン銅メダルに輝いた
有森裕子選手の言葉です。
今回も、体操のあん馬で銅メダルの萱選手が
「今日は本当に自分を褒めたい」と語っていました。

 

これは自分で自分を認める「自己承認」です。
自己承認ができている人は実に穏やかです。
人は「承認されたい」気持ちを強く持っています。
誰に一番承認されたいかといえば、それは「自分」です。

 

自分で自分を「あなたはよくやっている」
「あなたは素晴らしい」と認めることができる人は、
他人と自分を比べて地位や年収、
容姿や育ちがどうかなんてこだわりません。
逆に他人のことを自分と同じように認め応援することできます。

 

一方、自分で自分を認めることができない人もいます。
思い通りにいかないことが多く、
自分の描いたあるべき姿とほど遠い状態の時、
人は自分を好きになれず、自己否定します。

 

自己否定を繰り返すと、心はカラカラに渇いていきます。
そして、その渇きを「他人からの賞賛」で埋めようと
次のような行動に出ます。

 

・他者より自分が上だと、他者を否定したり見下したりする
・「自分はすごい」と見栄を張り、プライドが高くなる
・傷つきたくないがために、感情的になりやすい
・非を認めることができず、自らを正当化しようとする

 

彼らの多くは褒められたい欲求が強く
それがモチベーションの源なので、仕事はできます。
そこで多くの会社でその人を管理職に昇格させるのですが、
管理職になってもなお自己承認ができないと
以下のような困った管理職になってしまいます。

 

・組織幹部やトップを批判し、周りを巻き込もうとする
・部下や周囲へのあたりがきつく、離職者増の原因となる
・態度が大きい、主張が強い。 仲間の手柄を独り占めする
・全社方針に異を唱え、全体の足並みを乱す
・派閥をつくろうとし、内部分裂の種になる

 

そうならないようにするには、時間をかけて
その人を自己承認できる人に変えていく必要があります。

 

自分で自分を認められるようになるには、
「自分は徐々にあるべき姿に近づいている」という事実と
その過程で「自分はできる」「大丈夫」と、
自分で自分を信じられる根拠を作ることが必要です。

 

それにはまず「成功体験を付与する」ことです。
管理職の場合であれば、
・赤字続きのセクションを黒字体質に転換する
・海外など未開拓の地の市場を開拓する
・新規ビジネスを立ち上げる
・M & A で買収した会社を軌道に乗せる
こうした難題に取り組み、チームで成果を出すことです。

 

この時、社長は成果のみを褒めるのではなく、
その人が取り組んだプロセスを褒めるようにします。
脳科学者の澤口俊之氏は「努力を褒められて育った人間は
失敗しても諦めずに挑戦する力を持てるようになる可能性が高い」
と、その研究成果を発表しています。

 

「この集中力は素晴らしい」「よく諦めずにやり切った」
「あなただから皆がついてきた」など
成果+そこに至るまでの過程が承認されることで
人は自分で自分を認めることはできるようになります。

 

実は、社員がある経験をして、
それが成功体験か失敗体験かを決めているのは上司です。
成果が出ても「これじゃだめだ」と上司が言えば失敗体験です。
逆に、「よく努力したね、素晴らしい!」と言えば成功体験です。
成果+努力を認める言語的説得があれば、
成功体験が積み上がり、自己承認できる人へと成長します。

 

長年コンサルタントやっていますと、
中小企業の社長(親)と後継者(子)の間で、
お互いを批判しているケースがよくあります。
私は常にその板ばさみになるのですが、
ファミリービジネスアドバイザリー協会の
西川盛男理事長は次のように語っています。

 

「先代と後継者でいがみ合っていても大丈夫です。
時間はかかりますが、親子はいつか分かり合えます」

 

私の経験でも、まさにこの言葉通りだと思います。
「いがみ合う」は、社長、後継者のどちらか、
または両方が自己承認できていない状態です。
特に多いのが、後継者が自己承認できていないケースです。

 

現状が、あるべき姿と程遠い状態で、
その原因は、何も変えようとしない社長にあるというわけです。
ここに我慢できない後継者は、
社長に対し批判的な姿勢をとり続けます。

 

しかし、そんな後継者も自分が経営者の一人として
黒字転換を果たしたり、新規事業を起ち上げて
成功体験を積んでいくうちに、態度が変化し、
社長への批判を一切口にしなくなります。

 

それどころか
「新規事業がうまく行ったのは、社長(先代)が
事業の基盤を築いていてくれたからおかげです」と語り、
自分の手柄だとは一言も言わなくなります。

 

あるいはかつて業績が悪かった時の事を振り返り
「あの時はあれで社長(先代)は精一杯だったのだ。
ああするしかなかったのだ」と、認める発言をしたりします。
以前のことを思うと信じられない変化です。

 

後継者たちは以前と違い、今は自己承認できているからこそ、
他者承認できるようになり、先代を認められるようになったのです。
こうした後継者を何人も見るにつれ、
私は上記のような機会を与え、成功体験を積ませることと
その過程を認めることの大切さを思います。

 

五輪選手が輝いて見えるのは、
自己承認の大切さを気付かせてくれるからでしょう。

 

あなたは自己承認できていますか?
もしできていないと思われるのなら、
今日一日、やるべきことを決めて、まずはそれをやり切りましょう。

 

そして、やり切ったら有森選手や萱選手のように
自分で自分を褒めましょう。
そこから、だんだん自分も他人も認めていけるようになります。