vol.531「いまさら聞けない『人間力』って何ですか?」

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 1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.531

          by V字経営研究所 代表 酒井英之

 

「いまさら聞けない『人間力』って何ですか?」

 

今年も終わりですね。
あなたにとってこの1年はどんな1年でしたか?

 

私は名古屋大学の大学院で教えているのですが
先日、学生からこんな質問をいただきました。

 

「ある経営者から、人とギブ&テイクできる関係を
築く事が大切だ、と習いました。
でも、この人とギブ&テイクの関係が築けるかどうかを
どのようにして判断したらいいのでしょうか?」

 

これを聞いて20代ならではのいい質問だな、と思いました。
ビジネスマンとして歳月を重ねると、
人と接するだけで「ああ、この人とは
良い関係になれそうだ」と直感でわかります。

 

ですから「そのうちわかるよ」と答えたいところですが
それでは、彼らは困らせるだけです。
そこで、私も20代の彼らに伝わるような答えを考えてみました。

 

最も大切なのは、その人を人間的に信頼できるかです。
信頼の源は、「自分が大事に思っていること」を、
相手も同じように大事にしてくれるかどうかです。

 

例えば家族を大事に思っている人が、
「今日は子供の参観日なので会社を休ませてください」と
言ったとします。

 

その時に「それは大切だね」と言って休みを認めてくれる人と
「何を言ってるんだ。会社と家庭、
どっちが大事だと思ってんだ?!」という人では、
どちらの人が信頼れるかは言うまでもありません。

 

では、人は一体何を大事に思ってるのでしょうか?

 

教育哲学者の森信三先生の言葉に次のようなものがあります。
「場を清め、時を守り、礼を尽くす」。

 

これは人として生きるための3条件ですが、
私は人との信頼関係を築く3条件だと解釈しています。
一つひとつ見ていきましょう。

 

「場を清め」は清潔さです。人は清潔感を大切にします。
清潔感の基準が相手と乖離していていると、
この人とはうまくいかないんじゃないかと思うでしょう。

 

例えば、コンビニやスーパーの駐車場で時々、
車内がひどく汚い社用車を見かけます。
そういう車を運転してる運転さんとは、
いい仕事はできないんじゃないかと思ってしまいます。

 

逆に、私のクライアントの建築会社ではこんな例もあります。
同社の若い社員が毎朝早く現場に行き、
現場の掃除を一生懸命していました。

 

すると、建築現場の隣に住んでいる人が、
「あなたはいつも掃除を熱心にやっていて感心だね」
と声をかけてきたのです。

 

そして「今度うちを建て替えたいんだけど、
いっぺん話聞いてもらえないかな?」と言うのです。
その人は歯医者さんでした。
ご自身の歯科医院の建て替えを検討していたのです。

 

この仕事、結局受注をします。
一生懸命現場の掃除をしていたら、
歯医者の建築工事を受注してしまったのです。

 

このときの若手社員曰く
「掃除しかできないので掃除を一生懸命していただけ」。
が、お互いが求めている清潔へのこだわりが一致した。
だからこそ、信頼されたのでしょう。

 

第2の「時を守り」は、時間を守るということです。

 

以前、名大の講義にゲスト講師で来ていただいた社長が
受講生に「時間=□」という問いを出しました。
□の中を埋めてみて、というのです。
正解者はゼロでした。

 

その社長が示した答えは「時間=命」でした。
社長曰く、寿命は時間です。
長く生きた人には、それだけ時間があったということ。
一方早逝した人には、それだけ時間がなかったということです。

 

時間はどんな人にも平等に与えられているものであり、
過ぎ去った時間はどれだけお金を積んでも
買い戻すことができません。

 

よって、もし約束の時間に1時間に遅れるとします。
そしてそれを連絡もせずに相手が待ちぼうけしたら、
その人の1時間を無駄にしたことになります。

 

1時間無駄にすることは、その人の限りある寿命を
1時間削ってしまうということです。
このことが分かってるから、
人は待ちぼうけさせられると怒るのです。

 

それだけではありません。
「メールへの返信のタイミングは
人との相性を決定付ける」といいます。
このタイミングがずれると、
「この人とのやり取りは気が進まないな」という感じになります。

 

同じ時間を生きている者同士、
相手の時間を大事にできるかどうかは
ギブ&テイクの関係を築く上でとても重要ですね。

 

第3の「礼を尽くす」は言うまでもないと思います。
最近、経営者向けの勉強会で私はこんな質問をします。
「Z世代社員と、どのような点で
ジェネレーションギャップを感じますか?」

 

すると、最もよく出てくる意見に
「Z世代は挨拶をしない」があります。
「挨拶をしない=礼儀正しくない=うまくやれない」
という感覚を、多くの経営者は持ってるようです。

 

ところが、Z世代の人たちにしてみると、
悪意があって挨拶しないわけではありません。
彼らが生まれ育った環境がそうさせているのです。

 

朝起きたとき、親と子、どちらが先に挨拶するでしょうか?
Z世代の親は、親が先に子供に「おはよう」と言います。

 

子供たちが学校に行きます。
途中、交差点でみどりのおじさん、おばさんに出会います。
みどりのおじさん、おばさんは、自分から子供たちに
「おはよう」と声を掛けます。

 

学校の正門前には、先生がいます。
先生と児童、どちらが先に挨拶するかといえば、
先生から「おはよう」と声を掛けます。

 

このようにZ世代は目上の人から先に
「おはよう」と挨拶をする環境で育っています。
それを当たり前だと思っています。

 

そのことに経営者や上司が気づき、
自分から挨拶すれば、相手もしっかり挨拶を返してくれます。
時代と共に常識は変わっていきます。
「自分は絶対に正しい」とは思わないことが大切ですね。

 

このように「場を清め、時を守り、礼を尽くす」の
3つは信頼関係を築く基本ですが、
「人間力とは何か」を表した言葉でもあります。

 

この3つは誰でも出来ることであるが、
誰も真似できないくらい徹底してやり続けると
それは非凡なものになり、
周囲から信頼される力になるのです。

 

5Sが徹底できている会社、
納期絶対遵守の会社、
見えなくなるまで客をお見送りする会社 
などはお客様や地域から圧倒的に信頼されています。

 

年末年始は、わが身を振り返り、先を展望し、
気持を一新する時間でもあります。
あなたも自分と組織の人間力について
考えてみてはいかがでしょうか?