V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.516
by V字経営研究所 代表 酒井英之
「ビッグモーター事件に学ぶブラックボックス存在の罪」
ビッグモーターによる
損保学者への不正請求、故意による顧客車両の破壊、
社員への強制的な処分問題が世間を賑わせていますね。
記者会見も、指示を出していた副社長が出てこない、
「社員を刑事告訴する」と社長が発言するなど
ツッコミどころ満載で、
「こんな大企業があるのか?!」と驚くばかりです。
保険金の水増し請求を実施していたのは、
ビッグモーターが保有する全国33工場全て。
・破損してない箇所を故意に破損
・破損してない箇所の、不必要な部品交換を実施
・塗装品質を実際より高く偽る、
損傷があるように見せかける写真を提出
等の事例が確認されています。
不正請求の規模は、なんと保険修理の4割で、
5年以上にわたって行われていたといいます。
こうした不正請求が行われていた背景には、
修理そのものが顧客から見て
ブラックボックス化しているからでしょう。
どうせ何もわからない。
だから、何をしても構わないという発想です。
そこで思い出したのが、約2か月前、
クライアントの専務が
「酒井さん、面白い動画があるんですよ!」と
見せてくれたスマホの動画です。
それは、専務の車が車検を受けている動画でした。
リフトで持ち上げられた車が、
下から撮影されています。
そして、担当者が点検状況を説明していきます。
「〇〇の部品が摩耗しているので交換します」など
丁寧な説明&字幕があります。
車検を依頼した人は、その映像を見ながら
愛車が戻ってくるのを待つことができます。
この専務は、大学の自動車部出身で大のクルマ好き。
クルマやメーカーの魅力を伝えることを仕事にしています。
そんな彼が「こんなの初めてですよ!」と
興奮気味に紹介してくれました。
その動画に私も驚きました。
そして、「これからはアウトソーサもどんどん映像公開して、
ブラックボックスがなくなる時代が来るかも」
「映画のメイキング映像のようなリアルを
ユーザーと共有するのが当たり前になるかも」
と、連想しました。
そんなことを考えていたら、そうしたサービスは
既に常識になっているようです。
例えば、動画で作業マニュアルをつくる専門サービスの
(株)スタディストの「Teach me BIZ」。
https://biz.teachme.jp/
その事例紹介の中に、コマツ他中古建機の販売と
メンテナンスを実施している会社の事例がありました。
同社は、お客様の車輌のメンテナンスの記録を遺し、
報告をするときに、「Teach me BIZ」の画像を
活用しているといいます。
2分程度で紹介されていますのでぜひご覧ください。
https://biz.teachme.jp/casestudy/inoueseibicenter/
今後はどのメンテナンス会社もこうしたことに
力を注いでいくでしょう。
「見える化が当たり前」の時代なのです。
そこで心配になるのが、
本来見える化した方が良いものが
「見えない化」されたまま残ってしまうことです。
そのことへの違和感が、一層強くなるでしょう。
その最たるものが、人事考課です。
あなたの会社には人事考課制度はありますか?
あるとして、評価票は公開されていますか?
そして、社員の仕事ぶりがどのように評価されたのか、
次に何を頑張れば自分の評価が上がるのか
社員本人へのフィードバックはありますか?
実は、それができていない中小企業が多いのです。
制度や考課票はあっても、評価結果が非公開。
社員へのフィードバックができていないのです。
フィードバックがないため、
社員は、自分への会社の評価が分かりません。
振り込まれた賞与等の金額を見て
「思ったより高いなあ…低いなあ…」と
自分の評価を感覚的に判断するだけです。
そのため、どうしたら自分の給与を上げられるか
わかりません。わからないから、何をするにせよ
「これをすればいいんだ」と確信が持てません。
よって、自分から積極的に動くことを止めます。
そして、指示されたことだけをやる
受け身の人材になっていきます。
一般に企業と家業の違いは、以下の2つが組織運営の中に
組み込まれているかどうかだと言われています。
1.経営計画
2.人事考課制度
この両方がないのが家業です。
家業は昔の家父長制のように、
何でもかんでも家長が決め、社員はその指示で動く組織です。
よって、社員が「家長の顔を見て」仕事をします。
家長の顔ばかり見るから、受け身の人材しか育ちません。
一方この2つがあれば、
社員は自分が会社から何を求められているのか
自分で理解することができます。
そして、「目的を果たすにはこうした方が良い」と自分で考え、
進んで上司に進言します。
上司はそれが良いものであれば
「いいこと言うね!よし、やってみよう!」と
信じて任せます。
任された社員は張り切って仕事をします。
成果が出たら上司や仲間と喜びます。
周囲から感謝され、それなりの報酬を得ます。
そして、周囲に役に立つことが嬉しくて、
さらに仕事に励みます。
つまり、主体性を発揮する人になります。
どの経営者も「自分で考え自分で動く、
主体性を発揮する人財が欲しい」と言います。
経営計画と人事考課制度は「人材」を「人財」へと
成長させる超重要なシステムなのです。
家族のため、自分のために自分の年収を
後少し上げたい社員は、社内に大勢います。
その方法を提示し、「後何ができればそうなるのか」を
制度に則って上司が説明し、納得した社員は
自分の将来に希望を持つでしょう。
ユーザーにとってのブラックボックスが
どんどんなくなる時代です。
社員にとってのブラックボックスを無くしましょう。
そして、メンテナンス映像が
ユーザーの会社への信頼と、ロイヤルティを引き出すように、
人事考課のフィードバックに時間を割いて、
会社への信頼と、社員の帰属意識を高めていきましょう。
【成熟産業の中で打ち手が見得ない後継者へ】
後継者の奮闘を描く朝日新聞Webサイト「ツギノジダイ」
サカイの連載第16弾。
今回は(株)近藤印刷(名古屋市)の現代表・近藤起久子さんが経験した
かつてのエース商材が脱プラの流れの中で衰亡していく過程と、
どん底で、社員全員で掴んだ未来への希望の物語をお伝えします。
「クリアファイルが踏まれ捨てられ…エシカル印刷にかじを切った3代目」
https://smbiz.asahi.com/article/14953131
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.515
by V字経営研究所 代表 酒井英之
「社員の離職防止ために見直したい2つの場所とは」
先週、トランスジェンダーの経産省職員の
トイレ使用制限が違法だとする判決が出ましたね。
ダイバーシティの時代に企業のトイレのあり方を示したことで、
翌日の新聞は全て一面トップがトイレ話でした。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230711/k10014125111000.html
トイレは 誰にとってもとても重要な場所です。
経営にとっても、とても重要なファクターです。
先日、弊社が主催している「無敵経営研究会」で
中部地区で第一号のDX認定を受けた治具加工メーカー
(株)テルミック(常滑市)を訪問、見学しました。
同社は社員数が約140人。うち7割が女性です。
社長が「ハイヒールで歩ける工場」というだけあって
油の匂いも騒音もない、とても綺麗な工場でした。
そんなテルミックの田中秀範社長が働きやすい環境整備として
注視しているものの一つに、トイレがあります。
社長が説明してくれたときの表現をそのまま再現します。
「男女が同じトイレを使うなんてありえないですよね。
女性にとっては男性と同じトイレを使うなんて、地獄と一緒です」
こうした感覚が、多くの女性の共感を得るのでしょう。
男性には、分かりにくいかもしれません。
が、ここに配慮できるかどうかは、
社員の定着に大きな影響を及ぼします。
この問題を放置している会社は
何年も前から気づいていながら放置しています。
建物の構造上やむを得ない面はありますが、
定着率アップにはトイレの改善が1丁目1番地です。
それを実践されたのが、サンリオピューロランドの
小巻亜矢社長です。
小巻社長は社長に就任してから
同社の業績をV字回復したことで大変有名の方です。
その小巻社長が、社長に就任してすぐに手をつけたのが
トイレ改修でした。
同社の社員用女子トイレは、鏡にひびが入っていたり
タイルが割れていたりした荒んだ場所でした。
小巻社長は、以下の理由からトイレは
とても重要な場所だと言います。
第1に一日何度も訪れる場所
第2にホッとする場所
第3にお友達と喋って本音が言える場所
そんな貴重なトイレなのに、
気持ちが落ち込むようではいけない。
そう考えて、創業オーナーに直談判して費用を調達。
90年の開業後初めてトイレを改修したのです。
この時の社内のキャッチフレーズが
「聖子ちゃんが入っても恥ずかしくトイレにしよう!」
こんなフレーズで社員の期待値も
高めてしまうなんてさすがですね。
以後、サンリオの社員さんたちには表情が明るくなったと
取引先や来園者から言われるようになりました。
なぜならトイレが変わったことで
「うちの会社は変わるかもしれない」という期待が生まれたことと、
「社長は私たちの話を聴いてくれる」
「社長が『社員を大切にする』と言うのは口先だけじゃない」という
経営者への信頼ができからでした。
経営者が注目すべきは、トイレだけではありません。
食堂もまた経営者が配慮するべき非常に重要なファクターです。
先日、NHKの『サラメシ』を観ていましたら
企業の食堂で「これ、社食で出されているランチなの?!」
と驚くほど、美味しそうなメニューの企業がありました。
その会社は新潟県燕市にある諏訪田製作所。
特殊な形状をした爪切りのメーカーで
価格は1本8,000円~2万円。
それが「SUWADAブランド」として評価され、
通販サイトは品切ればかりです。
https://www.suwada.co.jp/
この会社が、なぜこんなにも美味しそうな
ランチを出しているのか、
ネットで番組終了後に調べてみました。
https://www.gr8lodges.com/259555.html
すると、BIZHINTというサイトで
社長の小林知行さんがインタビューに答えていました。
記事のタイトルは
「なぜ社長は、社員に『腹いっぱい』食べさせるのか?
数ヵ月待ちの高級爪切りは不良の巣窟から生まれた」。
詳しくは直接読んでいただきたいのですが、
ここでは以下ポイントのみ表記します。
https://bizhint.jp/report/601577
小林社長は先代の父から自分が会社を引き継いだ時、
同社の職人さんたちはいい仕事はするが
規律が全く守れない人たちでした。
整理整頓や時間厳守を呼びかけても、一切気にしないのです。
そのような状態が何年も続いたある日、
社長はハタと気がつきます。
「経営者である自分がどんなに手を尽くしても、
結局のところ人は変わらない」
「経営者にできることは、
ひたすら、働く環境を整えることしかない。
だからそれをそれに徹しよう」と。
そこで取り組んだのがオープンファクトリーです。
見学コースを作り、職人の作業を
見学者が直接見られるようにしました。
見られることで、社員は自分が舞台の上に
立っている役者のような気持ちになります。
そして、緊張感を持って持ち前の職人技を駆使丁寧に作業し
オンリーワンの商品をアウトプットしていきます。
さらに食堂です。腹いっぱい美味しいものを
食べてもらいたいとの思いから食堂を作りました。
そのために管理栄養士を正社員として雇いました。
しかも、ランチ代は無料です。
そして、今では地元の人たちにも、
同じ食堂でランチを食べていただこうと
社員と同じランチを提供しています(地元の人は有料)。
以下は、同社の月刊ニュースリリースの抜粋です。
「社員ショクドウ「Restaurant CUIQUIRIT」では工場営業日の
火曜から土曜に、職人の日替わりランチメニューを一般向けにも
提供し、多くのお客様からお楽しみいただいています。
和食やイタリアンはもちろん、中華料理や、時にはエスニック
料理が登場することもあり、職人にとって 1 日の大きな楽しみに
なっています!
そんな大人気の日替わりメニューですが、ご来店を考えている
お客様にも楽しんでいただけるよう、レストラン公式 Instagram
にて毎週月曜日に今週の献立を発表しています。
公式アカウントのフォローをしていただけますと簡単に
ご覧いただけますので、ぜひお役立てくださいませ!」
https://www.instagram.com/suwadacafe_1017/
社食を地元地域の人に を開放しているケースは
大変珍しいのではないかと思います。
そして、栄養士でもある社員が腕にかけて作ったランチを
地域の人も同じ空間で一緒に食べるとなると、
交流の場となります。
人は、「同じ釜の飯を食う」の喩えの通り、
一緒に食事をすると大変親近感が沸きます。
そんなアットホームな感じが、
社員のモチベーションを高めます。
私も『サラメシ』を観ながら、「こんなランチが
毎日食べられるなんて実に羨ましい!」と思いました。
この他、同社は制服を工夫したり、
検査担当者には超高級なイスを用意したりしています。
トイレもランチも制服も長時間座るイスも、
マズローの欲求5段階説では、第1段階の生理的欲求です。
ここに問題があると、第2段階以上が満たされても、
どうしても「この会社は好き!」と言い切れない
モヤモヤが生じます。
それが、いつか離職の引き金となります。
働き方改革の一環で、福利厚生を
見直そうという会社が大変増えています。
あなたの会社には第一段階の欲求を
満たせていない箇所はありませんか?
是非、自社の環境を確かめてくださいね。