V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.492
by V字経営研究所 代表 酒井英之
「ジャイアントキリングに学ぶリーダーの仕事とは?」
ワールドカップで日本がドイツに勝ちましたね。
まさかの逆転勝ちで、家中で大騒ぎしました。
歴史的な勝利の瞬間、皆さんはどうでしたか?
93年にJリーグが発足したのは、
ひとえにW杯に出場するためでした。
以来30年、わが国はW杯に毎回出場し、
ついにジャイアントキリングを成し遂げました。
いつか来るこの日を信じて、
Jリーグ創設に携わった人たちの熱い想いに、
感謝の気持ちで一杯です。
今回の勝利の背景には様々な要因がありました。
24日朝7時のNHKニュースでは、
解説者の山本昌邦さんが「後半前半と後半で
システムをどう変えたのか」を
ボードを使って丁寧に解説していました、
https://plus.nhk.jp/watch/st/g1_2022112422425?playlist_id=25addb06-470a-4080-8745-09ddad91db05
前半はどうだったか…
・ドイツの左サイドバックのラウム選手が
ゴール付近の高い位置まで上がってくる
・そのため前線の伊藤選手が守備をせざるを得ない
・結果、日本は全体的に下がり気味で攻撃的になれない
・ゆえにドイツの波状攻撃を受けてしまう
山本さんはこの問題点を、
後半はシステムを変えることで克服したといいます。
・日本のバックスを4人体制から3人体制に減らす
・一人余った酒井選手がラウム選手をマーク
・これによって日本の前線の伊藤選手が攻撃に参加できる
・さらに攻撃型の三笘、浅野の2選手を投入し攻撃力を増す
この解説を、私は耳をダンボにして聞き、
「なるほど」と得心しました。
どんな問題にも発生原因がある。
上手く行かないときは、その原因を見つけ
課題を特定し、丁寧に対策を講じる。
そうすれば結果はついてくるということです。
「後半になって日本が突然覚醒した」と
コメントする人もいました。
確かに「覚醒」と言えるほど、
前半と後半では、動きがまるで違っていました。
この覚醒を引き出したのは、
上記のシステムの変更でした。
選手は誰もが高いモチベーションで挑んでいます。
問題解決のための課題の特定と、
そのモチベーションを活かす環境作りこそが
リーダーの仕事だとよくわかりました。
また、キャプテンの吉田麻也選手は、
勝利後のインタビューで次のように応えました。
「サウジが、昨日も0対1のビハインドから逆転して
大きなことを成し遂げたので、
自分達もできると信じて戦いました」。
この言葉通り、人は自分と似たような状況の中で
成功した先例があると、
「自分もうまくいくのでは?」と期待を抱き、
挑戦する勇気を持つものです。
実際に、甲子園でも同じような現象が見られます。
例えば2014年、夏の甲子園を目指す石川県大会の決勝で
小松大谷高校と星稜高校が対戦しました。
この試合、星稜高校は9回表まで0対8で負けていました。
ところが9回裏、先頭打者のフォアボールをきっかけに
打線に火がつき、9対8で逆転勝利を収めたのです。
https://www.youtube.com/watch?v=9acEorOQ-8E
すると、その年の甲子園で例年にない変化が起きました。
全48試合中半分の24試合が逆転勝ちだったのです。
逆転勝ち率50.0%。
比較的逆転勝ちの多い高校野球の世界でも、
これは異例の高さです。
私が調べた2010~19年の10年間合計の逆転勝ち率は、33.4%。
この夏は16試合で33.3%。ほぼ平均でした。
なぜ2014年にそれだけ逆転勝ちが多かったのか。
私はこの星稜高校の逆転勝利の事実が、
甲子園の球児の勇気となり、最後まで諦めずに
挑戦し続ける勇気の源となったのではないかと思います。
こうした影響力があるからこそ、
ピンチの時こそ自分の体験談を語り、
部下を鼓舞するのが大事なリーダーの仕事なのです。
現在、私はある会社の第3次創業を支援しています。
同社は、20年前に誕生したビジネスで急成長しました。
が、今日そのビジネスでは儲からなくなり、
新たなビジネスモデルの構築が急務となりました。
そこで、日本代表がシステムを変えて成功したように、
自社のシステムを作り変えました。
テスト販売で上々の手応えを感じ、
いよいよそれを、本邦初の新サービスとして
世に問う段階に来たのです。
私はその新サービスを軌道に乗せるお手伝いを
依頼されたのですが、最初に社長から言われたことは
「是非、パラダイムチェンジの成功事例を
社員の前で話してください」でした。
パラダイムチェンジとは、
従来の当たり前だった考え方が変わり、
考え方もやり方も劇的に変わることを指します。
その事例を皆に語ることで、社員全員に
「先生が語る会社にだって出来るのだから、
自分たちだってできる」という勇気付けたいのです。
そして、「転換時にはこの点に気を付けよう」という
ヒントを与えたいのです。
私はこのオファーを喜んで引き受けました。
同社の社員が私の話から
パラダイムチェンジを代理体験することで、
サウジアラビアの勝利から多くを学んだ日本代表ように、
この業界のジャイアントキリングを
成し遂げられると思えたからです。
代理体験は人に勇気を与えます。
是非リーダーは自分の様々な体験を
生々しく部下に語る時間を作って下さい。
そして、「こんな目標、達成できっこない」と諦めている
チーム全員を勇気付けてください
。
小さきものが大きな物を倒すジャイアントキリング。
これは、中小企業の希望です。
私は中小企業の応援団の一人として、
日本代表の活躍が、多くの中小企業の
挑戦への勇気と自信になることを望んでやみません。
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.491
by V字経営研究所 代表 酒井英之
『Z世代を考える経営用語の定義』
展示会シーズンですね。
様々な展示会場でコロナ禍前同様に、
展示会が開催されています。
弊社も今月16日から今日まで、
ポートメッセなごやで開かれている
「メッセナゴヤ」と題した展示会に出展しています。
「もし、よかったら来てくださいね」と
お客様に声をかけると、
「それって何の展示会ですか?」とよく聞かれます。
展示会には「工作機械見本市」とか「農業展」とか、
展示会のテーマがあるのが普通です。
ゆえに「メッセナゴヤ」のテーマは何かを聞かれるのですが、
実はメッセナゴヤには、そのテーマがありません。
「出たい会社が出ている」のが実情で、
主催の名古屋商工会議所は
「日本最大級の異業種交流展示会」と言っています。
この展示会は元々が、トヨタグループに
自社の商材を売り込みたい様々な部品メーカーや
法人向けサービスの会社が開いていました。
それがどんどん規模が大きくなって、
「トヨタのためだけではもったいない」となり、
名古屋商工会議所が引き受けました。
業種の区分がないのはそのためで、
弊社のブースの前にはネジの強度を高める
コーティング剤のメーカーが出展しています。
斜め前方では強化ダンボールのメーカーが
ダンボールを使ったパレットを展示しています。
次の角を曲がると何が飛び出すかわからない。
そんな多様性の面白さがメッセナゴヤの魅力です。
こうした多様性は創造力の母でもあります。
そこで、社内にも多様な人が集まる場を創り、
なかなか揃わないモノの見方や価値観について議論し、
皆が納得できる解を見つけるのも面白いです。
例えば、「お客様」とは何でしょうか?
当たり前に毎日使っている言葉ですが
「わが社にとってお客様とはどういう人か」を
揃えておくことは、社員一人ひとりが
現場で自ら考え行動するためには大事なことだと思います。
先日、とんかつ屋で客が店員を殴って
逮捕される事件がありました。
マスクをつけていないお客さんに、店員が
「マスクをつけてください」とお願いしたところ、
「俺は客なのに命令するのか!」と逆ギレされだということです。
「お客様は神様です」と言いますが、
こんな人はお客様ではありませんよね。
そういうことを予め定義しておくことが、
現場での判断力を高めるのです。
そこで、社員数150人の部品製造業では、
現在、「言葉を定義するプロジェクト」を行っています。
メンバーは社長と部長が3人、
そして入社1、2年目の社員4人の合計8人で
月に1度、3時間使って行っています。
敢えてZ世代の若手社員を入れているのは、
普段なかなか話す機会のない部長と部下を集めて
カオスな状態を作り、新鮮な驚きと感性を
引き出したいたいからです。
このプロジェクト、元々は昨年、
ホームページを刷新する目的で始めました。
同社はホームページで、採用を呼びかけても
全然人が採れませんでした。
そこで入社したばかりの社員を集め、
会社のホームページの問題点を教えてもらったのです。
新入社員は、入社前に様々な会社のホームページを見比べています。
どんな会社のホームページが魅力的に見えたのか、
それを教えてもらいながら、
会社に足りない要素を見つけて行きました。
また、入社して「この会社に入って良かった」と思った点は
どういうところか。先輩との関係性、面白いと感じた仕事の内容、
会社の制度で魅力的だと感じたことなどを聴き出しました。
さらに、部長等から様々な体験談、エピソードを聞き、
その何が面白いのか、どんな気づきがあるのかを知り、
Z世代の共感を呼べるよう言語化しました。
そうした意見や感想を踏まえてホームページを刷新したところ、
更改2か月で期待以上の応募があり、採用に成功。
この経験により、同社は社長や部長が
Z世代の意見を聞く大切さを痛感したのです。
定義する言葉は、上記のお客様の他に
「利益」「クレーム」「プロフェッショナル」
「従業員」「リーダー」などです。
皆さんなら、どのように定義しますか?
同社は、約1時間のディスカッションを経て、
「お客様」を以下のように定義しました。
1.お客様とは、私たちへ「社会の期待」を
明確に示してくださる方
2.お客様とは、期待に応えた私たちに
しっかり「ありがとう」を感じていただける方
3.お客様とは、その上で私たちを評価し
社員を笑顔にしていただける方
1番は、最初は「私たちへの期待を」だったのですが、
近年のお客様の要求がSDGsやカーボンニュートラルなど、
良質な商品供給だけでなく、環境への配慮も求めています。
それらを加味するために「社会の期待を」としました。
2番の「ありがとうを感じていただける方」というのは、
部品製造業はなかなかお客様に
「ありがとう」を言ってもらえないのが実情です。
そのくせ、不良を出すと烈火のごとく怒られます。
そうした、私たちを下請け的に扱うお客様ではなく、
しっかり認めてくれるお客様を選んで
共に成長していきたい、という意思が込められています。
3番は「十分な対価をお支払いいただける方」という意味です。
昨今の値上げ交渉は受け入れてくれる先もあれば、
頑として受け入れてくれない先もあります。
そうした現実に直面した時に、
正しい判断ができるようにこの一文を入れました。
このディスカッションでは、最初に社員たちが文案を創り、
それに対し社長がフィードバックをするのですが、
そこには過去の経験から得た教訓が詰まっています。
それが社員には様々な気づき、刺激となり
徐々に価値観が揃ってきます。
そして終わった時に非常にすっきりとした気持ちになります。
多様な人材の討議から一本の筋を見つける、
まさにそんなプロジェクトです。
世の中には、多様性があるからこそ面白いものと、
統一された方がスッキリするものがあります。
ぜひあなたの会社でもいろんな世代が交流する
ミーティングを開催してみてくださいね。
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.490
by V字経営研究所 代表 酒井英之
『キムタク信長祭に学ぶ集客の教訓』
先週の日曜日、19時のNHKニュースのトップで
私の地元、岐阜市が取り上げられました。
信長に扮したキムタクの武者行列です。
これが岐阜市の人口40万人以上を集めました。
前週に韓国で大変な悲劇が起きたために、
同じことが起きないか、警備体制はどこまで万全か、
それも全国から注目を集めた理由でした。
私も私の親戚一同も、当日は現場に全く近づいていません。
抽選に外れたこともありますが、
幸い地元の岐阜放送が、祭りの様子を
テレビ中継してくれたので、それを見て楽しんでおりました。
さて、祭は大きな事故もなく、滞りなく行われました。
翌日の新聞には、「岐阜市が一番輝いた日」と書かれていました。
私も今週出会ったお客様から、幾度も
「岐阜市、良かったですね」と声をかけられました。
しかし、この祭が本当に岐阜市とって
良かったかどうかは、別問題です。
正直言って、私はこの街の将来に大変不安を覚えました。
キムタクが来てくれたら、大勢が来て経済効果も大きかった。
一度こうした味を占めると、自分で人を集めようという
努力をしなくなってしまうのではないかという不安です。
とりわけ岐阜市は、これまでに何度も
大河ドラマで信長公や明智光秀公が取り上げられ、
その都度「ゆかりの地」として多くの観光客を集客してきました。
実は今も「承久の乱の舞台」と書いた幟旗が、
駅に掲げられています。
大河ドラマ『鎌倉殿の13人』のゆかりの地だと言いたいのです。
岐阜市の商売人は、大河ドラマや映画で
信長さえ取り上げてくれたら客は自然とやってくると考えています。
その影響で、自分から情報発信したり、
どうすればお客様が来ていただけるのか考える力はとても脆弱です。
実際に、岐阜市の名物・鵜飼の乗船者数は
今年度は52,889人でした。
今年はシーズン通して甲子園球場1試合分しか
集められなかったのが実情です。
どれだけ、魅力的な要素を持っていても、
かくも残念な結果にしかならないのです。
今後、この街で商売に携わる人たちは、皆、市長に
「大物俳優を連れて来い。そして信長をやらせろ。
そしたら客が来るじゃないか」と要求するでしょう。
こんな他力本願な考え方が増長され、
自ら集客する方法を考える力すら失っていくのではないか。
そこが心配なのです。
自分で集客し、自力で売る力があるかどうか。
これが企業の明暗を分けます。
いくら良い品を作ってもお客様が知らなければ、
買うことはできません。
知らせる活動と選んでもらう活動ができないと、
どれだけ良い商品を持っていても在庫の山になってしまいます。
このことはサントリーとニッカを見れば分かるでしょう。
サントリーは宣伝の必要性をどこよりも早く認識し、
広告宣伝に莫大な費用を投下し、高い認知率得ました。
対してニッカは、美味しい国産ウイスキーを
作ることにこだわり、高い評価を得ました。
創業者のそのものづくりにかける純粋な姿勢は、
朝ドラ『マッサン』として描かれたくらいです。
しかしながら、ニッカは現在アサヒビールの
グループ会社のひとつです。
商品が良くても、営業力がぜい弱だったための選択でした。
販売力がないと苦労するこのことは、私にも身に覚えがあります。
私は2013年度まで、三菱UFJ銀行系のシンクタンクの社員でした。
2001年に自分の書いた小冊子が4万部売れてから、
13年に同会社を辞めるまでの間、
凡そ1,500件以上の講演会・研修会の講師として登壇をしました。
そのため人前で喋ることには慣れっこで
集まったお客様には大変喜ばれました。
ところが、この1,500件すべて、
どこかの企業あるいは団体が主催をしてくれたものでして、
私は講師として呼ばれていくだけでした。
通算1500回も登壇しても、ただの一回も
自分で集客したことがなかったのです。
ところが、14年に独立してからは、
自分で集めるしかなくなりました。
もちろん、独立後も私を呼んでくれる企業・団体はありましたが、
それだけで新しい顧客を獲得できるほど甘い世界ではありません。
ホームページやこのメルマガを使って自分で宣伝し、
集客をし、その上で講演するよりほかに、
新しいお客様と出会うしか方法はありませんでした。
このことは簡単そうに思えて、難しいことでした。
目的は講演会を成功させるだけではなく、
次のクライアントになる人と出会うことです。
その視点で観た場合、
・丁度良い人数はどのくらいか?(多すぎるとダメ)
・何曜日の何時頃が一番集客力できるのか?
・開催日のどれくらい前からアナウンスするのは効果的なのか?
・どのテーマが最も喜ばれ、次に繋がるのか?
・どんなアンケートならニーズを把握できるのか?
・質問や相談時間などインタラクティブな
時間をどのくらい確保するべきか?
などなどわからないことだらけでした。
これらは解のない問題です。
トライ&エラーを繰り返して、身につけていくしかないのです。
しかもリアルが当たり前だった時代がコロナ禍になり、
一度掴んだノウハウをリライトする必要もありました。
今でも集客力があるとは自分でも思っていません。
が、それでも自分でやるからこそわかることがあります。
ドラッカーは企業の目的は「顧客の創造」だと言いました。
集客を他人に頼らず、どんな不況下でも
自力で集客できるという自信があれば、
その不況を乗り切ることができます。
いっとき大勢集まったからといって、
それに浮かれてはいけません。
ブランド力のない小さな会社は、
自分なりの地道な集客ノウハウを、
エラーを繰り返しながら築きましょう。
そして、自分を強く必要としてくれるお客様に出合いましょう。