V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.489
by V字経営研究所 代表 酒井英之
「理想の事業構成比を目指して」
全国旅行支援が始まりましたね。
7回に渡るコロナ波のうっ憤を晴らすように
多くの人が利用していますね。
新幹線も旅行客で混雑するようになりました。
さて、旅行に行くときは皆さん計画を立てますよね。
なぜ計画を立てるのか?
それは、帰る日が決まっているからです。
時間に限りがある。行きたい所がある。
だから、効率的に時間を使うために計画を立てるのです。
黒澤明監督の名作に『生きる』があります。
定年間近の、のんびり生きてきただけの
市役所職員が、余命半年の胃癌だと宣告されます。
そこで主人公は、自分に何かできることはないかと発奮し、
やがて市民の憩いの場となる公園を創る、というお話です。
期限が決まっているから、
時間の使い方を意識し、
やりたいこと、やるべきことをやり切った話です。
人間とは不思議なもので、
時間に限りがあるとわかると、やりたいことを洗い出し、
必要時間を計測し、やるべきことを絞り込み、
やる順番を決め、実行することに集中します。
このときの集中力は、まさにアドレナリン噴出で、
自分の力以上のものを引き出してくれます。
同じことをもう一度せよと言われても不可能なくらい、
全能全開となるのです。
そういう意味で、5年先のビジョンを描き、
その実現を画餅にするのではなく、
本気で目指して日々活動している会社は、
社員全員が充実感を感じながら仕事をしています。
思い描いたことが予想以上の姿、
より魅力的な姿となって目の前に出現するからです。
ゆえに期限を決めたビジョン開発は、
企業経営には欠かせないものです。
そんなビジョンの一つの姿に、
社内の事業構成比があります。
特定の事業や特定の顧客に依存を無くし
会社を経営的に安定させたいという、社長の思いです。
特定事業や特定顧客に多くを依存していると、
その依存先に「まさか!」と思う事態が発生しとき、
業績は急転直下!経営は途端に行き詰ります。
そのリスクを回避したいのです。
では、どうしたらそれができるのか。
これはなかなか難しい課題です。
例えば今、売上の9割を特定業界に依存しているとします。
その会社がこの業界への依存度を5割にしたいと思ったら、
9:1→9:9にしなくてはなりません。
つまり別の業界との商いを9倍に増やさないといけません。
これはM&Aでもしない限り、相当な労力を要します。
そのために多くの経営資源を投下しないといけません。
そこで、依存度の高い9の中から捨てられる顧客を探します。
取引額の大きい順に並べ、以下の5項目でチェックします。
①相手が自他協栄の精神を持ち合わせておらず高圧的
②理不尽なコストダウン要請がきつい
③売上げは大きいが利益率が低く不採算
④売上に伸びがなく、むしろ低減傾向
⑤後継者不在で将来ビジョンを尋ねても返答がない
これら5つの要素のうち3つを満たしていたら
取引を減らすことを検討します。
いきなりゼロにするか、暫時低減かは相手との
関係性にもよりますが、
喧嘩別れにはならないように注意します。
そして、この取引停止によって生まれた
キャパを用いて新たな業界の仕事を行います。
「わが社は(キャパに余裕があるので)、
ご注文いただければ、従来以上に短納期で納品できます」
「わが社は(キャパに余裕があるので)、
ご注文いただければ、従来以上に複雑な加工もできます」
と営業担当たちが提案すれば、
新たな業界の仕事を受注できるでしょう。
そうすることで徐々に理想の姿に近づくことができます。
社長の最も重要な仕事の一つは「捨てる」です。
サラリーマンは、絶対に自分から
「この顧客との取引止めた方が良いです」とは言えません。
そんなことを言えば、上司から
「お前はやる気がないのか!」と叱られるからです。
ゆえに捨てる決断は社長にしかできません。
さらには「顧客一社当の売上依存度を全体売上の〇%以下とする」
といった方針を示し、それを超える大口の注文があったとしても
その要請を断る。それができるものトップのみです。
捨てるものを捨ててキャパに余裕をつくり、
上記のような提案をすれば、必ずその空白に、
自分たちを必要とする顧客からのオーダーが入ってきます。
その顧客は、上記①~⑤とは真逆の、
成長意欲があり、自他共栄を望む人たちです。
目標設定は感情で(情を添えて)、
目標達成は理論で行うといいます。
目標設定は「どうしてもやりたい」「達成させたい」
「味わいたい」「負けたくない」「世界一になりたい」などの
感情から生まれます。
一方目標達成は、原因と結果の法則から逆算して計画を立て
何度も壁にぶち当たりながら実現するものです。
まずは自分が旅先を選ぶ感覚で、
理想のゴールと体験を思い描きましょう。
次にいつまでにその旅を実行するか期限を決めましょう。
そして、そこに至る方法をプランニングし、
最初の一歩を歩み出しましょう。
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.488
by V字経営研究所 代表 酒井英之
「うばい合えば足らぬ。わけあえば余る経営」
昨日はプロ野球のドラフト会議でしたね。
結果を見て驚いたのですが、ドラフト名物とも言うべき
一人の選手を複数の球団が指名して
くじを引き合うということがほとんどなかったようです。
1位指名で2件ありましたけど、
それ以下の指名ではなかったみたいでびっくりしました。
なぜそうなのか、私には分かりません。
が、選手の将来をくじ引きで左右するような
乱暴な行為が消えたのはとても良いことですね。
スカウトの皆さんと選手とその関係者が
どうしたらWin-Winになれるのか、
よくコミュニケーションを取った証でしょう。
また、各球団が自球団のみの強化より、
野球界全体の発展を優先させたからではないかと思います。
この現象に、私は相田みつをさんの名言
「うば合えば足らぬ、わけ合えば余る」を思い出しました。
かつてドラフトで意中の球団に行けず悔し涙を流したり、
憮然とした表情の選手がいたりしたことを思うと
日本人は随分成長したなと思います。
ところで、あなたはマズローの欲求5段階説をご存じでしょうか?
このメルマガの読者であればご存じとは思いますが、
ちょっとおさらいをしておきましょう。
人には5つの欲求があるというものです。
第1段階が生理的欲求。
これはお腹が空いたから食事したい。
疲れたから休みたいなどの欲求です。
それが満たされると、
次は第2段階の安全欲求が出てきます。
安全で、安心できる環境で暮らしたい、
働きたいという欲求です。
それが満たされると、第3段階の帰属の欲求が出てきます。
好きな仲間と一緒に暮らしたい、働きたいという欲求です。
さらにそれが満たされると、
その仲間から「あなたのおかげです。ありがとう」と
言われたい、認められたいという第4段階の欲求が出てきます。
これが承認欲求です。
そしてそれが満たされると、
自分の知恵や工夫でお客様や仲間を喜ばせたいという
第5段階の欲求が出てきます。これが自己実現欲求です。
今日、企業は主体的な人材が欲しいと言います。
主体的な人材とは、第5段階の欲求を持った人材です。
そのような人財は、マズローの欲求段階説に従えば、
第4段階の承認欲求を満たすことから出てきます。
社員一人ひとりを認めること、褒めること。
これを増やせば自ずと、主体的な人材が増えてきます。
この10年余り、褒めて育てることが重要視されるのはそのためです。
そして、この第5段階の欲求の上には、
第6段階の欲求があると言われています。
マズローが晩年、この第6段階の欲求を
「自己超越の欲求」と名付けています。
自己超越、という言葉。
ちょっと難しいですよね。
私は次のように解釈しています。
第5段階の自己実現欲求までの欲求は
「自分(自社)をよくしたい」という欲求です。
ところが人は、自己実現欲求を満たす過程で、
様々なスキルを磨き、ノウハウを構築し、
それによって、多くの人に喜ばれる体験を重ねます。
こうして培ったスキルやノウハウを、
自分だけでなく、自分のいる地域とか、社会、地球など
自分を取り巻く環境をよくしたい。
そのためにいろんな人と繋がりたい、
シェアしたいと考えるようになります。
これが自己超越の欲求です。
私は「自分は満たされたから、この先は自分を取り巻く
環境をもっと良くしたい」というこの自己超越の欲求と、
相田みつをさんの「わけ合えばあまる」は
同じではないかと思います。
どちらも自己犠牲ではない、
利他の心から出るものだからです。
例えば、先日、クライアントの社長と話をしていましたら
その社長が次のように言いました。
「先生、最近自分が業界の会合に行くと、
『何であんたのところは業績が良いんだよ。教えてくれよ』と
同業者から質問されるのです。
が、自分で考えていてもよく分からない。
皆と同じような事をやっているけど、
値上げも認めてもらえるし、注文も貰えるのです」
「もし違いあるとしたら、燃料にリサイクル材を用いるなど
SDGsに一生懸命取り組んでいること。
カーボンニュートラルを意識して、
常にそれを実現しようと思っていること。
働き方改革実施して社員の給料を上げようとしていること。
また、残業の未払いを一切になくすようにしていること。
幹部社員と若手社員が対話する機会を定期的につくっていること。
さらに、お客さんの要望に応えようと、
納期を100%守ってることぐらいです。
結局そういうことをしていることが、
業績に繋がっているんじゃないかと思います」
私はこの社長の話を聞きながら、
ここに真理があるなと思いました。
社長は、自分では気が付いていないかもしれませんが、
この社長は、自己実現欲求を通り越して
自己超越の欲求を満たそうとしています。
SDGsとか、カーボンニュートラルなどの
社会的な課題に対してとか答えていきたい。
社員に幸せを感じながら働いて欲しい。
そのために、自分の会社でできることが何かを
誰かに教えられるのではなく、自身で考えて精一杯実践している。
その姿勢が人を惹きつけて、
他者がうらやむような注文数や値上げを認めてもらえる
状態を作っているのではないかと思います。
逆に言えば、そうしたことへの取り組みがなく、
市場の奪い合い、資源の奪い合いに終始していると
これから先の時代、お客様から選ばれない。
そのくらい厳しい時代になることを示唆しています。
優秀な選手の奪い合いの象徴だったプロ野球界も
過去の黒歴史を繰り返さないよう、
どんどん変わりつつあります。
私も含め自分たちにできる「わけ合えば余る」は何か。
実践してみたいですね。
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.487
by V字経営研究所 代表 酒井英之
『本部と現場、どっちが強くあるべきか?』
「ナイフで切ったように夏が終わる」。
今から40年ほど前のパルコの CM のコピーです。
夏は当時に比べて随分暑くなりましたが、
夏の終わり方は昔も今も一緒ですね。
そして秋。秋といえば展示会の季節です。
あなたは最近、展示会に足を運んでいますか?
私も仕事柄、ちょくちょく見学します。
人は展示会に戻ってきています。
やっぱり、新しさを求めて現地現物に触れたいのでしょう。
その展示会で驚くことがあります。
例えばほんの数年前まで、展示会を見学しようとすれば、
入り口で申込票に必要事項を記入して、受付に並び、
名刺を2枚出すなどの登録手続きが必要でした。
今、そんな手続きは一切ありません。
自宅で見学したい展示会のサイトを立ち上げます。
そこに会社、氏名、メアドなどを入力して
登録ボタンをクリックします。
すると QR コードが出てきます。
そのQR コードを印刷して会場に行きます。
会場に着いたら、QRコードの紙を入れて首から下げます。
係員はQRコードを読みます。体温検査をします。
そしたら、もう入場できます。
お目当てのブース(A社)に行きます。
A社のカタログが欲しいなと思ったら、
A社の受付カウンターに行きます。
従来はここで名刺を出し、
それと交換にカタログや粗品をもらっていました。
が、今はここでも QR コードを読むだけです。
そうするとカタログや粗品がもらえます。
つまり名刺を出すことが一切ないのです。
が、私のデータは正確にA社に残ります。
そして後日「ご来場ありがとうございました」という
メールがA社から届きます。
そのメールには、同社のサービス案内のURLが付いています。
クリックすると商品・サービス情報やセミナー情報が出てきます。
それをクリックするとさらに詳しい情報が出てきます。
A社側では、私がそのサイトのどんな商品情報に興味を持ち
どこをクリックしたかを把握します。
そしてその分野の詳しい情報を送ってきます。
相手がセミナーに参加したり、資料をダウンロードしたりすれば、
それをネタに連絡します。こうして見込み客を発掘するのです。
従来は、展示会で集めた名刺やアンケートを
手作業で入力していました。
さらにそのデータを基に、一軒一軒電話をかけ、
来場のお礼を伝え、興味の有無を確認し、アポ取りしました。
こうして見込み客発掘まで、膨大な作業が発生していました。
こうした地味な作業の積み重ねと
展示会を終えた身体的な疲労、
通常業務と並行してこれをやらねばならない時間の制約もあり、
社員たちは展示会後、一様にモチベーションダウンします。
そして、上記のアプローチがほとんどできず、
何のために展示会をやったのかというぐらい
展示会で集めた名刺やアンケートを無駄にしていました。
それを思えば、ところが今は気持ちよく、
タイムリーに展示会後の見込み客発掘に取り組めるのです。
相手を会ってから知るのではなく、
知ってから会うことができるからです。
みんなDXのおかげですね。
話変わって私は先日、マイナンバーカードで
印鑑証明をコンビニでプリントアウトしました。
実に簡単です。マイナを置くだけで出てくるのです。
過去、役所に行って取得していたことを思えば
めちゃくちゃ楽です。
また、マイナンバーカードを登録した時には、
2万円のポイントをいただきました。
私はこのポイントいつも利用している
ドラッグストアのポイントにつけました。
緊急事態宣言時の10万円の給付金の時に比べると、とても楽です。
これまた、DXのおかげです。
こうした仕組みを構想し、作れる人財はどの企業でも必要ですね。
会社によって現場と本部、どちらに有能な人財をおくかは様々です。
私が肌感覚で感じるところ、
B2C主体のチェーン店は本部に有能な人財を得ています。
どの店でも一定の成果が上がるよう、
陳列を工夫したり、無駄のないオペレーションを構築したり、
固定客化のために顧客管理システムを活用するのは本部の仕事です。
そこが、成長の一番のポイントだからです。
一方、B2B主体の商社や金融機関は
現場に優秀な人財を配置します。
お客様と直接お会いし、難しい商談をまとめたり、
新たな商談を発掘したりするところに、
成長の一番のポイントがあるからです。
しかしながら、「有能な人材は最前線へ」という
考え方は過去のものに成りつつあります。
上記の展示会の見込み客発掘の仕組みを見ても、
DXを活用した仕組みが存在することで、
どんな社員でも見込み客を発掘することができます。
経営者が考えなければならないこと一つは、
社員のモチベーションの活かし方です。
社員はみんなやる気があります。頑張りたいと思っています。
それが発揮できる環境を整えるのが経営者の仕事です。
それには最前線の現場ばかりでなく、
上記のような仕組みをつくるセクションに
有能な人財を配置するべきです。
つまり、B2B企業でもB2C企業並みに、
本部を強くしていく必要があります。
本部が強いからこそ、最前線の担当者たちは
安心して、お客様にソリューションを提供できるのです。
本部の強さに問題あり、と気づいている会社は
是非、そこを強化しましょう。
その差がやがて、大きな競争力の差となるでしょう。