V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.485
by V字経営研究所 代表 酒井英之
『クイズです。どっちの方が生産性が高いでしょう?』
株安に円安が続いていますね。
原油価格が下降傾向とはいえ、
円安の影響でわが国の物価は高止まりしたものです。
そんな中、企業が成長発展し続ける道は
生産性を上げ続ける以外ありません。
そのためには、DXの活用は待ったなしです。
が、 そんな技術に頼らずとも、
生産性を20%近く上げている事例を、
先日訪問した会社の社長に教えていただきました。
例えば、こんなシーンを想像してみてください。
作業員2人が、倉庫の棚に積んである
人が持てるサイズのダンボール10個を、
10m離れた台車の上に手で移します。
このとき2つの方法が考えられます。
方法Aは、2人がそれぞれダンボールを抱えて歩き、
10m離れた台車の上に乗せます。
方法Bは、火事の時のバケツリレーのやり方です。
ダンボールが置かれている棚に一人が立ち、
もう一人が台車の近くに立ちます。
そして棚の近くの一人が5mの所でまで持ってきて、
もう一人の人に手渡しします。
受け取った人は、5m歩いてそれを台車に乗せます。
さてこの方法Aと方法B。
あなたは、どちらの方が速いと思いますか?
社長は、これを比較映像で見せてくれました。
同じ画面の左側で方法A、右側で方法Bの映像が流れます。
こうすればどちらが早く終わるか、一目瞭然です。
結果は、方法Aでした。
方法Aが方法Bに比べて10%以上時間が短かったのです。
私は驚きました。
歩く距離が長い方法Aの方が、
生産性が高かったのです。
しかし計算してみて、
この考え方が間違っていたことに気が付きました。
方法Aは、一個のダンボールを運ぶ時に、
一人が10mの距離を往復するので、1回で20m歩きます。
2人で10個を運びますから、
一人当たりダンボールを5個運びます。
結果的に一人が歩く量は、20m×5個=100mとなります。
2人で計200mです。
これに対し方法Bは、一個のダンボールを運ぶ時に、
一人が5mの距離を往復するので、10m歩きます。
リレー方式で渡すので、一人が運ぶダンボールは10個になります。
そのため一人が歩く量は10m×10個=100mで、
2人合計で200mです。歩く量はAもBも変わらないのです。
ではなぜ、方法Bでは時間がかかるのでしょう?
それはビデオを見てすぐにわかりました。
リレー方式では途中でダンボールを受け渡しします。
この瞬間2人の足が止まります。
この間、ダンボールの位置は変わりません。
10個運びますから、この停止時間が10回発生します。
これに対し方法Aは、
2人の足が止まることは一度もありません。
つまり、この10回の受け渡し時間が余分にかかり、
方法Bの生産性を落としているのです。
この結果、バケツリレー方式は効率が良いというのは、
単なる先入観でしかないことが判明しました。
社長は同じような映像をもう一つ見せてくれました。
それは食器洗いです。
食事後の食器洗いをイメージしてください。
5人分のお皿とお碗を洗うとします。
方法Cは、お皿を一枚一枚泡のついたスポンジでこすり、
泡がついたままシンクの隅に置きます。
これを5回続けます。
続いてお碗も同じようにスポンジでこすり、
泡がついたまま隅に置きます。
その後、お皿とお椀を水ですすぎ、
流し台横の籠の中に入れて完了です。
方法Dは、まずお皿を1枚、泡のついたスポンジでこすります。
次にそれを水ですすぎ、流し台の横の籠の中に入れます。
これを5回続けます。
続いてお碗も同じように、泡のついたスポンジでこすります。
その後、水ですすいで流し台の横の籠の中に入れます。
これで完了です。
スポンジでこする作業と水で流す作業を、別々でやる方法C。
一個一個をスポンジでこすり、そのたびに水ですすぐ方法D。
さて、あなたはどちらの方が速いと思いますか?
私は日ごろ方法Cのやり方でやっているので、
方法Cが速いのでは?と予想しました。
ところが速かったのは方法D!
なんと20%近くも速く完了したのです。
その原因は方法Cのときに発生する、
「一旦流しの隅っこに置く+それを再び取り出す」という作業でした。
方法Cだとこれがお皿とお碗で合計10回発生します。
方法Dにはそれがないのです。
この映像は私には大きな衝撃でした。
この二つの比較映像からは、
「まとめてやることは非効率」という結果を示していました。
この二つの作業に限らず、仕事でも私生活でも
「まとめてやる」ことはよくあります。
それら全ての「まとめてやる」ことが、
非効率かどうかはわかりません。
ただ、まとめて行った方が効率的というのは
思い込みに過ぎない可能性があります。
例えばミーティング。
1か月に1度2時間かけて行うのと、
毎日5分行うのでは、毎日の方が時短になる上、
内容が濃くなります。
例えば掃除。
週に1度30分時間をかけて行うよりも、
毎日5分行う方が、時短になるかもしれません。
ブログやSNSの更新も、毎日行う方が
まとめてやるより効率的かもしれませんね。
DXの導入は確かに待ったなしです。
が、その前に日常で行っている作業の中で、
効率化できる点がないか見直してみましょう。
日頃当たり前にやっていることを
疑ってみることは難しいことです。
が、「まとめてやる=非効率かも?」という前提で
観察してみれば、何か見つかるかもしれません。
生産性向上はこれからを生きる鍵です。
まずは足元から見直してみましょう。
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.484
by V字経営研究所 代表 酒井英之
『痛ましい事件を題材に考える失敗を繰り返さない方法』
大型の台風14号が通過したしましたね。
皆さん被害はありませんでしたか?
「命を守る行動を優先してください」という放送に
人々がとった選択は、外出しないこと。
そして公共交通機関は、相次いで計画運休しました。
台風の影響は大きくなると言われた19日の夕方、
私は岐阜から千葉に移動する予定でした。
19日は地元1日研修の講師をしており、
移動が可能なのは夕方になってからです。
20日は千葉で1日研修講師で、
何とか辿り着きたいと思っていました。
そこで新幹線の運行状況ばかり気にしていたんですが、
落とし穴は、足元にありました。
在来線の計画運休です。
19日の昼頃、在来線が計画運休するという情報が入ってきました。
教えてくれたのは 19日の研修の主催者です。
この会場の最寄駅が、17時半でクローズするというのです。
研修は17時10分までの予定でした。
そこで主催者と相談し、研修を16時半で終えました。
そして私は一旦車で帰宅し、身支度を整えて岐阜駅に急ぎました。
私が岐阜駅に到着したのは18時でした。
が、着いてびっくり。岐阜駅はクローズしていました。
急ぎ、歩いて5分の名鉄岐阜駅に移動しました。
すると、18時8分の急行がこの日の最終名古屋行きだと
アナウンスされていました。
私はそれに飛び乗って名古屋に向かいました。
幸い、新幹線はのぞみ号が一時間に一本、
オール自由席の臨時便が走っていました。
私は19時32分発の臨時便に乗りました。
三連休の最後でもあり、混んでいないか心配でしたが、
ガラガラでした。サラリーマン客はほぼいません。
ファミリー層もいません。 高齢者もいません。
20代の若い旅行客がちらほらという感じでした。
結局、こうした災害が予想される日は
「そもそも外出しない」「そもそも運行しない」という
原因を元から断という行動を誰もが選択しているのでした。
まさに国民が、悲劇を「仕組み」で解決している姿ですね。
さて、ここからが今日の本題です。
「ミスをして、その都度指摘や注意をするのですが
同じミスを何度も繰り返す社員がいます。
どうしたらよいでしょうか?」
これは管理職研修時に、何度も頂く質問です。
このような時、私は下記のように答えます。
「人間ですからミスはします。
一度指摘して直る人もいれば、
十回言っても直らない人がいます。
そこで、ミスの原因が『その人個人にあるのではなく、
誰もができる仕組みがないこと』が原因と考えてみましょう。
それを職場の問題と捉えて、
本人も含めてみんなで考えてみてください」
このことを、幼稚園の子がバスの中に閉じ込められて
熱中症でなくなるという痛ましい事故の再発防止を
テーマに考えてみましょう。
原因は運転手の不注意です。
当然運転手の責任は厳しく問われますが、
今後このような事故が 二度と発生しないようにするには、
「運転手がしっかりしましょう」というだけでは心配です。
そこで、様々な対策が講じられています。
例えば園児がバスに乗る時に靴を脱ぎます。
そしてバスを降りる時に靴を履きます。
そうすれば、園児がバスの中に残ってると靴が残りますから
まだ誰か降りてない子がいると分かります。
このような仕組みを作れば、置き去りのリスクはなくなります。
これは靴じゃなくてもできます。
園児がバスに上がる時に名札とか、カードとなどを運転手に預けます。
園児が降りる時に運転手はそれを園児に返します。
そうすればバスの中に園児が残っているかどうかすぐわかります。
また、アメリカのスクールバスでは、
運転手が幼稚園に到着してバスのエンジンを切ると、
バスの最後方にあるブザーが鳴る仕組みがあるといいます。
このブザーを止めるには、運転手が最後方まで歩いて行って
ボタンを押すしかありません。
その移動の途中で、園児が誰か残ってないかチェックをします。
これにより、置き去りのリスクをなくすという仕組みです。
他にもいろんな仕組みが考えられていますが、
職場で失敗する人が、二度と同じ失敗しないようにするには、
本人を責めるのではなく、こうした仕組みを考えましょう。
そのために自分や職場の同僚が失敗したら、
次のように考えましょう。
「一人の失敗はみんなの学び。これは何のチャンスかな?」
「この失敗は自分や組織の未来にどのように役に立つのだろう?」
「天はこの失敗を通じて、私に何に気づけと言っているのだろう?」
イチローさんは次のように言っています。
「壁というのは、できる人にしかやってこない。
超えられる可能性がある人にしかやってこない。
だから、壁がある時はチャンスだと思っている」
まさに誰かが失敗した時こそ、
より良い仕組みをつくるチャンスなのです。
19日、私は21時無事東京に着きました。
そして東京のホテルに泊まり、翌朝千葉に向かい、
20日の研修を無事終えることができました。
こうした綱渡り移動をなくすには、
仕組みで解決するのが一番です。
移動を伴う2日続きのスケジューリングは、
極力避けること。
コンサルタントになって32年、
ようやくそんなことに気がつきました。
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