V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.474
by V字経営研究所 代表 酒井英之
『失敗した社員には○○を与えよう』
管理職研修でよくいただく質問に、
以下のようなものがあります。
「決定的なミスをした部下に、
我慢できずに怒ってしまうことがあります。
よくないことでしょうか?」
私も前職では10年以上管理職を務めたので
この気持ちはよくわかります。
しかし、怒ってはいけません。
表情に出してもいけません。
怒ると「怒った」事実がすべてになってしまいます。
「なぜ怒ったのか」の理由はどうでもよく、
「あの人はキレる人だ」というイメージがついてしまいます。
上司が一度キレると、部下は上司と距離を取ります。
いつキレるのか、不安だからです。
こうなると、マネジメントどころではありません。
コミュニケーションは断絶します。
昨今、ウクライナ紛争について
様々な国の首脳の発言をテレビで観ます。
悲惨な現状が続いていますが
誰一人、感情的に発言している人はいません。
内面、じくじたるものを抱えながらも
言葉を選びながら、冷静に自説を主張しています。
リーダーたるもの、非常時だからといって
冷静さを欠いてはいけません。
逆にそういう人だからこそ
リーダーとしての信を得ているといえます。
私の講演会に何度か参加してくれた
大阪のオンリーワン企業の社長に
「人の力を借りる秘訣は何ですか?」
尋ねたことがあります。
社長は間髪入れずこう答えました
「それはね、失敗を許すことだよ」
社長によれば、社員が依頼した仕事でミスをし、
50万円ほどの損害を出しました。
この時、彼は社長に叱られるのを覚悟で
ビクビクしながら報告しました。
が、社長は「済んだことは仕方がない。
次の仕事で取り返せ」と言いました。
怒鳴られることを覚悟していた社員は、
怒鳴られるところか失敗を許され
セカンドチャンスをもらったことに発奮。
再発防止策を講じ、
逆に500万円以上の利益を生み出しました。
社長は、この話を「失敗を許したら10倍にして返しよったわ」
と、とても嬉しそうに話してくれました。
人は、「怒られる!」と思ったときに許されると、
その信頼に応えようとするものなのです。
渡辺謙が主演をしたテレビドラマ『信長』の中で、
信長が、謀反を企てた弟を成敗するシーンがありました。
この時、柴田勝家は、弟側について信長を襲いました。
が、謀反は失敗。
勝家は、信長に「死んでお詫びを」と切腹を申し出ました。
ところが信長は、この勝家を一喝します。
「勝家、死ぬな!生きて励め!」
短いセリフですが、
以後、柴田勝家が忠臣となり、筆頭家老として
天下布武の実現に貢献したのはご存知の通りです。
ユニクロの柳井さんの側近だった人によれば、
同社の成功と失敗の分水嶺は
「早く失敗すること」だといいます。
今の時代、どこかの二番煎じだと、儲けはありません。
よって、ユニクロは世の中にない
ものづくりに果敢に挑戦します。
新しいことをやれば簡単には上手くいきません
失敗がついて回ります。
そこで次は失敗しないように工夫します。
それでも失敗します。更に工夫します。
こうして失敗を何度も重ねていくと、
最後には上手くいきます。
失敗を重ねた後の成功は、
他社では容易に追いつけないノウハウになっています。
そのため、他社が真似しようとしても時間がかかります。
このタイムラグの間に、大きく展開し市場を席巻するのです。
これが、ユニクロのやり方です。
「拙速は巧遅に勝る」と言いますが、
人よりも早く失敗することがどこよりも
早くノウハウを貯め、早く成功する秘訣なのです。
「失敗と書いてせいちょうと読む」といったのは、
プロ野球の野村監督の言葉です。
「失敗を責めず、逆に許し、セカンドチャンスを与える。
それが部下の主体性を高める」
そのことを熟知していたからこそ、
このような言葉を口癖にしたのでしょう。
わが社を「挑戦する体質にしたい」
社長は少なくありません。
そのための第一歩は、失敗を許すこと。
部下から失敗の報告を受けたら、
怒る感情をグッとこらえて
「聴く私も辛いが、話す君も辛かったでしょう。
よく話してくれたね」と応えましょう。
経営の神髄は、醜いエネルギーを
美しい価値に変えることにあります。
この失敗を、成長に変えましょう。
そして、失敗した社員にはセカンドチャンスを与えましょう。
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.473
by V字経営研究所 代表 酒井英之
『社内の抵抗勢力を変革の担い手に変える方法とは?』
前回「よくあるコンサルタントへの質問」と
その対応を紹介したところ、
たいへん多くの反響をいただきました。
そこで、今回もよくいただく質問に答えたいと思います
<質問>
「酒井先生のご経験から、お客様に企業変革の提案を行った時に
賛同してくれる方もいれば、
内心反対に思っている方もいると思います。
1人でも多くの共感を得る為の伝え方がありますでしょうか?」
この質問は、中小企業経営者からいただきました。
コンサルタントの仕事のやり方を、
自分のマネジメントの参考にする方は多いです。
新しい提案は、たとえ社長発信であっても
なかなか受け入れられません。
ましてコンサルタントが来て何かするのであれば、
「よそ者が何を言っているのだ」と反発されるのは必至です。
そこで、「確かに自分たちが変わらなきゃいけないな」と思う
同志を少しずつ増やしていきます。
「最初から全員に支持されるはずがない」という前提に立ち、
少しずつ、変革への賛成者を増やしていくのです。
そもそも人は「新しいことに取り組むぞ!」と言った途端に
A・B2通りの反応に分かれます。
パターンAは、「やってみたい!」と思う人です
パターンBは、「やりたくない!」と思う人です
パターンAの人は、「挑戦」が好きなのです。
パターンBの人は、「安心」を求めています。
そして、反発するのはパターンBの人です。
失敗したくないから、抵抗するのです。
このパターンBの人が「新しいことやってみよう」と思うのは、
「新しいことをやっても上手くいく」保証があるときです。
したがって変革の最初は、パターンBの人は置いておいて、
パターンAの人だけでプロジェクトをスタートします。
そして、パターンAの人だけで成果を出し、
それをパターンBの人たちに見て頂きます
それが良いものだと認められたら、
パターンBの人たちもそこから先は積極的に参加してくれます。
この時のパターンBの人たちの行動力はとても強く、
会社を変革する大きな原動力となります。
なぜなら、彼らの心にスイッチが入るからです。
人が物事を熱心にやろうと思う動機は、主に四つです
1.これをすると自分が快適になる、快適でいられる
2.これをすると自分が苦痛から解放される
3.これをすると仲間が快適になる、快適でいられる
4.これをすると仲間が苦痛から解放される
このうちどれが「今すぐやらなきゃいけない!」という
強い動機かといえば、それは「4番」です。
人間は、一人では生きてはいけないことを知っています。
そのため一緒に暮らす家族や一緒に働く仲間の
役に立ちたいという本能を持っています。
また、快適さの追求は我慢することができます。
コロナ禍で、海外旅行を我慢している人も多いと思います。
が、快適さの追求は先送りできます。
一方で、苦痛は我慢することができません
コロナ禍で余儀なくされているマスク生活から
一刻も早く解放されたいと願う人は多いでしょう。
苦痛からの開放は待ったなしなのです。
よって「今すぐしたい!」の動機が
最も強いのは4番です。
パターンBの人は新しいことに反発しますが、
これは、上記動機の「1番」に相当します。
反発すれば、失敗するリスクがなく、
自分が快適でいられるからです。
ところが、失敗するリスクがなく、
逆に「仲間の苦痛の開放に確実に繋がる」ことが分かると
パターンBの人の心の中で、4番のスイッチが入ります。
すると、それまで反発していたことが嘘のように
積極的に改革に取り組んでくれるようになるのです。
こうしたパターンBの人の心にスイッチが入るまで、
コンサルタントは、辛抱強く待つしかありません。
その引き金は「このやり方なら上手くいく」という実績です。
その実績を、パターンAの人を中心にアウトプットするのです。
では、パターンAの人がアウトプットするまで
かけられる時間はどのくらいでしょうか?
あまり時間がかかると、パターンBの人たちから
「ほら見たことか、できないじゃないか」と
見放されてしまいます。
それを避けるためには、早期に成果を出す必要があります。
その目安となるのは100日です。
英語ではこれを 「first one hundred days」と呼びます。
そこでコンサルタントは、とりかかってから100日目に
小さな成果がアウトプットされるよう、プログラムを組みます。
そしてアウトプットされたらそれを成果として
パターンBの人達に伝えるのです。
この時はコンサルタントが伝えるのではなく、
パターンAの人たちに自分たちがどのように取り組んだかを、
自分たちの言葉で語っていただきます。
あるいは社内に撮影班を作り、
パターンAの人たちが実際にどのように行動したかを
動画で伝えます。
その話や動画が楽しそうなものであれば、
パターンBの人たちでも「自分たちもやってみよう!」の
気持ちが強くなり、一気に動き始めます。
よって最初の質問に戻りますが、
「一人でも多くの共感を得るような伝え方」は
伝え方ではなく、小さなアウトプットを出すことです。
改革の可否は真にここにかかっています。
改革は、最初はとても小さな変化でも、
が、途中から導火線に火が点くように
一気に加速して起こるのが常です。
経営者が社内改革を進める場合は、
まずは挑戦が好きな人を人選しましょう。
そして、パターンBの人たちの心にスイッチが入る日を夢見て、
小さなアウトプットを出していきましょう。
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.472
by V字経営研究所 代表 酒井英之
『管理者研修で最も多い質問とは?』
そろそろ梅雨ですね。
春の人事異動も落ち着き、決算も終わり、
本腰を入れてマネジメントに取り組む季節の到来です。
そこで、今号では管理職研修で
大変多くいただく2つの質問に対して回答します。
【質問1】
「部下の中には、『自分は出世とか評価とか、
そういうのは別に求めていません』と言い、
言われたことしかしない、冷めた人が多くいます。
そんな人のハートに火を付けるにはどうしたらいいでしょう?」
このような人に、今の仕事の魅力を伝え、
この会社で働くことの幸せを実感してもらうのは
上司の大切な役目ですね。
私の経験で最も効果的な方法は、
「お客様の声」に直接触れさせることです。
お客様から「あなたが担当で本当に良かった!」と言われた人は、
それを機に、仕事がとても楽しくなり、
他のお客様にも喜んでほしくて
どんどん前向きに変わっていくのです。
これは、お客様と直接接する営業担当や窓口担当、
サービス担当で顕著なことです。
また、お客様と接することの少ない
工場の現場担当でも、お客様が見学に来た時に
「挨拶が素晴らしいね」「5 S が素晴らしいね」など、
褒められることがあります。
そうしたお客様の声を、
「お客様が、こんな風に褒めていたよ。すごいね!
あなたがそう言われて自分も嬉しいよ」と
上司が間接的に伝えることで、
本人のやりがいにつながります。
これはコンサルタントの声でも有効です。
私がある担当者の仕事ぶりを見て
「いい仕事をするね」と感心した時、
「先生、それをメールで彼に送ってあげていただけませんか?
きっと励みになると思うので」と、
その担当者の上司に言われたことがあります。
わかっている人は、部下のために
利用できるものはなんでも利用するのです。
また、人のモチベーションは
自分の意見が採用されたり、
困難な仕事を任されて、
その成果を認められたりした時に最大になります。
ある小売業の売場担当は、巡回中の専務から
「この売場を、もっと感動する売場に
作り変えてごらん。好きにやっていいから」
と言われて、自分なりに考え、実施してみました。
彼はそれまで、仕事に自信を持てずにいて、
「いつ辞めようか」ばかりを考えていました。
が、売場が出来上がった時、それを見に来た専務に
「すごいじゃないか。びっくりしたよ。
君は、意外な才能があるなぁ!」と言われて、
自分の可能性に気づきました。
以来、仕事が楽しくなり、
人一倍働き者になって、店長に昇格。
今は若い人を指導する立場になっています。
彼は、自分の体験から
『褒め系のフィードバックが人の可能性を開く』
ことを知っているので、部下がミスや失敗をしたときも、
それを責めることをしません。
むしろ「ナイスチャレンジ!」と励まし、
「この気づき活かせば、次は必ず上手くいくね!」と、
励まします。失敗を許し、学びに変えることで、
持っているチカラを引き出すのです。
承認は「何を言うか」より「誰が言うか」で
効果が大きく変わります。
お客様や役員、コンサルタント等、
第三者からの承認のフィードバックには、
担当者の可能性を開き、
人生を変えるチカラがあります。
上司は一人で悩まず、
ぜひ、そのような機会を作ってみてくださいね。
【質問2】
「若い社員はそれで火が点くかもしれませんが
ベテラン社員はどうでしょうか?
ベテランの中にも、冷めた人がいるのですが…」
こちらも、多くいただく質問です。
多くの上司にとってベテランは年上です。
言いたいことがあっても言い辛く、
悩んでいる人が大勢います。
この場合も、承認のフィードバックが有効です。
ただし、このケースで最も有効なのは、
上司の承認です。
年下の上司が、まずはベテランの部下が
これまで歩んできた道、
今でも誇りに思う仕事について聴きます。
すると、大変苦労した体験談が出てきます。
そこには、長年に渡り会社の成長、拡大、発展を
現場で支えてきた自負が感じられるでしょう。
上司はそれを聴いて
「最後までやり切る根性がすごいですね」
「挑み続けるチームワークがすごいですね」
などと承認します。
そしてベテランに次のようにお願いします。
「私はこのチームを〇〇したい。
それには貴方の、そのすごい力が必要です。
ぜひ、力を貸してください」
この「〇〇したい」には、上司の公欲が入ります。
「このチームを社内No.1にしたい」
「このチームをもっと働き甲斐のある職場にしたい」
「このチームの生産性をアップさせたい」
この公欲に共感し、
チカラを貸してほしいと頼まれたベテランは、
きっと前向きになってくれることでしょう。
マズローの欲求5段階説では、
主体性の発揮は5段階目の「自己実現欲求」です。
それを引き出すのは4段階目の「承認欲求」です。
冷めた人は、第4段階の欲求が満たされておらず、
第3段階の欲求である「帰属の欲求」までで
満足しようとしています。
そのような人の第4段階の欲求を満たすことで、
第5段階の自己実現欲求=主体性を
引き出すことができるのです。
仕事は、人生の中で最も多く時間を使うものです。
ぜひ、冷めた人の心に火を点けて、
働きがいを創造してくださいね。