V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.461
by V字経営研究所 代表 酒井英之
「西郷輝彦さんに学んだ、売れない時に売る方法」
西郷輝彦さんが亡くなられましたね。
75歳という若さでした。
カッコいい人でした。とても残念です。
人それぞれ、人生を変える言葉に出会います。
私の人生を変えた言葉のひとつが、
小学6年生のときに観たドラマ『どてらい男(やつ)』の
西郷輝彦さん扮する主人公・山下猛造の次の言葉です。
「何を言ってるんですか。水ぐらい汲んできますがな」
このドラマは、福井の田舎から
大阪の立売堀(いたちぼり)に丁稚奉公に出た主人公が、
大番頭のいじめや軍隊への召集など
何度も挫折を味わいながらも
最後には商人として大成功する立身出世の物語です。
子供心に常に逆境を跳ね返す主人公の生き様に
毎回感動しながら見ていました。
その中でも特に印象に残っているのが、
冒頭の言葉が登場する次のシーンです。
戦後間もなくのこと。
当時、駅弁売りのようにパンを売っていた西郷さんが、
駅で切符を買うのを待っている長い列の人々に
「パンはいらんかね~パンはいらんかね~」と
声をかけて売り歩いています。
皆、お腹をすかしているので
パンが飛ぶように売れるはずでした。
が、全然売れないのです。
そこで西郷さんは、並んでいるおばさん一人に
「お腹空いとるんやろ。何でいらんの?」と尋ねました。
すると、おばさんは次のように答えました。
「パン食べたら喉は乾くやろ。
喉が渇いたら水を飲みに行かないかん。
が、そんなことしたら順番を取られてしまうやないか。
そやからパンはいらんのや」
そこで西郷さんが放ったひと言が、冒頭の言葉です。
西郷さんはおばさんから水筒を預かると、
彼の同僚(なべおさみさん)が、水を汲んできました。
そしたらおばさんはとても喜んで、パンを買ってくれました。
するとその光景を見た別の人が
次から次にパンを欲しいと言い始めます。
西郷さんとなべさんははみんなの水筒を預かって、
水飲み場で水を汲んできました。
そしたらパンがあっという間に、全部売り切れたのです。
45年以上前に見たこのシーンは、
27歳でコンサルタントになってから今に至るまで、
私に、危機突破のヒントを与えてくれています。
「売上げが伸びない」「商品が在庫の山だ。何とかしたい…」
そんなご相談を受けるたびに、
必ず思い出すのがこの水汲みのシーンです。
パンが売れた理由の中に、突破口のヒントがあるからです。
私は、商品が売れない理由は3つしかないと思っています。
一つ目は、商品そのものに魅力がない
二つ目は、商品の存在や魅力が、お客様に知られていない
三つ目は、お客様側に「買いたくても、買えない事情」がある
もし、一つ目と二つ目の理由でない場合は、
三つ目の理由で売れないのです。
上記のパンは、この三つ目に該当します。
この場合、「買えない事情」を売り手が引き受ければ、
人は欲しいと思った商品は買うのです。
私はこれを上記のシーンから
『水汲み理論』と名付けています。
例えば、弊社は企業内研修を行っています。
かつて企業内研修は、主に土曜日に行っていました。
しかし、働き方改革の影響で、
思うように研修時間が確保できなくなりました。
「研修はしたい。でも研修時間を確保できない」
そのようなお客様が増えたのです。
そこで2019年に開発したのが、
いつでも受講可能なオンデマンドの
「オンライン動画研修」です。
このとき、お客様にはある心配がありました。
受講生が受け身になってしまうことでした。
オンラインの動画研修は
まるでTV番組を観るかのように講義が進みます。
すると受講生はそれだけでわかった気になってしまい、
何ひとつ実践しない、身に着かない…
時間もお金も無駄にするリスクがあったのです。
そこで、動画研修を受講した2週間後に
「やってみてどうだったか」「できたかどうか」を
書いたレポートを出してもらい、それに対して
上司と講師が2人でフォローする仕組を創りました。
そして、このフォローに課金する仕組みにしました。
すると、これがお客様に歓迎されました。
「水くらい汲んできますがな」ではなく、
「フィードバックくらいしますがな」です。
それから1年、世界はコロナに襲われました。
緊急事態宣言で身動きができないときに、
「今こそ、研修のチャンス」と捉えた企業に歓迎され、
以来、延べ5,000人以上のお客様にご利用いただいています。
展示会に出展したときも、
「フィードバックがあるのがいいね」と
来場客に評価していただいています。
「水汲みくらい」の部分が独自性になっているのです。
このように、西郷輝彦さんの『水汲み理論』は
危機突破の発想を生み出します。
肝心なことは、売れないときは素直に
「お腹空いとるんやろ。何でいらんの?」と、
直接お客様に聴いてみることです。
そしてその理由を、お客様の負担にならないよう
こちらで引き受けられないか、考えてみることです。
売れるはずのものが売れない…
そんな危機に直面したら
ぜひ『水汲み理論』を試してみてください。
きっと、打開策が見つかるでしょう。
参考:「どてらい男」全181話
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A9%E3%81%A6%E3%82%89%E3%81%84%E7%94%B7
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.460
by V字経営研究所 代表 酒井英之
『ワクワクする新規事業企画は共感が9割』
「失敗と書いて成長と読む」。
これは故・野村監督の名言です。
北京オリンピックで、フィギュアスケートの
羽生結弦選手の4Aは失敗に終わりました。
しかし、あのジャンプを見て「これは失敗だ」と
思った人はどれだけいるでしょう?
多くの人が、「これは失敗ではなく、挑戦だ」と
感じたのではないでしょうか?
スノーボードの平野歩夢選手もそうですが、
自分にしかできないことに挑戦する人は本当にかっこいいですね。
ところで、12年前のバンクーバー五輪の、
男子フィギュアで金メダルを取った人を覚えていますか?
正解は、アメリカのライサチェク選手。
しかし、彼の名前を覚えている人は少ないと思います。
最終フリーの演技で4回転にトライしなかったからです。
一方、この時銀メダルを獲ったのは
ロシアのプルシェンコ選手でした。
彼のことは覚えてる人は大勢いるでしょう。
彼は世界で初めて4回転を決めた人であり、
オリンピックでも成功させました。
同じく高橋大輔選手もこの時4回転に挑戦。
転倒しましたが、覚えている人も多いでしょう。
人は挑戦し、歴史を作る人をリスペクトするのです。
ハイレベルな争いを勝ち抜くには、
自分にしかできない大技が必要です。
その危機意識が、歴史を創るのです。
このことは企業でも同じです。
イノベーションは「このままではヤバい!」という
危機意識から生まれます。
危機意識こそがイノベーションと新たな歴史の母なのです。
先日、社員数100名超の某社で、
約半年間にわたり指導してきた
「新規事業創出プロジェクト」が終了しました。
同社はB2Bの特定市場で、シェアNo.1。
その影響でここ数年、好業績が続いていました。
が、コロナ禍でその特定市場が縮小に転じました。
危機意識を覚えた経営陣は、
自社の強みを活かした新規事業の必要性を感じます。
そして私に「何をしたらよいか?」と相談がありました。
そこで私は、中堅社員を集めた新事業立案のための
プロジェクトチームの発足を提案しました。
なぜなら新規事業は、それに携わる社長や社員が、
「絶対にこれがやりたい!」と思わない限り、
起ち上がらないからです。
この提案に同意した同社の社長は、
即座に営業、技術等複数の分野から、
30~50代の主任~課長職の8人を
プロジェクトメンバーに選抜しました。
この8人に、私は毎月1回、
3時間×7回の研修を行いました。
8人が複数の場所に分かれて勤務していることもあり、
すべてオンラインで実施しました。
第1講は、同社の強みが何かを、皆で話し合い特定しました。
そして、強みを活かせる新事業案を1人3案考えてもらいました。
第2講は、皆でアイデアの出し方を学び、
更に1人3案考えてもらう宿題を出しました。
これにより、8人×6案=48案が集まりました。
第3講では、このアイデアを皆で評価し、
上位12案まで絞り込みました。
第4講では、この12案をビジネスモデルキャンバスに展開し、
皆で投票して上位7案にまで絞り込みました。
第5講では、この7案をさらに詳細に評価し、
役員にプレゼンするプランを選びました。
討議の結果、4つのプランが残りました。
モーグル競技で予選→準々決勝→準決勝→決勝と
選手を絞っていくように、皆の意思で
「どうしてもやりたいプラン」を絞り込んだのです。
そして4つのプランごとに3人の担当者を決め、
プレゼン用の企画書創りに取り組みました。
第6講は、プラン別の個別ミーティングを行い、
独自性アップのための細かい点を修正ました。
そして最終の第7講が、役員プレゼンでした。
同社初の、ボトムアップによる新規事業企画プレゼンは
創業者である会長以下取締役4人、
執行役員4人の前で行われました。
どのメンバーも想いを込めたプレゼンをしてくれたこともあり、
会長以下役員には「わが社の未来への希望が見えた」、
「メンバー一人ひとりが大変成長してくれた」と
大いに喜んで頂きました。
そのような成果に繋がった理由のひとつが、
多くのアイデアから最終4プランに至る
絞り込みの基準にあります。
どの段階においても最重視したのは「共感性」です。
共感性とは、その案を聴いたメンバーが
「あ、それいいね!」と共感するかどうかです。
共感できるということは少なくとも
以下の4つを兼ね備えている可能性があります。
・経営理念に適い、わが社に相応しい
・新規性があり、ワクワクする
・これから成長していく予感がする
・自分が担当してみたい
基本的にここをクリアした案が、
独自性の高い案に昇華していくことは難しくありません。
新規事業企画で最も大切なのは、この共感性です。
今後同社では、役員会にてこの4案に優先順位を付け、
優先順位高のプランの立ち上げを目指します。
企業の危機意識は、分析からは生まれません。
見て、触れた時の「ヤバい!」という感覚から生まれます。
それを持っているのは、市場に一番近い、現場の社員です。
ヒタヒタと迫りくる危機意識の中で、
羽生選手が4Aを、平野選手が1440を磨いたように、
自分達の力で気づいたプランを、
こうすればうまく行くと思えるレベルまで磨いたのです。
貴社は今、羽生選手の4Aのような挑戦をしていますか?
そうでないのなら、現場の社員が持つ危機意識を活かしましょう。
彼らに考える機会を提供し、
貴社の新たな成長エンジンを是非とも手に入れてください。
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.459
by V字経営研究所 代表 酒井英之
「先の見えない恐怖を克服する方法とは?」
冬のオリンピックが始まりましたね。
今日は開会式。東京オリンピック同様に、
選手にはベストパフォーマンスを
発揮してもらいたいものです。
最初にメダルを期待できる競技はモーグルです。
5日に男子決勝、6日に女子決勝が行われます。
モーグルの特徴に、ジャンプ(エアー)があります。
高さ1.6メートルほどのジャンプ台から高く跳び、
空中での技を競います。
空中技の精度は、順位に影響する大きなポイントです。
今回は、このジャンプについて考えてみましょう。
もし、あなたがスキーで斜面を下っていて、
突然高さ1メートルほどのジャンプ台に遭遇したとします。
どうでしょうか?
空中高く跳び上がることができるでしょうか。
ほとんどの人は、できないと思います。
なぜなら、ジャンプ台を滑っていると、
着地点が台の影になって全く見えないからです。
斜面を滑っていて、行き先が見えなくなると、
人がそこに恐怖を感じます。
まして地面と自分の足が離れ、空中に放り出されるのですから
怖いと感じて当然です。
人は「怖い!」と感じると、腰が引け、しゃがみ込みます。
後傾の状態でジャンプ台から飛び出ししますから、
そのまま下に落ち、着地と同時に尻もちをつきます。
そして、そのまま雪まみれになって止まります。
この状態は傍から見ると
自分の意思で滑っている状態ではなく
板に滑らされている状態です。
それ止めるには、尻餅をつくしかないのです。
ところがモーグルの選手達は 華麗に空を舞います。
選手でなくても、モーグルのゲレンデに行けば
ゲレンデの隅の方に小さなジャンプ台がいくつも作られていて
若者はもちろん、子供達だってジャンプを楽しんでいます。
尻餅をつく人と、子供たち。
一体何が違うのでしょうか?
この違いは「踏み切り」です。
ジャンプ台に突入して空中に放り出される時に、
ジャンプ台を蹴って、自分から跳ぶ。
空中に跳び上がることを楽しんでいるのです。
これができている人は前傾のまま着地し、
尻餅をつきません。
板に滑らされているのではなくて、
自分の意思で板をコントロールしている。
だから楽しいのです。
そこで、尻もちをついた人に、
コーチは、次のようにアドバイスします。
「ジャンプ台から飛び出すとき、
自分で踏み切って、自分から跳んでごらん」
逃げるのではなく、
自分から谷に向かって跳び上がるのです。
すると不思議なことに、
板に滑らされてた時に感じたような怖さが消えます。
そして、空を飛んでいる感覚を楽しむことができます。
この感覚に慣れてくると、
次はもっと遠くへとかもっと高くとか、
ジャンプそのものを楽しむ余裕が出てきます。
もう、怖いと感じることはありません。
このことは経営でも同じです。
経営でも、気持ちよく滑っているつもりが、
突然目の前にジャンプ台が現れて、
先が見えない、足が地についていないと感じ、
「怖い」と感じることがしばしばあります。
特に昨今はコロナの影響で
原材料価格、光熱費とも高騰しています。
値上げをしても、それを上回る勢いで高騰が続きます。
材料が調達できず、生産したくても生産できません。
売り先はあるのに仕入れができず、売上が立てられません。
グローバル企業ではロックダウンの影響で、
海外に送ったコンテナが港に着かず、海上に留まったままです。
また陸揚げされたとしても陸送されず、売りが立ちません。
海外子会社への投資リターンがないまま時間が過ぎています。
来てくれるはずだった外国人は、来られない状態が続いています。
人の流動が止まり、観光地はまたしても閑古鳥が鳴く状態です。
期待していた人財が辞めてしまい、補充ができません。
たとえコロナが鎮静しても、人が採れる保証はありません。
どうしたらいいのか…
経営者にとっては先の見えない状態が続いています。
今が創業以来の危機だという老舗企業もあります。
が、そんなときこそ、経営者は目線を上げねばなりません。
もし今、「怖い」と感じているのなら
それを克服する方法はただひとつ。
「自分から跳ぶ」しかありません。
自分たちが目指していたことは何かを思い出し、
そのゴールに向けて、今できることを探すのです。
このとき、トップは何でも自分一人で抱え込まず、
こんな時だからこそ、周囲の人たちの
知恵と工夫と馬力を借りましょう。
そして、ONEチームとなって挑みましょう。
普段、気が付いていないかもしれませんが、
トップが「君の意見を聴かせて欲しい」
「一緒に考えてくれないか?」といえば、
頼られたことを意気に感じ、
モチベーションを上げる人ばかりでしょう。
そうすれば、「怖さ」を小さくすることはできます。
そして、今日打った手に少しでも手応えを感じたら、
それが「やれる!」というチームの自信となります。
自信が沸いてきたら、そこから先はもう大丈夫です。
もし今、少しでも怖さを感じているとしたら
まずは「自分から跳ぶ」と声を出し、
自分に暗示を掛けましょう。
そして、自分の主導権を自分に取り戻しましょう。