V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.448
by V字経営研究所 代表 酒井英之
『ビジョンが生み出す危機突破のチカラ』
市場が成熟し、過去の延長線上では
事業縮小せざるを得ない業界が多数あります。
私たちにとって身近な新聞販売店もそのひとつです。
そんな販売店の未来を考えようと、
2019年、毎日新聞社が新聞販売店の経営者を対象とした
経営革新塾を開催しました。
ここに25名の経営者・幹部が参加し、
私はそこでメイン講師を務めました。
塾の狙いは、経営理念、ビジョン、地域密着戦略、
社員ファーストの経営の大切さを学び、
「既存事業の維持」「新規ビジネス開発」
「社員の働きがい創造」を3本柱とした
2025年の自社のビジョンを作り上げるというものです。
今年、2年ぶりに第2期経営革新塾が開催されことになりました。
私は今回もまたメイン講師を務めます。
そこで先日、前回受講した40代の1期生2人に
登場していただいて、経営革新塾を受講されてどうだったか、
ビフォー・アフターの変化の話をお聞きしました。
以下は彼らのコメントです。
【Q1】経営革新塾に参加した動機は何ですか?
Aさん=女性
・自分(会社)が変わらないといけないと思っていた。
・会社を存続させるために不足しているものは何かを知りたかった。
・どんなメンバーと共に学べるのか楽しみだった。
・自分がどこまで覚醒できるか挑戦したかった
Bさん=男性
・きちんと経営出来ているのか?疑問だった。
・進むべき道が間違っていないか確認したい。
・儲かっている会社をベンチマークしたい。
・全国各地の社長さんと意見交換がしたい。
<2人のコメントからの酒井が気づき>
何かをアウトプットする前に、今の自分に何が足りなの
自分を客観的に見つめ直したいという動機が印象的でした。
また、『自分の覚醒を楽しみにする』というのも
危機の直面している経営者ならではの主体性です。
【Q2】参加して何が変わりましたか? (事業面)
Aさん
・思い描くビジョンが明確になったため、あとは実行するのみ
・スタッフとの距離感、地域との距離感が更に近くなった
・経費の大改革をして経費の出費を抑えることに成功した
Bさん
・経営には、理念とビジョンが必要不可欠だと強く感じた。
・東日本台風等の経験を通じて、自社ビジョンが明確になった
・新しい営業様式を確立できた(販売経費35%削減、営業時間60%削減)
<2人のコメントからの酒井が気づき>
→理念やビジョンができると腹が坐ることがよくわかります。
既存事業を見直し、販促費と時間の大幅削減を実現し、
その資金を新規ビジネスに注いでいます。
【Q3】革新塾参加前の自分と今の自分、社員の何が変わりましたか
Aさん
・ビジョンが描きやすくなったため、新事業開始に向けて準備
ができるようになった。(人と地域との繋がりが必要不可欠)
・社員と視線の先、同じ方向を見るようになった。
・使命感を持って行動をするようになった。
Bさん
・弊社の2025年ビジョンが出来て安心した。
・社員とビジョン共有が出来ている。
・各地の所長さんと話せて、良い刺激になった
<2人のコメントからの酒井が気づき>
・ビジョンは創るだけでなく、それを社員と共有することで
社員と目線が合い、それが社長の安心感と
使命感につながっていることが判ります。
【Q4】今後、どんなことに取り組みますか?
Aさん
・新事業として展開したいことが15案あったが
現在のところ8案しか実現していない。
残り7案の実現に向けて全力を上げる。
Bさん
・3大方針に変更はなし
・非接触型営業を用い、生産性を上げる仕組み開発
・目標に沿う新たな事業展開をする
<2人のコメントからの酒井が気づき>
・新規ビジネスの立ち上げで一度成功した社長は、
次々と意欲がわいてくるようです。
「社員と共に、地域のために」の使命感がそうさせるのでしょう
2人の話から、厳しい環境に置かれている状況でも、
1.経営者が何を目指しているのかをはっきりさせること、
2.それが仲間に受け入れられて一緒にやろうというパワーになること、
3.そして少しでもその成果が出て手応えを感じていること、
4.この手応えを喜んで自分以外の誰かに感謝できることで
逞しく生きていけることが分かります。
ここでのポイントは、
自ら創ったビジョンを社員と共有できるかどうかです。
ビジョンが社員に受け入れられるということは、
そのビジョンの内容が利他の精神に満ち、
その実現に自分も参画したいという気持ちが
沸き起こるものだということです。
ビジョンの共有の仕方には様々なものがあります。
作成段階で社員を巻き込むのも一つです。
また、先日お会いした社員数70名のメーカーの社長は
全員と個別面談し1対1で
自らの目指すビジョンを伝えたと言っていました。
1対1で語りかけることもとても効果的な方法です。
社員にとってみれば、「他の誰でもないあなたと共に歩みたい」
という社長の姿勢が伝わるからです。
社長にとっても同じことを70回以上語って飽きないわけですから、
これはもう本気中の本気、信念そのものです。
人出が戻ってきている一方で、
部品が入らず製品が作れない、調達できない、
燃料費が高騰し、電力会社が節約を呼び掛けるなど、
まだまだ不安要素が多数あるあります。
そうした不安をかき消すには、
自らが信じる道を社員とともに進んでいく以外にありません。
熱い思いを胸に突き進んでいきましょう。
『経営と事業は何が違うのか?』
突然ですが、あなたは「経営」と「事業」とでは
何がどう違うとお考えですか?
これは私が経営者を養成する講座や
幹部研修でよく尋ねる質問です。
このような質問をするのは、二人の経営者から
次のように言われたからです。
「仕事なんか誰でもできる。経営を教えてやってくれ」。
これは、創業者であるA社長が、後継者の育成を
私に依頼してきた時の言葉です。
当時、後継者は仕事が大変できました。
しかし、A社長から見て、経営者になるには何かが足りなかった。
そこに気づかせて欲しいというのです。
もう一人のB社長は、私に次のように言いました。
「あの人は事業ができたかもしれない。でも経営はできない」。
これは、B社長が経営統合をした会社の社長を評価した言葉です。
統合した会社の社長には結局辞めてもらったのですが、
上記がその理由でした。
A社長もB社長も、仕事と経営、あるいは事業と経営に
明確な区分をつけています。
その違いはいったい何なのか。
そこを明確にしないと経営者は育成できません。
そこで、上記の質問を私は自分の受講生に投げるのです。
すると、皆さん同じようなことを言います。
それは、大まかに言うと事業の範囲は狭く、
経営はとても広いということです。
これを簡単に言いますと、
事業はお客様の問題を解決して利益を出すことです。
一方経営は、関わる人全てを幸せにすることとなります。
「三方よし」という近江商人の家訓があります。
三方は「自分よし、相手よし、世間よし」ですが、
この三方よしぐらい広い範囲で「よし」を追求するのが
経営だということです。
先日「ああ、これが経営だ」と実感することがありました。
それはある上場企業の幹部研修を行った時の話です。
この会社は、工具メーカーです。
社史に創業者の言葉が多く綴られていました。
その中に「経営」を語った言葉をたくさん見つけたのです。
例えば以下のような言葉です。
「これが俺の夢とロマンだ。
第一に『ドイツのマイスターの如き職人を育て
どんなに小さな工具でも良いので日本のナンバーワンのものを作る』
第二に『最高の品質の工具を作るのだから、
絶対に安い給料は払わない。
業界ナンバーワンの給料を払い従業員を幸せにする』
第三に『大ユーザーと直取引を行い、本当に何が必要かを知り、
必要とするものを作り得る会社とする』」
私はこれを読んでとても驚きました。
第一と第三は、多くの創業者が語るところです。
が、第二の「業界ナンバー1の給料を払い従業員を幸せにする」は、
夢とロマンの中にはなかなか出てこないことです。
しかも「絶対に安い給料は払わない」覚悟付きです。
この工具メーカーは、受注形態のビジネスモデルです。
お客様に課題がある時に呼ばれて行き、
その課題を共有し、解決策を共に考え、
一品物の工具を開発し指定された納期に間に合わせる。
顧客密着度と提供スピードの速さで成長してきました。
それを生み出すのは、社員一人ひとりのやる気です。
特にスピードは、モチベーションを常に高い状態に
維持しないと生まれません。
そのために創業者は、様々な工夫をしています。
業界ナンバーワンの給料を目指したのもその一つでしょう。
さらに創業者は次のような言葉を残しています。
「社員は社宝。社宝ががっちりとした生活の基盤を持って
仕事をやる体制を作り上げることが肝心」
「僕は必ず人の良いところを見るようにしている」
「とにかく勉強だ。誰のためじゃない。自分のためである」
「従業員を一人前に育てるには、道徳教育・人間教育が大切」
「(給料支給時の朝礼での社長の一言)
本日は私の喜びの日です。皆さんの喜びは私の喜びです」
「(食堂リニューアル時に担当者へ)
温かいものは温かく、冷たいものは冷たい状態で食べられる
自宅と同じような食堂にしてほしい」
特に食堂への要望は、社員への思いやりにあふれていますね。
私はいろんな経営者とお付き合していますが、
社員に慕われている社長はどなたも社員の食事について
この創業者と同じくらい気を配っています。
が、事業部長や本部長クラスの方から
食事についての話を聞くことはまずありません。
これが、事業と経営の違いを端的に表していると思います。
気にかけている範囲がずっとずっと広いのです。
合わせて私は、自分の講義で意地悪な質問をします。
それは「経営者として自信を持ったのはいつですか?」です。
このような質問をした時、
ある会社の工場長は次のように答えました。
「社員一人ひとりと面談をして、普段見られなかったような
笑顔が見え、面談の力を実感した時」
それを聴いたとき、この人は良い経営者になるなと感じました。
関心の対象が、事業から経営へと確実に広がっているからです。
経営方針を立て、目標利益を稼ぎ、
再投資することはとても大事です。
これは経営の父性的な部分です。
その一方で、従業員が今日も健やかであるかどうか。
気持ちよくやりがい持って働いてくれているかどうか。
それによって、お客様に喜んで頂ける製品やサービスの
提供ができているかどうかを考える。
これは経営の母性的な部分です。
父性だけでは十分とはいえない、
母性をも併せ持った人が良い経営者なのでしょう。
あなたにとって事業と経営はどう違いますか?
答えのない質問ほど、人に多くの気づきをくれます。
是非、自分なりの定義を考えてみてください。
<若手社員の採用&育成で悩んでいる方へ>
好評いただいている、後継者たちの戦い第9弾!
今回ご紹介するのは、ほんの数年前、
中途で20人採用しても19人も辞めていった
製造業の4代目経営者。
経営者の気づきによって今や人が育つ企業どころか、
近隣に採用→育成→組織風土改革を
コンサルし、中小企業製造業を
盛り上げる会社にへと成長した物語です。
『頭ごなしの指導で大量離職 反省した塗装会社4代目の「働きがい改革」』
https://smbiz.asahi.com/article/14446775