V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.408
by V字経営研究所 代表 酒井英之
『効率化VS人間力。自社らしさに磨きをかけよう』
爽やかな季節になりました。
研修シーズン到来ですね。
ところで、9時から始まる予定の集合研修。
あなたの会社では何時から始まりますか?
当たり前ですが、9時ですよね。
ところが私が今研修をさせて頂いている会社では
30分前の8時半には全員集合しています。
そのため先日は、8時35分から研修を開始し、
予定より25分前に終了しました。
コンサルタントになって30年。
延べ3000回以上研修講師も務めてきましたが、
予定の25分前に研修を開始したのは初めてです。
この会社では7月から毎月1回、研修していますが
毎回受講生の集まりが良いので、
これまでは15分前・10分前・15分前に開始しています。
この会社にとってはこれが当たり前なのです。
同社のビジネスはプラントへの工具、
副資材、機械等をお届けする問屋業です。
このキビキビとした行動力でお客様に選ばれ続け、
コロナ禍でも好業績を続けています。
2000年頃からどの業界も二極化が進んでいます。
効率化VS人間力の二極化です。
分かりやすいのは家電の販売店です。
大手荷電量販店VS街の電気屋さんの構造ができています。
安さと効率で勝負をする大手量販店に対し
街の電気屋さんは電球一個の交換でも自宅にお伺いする
親切丁寧な人間力で勝負しています。
この親切丁寧さを求める方が少なくないため、
「でんかのヤマグチ」や「アトム電器」のような
街の電気屋さんは長く存続し続けています。
http://d-yamaguchi.co.jp/
https://www.atom-denki.co.jp/
印刷業でも同じです。
効率性の高い機械を導入し、注文を受ける分野を絞り
ネットのみで受注する業態と、
営業マンが顧客をまめに訪問し、その顧客にぴったりな
企画提案を行う業態の2種類に分かれています。
書店も同様です。
Amazon のような情報と品揃えで勝負する業態もあれば、
店主が自分の好きな本をセレクトしたコーナーを作ったり、
顧客一人ひとりの好みを把握して
「あなたにはこの本がお勧めですよ」と
アドバイスしてくれる街の本屋さんもあります。
ITを駆使した効率化VS人間力の構図が当たり前になっています。
では人間力とは一体何なんでしょうか。
人間力は定義が大変難しいのですが、
その基本は教育学者の森信三先生の言葉
「場を清め、時を守り、礼を尽くす」でしょう。
「場を清め」は整理・整頓・清掃・清潔の4Sです。
4Sの効果はこのメルマガでも何度も伝えてきましたが、
掃除を行うと大変気持ちがよくポジティブになります。
他人のためにお役に立つことが嬉しくて笑顔が増え、
お互いを承認し合うため人間関係が良くなります。
さらに小さな変化に気づく人になります。
この気づきが付加価値を生む元になっていて、
それ故に4Sが徹底してる会社は、どこも業績が良いのです。
「時を守る」は、納期を守ることです。
どんなに良い仕事をしても、
時間に遅れたまず信用してもらえません。
また納期ギリギリに間に合わせても、
それで良いというわけではありません。
時間軸は、相手の物差しに合わせることが大事です。
冒頭の会社で、私が9時からだからと
9時前に着いて9時から講義をしても
信頼されないことは明白です(汗)。
「礼を尽くす」は、挨拶やお礼を伝えることですが
その大切さは言うまでもありません。
冒頭の会社では、大変大きな声で挨拶をして
講義がスタートします。講義の最初は決まって、
私が受講生の皆さんから頂いたハガキの紹介です。
受講者皆さんが受講後に感謝のハガキをくれるのです。
それが嬉しくて「こんな葉書を頂きました。
ありがとうございました」とお礼を伝えるところから
始まるのですが、このようなケースも珍しいです。
もうお分かりの通り、
この会社は人間力で勝負をしている会社です。
同社の新人採用専門のホームページを見ると、
営業マンを募集しています。
一方、同社のライバルには効率で勝負する会社が
いくつも存在します。それらの会社のホームページを見ると、
新入募集に「営業職」という職種がありません。
ネットで受注し、配達するビジネスモデルですから、
営業職がいらないのです。代わりに募集してるのは
マーケティングやITの担当です。
効率VS人間力のどちらの戦略を採るかで、
求める人材像がまるで違ってきています。
この二極間競争は、どちらが優位という訳ではないでしょう。
家電店の市場を見ればお分かりの通り、
勝負が着くのだったらもうとっくについています。
先日も家電量販店にテレビを買いに行ったのですが、
店員が近くにおらず、満足な説明が受けられず、閉口しました。
安さに勝る効率追求会社が必ずしも強いわけではありません。
何十年と二つの戦略が両立しているということは、
今後もお互いに進化し続けるのではないかと思います。
あなたの会社はどちらのスタンスに立っていますか?
大切なことは、25分前に研修を始める会社のように、
自社らしさにこだわり、それを磨き続けることです。
さあ、自分らしさのエッジを立てていきましょう。
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.407
by V字経営研究所 代表 酒井英之
『社風を変える小さな変化を起こそう』
「デニーズが路面で小さな弁当屋を展開」という
ニュースをTVで知りました。
同社のWithコロナ時代の新戦略です。
わが国を代表する企業が新しいことに取り組むと、
日本がこれからどんどん良い方向に変わっていく、
そんな予感がしますね!
「小さな変化」が、「これから大きく変わっていく」の
予兆となり、「全体の変化が加速する」ことは
会社内でもよくあることです。
実際に私のクライアントでも、
ある小さな変化が、
会社を劇的に変える引き金となっています。
今日はその事例を紹介します。
この会社は150人ほどの製造業です。
コロナの影響を受け始めた4月から、
社長と製造部門の3人の部長の計4人で
毎月1回の幹部研修を始めました。
同社の課題は、社風でした。
業績は良いのですが、上司達が現場に入り込んで
なんでも自分で行ってしまうために、
現場の人たちの主体性が発揮されずにいたのです。
その研修の一環で、6月に社員アンケートを実施しました。
そのアンケート結果の中に一つ気になることがありました。
それは「あなたは休日明けに仕事をするのは楽しみですか?」
という問いです。この得点が他に比べて低かったのです。
そこで7月以降、この研修の場でこの問題を取り上げました。
ハッピーマンデープロジェクト(HPM)と名付け、
どうしたら月曜日会社に行きか行きたくなるか
4人でディスカッションしました。
そして「どうしたら月曜日の出勤が楽しみになるか」、
全社員に今一度アンケートで尋ねたのです。
様々な提案や要望が集まりました。
そのひとつに「昼食にカレーライスが出たらいい」がありました。
同社は近隣の給食センターからお弁当を取り寄せています。
お弁当はいつも温かく、大変美味しいです。
しかしカレーはメニューの中にありませんでした。
そこで給食センターにカレーが可能か問い合わせてみました。
するとカレーは仕込みに時間がかかるので、
月曜日は無理だが、他の日なら良いという返事でした。
またコストアップになるという返事も頂きました。
しかし、この会社ではカレーをメニューに加えました。
たとえ月曜日でなくても、カレーライスのとき、
社員はいつもより米を多く食べます。
体力がつき熱中症予防になるからです。
こうしてカレー給食が始まったのですが、
社員の中に変化がありました。
「会社が自分達の方を向いている。
自分たちの意見を真摯に受け止めて対応してくれている」
と気づいたのです。
そして、今の会社は変わろうとしている。
これからどんどん良くなっていくのではないかとの
予感が生まれ始めたのです。
同時にHMPでは、月曜日の朝の1時間を
作業時間ではなくミーティングの時間としました。
従来、朝一番から機械を稼働させ、生産していました。
が、時々機械が停止する大きなトラブルが発生しました。
そのトラブルの要因の一つに、
休み明けで社員の注意力・体力ともに不活性という
事情があったのです。
そこで、有名な「時間のマトリックス」で考えてみました。
仕事には以下の4つの領域があります。
「緊急で重要な仕事」(第一領域)
「緊急でないが重要な仕事」(第二領域)
「緊急だが重要でない仕事」(第三領域)
「緊急でも重要でもない仕事」(第四領域)
このうち会社を成長には、
第二領域を行うことが欠かせません。
具体的にはチームミーティングをしたり、計画を練ったり、
社員を教育したり、次の準備をする時間です。
同社では忙しさのあまり、
この時間を十分に確保できていませんでした。
そこでこの第二領域の時間を、毎週月曜日の朝一番に確保しよう。
生産開始は1時間遅らそう。
機械の稼働時間は1カ月当たり4時間の減少となるが、
ミーティングや教育をしっかりすることによって、
生産性を上げて取り返そう、と考えたのです。
研修に参加していた部長たちは、
何度もシミュレーションを繰り返し、
第二領域の時間を毎週1時間、月曜朝一に確保することで、
第一領域の時間や、その反動による第四領域の時間を
減らせるとことを確証しました。
すると驚くようなこと起きました。
まだ9月から1ヶ月程度の手応えでしかありませんが、
生産性が15%上がってしまったのです。
社長は「これまで20日製造していた量が
17日でできてしまった」と大変驚いていました。
同社の場合、コロナ禍で一旦落ちた需要が今戻ってきています。
この需要に対し、今の高い生産性を維持して乗り切れると
社長も部長も自信を深めています。
話を元に戻しますと、この会社における小さな変化は
給食のカレーライス採用でした。
次に月曜日の朝の営みの変革が行われ、
生産性が大きく向上する効果がでました。
部長たちがコミュニケーションの方向を変え、
現場の意見を「時間の使い方」に反映させたことで、
ドミノ倒しのような変化が加速的に起きたのです。
あなたの会社の社員には
Withコロナを生き抜くための変化の兆しは見えていますか。
制約もあり、小さな変化しか起こせないかもしれません。
が、小さな変化で良いのです。
最初のドミノを倒しましょう。
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.406
by V字経営研究所 代表 酒井英之
『経営者が背負う受託責任とは』
去る10月7日、弊社は
ファミリービジネス企業を応援したくて
ファミリービジネスに対する
コンサルタントとして大変著名な
西川盛朗先生をお招きし
「3代勝ち続ける同族経営の10大条件」と
題した講演会を開催しました。
会場43名、オンライン参加112名、
合計115名の方にご参加いただきました。
お忙しい合間を縫ってご参加いただいた皆様、
本当にありがとうございました。
おかげさまで大変好評で、
皆様にファミリービジネスの永続に向けた
課題認識が少しでもできたものと
ほっと胸をなでおろしています。
さて、その講演会で、
「スチュワードシップ」という考え方が
先生から提示されました。
講演会後のアンケートでも、
今回の講演会で最も印象に残ったものとして
スチュワードシップとの記載が多数ありました。
そこで今号ではスチュワードシップについて
ご紹介したいと思います。
スチュワードシップは日本語では
「受託責任」と訳されます。
「受託責任」とは、資産運用会社が
投資家から資金を預かるときに
「無責任な運用の仕方をしない。
預かった資産を、責任をもって管理運用する」
ことを意味します。
西川先生はこの言葉をファミリービジネスに応用し、
次のような事例とともに紹介されました。
石川県の粟津温泉に「法師旅館」という
創業1300年の旅館があります。
現在は46代目の法師善五郎氏が当主を務めています。
同社では代々当主は「法師善五郎」と名乗ります。
https://www.ho-shi.co.jp/
同社には家訓や家憲のようなものはありません。
ただし、46代目は自分が承継するときに
45代目から次のように言われたといいます。
「この会社は自分のものだと考えてはいけないよ。
旅館も、お金も、株もあなたのものではない。
あなたの子々孫々から預かっているものだ。
だから、あなたの代で少しでも良くして
次の世代に渡すのがあなたの役割だよ」
これがスチュワードシップというという考えからです。
世の中には、こんな考え方の社長がいます。
・会社は俺のものだ
・自分の稼ぐためのマシーンだ
・何をしようが自分の勝手だ
このような考え方をすると
好景気の時は、社長の金遣いがすごく荒くなります。
逆に不況が来ると、大切な社員をバッサリ切り捨てます。
日常生活では公私混同が甚だしくなり、
心ある社員ほど社長に失望し、離れていきます。
そして、自分の代で会社を潰してしまうのです。
つまり経営が社会の影響を受けてブレブレになるのです。
中小企業は例えるのなら軟体動物のようなものです。
小さな呼吸をしながら、
環境に応じてプカプカと浮いているような存在で、
どんどん流されてしまうリスクを抱えています。
それが、長寿企業になろうとするのであれば、
脊椎動物のように、背骨を持たねばなりません。
人間もそうですが、脊椎動物は長生きです。
体の中に芯となる骨があるから、
激しい環境変化の中で踏ん張ることができます。
そして、ぶれずに成長し続けられるのです。
会社を未来からの預かり物とする
スチュワードシップの考え方は
この背骨を通す考え方に似ていると思います。
現在と百年先の未来との間に
今の自分の会社がある。
こういう目で自分の会社を見れば、
自ずとわが社の「あるべき姿」が見えてきます。
そして、今やるべきこととやらなくてもよいことの
判断ができるようになります。
コロナは自分を見つめなおす良い機会だったと
多くの方がおっしゃいます。
あなたの会社も、子々孫々からの預かりものです。
次代に渡すまでに、どこまで磨き上げるますか?
この機会に是非、考えてみましょう。