2019/11/29
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」vol.361
by V字経営研究所 代表 酒井英之
『トラック1台に必要な売上高はいくら?』
年末ですね。
今年もあっという間に一年が終わろうとしています。
令和元年は皆さんにとってどんな年でしたか?
今年は、AI がもたらす様々な効果、
あるいはAIへの期待を目の当たりにした一年でした。
これから数回、このメルマガでは、
私が見た AIの効果についてお伝えしたいと思います。
「トラックは、一台当たりで
いくらの売上が必要かご存知ですか?」
こんな問いで、私に物流コストの大切さに
気付かせて教えてくれたのは、
岐阜県瑞浪市でエビの養殖を営む起業家、
ハイランドファーム東濃(株)の齋塲社長です。
同社は、体育館ほどの大きさの建物の中で
大きな生け簀をいくつも作り、
その中で何万匹というエビを養殖しているのです。
https://hlf-tono.jp/
なぜ、わざわざエビを内陸で養殖するか。
それは、エビの単価が安く、
遠くから輸送する物流コストが出ないからです。
もし物流コストを上乗せると、
価格で輸入品に負けてしまうのです。
では、実際に1日1往復するトラックは、
1台でいくらの売上が必要なのでしょうか?
公表されているデータから計算してみました。
まず、ドライバーの一日あたりの人件費です。
中型トラックのドライバーの
給料平均給料は年収400万円(*1)です。
これを1日の人件費に換算しますと、
福利費込みで約2万円となります。
次に、このドライバーが1日当たりいくらの
粗利を稼がなければいけないのかを算出します。
運送会社における賃金額粗利率は 37.3%(*2)です。
そのため必要な粗利は5.4万円となります。
売上高対物流コスト比率は、4.67%です(*3)。
そのため、5.4万円の粗利を稼ぐための
必要売上高は、約116万円となります。
つまり年収400万円のドライバーが運転するトラックは、
1日116万円以上の荷物を運ばなければいけないわけです。
もし、トラックが1日2往復するのであれば、
一回当たりの売上高は58万円となります。
これができるのは近距離に限られます。
長距離トラックとなると、1往復がせいぜいですから、
荷物を満杯にして売上が116万円以下であれば、
その運送会社は赤字になります。
齋塲社長が内陸の養殖にこだわるのは、
エビではこれだけのコストを負担できないからです。
社長曰く、魚類でトラックをいっぱいにして
これだけの売り上げは上げられるのは、
マグロやイカなど数種に限られるということでした。
私は齋塲社長のお話を聞きながら、
物流コストの重要性を改めて思い知りました。
物流コストによって、従来当たり前だった場所で
生産ができなくなってしまうのです。
また、エビを室内で養殖する技術がなければ
今後、美味しいエビを生で食べることができないのです。
魚に限らず、野菜・果物なども産地から大量に運びます。
が、野菜も果物も魚以上にかさばります。
トラック満杯で100万円を超える商材は、まず存在しません。
農政の補助金で成り立っているのが現実です。
今後、物流担当者の人件費が安くなるとは考えられません。
が、トラック等の自動運転の発達により、
運転手なしでトラックが走ることはあり得るでしょう。
今後AIが発展し、手頃な値段で美味しいものが
食べられる。そんな社会を期待したいですね。
さて、あなたの会社のトラックは、
年収いくらの人が1回いくらの荷物を運んでいますか?
一日何往復していますか?一度計算してみましょう。
そして、その気づきを経営に活かしてみましょう。
(*1)https://tenshoku-web.jp/truckdriver-salary/
(*2)https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/keiei_sihyou/h11/07_e.html
(*3)http://www.logistics.or.jp/jils_news/2018/04/2017-466.html
2019/11/22
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」vol.365
by V字経営研究所 代表 酒井英之
『もし、一番行きたくない部門に配属されたら』
あなたの会社には一番行きたくない
(配属されたくない)セクションはありますか?
人事異動が少ない中小企業では
あまり聞きませんが、
一方、部門数が多く異動の多い大企業では
そのような「魔の部門」が存在します。
このような部門に配属された人の多くは
「なんで私がここなんだ…」とネガティブになります。
そして、一日でも早くここから抜け出したいと考えます。
ところが中には、そんなセクションだからこそ、
「だからこそ、この部門を良くしよう」と
開き直って熱くなる人もいます。
そしてその情熱は、いつか世の中の
常識をひっくり返すこともできるのです。
例えば、私は95年からある電力会社の
電気温水器を販売する部門の
コンサルティングをやっていました。
このころ電気温水器は、ガス給湯器と市場を争ってました。
が、市場シェアは10%以下で、
ガス給湯器に圧倒されていました。
原子力発電所で作られた深夜の余剰電力をなんとか消費させようと、
国の施策で生まれた電気温水器事業です。
よって、普通なら市場撤退してもおかしくない業績なのに
国からの補助金でかろうじて成り立っていました。
この電気温水器の販売部門こそ、
電力会社の中では最も行きたくない魔の部門でした。
ちなみに、花型は原子力部門です。
しかしながら、97年に高性能な
IH クッキングヒーターが世に出てからは
「IH クッキングヒーター+電気温水器」で
電気の利用促進を推す取り組みが始まりました。
これを「オール電化」と呼び、
工務店にPRして、新築物件に採用してもらう
プロジェクトがスタートしました。
以来、私は電気温水器の販売部門の皆さんと
「オール電化をどこまで拡販できるか」に取り組みました。
最初の数年はオール電化を扱ってくれる
工務店はほとんどありませんでした。
しかしその数は年を追って徐々に増え始めます。
そして、オール電化という言葉が知られ始めた
2003年に大きな転機が訪れます、
電気温水器がエコキュートと呼ばれる設備に進化したのです。
この設備はイニシャルコストがグッと安く、
なんと施工から3年以内で元が取れるようになりました。
そこからは工務店さんがバンバン売ってくれました。
施主から工務店に「うちはオール電化にしてね」と
逆指名されるようになりました。
そしてついに新築市場で
ガスとのシェアを逆転してしまったのです。
そうなるとオール電化は、
電力会社の花形部門に変わりました。
電気温水器の販売部門が単独で努力したわけではなく、
IH クッキングヒーターやエコキュートなど、
設備機器メーカーの協力を得ながら、
複合的な販売をすることで、
電気温水器部門は「深夜の余剰電力を消費する」という
本来のミッションを果たしたのです。
そして、 いつしか社内の他のセクションの人から
「お前らは良いなあ」と言われるような
セクションへと変貌したのです。
このように、魔の部門に配属されることは、
見方を変えれば、逆襲のチャンスなのです。
社内の皆が行きたくないのは、
望むような成果が出てないからです。
それは、今のやり方に何かまずい点があって、
変えなければいけない状態の裏返しです。
これを「嫌だ、嫌だ」と受け止めるのか、
むしろ「変えなければいけないのだから
思い切って変えてみよう」
「変えたらきっと面白いだろうな、
みんなビックリするだろうな」と考え、
誰もやったことがないことを企画し、実践する。
そして最後には「このセクションへの評価を変える」どころか
世の中全体を変えることができるチャンスなのです。
中小企業の経営者でも、
世間の所属する業界へのイメージが悪く、
「なんとかこの業界のイメージを変えたい」と
粉骨砕身努力している人が大勢います。
その根底にあるのは
「がんばっている社員たちに誇りを持たせたい」という
社長としての思いやりです。
そして、私はそんな意地のある社長が大好きです。
「魔の部門」と呼ばれる部署があっても、
それは一時的なこと。
そこに配属されたら
「これは何のチャンスだろう?」と考えて、
開き直りましょう。
そして、社内どころか、
世の中の常識を変えてしまいましょう!
2019/11/15
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」vol.364
by V字経営研究所 代表 酒井英之
『あおりマネジメントになっていませんか?』
逮捕者が出ても後を絶たないあおり運転。
あおられたら、本当に怖いですね。
経営でも同じような事があります
「結果を出さないとわが社の明日はない」
「結果を出さない社員はクビだ」
「お前は、給料泥棒だ。土下座して謝れ」など
上司が部下を恐怖でコントロールするケースです。
かんぽ生命で行われていたマネジメントは
まさにあおり運転ならぬ、「あおりマネジメント」でしょう。
あおりマネジメントは、社員の主体性を奪います。
恐怖で思考が停止するからです。
仮にあなたの職場が
「うちの社員は言われたことはしっかりやるが、
改善提案はほとんど出ない」だとしたら、
自分が「あおりマネジメント」をしていないか
振り返ってみてください。
現場から改善提案が出ないのは、
社員の思考が停止している証です。
言葉がかんぽ生命のように荒っぽくなくても、社員が
「上の人が怖くて言いたいことが言えない」
「言ったところでダメ出しされるだけだ」などと
感じているのなら、同じことです。
では、社員の主体性を引き出すにはどうしたらよいのでしょう?
今回はちょっと視点を変えて、
コンサート会場に目を移してみましょう。
コンサート会場では、観客が総立ちになる瞬間があります。
立って歌を歌い、踊ることは参加者一人ひとりが
目一杯自分の主体性を発揮しているわけです。
ではどうしたら、観客を立たせることができるでしょうか?
思い出してみてください。あなたはどんな時に
客席で思わず立ち上がりそうになりますか?
もちろん曲がアップテンポになるとか、
目の前に人が立ったのでそれにつられて立つ、
ということがあると思います。
が、それだけではありません。
それは客席に向けてバーンと光を浴びせることです。
それまでステージだけに向いていた
スポットライトを客席に向けるのです。
人は自分に光が当たると
自分が注目されていると思い、立ち上がるのです。
ある女性は、自分に光が当たって立ち上がると、
アーティストからも客席の自分が見えるんじゃないかと思い
一生懸命ステージに向けて自分を
アピールしてしまうと言っていました。
双方向コミュニケーションへの意欲。
これも思わず立ち上がってしまう理由の一つかもしれません。
つまり自分に光が当たると、人は主体性を発揮するのです。
これは職場でも同じです。
自分が見られいて 自分が注目されている。
それを自覚した時、人は主体性を発揮するのです。
そのための最も重要で、
かつどんな上司にもできる方法は、
社員一人ひとりの話を真摯に聴くことです。
「あなたはどんな想いで仕事をしている?」
「困っていることはない?」
「こうしたらもっと上手く行くのにと思うことはない?」
「やりにくい点は?変えた方が良い点はないかな?」
など、あなたの意見を「聴いてあげる」のではなく
「どうぞ教えてください」という姿勢で話を聴けば、
問われた部下は喜んで話すでしょう。
そして上司がそれを
「いいこと教えてくれてありがとう」
「素晴らしい気づきだね。それをチーム全体でやろう」と
受け止めたら社員のモチベーションはぐっと上がります。
社員の主体性を引き出したければ、
何よりも、話を聴くところから始めてみましょう。
私がこんな話をすると
「話を聴く大切さはよくわかるのですが、時間がないのです」
と答える上司がいます。
そのような人は部下の話を聴くことの優先順位が
自分の中でなぜそんなに低いのか?
よく考えてみてください。
部下の話を聞く以上に
大切な仕事ってあるのでしょうか?
多くの中小企業の経営計画書のカレンダーには、
社長と社員の面談日が最初から書かれています。
先に日を決めておかないと、時間が取れないからです。
そのくらい、重要視しているということです。
「聴くことができたら経営はできる」という言葉もあります。
是非、社員一人ひとりに光を当てる
マネジメントにトライしてみてください。