2019/08/23
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」vol.355
by V字経営研究所 代表 酒井英之
コラム『イタリアのブランド企業に共通していた哲学とは?』
去る5月に、フェラガモやダミアーニなど
イタリアの一流ブランド企業7社を訪問、
見学しオーナーの話を直接聞いてきました。
目的はイタリアのブランド企業の
事業承継のやり方を学ぶためです。
イタリアのブランド企業はその大半が同族経営であり、
100年続く老舗も少なくありません。
その経営スタイルが今後の日本の事業承継に
参考になるのではないかと考えたのです。
そこで学んだことの一つを今回、ご紹介したいと思います。
私が一番興味を持っていたのは、
各社が創業以来大切にしている「哲学」が何かでした。
すると「これが一番大事です」の回答が
どの会社も同じだったので大変驚きました。
それは…
「サスティナビリティ」です。
日本語に訳せば「持続すること」という意味です。
日本には長寿企業は多いのですが、
持続することについて明確に経営理念等に
盛り込んでいる会社はまず見かけません。
持続することがあまりにも当たり前のことなので、
あえて言うまでもないということかもしれません。
一方、ヨーロッパは歴史上数多くの戦争を経験しています。
支配者が変わったり、経済環境が変わることで
環境があっという間に変わってしまう経験をしています。
にもかかわらず、住んでる街の光景、建物、道路などは
何世紀も前に作られたものを受け継いでいます。
それらは社会資本として、次の時代に遺すものです。
ゆえに継続することの大切さを強く感じているのです。
フェラガモを訪ねた時にオーナーから聞いた話ですが、
フェラガモは戦前にはもうハリウッドの女優向けの
ブランド靴メーカーの地位を確立していました。
しかしながら戦時中に皮革が軍需品に用いられたため
材料が入手できず、靴作りが困難になりました。
そこでフェラガモは、入手可能な魚網を用いて
おしゃれな靴を作ることができないかを考えました。
これによってできた靴が「見えない靴」です。
この靴は大変画期的なデザインだと評判になり、
フェラガモブランドの地位を不動にしました。
https://rococo.jp/vintage-trivia/14268/
材料はない。でも会社を持続発展させなければならない。
そのために今できることは何かそれを徹底的に考えた結果、
世界を驚かせる新商品が生まれたのです。
サスティナビリティを哲学の第一に掲げている
フェラガモは同社の本社の地下に
サスティナビリティがテーマの美術館を開設しています。
そこにはマイクロプラスチックゴミが地球に
どんな悪影響を与えているのかを示すオブジェがあります。
さらに環境に優しい材料や、リサイクル可能な材料を用いた
製品を展示し、自らの考え方を発信しているのです。
こうした考え方は、スチュワードシップといわれるものです。
スチュワードシップとは
「会社は株主のものではない。前世代からの預かり物である。
社長はそれを今の時代に預かった者として、
より良いものに磨き上げ、次の時代に繋いでいく。
それが現代を生きる人間の使命だ」という経営者の姿勢です。
日本には会社は社会の公器という考え方も定着しています。
これはスチュワードシップそのものですが、
事業承継の時期を迎えている会社にとっては
どのようにして、次に繋いでいくかが重要な課題です。
オーナー一族から次の経営者が出なくても、
フェラガモがそうしているように、
プロ経営者を雇い、任せる方法もあります。
また会社を必要とする人に社員ごと引き受けていただき、
事業を繋いでいく方法もあるでしょう。
あなたの会社のつなぎの準備は始まっていますか?
イタリアの歴史ある街並みを見ながら、
日本の100年後のために、
今、課題となっている様々な繋ぎを
ちゃんとやらないとだめだな、と痛感しました。
2019/08/9
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」vol.354
by V字経営研究所 代表 酒井英之
コラム『チームマネジメントは日米でどう違うのか?』
甲子園で熱戦が続いていますね。
今年もすごいドラマが生まれそうですねワクワクします。
さて、今年はある高校が
甲子園に出られないことで話題になりました。
岩手県の大船渡高校です。
ここには163 km/hの剛速球を投げる佐々木投手がいます。
同校はあと1勝で甲子園という所まで来たのですが、
彼は決勝で投げませんでした。
監督が「今日投げると故障する可能性がある」と、
登板させなかったのです。
この監督の判断に、
多くの野球生経験者から賛否の声が寄せられました。
否定的な意見は
「皆が甲子園を目指して行っているのに、
特定の選手事情を優先するなんておかしい」という考え方です。
一方で賛成意見は
「一人の高校生の野球人生はまだまだ続く。
今のチームのために、それを終わらせるような
決断をするべきではない。英断だ」というものでした。
この二つを比較してみますと
前者は日本的なチームマネジメント、
後者は米国的なチームマネジメントに立った考え方だと思います。
日本的なチームマネジメントは、
前提が、メンバー全員が半人前ということです。
半人前なので、誰かが犠牲になったとしても
全員で強く強くなろうというものです。
ここでの監督の仕事は全員の結束力を高めていくことです。
一方 米国的なチームマネジメントは、
選手一人ひとりが一人前のプロだということです。
監督の仕事は確実にチームに求められた成果を出すために、
一人ひとりのプロをどう組み合わせ
どう戦うかをプログラミングすることです。
選手はその期待に応えようと、
それぞれの持ち場でプロのスキルを発揮します。
最近ではこのアメリカ的な
マネジメントの職場が増えてきています。
くら寿司は、新人でも年収1000万円で
将来の幹部候補を採用すると発表しています。
https://toyokeizai.net/articles/-/290502
富士通はAIに関する能力次第で
社員に3000~4000万円支払うと発表しました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190808/k10012028151000.html
全員が半人前の横並びではなく、
一人ひとりの違いを認め、違いを生かすことが前提です。
このようなマネジメントが成立する条件は、
少なくとも2つあります。
第1は社員一人ひとりがリーダー並みに
チーム全体を見る視点を持っていることです。
一人ひとりは各持ち場のプロですが、
リーダーの目指しているところは何で、
周囲とそのような関係を築いていくべきか、
敏感に感じ取って言われる前に行動する必要があります。
第2はディレクションをするリーダーを
チームの皆が評価することです。
リーダーの理想の実現のために皆働くわけです。
もし皆が「こんなリーダーでは勝てない」と思ったら、
このリーダーはリーダーとして失格です。
そのためアメリカでは、
リーダーへの満足度を確かめる
ES 調査が当たり前に行われています。
基準点より低い点だったリーダーは、
一度は改善の機会が与えられます。
しかし、2期続けて基準点を下回りますと更迭されます。
ES調査は自らを客観視し、自らの問題に気づく道具です。
調査される対象は直属の上司だけでなく社長にも及びます。
それを元に、自分を変える努力ができるリーダーを
部下は尊敬するのです。
部下に指摘されて態度を改める社長や上司など
これまで日本にはほとんどいませんでした。
こうしたマネジメントスタイルの変化を象徴するから、
大船渡高校の選択は、社会問題化したのでしょう。
経営者は自社のビジョンを考えるとき、
戦略と照らし合わせて
わが社は「半人前の団結集団」を目指すのか、
それとも「一流のプロ集団」を目指すのかを考えましょう。
そしてそれを実現するために
必要なマネジメントスタイルを確立しましょう。
2019/08/1
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」vol.353
by V字経営研究所 代表 酒井英之
コラム『 ぶれない経営「〇〇ファースト」 』
毎日暑いですね。
熱中症には十分注意してくださいね。
さて、「〇〇ファースト」という言葉をよく耳にします。
吉本の宮迫事件での「芸人ファーストじゃなかった」。
大船渡高校のエース佐々木投手が決勝戦で登板せず、
甲子園を逃した事件での
「アスリートファーストを貫いた」など…
「〇〇ファースト」は、組織として何を最優先するかの
価値観を表した言葉です。
この言葉があれば、社員は今何をするべきかの意思決定を
自分自身で考え行動することができます。
そのため、組織にとっては非常に重要な言葉です。
中でもヤマト運輸の小倉昌男社長が社員に徹底した
「サービスが先、利益が後」が有名です。
配達サービスではトラックの購入はもちろん、
人員採用など固定費が先に発生します。
だから宅急便事業は立て上げから4年も赤字続きでした。
それでも小倉社長はそれを先行投資と考え、
サービスを先に充実させました。
NHKの『プロジェクト X』 に、
ヤマト運輸が取り上げられた時に紹介されたのは
北海道の奥地に配達に行くドライバーの姿です。
雪道を片道何時間もかけてたった一つの荷物運ぶのは
とても採算が合う仕事ではありません。
こんなとき、「こんな儲からないことやっていいのか?」と
普通の社員なら迷います。
が、小倉社長は「サービスが先です。迷わず行きなさい」と
言うわけです。
なぜなら、それを貫くことによって、
「こんなに遠いところでもヤマトは届けてくれた」の
信用を得ることができます。
その積み重ねが同社の利用者を急増させたのです。
また10年ほど前ですが、
私はプロ野球の日本ハムファイターズの
藤井純一社長(当時)と対談したことがあります。
Jリーグのセレッソ大阪の社長としても
黒字化に成功した経験のある藤井社長のポリシーは、
「ファンサービスファースト」。
試合に勝つことよりも、ファンサービスこそ第一だという意味です。
ファイターズは、2004年から本拠地を北海道に移しました。
以来、北海道の皆さんに受け入れてもらうために、
オヤジナイト、屋台、物産展、乙女の祭典、選手の抱き枕販売、
オリジナルのアイス販売、「北の国から」の鼻歌合唱など
ワクワクするイベントを札幌ドームに仕掛けます。
また、当時人気だった新庄、稲葉、森本など主力選手が
ファンを試合前に入り口で出迎えてサインや握手をしたり
北海道各地のイベントに参加してゲームしたり
野球を教えるなど、大変オープンな活動をしました。
また監督の人選も「ファンサービスができる人」が第一条件です。
当時のヒルマン監督、その後を継いだ梨田監督、
そして現在の栗山監督も、皆、監督としての実績よりも
ファンを大事にする姿勢で選ばれています。
私の地元のドラゴンズはほとんどそういうことをしません。
ドラゴンズは伝統的に「選手を守る」発想で
ファンと選手の距離を置くマネジメントをしています。
そのためチームが強い時は観客動員数が伸びますが、
一旦負けが続くとお客が離れてしまいます。
逆にファイターズは上記のファンづくり効果で、
勝敗にかかわらず観客動員数が安定しています。
日曜ドラマ『ノーサイド・ゲーム』でも
ラグビーチームが地元でのボランティアが先か
練習→勝利が先かで迷うシーンが描かれていました。
こんな時、藤井社長のよう「ファンサービスファースト」と
明確に方針を打ち出して頂きますと、
選手は迷いなく試合に勝つことよりもファンと接することが
自分たちの仕事だと、今やるべきこと判断することができます。
このように「〇〇ファースト」の考え方は、
社内のベクトルをひとつにし、
組織の個性を決定づける考え方であり、
経営にとっては欠かせないものなのです。
また、その優先順位は普遍的なものもあれば
時代とともに変わることもあります。
「株主利益最優先」の考え方や、
社員への「仕事と家庭どっちが大事?」の問いは
いつしか過去のものとなりました。
芸人と顧客、社員とブランド、ファンと選手、チームと個人…
「どっちも大事だ」と言いたくなるのは人情ですが
そこを間違ったら自分が責任を取るというくらいに
腹くくって決めて、社員に伝えるのがトップの役割です。
あなたの会社の基本姿勢は何ファーストでしょうか?
是非それを考えて経営方針に盛り込んでくださいね。