V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.532
by V字経営研究所 代表 酒井英之
「地震発生時の神対応と栗山監督の言葉」
新年明けましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします
さて、元旦に能登地震が発生しましたね。
10日経った現在でも行方不明者が100人を超え、
避難所生活を強いられている方が多数いることに
心を痛めておられる方も多いと思います。
こうした地震の時は、誰しもパニックに陥ります。
発生した元日、私は岐阜市の実家でTVを観ていました。
揺れがなかなか収まらず、大変怖い思いをしました。
そんな中、様々な神対応に出会いました。
また、その後の報道で知りました。
例えばNHKのアナウンサーです。
地震速報がスマホから鳴り響く中、
「津波がだから今すぐ逃げて」を
強い危機意識を込めて伝えていました。
その中にこんな言葉がありました。
「津波が来ます。今すぐテレビを消して逃げてください」。
ところが、その直後彼女は言い換えます。
「あ、テレビは消さなくていいです。
今すぐ逃げること」
テレビを消す、という行為だけで
逃げる時間が1秒遅れます。
リモコンを探せば数秒のロスです。
そのことに気づいて言い換えたのでした。
強烈な指示命令調の伝え方には賛否両論あるようです。
が、私は聞いていて素晴らしいと思いました。
逃げようとする人は、きっと
「あれも持たなきゃ、これを待たなきゃ」と
焦っていることと思います。
そんなときに指示命令調で言われたら
「やっぱそうだよね」と、
迷いを吹っ切ることができるのでは、と思うのです。
後で知ったことですが、NHKの職員は、
東日本大震災の後に、
「どうしたら命を救う報道ができるか」の
研究を重ねたようです。
そして伝え方を上記のように工夫すると同時に、
発災地に馴染みのあるアナウンサーが発信した方が
効果的だという因果関係を突き止ます。
今回「今すぐ逃げること」と繰り返し語ったのは
現在『ニュースウォッチ9』のキャスターを務める
山口泉さんです。
彼女は2017年に入局し、金沢放送局で勤務しました。
その縁で、避難行動を促す報道を担当したのです。
彼女に限らず、NHKのアナウンサーたちが
万が一に備えて伝え方を研究し、
訓練していたからこそ伝わった緊迫感なのでしょう。
その影の努力には敬意を表します。
他にも神対応は、ネット上で多く報道されています。
おもてなし力の高さで超有名な温泉旅館「加賀屋」では、
地震発生直後、お客様を近くの避難所である
小学校の体育館に誘導しました。
地震発生時、温泉で入浴中だった方も多く、
その方々は浴衣のまま逃げたのだそうです。
加賀屋の社員は着替えや布団などの寝具、
お菓子などの食料を避難所に運びました。
中でもバケツリレーの報道には感動しました。
加賀屋では震災の翌日、避難所からホテルに戻り、
希望される方には金沢駅までバスで送る
サービスを実施しています。
この時、「長旅になりますので行っておいてください」と
ホテル内でトイレを済ませておくよう促しました。
ところがこのとき、七尾市内は断水状態。
流すことができません。
そこで加賀屋の社員は1階の池から
バケツリレーで上層階まで水を運び、
トイレを使えるようにしたというのです。
非常時にこうした行動ができるのは
危機を想定した訓練の賜物でしょう。
遠く離れた千葉のディズニーランドでも
神対応は見られました。
こちらは、地震速報が流れた瞬間の動画が
Youtubeに多数アップされています。
園内にいた人たちが、それぞれの場所で撮影したのです。
が、どの映像でもキャスト(社員)の行動は同じです。
地震速報と同時に一斉に館内放送が流れます。
すぐさまゲストを座らせ、頭を守るように伝えています。
なかなかしゃがめない小さな子供の
頭を守り、一緒にしゃがむキャストもいました。
ディズニーランドは建設時に過去50年間の最高潮位を調べ、
パークの標高がそれよりも高くなるように
設計されています。そのためキャスト達は
「災害時は園内にいるのが一番安全」と教えらえています。
全員が自分たちの設備を信頼し、
どんなときも、どの場所にいても、同じ行動ができる。
これも訓練の賜物でしょう。
こうした神対応報道に触れながら、
私は年末の『カンブリア宮殿』に登場した
WBC元監督の栗山英樹さんの言葉を思い出しました。
彼は選手たちの能力を引き出す言葉として
「あなたが侍ジャパンの一員になるんじゃないよ。
あなた自身が侍ジャパンなんだ」と伝えていました。
侍ジャパンのメンバーとして、誰かの指示で動くのではなく
自分の動きがそのまま侍ジャパンになる。
あなたの行動が、侍ジャパンを創る。
その意識で主体的に動いて欲しい、という意味です。
上記の神対応をされた皆さんも
「私はNHKの一員」ではなく「私こそが、声で命を救うNHK」
「私は加賀屋の社員」ではなく「私こそが、おもてなしNo.1の加賀屋」
「私は夢の国のキャスト」ではなく
「私こそが、安全第一の夢の国でキャスト」
という強い誇りと使命感を持ち、
考え得る限りのベストな行動を選択したのでしょう。
その誇りと使命感は
侍ジャパンの選手たちと同じように
「今なぜ、それをするのか」という強い理念と
「ここまで準備を重ねてきた」という
先人や同僚への尊敬から生まれるものだと思います。
あなたの会社の危機管理はどうでしょうか?
マニュアルがある会社はマニュアルを題材に
シミュレーションしながら「なぜ、これをするのか」を
今一度よく考えて訓練しましょう。
また、マニュアルがない会社は、
時間を割いて全員参加のディスカッションしてください。
自分が発言すると、人の当事者意識は高まります。
その意識はいつの日か、
仲間やお客様の命を救う神対応になるでしょう。
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.531
by V字経営研究所 代表 酒井英之
「いまさら聞けない『人間力』って何ですか?」
今年も終わりですね。
あなたにとってこの1年はどんな1年でしたか?
私は名古屋大学の大学院で教えているのですが
先日、学生からこんな質問をいただきました。
「ある経営者から、人とギブ&テイクできる関係を
築く事が大切だ、と習いました。
でも、この人とギブ&テイクの関係が築けるかどうかを
どのようにして判断したらいいのでしょうか?」
これを聞いて20代ならではのいい質問だな、と思いました。
ビジネスマンとして歳月を重ねると、
人と接するだけで「ああ、この人とは
良い関係になれそうだ」と直感でわかります。
ですから「そのうちわかるよ」と答えたいところですが
それでは、彼らは困らせるだけです。
そこで、私も20代の彼らに伝わるような答えを考えてみました。
最も大切なのは、その人を人間的に信頼できるかです。
信頼の源は、「自分が大事に思っていること」を、
相手も同じように大事にしてくれるかどうかです。
例えば家族を大事に思っている人が、
「今日は子供の参観日なので会社を休ませてください」と
言ったとします。
その時に「それは大切だね」と言って休みを認めてくれる人と
「何を言ってるんだ。会社と家庭、
どっちが大事だと思ってんだ?!」という人では、
どちらの人が信頼れるかは言うまでもありません。
では、人は一体何を大事に思ってるのでしょうか?
教育哲学者の森信三先生の言葉に次のようなものがあります。
「場を清め、時を守り、礼を尽くす」。
これは人として生きるための3条件ですが、
私は人との信頼関係を築く3条件だと解釈しています。
一つひとつ見ていきましょう。
「場を清め」は清潔さです。人は清潔感を大切にします。
清潔感の基準が相手と乖離していていると、
この人とはうまくいかないんじゃないかと思うでしょう。
例えば、コンビニやスーパーの駐車場で時々、
車内がひどく汚い社用車を見かけます。
そういう車を運転してる運転さんとは、
いい仕事はできないんじゃないかと思ってしまいます。
逆に、私のクライアントの建築会社ではこんな例もあります。
同社の若い社員が毎朝早く現場に行き、
現場の掃除を一生懸命していました。
すると、建築現場の隣に住んでいる人が、
「あなたはいつも掃除を熱心にやっていて感心だね」
と声をかけてきたのです。
そして「今度うちを建て替えたいんだけど、
いっぺん話聞いてもらえないかな?」と言うのです。
その人は歯医者さんでした。
ご自身の歯科医院の建て替えを検討していたのです。
この仕事、結局受注をします。
一生懸命現場の掃除をしていたら、
歯医者の建築工事を受注してしまったのです。
このときの若手社員曰く
「掃除しかできないので掃除を一生懸命していただけ」。
が、お互いが求めている清潔へのこだわりが一致した。
だからこそ、信頼されたのでしょう。
第2の「時を守り」は、時間を守るということです。
以前、名大の講義にゲスト講師で来ていただいた社長が
受講生に「時間=□」という問いを出しました。
□の中を埋めてみて、というのです。
正解者はゼロでした。
その社長が示した答えは「時間=命」でした。
社長曰く、寿命は時間です。
長く生きた人には、それだけ時間があったということ。
一方早逝した人には、それだけ時間がなかったということです。
時間はどんな人にも平等に与えられているものであり、
過ぎ去った時間はどれだけお金を積んでも
買い戻すことができません。
よって、もし約束の時間に1時間に遅れるとします。
そしてそれを連絡もせずに相手が待ちぼうけしたら、
その人の1時間を無駄にしたことになります。
1時間無駄にすることは、その人の限りある寿命を
1時間削ってしまうということです。
このことが分かってるから、
人は待ちぼうけさせられると怒るのです。
それだけではありません。
「メールへの返信のタイミングは
人との相性を決定付ける」といいます。
このタイミングがずれると、
「この人とのやり取りは気が進まないな」という感じになります。
同じ時間を生きている者同士、
相手の時間を大事にできるかどうかは
ギブ&テイクの関係を築く上でとても重要ですね。
第3の「礼を尽くす」は言うまでもないと思います。
最近、経営者向けの勉強会で私はこんな質問をします。
「Z世代社員と、どのような点で
ジェネレーションギャップを感じますか?」
すると、最もよく出てくる意見に
「Z世代は挨拶をしない」があります。
「挨拶をしない=礼儀正しくない=うまくやれない」
という感覚を、多くの経営者は持ってるようです。
ところが、Z世代の人たちにしてみると、
悪意があって挨拶しないわけではありません。
彼らが生まれ育った環境がそうさせているのです。
朝起きたとき、親と子、どちらが先に挨拶するでしょうか?
Z世代の親は、親が先に子供に「おはよう」と言います。
子供たちが学校に行きます。
途中、交差点でみどりのおじさん、おばさんに出会います。
みどりのおじさん、おばさんは、自分から子供たちに
「おはよう」と声を掛けます。
学校の正門前には、先生がいます。
先生と児童、どちらが先に挨拶するかといえば、
先生から「おはよう」と声を掛けます。
このようにZ世代は目上の人から先に
「おはよう」と挨拶をする環境で育っています。
それを当たり前だと思っています。
そのことに経営者や上司が気づき、
自分から挨拶すれば、相手もしっかり挨拶を返してくれます。
時代と共に常識は変わっていきます。
「自分は絶対に正しい」とは思わないことが大切ですね。
このように「場を清め、時を守り、礼を尽くす」の
3つは信頼関係を築く基本ですが、
「人間力とは何か」を表した言葉でもあります。
この3つは誰でも出来ることであるが、
誰も真似できないくらい徹底してやり続けると
それは非凡なものになり、
周囲から信頼される力になるのです。
5Sが徹底できている会社、
納期絶対遵守の会社、
見えなくなるまで客をお見送りする会社
などはお客様や地域から圧倒的に信頼されています。
年末年始は、わが身を振り返り、先を展望し、
気持を一新する時間でもあります。
あなたも自分と組織の人間力について
考えてみてはいかがでしょうか?
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.530
by V字経営研究所 代表 酒井英之
『ダイハツが再建に向けて見直すべきこと』
また大企業で不正が発覚しましたね。
トヨタ系列のダイハツです。
激しいスズキとの首位争い。
それに勝つべく短期間で開発、生産するよう
社内には指示命令が飛んでいたようです。
こうした会社では、
「何が何でも納期に間に合わせろ!」
「できない、なんて言葉はわが社にはないだ!」
「出来なかったらどうなるか。わかっているだろう」
「足りないのはスキルじゃない、お前の覚悟だ」
「黙って俺の言うことをきいていればいいんだよ」
など、現場に圧力をかける言葉が横行していたと推察します。
きっと、ダイハツの社員たちは
不正なんか死んでもしたくなかったと思います。
が、間違ったことを「これ、間違っていませんか?」
と、言えない空気だったのでしょう。
「やってはいけない」とわかっていることに
手を染めざるを得なかった社員の胸の内は
いかばかりだったでしょうか。
想像するだけで苦しくなります。
発表されていませんが、
こんなプレッシャーのかかる職場では、
メンタルヘルス不調を起こす人が何人もいたでしょう。
短期的な利益を追求するために効率を重視し、
パワーマネジメントで人を動かす経営は、
非常に残念な結果に繋がります。
今回、ダイハツの社長やトヨタ出身の副社長も
「経営幹部に責任がある。不正を働いた社員は犠牲者だ」と
発言しています。まさにその通りです。
経営幹部が現場に足を運ばず数字ばかりを見ているから、
現場の社員の苦悩に気が付かないのです。
では、ダイハツはどうしたら立ち直れるのでしょうか?
メンタリング・コンサルタントとして著名な福島正伸先生は
「困ったなと思うほど解決できなくなる。
楽しいなあと思うほど、解決できるようになる」
と語っています。
この言葉を借りれば、
ダイハツが再建に向け最初に踏み出す一歩は
社員が「仕事が楽しい」と感じられるようにすることです。
「楽しい」と感じられる基本は、人間関係が良好なことです。
社員がお互いを「あいつは実は凄いんだぞ!」と認め合い、
生産性を上げるためにどうしたらいいか、
いろんな知恵を出し合って取り組める関係です。
例えば、生産性向上に新たな設備が必要であれば、
自分たちでその設備を探し、選び、稟議書を書きます。
そうして調達した設備を、皆が我が子のように大事に扱います。
そして目論見通りに生産性が上がったら、
それを誰か一人の手柄にせず、
「私たちは最高のチームだよね!」と皆で讃え合う。
スピードが上がって生産性が高くなると、
1時間で1個できたのが、2個できるようになります。
が、ここであえて2個は作りません。
1.5個程度に留めます。すると、時間に余裕ができます。
その時間を、仲間とミーティングに充てます。
ミーティングでは、将来のビジョンを描いたり
経営理念について話し合ったり、勉強会を開催したり
5Sを徹底したり、改善点を話し合ったりします。
そうした活動の中で、「あいつすごいな!」と
お互いを認め合える関係を作っていきます。
社長は、そんな社員を大切にします。
例えば給料袋に社長のメッセージを入れたり、
ネット上に社長ブログを公開したりして、
社長が今考えていることを、社員に直接伝えます。
これによって社長と現場社員との情報格差をなくします。
トップ層と同じ目線で現状を認識した社員は、
今、自分たちが何を求められているのが
自分で考え行動するようになります。
社員の誕生日にはバースデーケーキを贈り、
職場の皆でお祝いをする社長もいます。
どうしても温かくて美味しい昼食を食べて貰いたいと、
食堂を整える社長もいます。
メンタルヘルスのために産業医を代える社長もいます。
そうした社長の想いに、社員は必死で応えようとします。
すると、本当に生産性が上がります。
お互いの関係が良くなると、
現場から改善のアイデアがどんどん出るようになります。
困っている人が「ヘルプ!」と発信しやすくなり、
お互いで助け合うようになります。
こうした環境の中で、主体性を発揮する社員が増えてきます。
こうした会社は初任給を上げることができます。
初任給を上げれば、新人が入ってきます。
その新人を職場のみんなが一生懸命応援します。
新人が仕事をひとつ覚えて嬉しそうにすると、
周囲の先輩たちが、一緒になって喜びます。
この環境下で育った新人は、その翌年、
新たに入社した新人を教える側になって一生懸命育てます。
こうして若手社員が育つ仕組みができ上がります。
結局のところ、成熟産業に身を置く企業が
働き方改革を実現しながら高収益体質に転換する
手段はひとつしかありません。
それは、「あり方」を変えることです。
短期的な利益を求めて効率を重視し、
上位下達で人を動かす右肩上がり時代の
ビジネスの「あり方」を180度変えるのです。
仕事を楽しくするにはどうしたらいいか。
お客様に強く必要とされるにはどうしたらいいか。
そのような視点で経営の「あり方」を
正すことこそ肝要なのです。
「あり方」が変われば、関係性が変わります。
関係性が変われば部下が主体性を発揮します。
部下が主体性を発揮すれば、
改善案が多数出て、生産性が上がります。
生産性が上がれば、賃金が上がります。
賃金が上がれば、新人を採用できます。
新人が育てば職場は活気づきます。
それを見たお客様が、「この会社なら大丈夫だ」と
強く信頼してくれます。そうすれば利益が増え、
賞与が上がり、社員の満足度も高めることができます。
こうした 好循環を創ることが経営者の仕事です。
そのスタートは、自分の「あり方」を見直すことです。
そこで、あなたの会社の「あり方」について
質問したいと思います。
この質問を教えてくれたのは
「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」で
中小企業庁長官賞を受賞したことのある
(株)沢根スプリングの沢根会長です。
問1.仕事は楽しいですか?
問2.経営の目的は何だと考えますか?
問3.トップは、「こんな会社にしたい」という明確な
イメージを描いて発信していますか?
問4.社員の皆さんは、「自社の存在意義」を端的に言えますか?
問5.問4は幸せや楽しさにつながるものですか?
あなたが社長なら、これらの質問に即座に答えられるでしょうか。
あなたが幹部なら、社長と同じ答えでしょうか?
そうであれば大丈夫。
きっと三方よしのいい会社を創ることができるでしょう。