V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.418
by V字経営研究所 代表 酒井英之
『ビジョン開発時に社長が気を付けたい落とし穴』
3月決算の会社は、
来期の計画を立案する時期になりましたね。
ドラッカーは戦略を立案するときは、
次の5つの質問に答えよと言っています。
1. 我々の使命は何か?
2. 我々の顧客は誰か?
3. 顧客にとっての価値は何か?
4. 何か我々にとっての成果は何か?
5. 我々の計画は何か?
大変シンプルで、私たちビジネスマンに
多くのヒントをくれる質問ですね。
この中で特に重要なのが
「2.我々の顧客は誰か?」です。
ここを間違うと、戦略全体が狂ってしまうからです。
近年V字回復したマクドナルドを例に考えみましょう。
今売れているのは、「倍ダブルチーズバーガー」や
「倍ビッグマック」など肉盛り系の倍シリーズです。
メニューを見るだけでかぶりつきたくなりますね。
https://www.mcdonalds.co.jp/menu/dinner/
マクドナルドが大変苦しかった2015年頃、
同社はベジタブルチキンバーガーを出しました。
現在この商品はありません。
期待ほど売れなかったからです。
https://www.mcd-holdings.co.jp/news/2015/promotion/promo0521b.html
このベジタブルチキンバーガーは、
お客様の声を元に作ったものでした。
「マクドナルドで食べてみたいバーガーは?」と聞かれて
「ヘルシーなバーガー」と答えた人が多かったのです。
にもかかわらず、このバーガーは売れませんでした。
これは私の推測ですが、聴く相手を間違えたのでしょう。
仮にネット上で20代の女性等にアンケートで
「マクドナルドで食べたいものは?」と聴いたら、
ヘルシーなバーガーという答えが多かったでしょう。
あるいは、若い女性ばかりを会議室に集め、
グループインタビューをしても
ヘルシーなバーガーに皆さん賛同したでしょう。
これこそがマクドナルドが陥った罠です。
皆さんは、ネット上のアンケートや
会議室でのインタビューが、同社にとって
本当に必要なユーザーの声だと思いますか?
もし店内で実際にビッグマックを食べている人に
「どんなバーガーが食べたいですか?」と聞けば
決してヘルシーなバーガーとは答えないでしょう。
きっと「もっと肉厚のバーガーが食べたい」と
答えたのではないかと思います。
マクドナルドは長年、朝と昼はよく売れるけど
夜に売れないが悩みのタネでした。
そこでマクドナルドで夜、何を食べたいか調査するわけですが、
これもネットで聴いたり会議室で聴いても
ユーザーの本音が出るとは思えません。
夜のニーズが知りたければ、
実際に夜、マクドナルドの店内で、
夕食代わりにバーガーを食べているお客様に
「あと何があったらご満足いただけますか?」などと
聴くことが一番正解に近づくのではないかと思います。
そこから生まれたのが夜マックですが、
ご利用いただきたいお客様に現場で、
ダイレクトに話を聴くことが大切なのです。
私がクライアントのビジョン開発をお手伝いするときは、
クライアントの社長や社員に、同社の主要顧客に出向いて
インタビューしていただきます。
インタビューで、
「当社を選んでいただいている理由」や
「当社に期待すること」などを教えてもらいます。
このとき、主要顧客を3つに分けます。
「昨日の顧客」「今日の顧客」「明日の顧客」の3種です。
この3分類もドラッカーの教えです。
「昨日の顧客」は古くからの顧客で、取引量は多いが、
成長力が乏しく、取扱量、利幅とも減少傾向の顧客です。
「今日の顧客」は、今の主力顧客です。取引量は多いが
微増で、きちんと儲けさせてくれるお客様です。
「明日の顧客」は、取引量は少ないのですが成長率が高く、
これから取引を拡大していきたいと思う顧客です。
この3者にインタビューしたクライアントは
皆さん、とてもビックリします。
なぜなら 3者によって答えが全然違うからです。
例えば、ある建築資材問屋のビジョン開発のために
顧客にインタビューしたときです。
「昨日の顧客」は次のように言いました。
「価格を下げてほしい」「納期を短くしてほしい」
ところが「明日の顧客」は同じ質問に次のように答えました。
「いつもの材料が手に入らないとき、
わざわざ別のものを使いますと連絡をくれた。
それで貴社に対する見方が変わったよ。
貴社との取引は安心できる。これからも
コンプライアンスに忠実なパートナーでいてほしい」
「明日の顧客」と「昨日の顧客」では
ドラッカーの「第3の質問:顧客にとっての価値は何か」の
答えが全然違うのです。
当然ですが、この問屋が自社のビジョンに組み込むべきは
「明日の顧客」の価値基準です。
そうすることで、ドラッカーの「第4、第5の質問」に、
時流に乗った解が出せます。
あなたの会社は、顧客にインタビューしていますか?
「昨日の顧客」の意見ばかり聴いて、
肝心な「明日の顧客」の意見を聞きそびれている
なんてことはないでしょうか?
コロナ禍は企業体質を変える絶好機です。
かつてのマクドナルドと同じ失敗をしないよう、
顧客の意見をよく聴いて、来期の計画を立ててくださいね。
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.417
by V字経営研究所 代表 酒井英之
『反り立った壁を登るビジョナリー経営』
ボルダリングというスポーツをご存知ですか?
壁に出た突起物を掴んで駆け上がっていく競技です。
東京オリンピックの正式種目になり、
日本がメダルを期待されている競技ですね。
あのボルダリングを見るたびに、
私には、ビジョンを掲げて進む企業の姿が重なります。
ボルダリングではGoalと「登る壁」が決まっています。
その壁は大変に険しいもので、
反り返っていることもあり、
普通に考えればとても登れるような壁ではありません。
しかしながら、その壁を登る意志のある人には
小さな突起物が目にとまります。
そしてその突起物に手をかけて、
かかった手に力を込めて全身を引き上げます。
すると別の突起物が見えます。
そこに今度は足をかけ、全力でその突起物を蹴り上げます。
そしたら身体がグッと浮き上がり、
さらに別の突起物に手が届きます。
そこに手を伸ばして、徐々に徐々に壁を登っていきます。
この小さな突起物に手をかけて、
そこに全力を込めて自分自身を引き上げ、
不可能と思える壁を登っていく。
この姿がビジョナリーな企業とダブルのです。
先日、あるメーカーの5年先ビジョンを聴く機会がありました。
社員数300人に満たない中小企業です。
そのビジョンの一つに、
「日本を代表する超大手企業が
富士市の工場跡地で行なう
夢の次世代プロジェクトに参画する」がありました。
実は昨年、この次世代プロジェクトへの参画を希望する
企業の一般公募が行われました。
同社はそのとき手をあげたのです。
と言っても、同社は現在、その大手企業の仕事を
主力事業としているわけではありません。
が、自分たちの持っている技術が、
今後展開されていく次世代プロジェクトの中で
何らかの形で生きるのではないか?と考え、
その可能性にかけて手を上げたのです。
ライト兄弟が初めて有人動力飛行に成功したのが1903年。
アポロ11号が月目着陸を果たしたのが1969年。
この間わずか66年。人類は短期間でこんなにも進歩します。
新たなプロジェクトに参画することは、
こうした流れに乗ることを意味します。
同社が何をやるかはまだ決まっていませんし、
参画できる確約もありません。
プロジェクトに応募した企業の総数は
世界中から3000社を超えたといわれます。
が、同社の役員達は、
「なんとしてもこのプロジェクトの参画し、
当社の可能性を切り開きたい」と夢を語っています。
このビジョンを聴いた同社の社員達は、
この夢に大いに共感しました。
「夢の次世代プロジェクトに参画する」と語りかける
同社のトップ層の熱情と、それに応える社員の声を聴きながら、
私は、突起物に手をかけつつ困難な壁を登ろうとしている
ボルダリングの選手の姿を想像しました。
同社が最初に掴もうとしている突起物が、
「夢の次世代プロジェクトへの参画」なのです。
今、多くの経営者が5年後のビジョンを
定めようと取り組んでいます。
が、多くの社長がそれに苦しみます。
5年後の世界を予測するのは難しく、
なかなか確信が持てないからです。
が、ビジョナリー経営はそれで良いのではないかと思います。
登り方は不透明でもいいのです。
大切なことは目指すべきGoalが明確なことと、
「この壁を登る」という壁が決まっていることです。
そして、「まずはあれを掴む」「その次はあれを掴む」のように
キーになる突起物が見えていることです。
山登りもそうですが、一合登ると違った景色が見えます。
1合目、2合目と登っていると、
だんだん違う景色が見えます。
麓からは山頂は見えません。
目指す頂きが見えるのは、中腹を過ぎた時です。
ビジョナリー経営は冒険する経営でもあります。
最初から行く道が全て見えていたら、
それはもう冒険とはいえませんよね。
したがって「この壁を登る」と決めたら、
まず全力を挙げて目の前の突起物を掴む。
掴んだら、自社の力を次のレベルにまで引き上げる。
それを重ねていくことが、目指す壁を登りきるために
必要なことでしょう。
あなたの会社はこれからの5年間、どの壁を登りますか?
そして今年、全力を挙げて掴みに行く
「最初の突起物」は何でしょうか?
自社のビジョンをボルダリングの選手に置き換えて
考えてみましょう。
V字研メルマガ
1回3分「ヘコタレをチカラに」 vol.416
by V字経営研究所 代表 酒井英之
『今年のトレンドとコロナ対策を徹底した病院』
新年あけましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
毎年、その年のトレンドを見るために
元旦の新聞に載る、地元岐阜の
約100人の社長の巻頭言を読んでいます。
そこから感じられた今年のトレンドは、
新規ビジネス、DX、SDGs。
とりわけ今年顕著なのが新規ビジネス。
こんな多い年は初めてです。
流れは2つ。
ひとつは数年先を見据えたビジョンがあって、
その方向で開発を進めてきた新規ビジネスが、
コロナ禍で一気に加速した会社。
もうひとつは、コロナ禍で市場ニーズが変わって、
それにいち早く対応した商品を用意して、
試運転が終わり、さあ、打って出るぞという会社。
特徴は、方針(想い)だけではなく
既に、形(具体的な手段)になっていること。
それは、数年前から五輪後を見据えて、
準備していた会社が多かったから。
しかもそれらは全くゼロからスタートものではなく、
今あるものを時代のニーズに合わせて
改良・工夫した応用モノが多いから。
例えば、岐阜県羽島郡になる松波総合病院は
以下のコロナ対策に取り組んでいます。
岐阜新聞の記事を紹介します。
「病院内感染を防ぐために、
12月から病院駐車場の一角にコンテナハウスで
医師が診療を行う発熱外来専用施設
「Gifu CUBE(キューブ)」を開設しました。
https://www.gifu-np.co.jp/news/20201202/20201202-25341.html
全部で6棟のコンテナがあり、
コンピューター断層撮影(CT)室の他 、
発熱外来専用施設としての患者個別の待合室、
診療室、スタッフ室までを総合して院外に設けた
全国初の試みです。
この施設を活用すれば、
コロナインフルエンザに感染した疑いがある
発熱した患者を病院の建物外で診療することができます。
診察前からしっかりと導線分けることで
医療従事者を守り患者同士の感染を防ぎ
医療崩壊を回避することができます。
さらに同病院は、「Gifu CUBE」に先駆けて
「Gifuカーテン」というサービスも発明しています。
これはコロナ感染の疑いのある患者自身が
一人で車に乗ったままドライブスルー方式で
PCR 検査が受けられるサービス。
https://www.youtube.com/watch?v=UMPofuikr6Y&t=1s
医師等の感染リスクを軽減するために
独自に考案したビニールカーテンで、
医師が安全に検体を採取できる仕組みとなっていて
全国に広がっています。
これは皆が「ものすごく」知恵を絞り、
現場の人の意見を聴き、関係者とコラボしつつ
スピード感(危機感)持って実践行動した
結果だとよくわかります。
松波総合病院の事例は
コロナ収束までの一時的なものかもしれません。
が、新規ビジネスは社会の課題解決のために興すもの。
そしてその成功の秘訣は、
「この社会課題をなんとかしたい」というトップの情熱です。
実は同病院は2020年4月に患者と医師が感染しています。
その経験が、ここまで徹底するというトップの情熱となり、
全国初の施設となりました。
それは、地域の人や業界内にしっかり伝わって
同病院のブランド価値を高めることに貢献しています。
さらにこうして職員全員が知恵を絞って変化対応し、
乗り切って、お客様や地域に喜ばれたという
「組織の自信」も得ています。
この自信が次に同じようなリスクに直面した時も、
社員を「自ら考え行動する人財」に変えます。
それが会社の風土的な強みになります。
新規事業は、トップの熱い想いの結実です。
弊社は今年もビジョン開発や幹部人財育成により
このような熱い想いを持った経営者と幹部の皆さんを
側面支援していきます。
今年もどうぞよろしくお願いします。